「冬樹、手前の誕生日はいつだ?」
「あー…確か……8月15日でした。」
「昨日じゃねえか!」
冬樹は誕生日を祝ってもらった事が一度も無い。そのため誕生日というものがある事を最近まで忘れていた。
そんな会話の発端は……。
夏休み。
なにか良い思いでが出来るようにと静雄は夏休みの間冬樹を家に泊めることにした。
もちろん静雄の母は快く了承してくれた。
「平和島さんの誕生日っていつですか?」
「1月28日だ。」
「あー…まだまだですね。」
『誕生日にオススメのアイテムがこれひとつでまるわかり!相手の性格別10種類の誕生日攻略法!!』となんとも長いタイトルの雑誌の記事を読みながら静雄に問う冬樹。
ちなみに冬樹が読むもの食べるもの聞くものは何処かズレている、感性がヒドイわけではないがこの間も静雄が某ハンバーガーショップに冬樹を連れて行くと『チョコとイチゴの生クリーム入りフィッシュ&ゼリーバーガー』というよくわからない新作バーガーに手をつけ一口でやめていた。
子供の成せる好奇心は恐ろしい。
そして、現在に至る。
「なんで早く言わなかったんだよ。」
「聞かれてませんから。あ、折原さんは昨日お古じゃなくて新しい服買ってくれました。」
「臨也───────!!」
冬樹は臨也にもらった小包を静雄に見せる。小包についているカードには『Happy birthday』と書かれてあった。どうも臨也は冬樹の誕生日を知っていたようだ。
昨日 とある公園
「あ、冬樹くん。来てくれたんだ。」
「お久しぶりです。」
「冬樹さんだー!」
「……嬉…。」
臨也は冬樹を公園に呼び出していた。どうしてもついて行きたいと言って来た妹の九瑠璃と舞流を連れて公園へ行き、少し待っていると冬樹がやって来た。
「クルリさんにマイルさん。元気にしていましたか?」
「うん!してたよー!」
「……健……。」
「あ、折原さん。これ暑中見舞いです。」
そう言って冬樹は先ほど買ったと思われる某ハンバーガーショップの袋が見せる。
「これはクルリさんとマイルさんのです。チーズバーガーですけど大丈夫ですよね?」
少し小さめのチーズバーガーを九瑠璃と舞流に差し出す。
「わーい!」
「……嬉……。」
「臨也さんのこれです。普通のですけど良いですか?」
「うん、わざわざありがとうね。」
双子は早速包みを開けていたため冬樹と臨也もハンバーガーを食べる事にした。
「冬樹くんのは何なの?」
「夏限定の『フレッシュフルーツ&カスタードチキンバーガーカレー風味』です。」
「またよくわからない物を……。」
一口食べたところで冬樹は手を止めるて青い顔をしながら臨也の方へ顔を向ける。
「ところで用ってなんですか?」
「その前に吐いて来なよ。」
冬樹はこの後公園の公衆トイレに篭る事となった。
「はい、これ誕生日プレゼント。」
「誕生日?」
「そ、いつも俺のお古だからね。今日は新しい服だよ。」
「新しい服ですか?」
「ちょうど、冬樹くんに似合いそうなのがあってね。色は三種類あったんだけど……。」
「色はクル姉とマイルが決めたんだよ!」
「……白……。」
冬樹は臨也から服を手渡された。冬樹はその包みを不思議そうに見つめる。
「大事に着てね。」
「はい。」
「────というわけです。」
「なるとほどな。ただ理解できねえ点がある、なんであのノミ蟲は冬樹の誕生日を知っていた?」
「そこは俺にもわかりません。」
一通り説明を終えた冬樹がまた雑誌を読もうとすると。
「よし冬樹。」
「なんですか?平和島さん。」
「ケーキ、買いに行くぞ。」
「え?」
──────────…
「……んー……どれがいいと思いますか?」
「それは手前が好きなやつだろ。」
「……じあ……。」
「あ、ちょっと待て。その見るからにおどろおどろしいケーキはやめろよ。」
「えー…。」
冬樹と静雄は近くのケーキ屋へやって来ていた。
