まだ日の沈んでいない時刻にもかかわらず全く人気のない住宅街を一人の少年が跳ぶように走っている。
「それで人見さん、近界民は4体だけでそれ以上は増えたりとかしてないんだよね?」
「ーーー」
「……うーん、ならいいんですけど。あー、到着しました。モールモッド4体確認」
民家の屋根で立ち止まりと独り言のように見えるが少年は耳に手を当てながら無線で誰かと会話している。通信を終えると顎に手をあててぶつぶつと呟き始める。
「……モールモッド4体なら27分割でいいかな、いや確実に当てるためにももっと多いほうが良いか? でもそれで仕留め損ねて反撃なんかされたらヤダし……うん。数は変えずに威力少し下げたスピード重視なら大丈夫か。……大丈夫か? それこそ仕留め損ねるかも知れないよなぁ。だったら、スピード重視のやつで64分割でいいんじゃないか? それなら10発くらい外してもいけるよな、連続で撃ち続ければ反撃もないだろうし……いや、でも、うーん……」
一軒家の屋根に独り立ち、ひたすら不安を吐露し続ける少年。その姿は客観的に見れば非常に怪しく、何も知らない第三者に目撃されていれば通報される可能性もあるだろう、その仮定はあり得ないものではあるが。
しばらくして頭を掻いた少年は溜め息をつくと自身がモールモッドと呼んだものに対して腕を構え手のひらを向ける。
「まあ、どんだけ考えても意味ないか。結局同じだろうしなぁ」
自嘲しながら言い放つ。
「アステロイド」
直後、彼の正面に立方体の物質ートリオンキューブ-が生成されると同時に複数に分裂しそのまま射出される。トリオンキューブはモールモッドに着弾すると、先ほど悩んでいたことが無意味だったとを証明するかのように破壊し尽くした。1体、2体と次々に蜂の巣になり僅か数十秒のことである。トリオンキューブを射出し終えた彼はその場にしゃがみ込んだ。そしてまたもや呟き始める。
「えーと、モールモッド計4体全て撃破しました。巡回に戻ります。……怯える必要もないし考える時間も無駄だったな……ハハハッ。……あぁ〜あ、何やってんだか」
吐き捨てるように口をひらく。敵を全て蹴散らした目の前の状況とは裏腹に彼の心境は晴れやかとはいかないようだ。ようやく落ち着いたのか立ち上がり身体の向きを変えた。口を開く。
「
・・・・・・
すると、曲がり角から両手を挙げた状態でブレザー姿の少年が出てきた。良かった……。問答無用でアステロイド叩き込んでたらヤバかったな、マジで。……ん? ていうかーー。
「……その制服、三中の生徒か。懐かしいな」
「はい。俺は三門第三中学三年の草薙悠斗です」
うーん。卒業して数ヶ月、3年間も着続けてたのにここまで近づかなきゃ気づかないなんてな。時間が経つのも早いもんだ。まあ、そんな事よりもさっさと確認しないと。
「それで後輩くんはここで何してんの? 一応立入禁止区域だから関係者じゃないなら色々不味いけど?」
ええと、この後どうすりゃいいんだっけか……。本部まで連れてって記憶消去か? ううん、それにしても特定の記憶のみを消せるとか流石トリオン、オーバーテクノロジーだ。……多分トリオン技術だよな。現代の科学技術じゃ無理だもんな。いやー、トリオンの力ってすげぇー。
「C級隊員です。まだ入隊式は終えていませんが試験は合格してます」
「ん? ああ、やっぱりそうなんだ。……いやー、どうするかな? 入隊前のC級隊員は関係者なのか、一般人なのか。……悩むな。んー、いや、そもそも何であんな場所にいたんだよ?」
判断に困ることは後回しにするとして、謎なのはそこだよな。自衛もできないのに危険なとこに行くとかオレには無理だな、土下座されてもやんねぇよ……。
「すみません」
と言って頭を下げるクサナギくん。……え?
