「なんだよ、松田、元浜。こんな朝早くから」
松田たちに呼ばれた一誠はいつもよりも早く学校に到着し、教室まで行くと松田も元浜が真剣な顔をしていた。
「イッセーよ。おまえは知りたいとは思わないか?」
「何をだよ?」
どういうことかわからない一誠は二人に尋ねると元浜が答えた。
「我らの悪友であり、男子学生の怨敵であり、女性を食い物のように食べている煉 ヴィクトルの普段の日常だよ」
「そうだ!あいつを観察したらもしかしたら俺たちにも女にモテるかもしれない!だから、あいつの日常を真似たら!」
「俺たちも女を好きなだけ食べられるかもしれない!というわけなのだよ!イッセーも付き合え!」
悪友二人に誘われて一誠は一日の煉の行動を観察することにした。
「え~、というわけでここは・・・・はぁ~」
一時間目の数学の時間。数学を担当している教師が授業の途中ため息を吐いた。その視線の先には
「ぐーぐー」
いびきを掻きながら机に突っ伏して寝ている煉だった。教師はワザとらしく寝ている煉を指定する。
「ヴォクトル。前へ出てこの問題を解いてみろ」
名前を呼ばれて起きたのか、煉はあくびをしながら前へ出てチョークを取るとすらすらと式を書いていき答えをだした。
「ほらよ、合ってんだろ?」
「せ、正解だ」
教師の言葉にクラスはおぉ~と歓声をあげると煉は書かれていた問題を消して新たな問題を書くと
「それじゃ、先生。この問題は解けるよな?」
ニコと爽やかな笑みを浮かばせながらチョークを教師に渡すと
「な、何故、私が・・・」
「先生なら生徒の出した問題ぐらい解けるだろ?生徒の目の前で見本を見せて下さいよ」
生徒の目の前でそう言われた教師は煉の書いた問題を見て解こうとするが少しもチョークを動かせずにいた。
「あれ?どうしました?たかが一生徒の問題が解けないというわけではないですよね?この程度、別に大したことないでしょう?」
「く、な、ならヴィクトル!お前が解いてみろ!もしかしたらお前が適当に書いただけかもしれないしな!」
言い訳をするかのように言う教師に煉は再びすらすらと答えを出すと
「どうだ?何か、おかしなところでもあったか?」
「・・・・・・・・」
目を見開き唖然とする教師。どうやら煉の解答を見てそれを信じられないかのように見ていた。
「たかが、高校教師ぐらいで俺の睡眠の邪魔すんな」
そう言って煉は再び机で寝始めた。
「え~、それではヴィクトルくん。次の英文を読んで下さい」
「National characteristics are not easy to pin down,and when pinned down」
「good。相変わらずいい発音ですね」
二限目の授業の英語では煉は見事に答える。
「別にこれぐらい海外で少し暮らせば誰でも出来ますよ。それより先生。今夜ホテルにでも行きませんか?」
「ん~。今は授業中だから後でメールするわね」
そして、三限目と四限目は社会と国語でも煉は見事な回答を叩き出す。
「クソッ!どこまで超人なんだよ!あいつは!」
昼休みに入り、一誠はいつもどおりアーシアたちと弁当を食べようとしたが松田と元浜に連れられ屋上で食べていると松田が愚痴る。
「確かに、わかってはいたがあいつの頭はいったい何で出来てるんだ?」
メガネをくいっと上げて考える元浜。一誠は二人の嘆息しながら二人の愚痴を聞いた。
「とりあえず今日はあと一時間で終わりだな。午後の授業なんだっけ?」
「体育だ。男子は今日50メートル走だったな」
そして、五限目の体育では煉は四秒で完走してさっさと終わらせると日陰で寝た。
「そんなことをしていたのですか?」
学園の帰り道一誠は松田たちと別れてアーシアたちと帰りながら今日一日煉を観察していたことを話した。
「それで、どうだった?」
