結紀が目を覚ますと閉め切られたカーテンの隙間から太陽の光が僅かに漏れていた。
隣にはまだ美遊が寝ており、それを見て少しだけほっとしていた。
結紀があの時見ていた景色、人物は夢なのだろうかと思っていた。
しかしそれは覆され、結紀の身体には今まで以上の力が宿っていた。
「・・・
投影魔術は本来世界の修正力によってすぐに朽ちて消えてしまう。
しかしあの世界で受け継いだ力のそれは今までに反して投影以上の何かへと変貌していた。
結紀の本来の魔術回路の本数は120本とあったところに更に上乗せで夜々から受け継いだ480本が追加されている。
合計で600本もある魔術回路だが、結紀にはそれすら気にならないほどの物も。
「・・・桜神・・・同調開始」
結紀は自身の神と魔術回路を同調させようと考え、それを実行した。
当然未知なる行為であり、危険性も不明であるそれは自殺行為にも等しい。
「ぁ・・・ぐ・・・」
結紀は身体にある魔術回路が焼けるような感覚がしつつも同調を止めずに続けた。
次第にそれは大きくなっていき、全身が焼けるような痛みがあろうとも結紀は小さい嗚咽をも押し殺すようにひたすら耐えた。
「ん・・・ゅ・・・ぅき・・・?」
美遊の隣だということを失念していた結紀は同調をいきなり止めれるわけでもなく、そのまま罰が悪そうに顔を背ける。
「・・・な、に・・・してるの・・・?」
声を押し殺している結紀を心配そうに美遊は尋ねるも返事は返ってこず逆に少しだけ小さな嗚咽が聞こえていた。
「もういいから・・・!やめてよ・・・」
「い・・・や・・・だ・・・」
何をかをしている事だけは分かるも美遊は何も出来ずにそのまま結紀を見ることしか出来なかった。
しかし時折結紀の手が美遊の手を握るときは信じて待つように握っていた。
「結紀・・・それ・・・って・・・」
ひたすらに待っていると結紀の姿が少しずつ変わっていった。
元々綺麗だった黒い髪の毛は白銀に塗り替えられていき、所々に金色が混じる髪の毛へと。
目の色も黒色から蒼色へ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
汗だらけになり、呼吸も激しくなっていた結紀の身体は元の時より大きく変わった。
神の力を魔術回路と同調させようなど誰が考えつこうか。
美遊に分かるわけもなく、疲れ果てた結紀には検討もつかない。
「・・・これ・・・が・・・桜神・・・」
「・・・結紀」
「全部・・・話す。だから・・・美遊も言って欲しい・・・かな」
「・・・」
「嫌なら・・・良い・・・よ。その代わり俺も・・・言わない」
言わない。
それだけの言葉が美遊にとってどれだけ結紀を心配させるものか結紀には分からず無意識で言った。
聞こえようによっては脅迫とも取れる言質に美遊は静かに頷いた。
「・・・結紀、その・・・身体は・・・」
「・・・触っていい・・・けど」
その瞬間美遊が結紀に抱き着いて泣きはじめる。
突然の出来事で結紀も驚いていた。
「馬鹿・・・結紀のばかぁ・・・!」
「みゆ・・・?」
「怖かった・・・!結紀が変わっていく姿を見ていて・・・!」
その実、美遊は年齢的にも精神的にもまだまだ幼い少女。
大人びた所があるとはいえ目の前で大切な人が苦しんでいれば。
「・・・ごめん」
「結紀・・・!結紀・・・!」
美遊を守るための行動が美遊を悲しませる行動になるかもしれない事は結紀の頭でも考えることが出来た。
それでも守る力が手に入るのならとした結果がこれだったのだから。
「・・・ひっぐ・・・ゆうきぃ・・・」
結紀は泣きつづける美遊をこれ以上不安にさせないよう抱きしめた。
泣き止むまでずっと。
その後、隣の部屋にいたルヴィアは美遊の泣き声に駆け付け、結紀の姿を見て言葉を失った。
それはオーギュストですら動揺するほどに。
美遊が泣き止むと結紀はルヴィアの方へと振り向く。
「・・・おはよう・・・ございます、ルヴィアさん」
「ぁ・・・おはようございます・・・」