「いやいやいや、オレに謝られても困るんだけど?! ……理由が気になっただけでね、別に嫌なら言わなくても良いんだぜ? あ、上には言わなきゃダメかな」
突然の年下の子の謝罪になんだか無駄にテンパってしまった。口調もちょっと変になった。恥ずかしい。これだから謝られんのは嫌いなんだよ。
「話します。そんな大層なものでもありませんし、むしろ自分の考えを整理するためにも聞いて欲しいです」
……ああ、なんだろう。多分オレには理解できない理由な気がする。表情も、姿勢も、オレが絶対にしないものになってる。覚悟決めてるって感じがする。良い眼だ……。
「そうですね。昔から視力は良い方です」
「そういう意味じゃない」
声に出てたか? 嘘だろ? マジかよ、どんだけこの子の前で恥さらしてんだよオレは。
「……取り敢えず、歩きながら聞くよ」
うん、誤魔化しとこう。都合の悪い事はなかったことに、それがオレのモットーだった気がする。
「歩きながらってボーダー本部へですか?」
「いや? 立入禁止区域外にだよ」
「家に帰しても良いんですか? 俺を見つけたとき悩んでたみたいですけど」
「……いいんだよ、何か手間かかりそうだし」
うん、別に忘れてたわけじゃない。状況の説明とか報告書とかいろいろと大変になるかもだから見なかったことにするだけだ。
「キミだってペナルティーとか受けたくないでしょ」
「それはそうですけど、罰があるなら受けるべきだとは思います」
だったら、最初からこんなとこ入るなよ……。真面目なのか不真面目なのか。……いや、どっちかというと頑固なのか?
「そんなこと考えてるやつなら、ペナルティーなんて意味ないと思うけどね。だってそれは『罰さえ受ければ悪い事してもオッケー』ってな感じしない? 免罪符みたいな……それは違うか」
「それは……。そうですね、後で注意なり罰なり受ければいいなんて考えてたかも知れません。……そういえば、俺が入隊試験合格したことも信じてますよね。少しくらいは疑われると思ってました」
「ああ、それはね。信じてるっていうかなんていうか。あんなに堂々としてたら本当のこと言ってるとしか思えないし特に心配はしてないんだよね。……それに嘘だったとしても、どうにでもなるから」
「? そうですか……」
よしよし。どうやら納得してくれたみたいだし、さっさと家に帰ってもらおう。あ、そういえば聞きそびれてたな。今のうちに聞いとこうか。
「それで、何だこんなとこに来たの? まだトリガーも持ってないんでしょ? こっそり試したかったなんて事はないだろうに」
「本当に大した理由ではないんです。確かめたいことがあって……」
続きを話すかと思えば無言。そこで終わんのかよと言おうとしてチラリとクサナギくんのほうを見ると何やら悩んでいる様子。ううーん。
「さっきも言ったけど、言いたくないなら聞かないよ?」
別にそこまで知りたい訳でもないからな。むしろ、重たい話になるなら聞きたくないし、知りたくもない。
「ありがとうございます。言えない事でもないんですが、なんと言えばいいのか言葉にするのが難しくて」
「そっか。なら気兼ねないようにこれは貸し一ってことにしとこう。いつか返してね」
「……え? ああ、いや、わかりました。出来るだけ直ぐに返します」
ふっふっふ、面倒事を避けて貸しも作れるなんて一石二鳥だな。今日はなんて良い日なんだ。おっと、そろそろだな。
「もうすぐここから出られるから、あとは1人でいいかな?」
「俺は構いませんが……」
「? ……ああ、大丈夫大丈夫。近くに人はいないみたいだから。誰かに見つかる心配は要らないよ」
「なるほど、では失礼します」
「それじゃあ、またいつか」
念のため彼が見えなくなるまで見送っておく。……っと、よし。それじゃ巡回に戻るか。……あっ……オレの名前、言ってなかったな。
次回は未定です。内容は考えてますが、いつ頃書き終わるのか……。ひょっとしたら、後で付け足すかも知れません。
編集しました。改めて読んでみると我ながら読みにくかったです。アステロイド乱射してた彼の名前、出てませんでしたね……。これは彼が人見知り気質だったり、悠斗くんの処遇について悩んでいた事が原因で自己紹介をし損ねた結果だったりします。
決してまだ思いついてないとかそんな事はありません、絶対に。いやホントマジで。次回で名乗りそうな雰囲気あります。