第四十八話 And I began
新羅のマンション
「静雄の次は……冬樹くん?」
「違いますから、別に誘拐でも隠し子でも無いですから!」
『とりあえず、この子どうするんだ?』
「Отец?」
無邪気な女の子が冬樹の膝で笑っている。
七月
蒸し蒸ししていた六月も終わり、冬樹は池袋の街を歩いていた。
新しい高校にもなんとか慣れて来た。
そして何より今、冬樹にベッタリの春媛がいない。
何が言いたいかというと冬樹はとても気分がいい。
こうして冬樹は一人の時間を満喫していたのだが……。
後ろから誰かに引っ張られる、高さからして子供だろう。親か、それとも兄と勘違いしたのか?と冬樹が後ろを振り向くと小さな女の子が立っていた。
金髪で、顔は色白い。初夏だというのに厚着をした人形のように可愛らしい子供だ。
すると女の子は満面の笑みをこぼし。
「Отец!」
と、冬樹に言った。
「……………
「Отец!」
もう一度言うと女の子は冬樹に抱きつく。
冬樹の思考は一時停止し、その場で固まった。
"Отец"とは……お父さんを意味する。
「Отец?」
「
女の子はギュッと冬樹の手をつかむ。
「……
そう女の子に言うが女の子は全く手を離そうとはしない。
「
「……?」
女の子は首を傾げる。
「………
「………?」
またしても女の子は首を傾げた。
「
「……Там.」
「そこじゃわからねぇよ……。」
女の子はまた満面の笑みを浮かべ冬樹を引っ張る。
「
「……なんで俺が……。」
すると女の子は泣きそうな顔になる。
「はぁ……解ったよ。」
そう言って冬樹はしゃがんで女の子に背を向けると女の子は冬樹の背にぴょこんと抱きつく。
「
「………とりあえず…岸谷先生のところに行こう……そんで、DMA検査だ。」
自分の事をお父さんと呼ぶ女の子を背負い冬樹は新羅のいるマンションへと向かった。
その時、初夏といえど暑いのに…冬樹の背中は少しひんやりとした。
「Отец!Отец!!」
『冬樹くん、懐かれてるな……。』
「……なんか、この子俺を親だと思い込んでいるみたいです。」
遊んで欲しそうな女の子は冬樹の服のフードを引っ張る。
「首!首しまってるから!」
冬樹はセルティに救出してもらい、ソファにもたれる。
「もしかして…冬樹くんの隠し子だったりする?もしそうだったら、四木の旦那に顔向け出来ないんだけど。」
「………新羅さんっていつ死ぬんですか?できれば悲惨な死に方をしてください。」
「ごめん!謝るから台所に向かわないで!」
「………だいたい、俺まだ16……今年で17ですよ。赤ん坊ならまだしも……この子どう見ても4、5歳じゃないですか!」
「うわぁ〜ん!」
冬樹に遊んでもらえない女の子はとうとう泣いてしまった。
「ほ、ほら、でも!今は冬樹くんがお父さんなんだよ!」
『と、とりあえず…抱っこしよう!』
セルティは冬樹に女の子を渡す。
「いや、でも……子供なんてあやした事なんてないですよ!無理です!」
「Отец〜!」
「あー……はいはい、抱っこするから……。」
とうとう折れた冬樹は女の子を抱く。
すると落ち着いたのか今度はスヤスヤと眠ってしまった。
「…………何なんだよ、この子……。」
『ところで、この子が話してる言葉って……。』
「ロシア語ですね。」
『やっぱり……。』
「本当に心当たりは無いの?」
「はい、外国人との交流なんてほぼ0ですから……。」
『………その子、暑く無いのかな?』
セルティは一番気になっていた事をPDAに打ち込む。
「セルティ!浮気なんてしないでよ!」
『しないから、早く行って来い!』
「相変わらずお熱いようで……。」
『ふ、冬樹くん!」
新羅は女の子の服を買うために外へ出る事にした。
冬樹は女の子に掴まれ動けないし、セルティは姿的に絶対店には入れない。
となると行くのは新羅しかいない。
しかし、これがまた厄介な事になってしまう……。
──────────…
「あれ、杏里……?」
「冬樹くん……!」
新羅が園原杏里を連れて帰ってきた。
女の子はすでに起きており、冬樹と楽しげにしゃべる杏里を食い入るように見ている。
「えっと……その子は?」
杏里は冬樹のそばにいた女の子が気になり問いかける。
「………あー……この子は……。」
「
女の子は杏里を指差す。
「おい、そんな事言うな!
冬樹が女の子を叱ると女の子はまた泣いてしまった。
「………岸谷先生、奥の部屋使わせて下さい。」
「うん。あ、これ服ね……多分、サイズは大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。後でお金は返しますね。」
「いや、良いよそれくらい。」
冬樹は泣いている女の子を抱えて奥の部屋へと向かった。
「………はぁ、マジで何なんだこの子は……。」
女の子を抱いていると手がひんやりとしてきた。
「………なんだ?なんか、寒い……。」
冬樹は少し身を強張らせた。
女の子は相変わらず泣いている。
すると、冬樹の頭の中で笑い声が聞こえた。
《保父さんかよ!》
「煩い。」
《あー……笑った笑った……。》
「お前って本当にムカつくよな。」
《お前ほどじゃねえよ。》
「チッ………ところで、お前はこの子の事何か知ってるか?」
《知らねえな……俺が何でも知ってると思ったのか?》
「悪かったな………とりあえず、この子どうしよう……このまま先輩のところに行ったら多分……いや、絶対に監禁される……。」
《いっそ殺してくれたら、俺としたら嬉しいぜ!》
「本当に黙ってくれないか?」
《なんだ?俺がうるさかったら苦痛か?よし、解った…もっと騒がしくしてやろうじゃねえの!》
「やめてくれ。」
「Отец!Отец〜!!」
「あー……はいはい、解ったから泣きやめよ……。」
《ダッハッハッハッハッ!!おまっ、傑作!!》
「うるさいなぁ、黙れよマジで!」
冬樹の苦労が増えたと同時に新たに大切な物ができた瞬間だった。
女の子の名前はまだ決めてません。
何か案があればお知らせしてくれると嬉しいです。