「おはよう、二人とも。何かありましたの?」
「・・・はい」
「それは言えないことですの?」
「・・・美遊は・・・」
結紀が美遊も良いか聞けば首を横に振る。
ルヴィアにはまだ言えない事情があるのだろうと察した結紀は自分の事だけでも話そうと思った。
「俺の・・・事だけ話します。さっき起こったことも」
「それは良いですけれど・・・先に朝食にしますわよ。美遊は今日のメイド業はお休みしなさい」
「えっ・・・それ・・・は・・・」
「はぁ・・・結紀が心配なのでしょう?なら今日一日付き添ってあげなさい。命令ですわよ、美遊」
「は、はい」
「先に行っていますわ、早く来なさい」
ルヴィアが部屋を離れると美遊は結紀を自分に向かせた。
その行動が分からず首を傾げていたが。
「美遊?」
「ぁ・・・えと・・・」
「・・・
「・・・ぅん」
こんなに素直に頷くと思っていなかった結紀は少し意外と思いつつも美遊と唇を重ねた。
ただ重ねるだけでなく、口の中に舌を伸ばしてお互いのを絡み合わせるように。
数十秒であったその時間は二人にとってとても長く感じ取れ、終わる頃には美遊の目がトロンとしており、頬も朱く染まっていた。
「・・・美遊の魔力・・・美味しい・・・」
元々大量の魔力を持っている結紀は体液による魔力交換をしたことが無かったため、どんなものなのかを知らなかった。
最も幼い頃からそんなことを教えるわけにも行かなかったのだろう。
美遊の魔力に味を占めた結紀だったが、やり過ぎてしまえば美遊が魔力不足になってしまうため押さえようとしたのだが・・・。
「結紀ぃ・・・もっと・・・」
結紀の魔力に嵌まったのか、美遊がもっとして欲しそうにねだる。
だが結紀は美遊の口を指で押さえる。
「・・・また後で・・・ね」
「・・・うん」
美遊を抑えた結紀はあることに気づいてしまった。
いつもなら寝巻きを着替えるのだが普段着のまま寝てしまったため着替えがない。
「・・・着替え・・・無い・・・」
「ぁ・・・結紀・・・私の・・・貸そうか・・・?」
「・・・いや・・・大丈夫。楓」
何か宛があるのかと美遊は考えていると、結紀は自分の従者の名前を呼んだ。
さっそうとどこからか現れた楓に美遊は驚く。
「えっ、ど、どうやって・・・」
「おはようございます、主様、美遊様」
「・・・おはよう楓。どうやってここに入った」
「あんな程度の警備魔術なら簡単に抜けれます。人の目もありませんでしたし」
「・・・ん、そか。着替えある?」
「はい、何着か持ってまいりましたが・・・」
楓が持ってきた服は全て女の子用の服。
同性である美遊が見ても結紀はぱっと見女の子にしか見えないのだが、服が全て女の子服で着てみたさがあった。
「美遊様も着てみますか?主様は気にしないでしょうし」
「・・・いいの?」
「うん、ちょっと着替えて来る」
結紀は軽く服を見極めて掻っ攫っていくと別室で着替えることにした。
美遊も選んで着てみると大きさもちょうどよく合っており、今までの服とは違った感じだった。
すると結紀が戻って来ており美遊の恰好を見た。
「ど、どう・・・?」
「ん・・・可愛いよ。似合ってる」
「・・・ありがとう」
「可愛いですよ美遊様。お似合いですねお二人は」
「ふぇっ!?」
「ん・・・」
楓のお似合いの言葉が何を指しているか分からなかったが美遊は顔を赤くし、結紀は美遊の頭をよしよしと撫でていた。
着替えも終わり下に降りると朝ごはんが並んでいたため、ルヴィアと一緒に食べていると黒髪ツインテのメイドがちらっと見えた。
「・・・凜さん?」
「・・・結紀?もしかして」
「・・・そうだけど」
「・・・何があったのよ」
「・・・後で話す」
「そう・・・にしても美遊と結紀・・・近くない?」
「気のせい」
「うん、気のせい」
「凜、気づいてあげなさい」
凜の鈍感さが出てしまい、ルヴィアに指摘されてようやく気づく。
今まで結紀がそんな雰囲気を出さなかったが仲睦まじそうに二人が食べている光景はその場にいる全員が微笑ましそうに見て入れる光景だった。