ゼノヴィアが一誠に訊くが一誠は首を横に振る。
「結局のところ煉が超人だということぐらいしかわからなかった」
「そうよね。今日なんか、一時間目の数学の授業のときヴィクトルくんが出した問題全然わからなかったもの」
「それ以前にイリナは先生の問題はわかっていたのか?」
ゼノヴィアがイリナにそう言うとイリナは体をビクと一瞬震わせ目を泳がせる。
「も、もちろん、わかっていたわよ!・・・・・・今度、ヴィクトルくんに勉強教えてもらおう」
後半、小声で煉に勉強を教わることを決めるイリナ。すると
「あれ?おーい!松田、元浜!なにやムグッ!?」
大声で二人を呼ぼうとした一誠を二人は高速で一誠の口を塞ぐ。
「黙ってアレを見ろ!イッセー!」
松田が指した方向には煉がいた。しかも
「いつも一緒に帰るはずのリアス部長や朱乃副部長もいないとは・・・。珍しいな」
いつも煉の両腕にはリアスと朱乃が煉と腕を組みながら帰るはずなのだが、今日に限っては一人で歩いていた。
「どこかへ向かっているようですね」
「良し、あとをつけてみよう」
それから一誠をはじめ、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、松田、元浜たちは煉のあとをつけていると煉はある店に入る。
「ケーキ屋?・・・ああ、そういや、レンは甘い物が好きだったな」
煉が入ったケーキ屋は普通の売店もあり、中でも食べられるようになっている。もしかしたら煉はケーキでも買おうとこの店に入ったのか。と思って五分ぐらい待ってみたが一向に煉は出てこなかった。
「出てこないな」
「そうですね。もしかして、中で食べているのでしょうか?」
「それとも、誰かと待ち合わせかしら?」
それぞれの考えを口に出す三人。すると、ゼノヴィアが一誠の腕を組んで
「よし、中に入って確かめよう。イッセーも行くぞ」
「ちょっ、ゼノヴィア!抜け駆けは禁止よ!」
「そうです!抜け駆けはダメです!」
「イッセー!テメエェェェエエエエッ!」
「俺たちの前でイチャつくな!」
嫉妬の眼差しで睨みながら一誠たちの後をつけながら店のなかへ入ると
「いらっしゃいませ!ってお前らか」
「って、え、レン!?」
店に入るとそこには店の制服を着た煉がいた。
「レン!お前ここでバイトしてたのか!?」
「んなわけねえだろ。ここは俺が経営している企業の一つだ。俺は中学の頃から株で手に入れた金で様々なところから契約してあらゆる分野をこなす複合企業の社長をしてんだよ。今日ここに来たのはここの売り上げを上げに来たんだよ」
『・・・・・・・・』
一誠たち全員は絶句した。煉は凄いとは認識してはいたがまさか、すでに社長として働いていた。
「お前ら、どうでもいいが、早く買うか避けるかしろ。次の客が来てんだ」
煉の一言に一誠たちは後ろに振り返るとすでに何十もの客が並んでいた。それに気付いた一誠たちはとりあえずケーキを買って席につく。
「まさか、ここまでとは・・・」
「もうこれ以上に驚いたことはねえ」
元浜と松田は驚きながらもケーキを一口食べると
「う、うめえええええ!」
「ああ!なんて美味さだ!素晴らしく甘いうえに美味い!」
あまりの美味さに声を上げる松田と元浜。それにつられて一誠たちも一口食べると
「これ、レンが作ったケーキじゃねえか!?」
「ああ、この味は覚えがある。前にレンが新作とか言って部室に持ってきたケーキと同じ味がする」
「とってもおいしいです」
「ああ、なんて夢のような甘さなのかしら」
「どうだ?俺の作ったケーキの味は。今日だけ俺が全部作ったからな。どれも美味いはずだ」
一誠たち全員が絶賛していると煉が一誠たちの席に座る。
「レン、働かなくていいのか?」
「休憩を取ってきたから平気だ。ところで松田、元浜。何で今日俺をつけてきた?途中からはイッセーたちもだったが」
