「頭痛い……寝すぎたか…。」
ここに来て早二日。
春媛は昨日も結局目を覚ます事はなかった。
新羅とセルティの家に泊まった冬樹は「とりあえず御礼をしに行こう」と思いながら新羅たちがいるであろうリビングへ向かう。
「早うございます。」
「あ、冬樹くんも起きたんだね……。」
リビングには新羅とセルティ、それから園原もいた。
しかし、なんだか三人は冬樹の頭に注目していた。
「あの?どうしました?」
『ふ、冬樹くん……その髪はどうした!?』
「髪?」
「あ、あのこれ鏡…。」
「ありがとう…。」
冬樹が鏡を覗くとそこにはあり得ない物が写っていた。
白
それを見た瞬間冬樹はトイレにこもった。
「待って!大丈夫だから!若白髪なんてこの世にいくらでもいるから!だから何にも恥ずかしくないから!出ておいで!」
『そ、そうだぞ!髪が白くなっても冬樹くんは冬樹くんだ!』
「ーって、セルティも言ってるよ!だから出て来ておいで!なにも怖くないから!」
新羅とセルティは必死になって冬樹を慰める。
確かに落ち込むのも無理はない。何しろ感情が戻ってまだ一日も満たない少年の髪が白髪になっていたら……いや、上記の理由がなくともこれは誰でも落ち込むだろう。
『あ、杏里ちゃんも、何か言ってあげて!』
「え、えっと…大丈夫ですよ。冬樹に似合ってますから…。」
セルティは杏里に助けを求める。少し戸惑いながら杏里は恐る恐る冬樹に話しかける。
その後三人の説得により冬樹は涙目になりながらトイレから出て来た。
「なんでこんな事に……。」
「……アレしか心当たりがない。」
「『「アレ?」』」
おもむろに口を開く冬樹。
「昨日変な夢を見たんですよ……。あれ?どんな夢だっけ?」
『忘れたのか!?』
「仕方ないよ、夢っていう物はほとんどがすぐ忘れてしまうんだから。」
「白い髪の女の人がいて……なんか言われて…。」
「んー?」と悩む冬樹を見て新羅は冬樹に感情が戻っている事を再確認していた。
セルティは帝人を連れて来ると言い出て行く。
「ついにここまで来たか…」冬樹は知っている。この後なにが起こるのか。そして、その後どうなるのか…。
冬樹はケータイでこれからの事を確認する。
新羅はそんな冬樹をみて口を開く……。
「やっぱりさ…杏里ちゃんと冬樹くんを養子にとしてうちにまねこうと思うんだけど。」
「あ、俺は森厳さんがおじいちゃんになるとか嫌ですよ!」
「あからさまに嫌そうな顔するね。」
するとマンションの奥にある部屋から物音がする。
「先輩?」
冬樹は二日前から目を覚ます事のない春媛が起きたかと思い扉を見る。
「あれ?もう目が覚めたのかな……結構強い鎮静剤を喰らわせてやったのに。」
新羅の言葉を聞いた瞬間今起きたのは春媛ではなくもっと別のそう、例えば春媛よりももっと強くて、もっと大きくて……。
「おい、俺のグラサンどこだ。」
出て来たのは池袋最強と呼ばれ、冬樹の憧れである存在…平和島静雄であった。
冬樹はすぐにそばにあるタオルケットで頭を隠す。
「ていうかさ、静雄さぁ…君は撃たれて足と脇腹の筋肉の一部が激しく損傷していたわけだけど……。なんでもう普通に立ってんの?」
「なんでって……立って歩けるからに決まってんだろがよ。」
微妙に噛み合っていない会話を聞きながら冬樹はこのまま静雄が自分に気づかないようにと願う。
「し……静雄さん……どうして……ここに?」
杏里が静雄にたずねる。
「ん……?あー……。ヤベ、誰だっけ?」
杏里の事が思い出せないのか、本気で悩み始める静雄。
「ああ、彼ね、昨日銃で撃たれたんだってさ。足と脇腹に弾丸くらって、バランス崩してすっ転んでる間に撃った奴らに逃げられたんだよ、間抜けだよねぇ。」
「……死ぬか?」
「心の底から御免なさい。」
静雄に睨まれると同時に土下座する新羅。
「いやな、最初は雨で滑って転んだかと思ってたんだよ……。そしたら、なんか腹と足からドクドク血が出ててな。ああ、撃たれたのかって気付いて、じゃあ相手をぶっ殺すかとおもったら……なんかもう、あいつら全員逃げ出しててよ。そしたらトムさんが、医者にいかねえと鉛中毒で死ぬとか恐い事言うから……。」
「なんでそこで闇医者の俺をたよるかね。君の身体を切るのにメスが何本かイカれたしさ。」
「銃創ってのは、警察に色々聞かれたりするから面倒なんだろ?だったらお前に頼んだ方が安いと思ってな。」
「ていうか、どうすんのさこれから。」
静雄は新羅の問いに答える。それが冬樹と杏里にとってどれだけ残酷な言葉か知らずに。
「決まってんだろ、俺を撃ちやがった奴と──それを命令したっつー、紀田正臣って野郎をぶっ殺すだけだ。」
「ところでよ。なんで冬樹はタオルケットを被ってんだ?」
また冬樹がトイレにこもったのは言うまでもない。
「冬樹くん!出て来ておいで!恥ずかしくないから!」
「だ、大丈夫ですよ。宇野原くん、怖くないですから…。」
「お、おい…俺なんかしたか?」
冬樹が白髪になったのにはちゃんと理由があります。