オレンジ色に染まった世界。
どこかしこからもふつふつ、くつくつと生命を融かす音が溢れる。
そんな焼き殺すノイズのなかで、静かに、それでもはっきりとした声音が響く。
その不協和音を僕の耳が聞きつけ、脳が理解するまでの刹那。
ようやく現状を理解する。
「…この、世界はもうダメだね…」
理解した脳が引き絞ったのはそんな陳腐な終焉の引き紐で、幕を引く喉は今にも潰れてしまいそうなほどしわがれていた。
自分の言葉にも、自分の声音にも、相手の言葉にも、相手の声音にも、隠しきれない、消すことの出来ない絶望が浮き彫りになってしまっていた。
その事実に「っは、」と笑いが漏れる。
――何が世界を救うだろう、と。
「ごめんね、痛いでしょ…?」
目の前の少女が口にしたそれは心の話なのか、それとも今にも塵と化そうとしている、この体のことなのか。
機能を放棄したかのようなブリキは、体を成してはいるものの、既に感覚のほとんどを手放している。
ギチギチと音がする訳でもないが、肩から腕へとその先でぎこちなく、ぎこちなく、震える枯れ枝は辛うじて五指を成していた。
それを確認すると、目の前の、小さな少女に頷きかえす。
――僕は大丈夫だよ、と。
「ううん…。だめだよっ、だって…!」
苦悩に顔を歪めながらそれでも、だっての先を飲み込む。弱音を飲み込む。自分を呑み込む。
この子は、もう幾度もこれを繰り返してきたのだろうか。
自分を押し潰し続けたのだろうか。
頭の中でふつふつと音がする。
世界の灼熱が遂には僕を蝕み、溶かしにきたのかと錯覚するほどに。
それなのに全く恐怖を感じない程に、僕は何かに憤っていた。
――君は大丈夫じゃないだろう、と。
「ねえ、僕はもう…駄目なんだけどね」
怒りか、熱気か、果ては終わりの時が近いのか、震える喉は震えに任せ、振動を音に代えていた。
それは空気を伝い、ノイズに揉み消され、ようやく言葉という形になる。
その言葉は少女の涙を押し留め、頷かせるまでの力を持てた。
「次こそは、きっと上手くいくからね…」
絶望に荒んだ心は願望を否定した。
しかし、喉は未だに音を繋いで言葉を紡ぎ続ける。
馬鹿げていると頭が否定する。
それでも立てよと何かが躍起する。
誰にも届かない、この世界から捨て去られた願望は、この廃れきった器にほんの少しの動力を与えた。
パラパラと音を立てながら棒が脚となる。ブリキが人形へと変わり立ち上がる。
――次に託せ、と。
「君の、その涙は…もう、」
棒だった腕は少女の頭を優しく、柔らかくなぞり、反対の枯れ枝だった指は、朽ちたポケットに伸ばされる。そして中に納まる緑の球体をしっかり握りしめる。
――世界を救え、と。
「もう流させたりはしない…!」
それが合図となり、球体は光を灯す。
自分の時が失われるのがはっきりと伝わる。
世界の熱気が失せるのがはっきりと伝わる。
少女の温みが離れるのがはっきりと伝わる。
色を失う世界の果てで、最後の瞬間に見えた、少女の泣き顔は、僕に最後の勇気を与えてくれた。
逆行する世界で言葉を残そう。
――世界は救えないのだろうか。
――誰かにこれが届くのならば
――どうか、僕を見つけて欲しい。
ボクハアヤマッテシマッタヨウダカラ
一際強いノイズが世界を埋め尽くす。
ブツリ、とまた一つの世界が潰れる音がした。
クトゥルフ神話を参考にした作品となっております。
今後、グロテスクな表現が使われることもありますので、ご了承頂きたいと思います。