その姿はとっても微笑ましい兄弟そのものだった。
店員も客も思わず微笑ましい顔になってしまう。
「じゃ、このチョコケーキが良いです。」
「チョコケーキだな?」
「はい。」
静雄がカウンターの向こうにいる店員にチョコケーキともう一つ自分のケーキを頼む。
「はい、どうぞ。」
「あの、このクッキー頼んでないんですけど…。」
店員は箱の中のケーキと一緒にクッキーを入れていたのに気がついた静雄は店員にその事を伝える。
「サービスですよ。大丈夫です、このクッキー失敗作なんで。弟さん、可愛いですね。」
「え?……ああ…ありがとうございます。」
静雄は冬樹が弟と間違われた事が少し嬉しく感じた。
「あのケーキ、俺が持ちたいです。」
「落とすなよ。」
静雄は冬樹にケーキの入った箱を渡す。その時の冬樹の目は蘭々と輝いていた。
──────────…
「ケーキって初めてなんですよね。」
「そうなのか?」
「はい、だから今日は多分嬉しかったです。」
「多分って……まあ、良いけど。」
「しかも、兄弟と間違われましたし……。」
「嫌か?」
「いいえ、むしろ幽さんも連れて来れば良かったと思ってます。三人兄弟でケーキ屋さんへ行きたかったです。」
冬樹の顔は無表情だがどこか後悔しているように呟く。
「じゃあ、次は三人であそこのケーキ屋行くか?」
「良いんですか?」
「三人兄弟で行きたいんだろ?」
「はい。ありがとうございます。」
付き合いの短かい者ならわからないだろうが冬樹がふわりと笑う。その笑みに静雄は「今なら喧嘩売られても絶対にしない」と思っていた
のだが。
「平和島静雄ー!!」
「覚悟しろよ!!」
「今日こそ殺してやる!!」
十数人の男に囲まれた。
冬樹はそれをポカンと首を傾げながら見つめる。
まだ、状況が掴めていないようだ。
「テメェ邪魔なんだよ!!」
男の一人が静雄の隣にいた冬樹を突き飛ばす。
「お?」
身体の小さい冬樹は簡単に倒れてしまったのと同時に冬樹の持っていたケーキの箱が崩れる。つまり、中身も崩れた。
冬樹はそれを見てまたポカンと首を傾げる、そしてようやく今起きたことを理解すると絶望感が押し寄せてきたようで涙目になってきている。
そしていつものごとく静雄はキレた。
──────────…
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……。」
「平和島さん、怖いですよ。」
「ワリィでもこうでもしてねえと何か壊しそうでよ……。」
静雄は怒りで声が震えていた。冬樹は潰れたケーキの箱を持っている。
「大丈夫ですよ、味変わんないですし。」
「そうだけどよ…手前、泣きそうになってただろ?」
「そうですか?」
「めちゃくちゃ情けない顔になってた。」
すると冬樹は服のフードを被り電柱の陰に隠れる。
「悪かった!嘘だから、こっち来い!」
「平和島さんはそんな嘘つくんですね。」
「だから悪かったって!」
静雄はそんな冬樹の様子に肝を冷やしていた。
「………平和島さんは俺の事好きですか?」
「もちろんだろ!」
冬樹はケーキの入った箱を置いて静雄に抱きついた。
「っ!?冬樹!?」
「……………。」
冬樹の顔を見ると少し顔が膨れていた、手も少し震えている。
───怖かったのか……。
冬樹の感情を理解するのに時間はかからなかった。
平気な顔をしているが、冬樹はまだ子どもだ。それなのにいきなり囲まれたら……普通なら大人でも怯えるだろう。
静雄は冬樹の頭に手を乗せもう片方の手で抱きしめる。
「もう、大丈夫だ。」
「……はい。」
「静雄さん。」
「なんだ?」
「次は俺が平和島さんの誕生日祝うね。」
「そっか、楽しみにしてるぞ。」
帰り道、冬樹をおぶる静雄は照れ臭そうに笑う。
二人の影が長くなっていく。
遅くなってごめんよ冬樹!
誕生日おめでとう!