「ねぇねぇ、絶対シズちゃんって、イザイザの事好きだよねー。男同士でボーイズラブってる感じ?あ!それだったら冬っぺも入れて三ツ巴かな!?」
「『「いや、それはない」』」
「そういえば平和島さん…。」
そんな話しをされているとは気付かず冬樹と静雄は新宿へと足を運ぶ。春媛は途中で熱が上がり静雄に背負われて居た。
「冬樹、お前そろそろその"平和島さん"ってのやめねぇか?」
「え?」
「だってよ…。お前と会ってからもう6、7年だぜ。良い加減名前で呼べよな。」
「名前ですか…。」
「忘れたとか言ったらキレるぞ。」
「恐ろしい人ですね。大丈夫です、覚えてますよ。」
この世界に来てから誰かを名前で呼ぶなんて事は一度もした事はなかった。
「し………平和島さん。」
「お前なぁ、言ったそばからそれかよ。」
「だって…。」
「なんだ?照れてんのか?」
「ソンナワケナイジャナイデスカ。」
「カタコトになってるぞ。」
呼んでみようか。この世界でそのくらいできる人が居ても良いかもしれない。独りよりもその方が良いのかもしれない。
「………静雄さん?」
「なんだ?」
「……静雄さん?」
「おう。」
「…静雄さん?」
「はい。」
「静雄さん?」
「はいはい。」
「静雄さん、ありがとうございます。」
すると静雄は冬樹の頭に手を乗せる。
"照れ"これが冬樹がこの時取り戻した感情だった。
冬樹の感情は一部欠けているため普通の人間として生きて行くのは困難だった。楽しい時に楽しめない。悲しい時に悲しめない。辛い時辛いと思えない。愛したい時に愛する事ができ無い。
小学生の入学祝いにランドセルを貰ってから冬樹は次々と感情を取り戻していた。確か、二番目に取り戻したのは両親に向けた"恨み"だった。
そんな自分が綺麗に生きていけるとは思っていない。
しかし、この隣に立っている平和島静雄はどうだろう。自分とは違う。感情がある。楽しい時に楽しめる。悲しい時に悲しめる。辛い時辛いと思える。愛したい時愛する事ができる。
綺麗で真っ直ぐで……。
《俺はこの人と居ても良いのだろうか。》
何処かで声が聞こえたような気がした。
「なによ、冬樹くんに名前で呼ばれてるのが羨ましい訳じゃないわ。……なによ、そうよ羨ましいわよ、妬ましいわよ。ふざけないでちょうだい。この男本当に殺してしまおうかしら?ねぇ、冬樹くん。あぁ、何?『冬樹といたのは俺の方が長いぜ☆』アピール?ちょっとそこのお店で待ち針買うから連れていってちょうだい。」
「テメェいい度胸だな……。どうせその待ち針で俺を刺そうとするんだろ?落としてやろうか?」
「すみません。二人とも新宿まで我慢してください。」
通常運転の春媛でよかった……んですよね?