その言葉にケーキを食べていた松田と元浜、そして一誠たちの動きが止まる。さらに
「もし、何か悪巧みでも考えていたのならわが社の勢力を懸けて社会から抹殺するぞ」
笑顔で追い打ちをかけるかのように言い放つ煉。松田も元浜も先程までケーキを食べて幸せな気分から一気に地獄に叩き落とされたかのように体を震わせ怯えていた。
「すみませ~ん。ちょっといいですか?」
「あっ、はーい!今、行きます」
女性客に呼ばれてそちらに向かう煉を見て松田と元浜は安堵の息を漏らす。
「た、助かった・・・・」
「あ、危なかった。あいつなら本当に俺たちを社会から抹殺しそうだから、マジで怖かった」
「だ、大丈夫だ。いくらレンだってそこまではしないはず・・・・・うん、多分、いや・・・・・・とにかく大丈夫なはずだ!」
「「不安になることを言うなッ!」」
言いきれなかった一誠に二人はツッコム。そして、店員として働いている煉を見ると
「いかがなさいましたか?お客様」
「あ、あの一緒に写真を撮ってもいいですか?」
女子高校生の二人組が煉と一緒に写真を撮ろうと尋ねると
「ええ、喜んで」
煉も笑顔で了承すると女子高校生の二人組は喜びながらも煉と一緒に写真を撮る。
「クソ・・・やっぱり、顔なのか・・・・」
羨ましそうに煉を凝視する松田とメガネをいじりながらも煉を見る元浜。それから煉はその女子高校生二人組と楽しく話しているとものの数分で煉はその女子高校生二人組のアドレスを手に入れてその二人にはばれないように密かに笑みを浮かばせていた。それを偶然目撃してしまった一誠は「・・・・・悪魔の囁き」と小声で言う。その瞬間、ケーキ屋の扉が勢いよく開かれるとそこには顔がばれないように覆面を被り、手には銃をかまえていた男が入って来て天井に向かって威嚇射撃をすると
「全員、こいつの餌食になりたくなかったら動くな!手を上げて大人しくしてろ!」
銃を他の客へ向けると客は恐がり、怯えながらも両手を上げて大人しくする。一誠たちは隙を見て何とかしようと考えていると
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
煉がその男に近づきさっきまでと変わらない笑みで接していた。それを見た男は銃を煉に向けると
ヤバいッ!逃げて!レンに銃をむけちゃダメ!今すぐ逃げて!マジで!
一誠は内心銃を向けられていた煉よりも男の心配をしていた。だが、煉は銃を向けられたいるにも関わらず変わらず
「お一人様のようですね。では、席までご案内します」
「てめえ、ふざけてんのか!?これが目に入らねえのか!?」
「はて?どれのことでしょうか?」
煉の言葉に男は手元を見ると持っていたはずの銃がいつの間にか無くなっていた。
「な・・・・・ッ!?」
男も銃がなくなったことに気づき驚いているといつの間にか男は席に座っていた。
「・・・・・・・ッ!!」
驚きの連発に目を見開いていると煉がひとつのケーキをテーブルに置く。
「当店自慢のケーキです。どうぞ、お召し上がりを」
男は煉に警戒しているのか、ケーキに手を付けなかった。だが、煉は
「ご安心を。毒などは入っておりません。そのようなものは不要ですから。ご不安なら私が食べましょうか?」
囁くかのように男に言うと男は煉に警戒しながらもケーキを掬い一口食べた。
「・・・・・・・・・・」
言葉を失ったかのように黙ったかと思うと今度は両方の目から大量の涙を流しながらケーキをがっつくように食べ始めた。それを見た客や一誠たち、煉以外の人たちは何が起こったのかわからず、ただ黙って見ていると煉は男が食べ終わるのを見て一言。
「いかがでしたか?」
「・・・・・・・すげえ、美味かった。それと、なんかさっきまでの苛立ちが嘘のように消えた」
「甘いものはときに人の心を落ち着かせ、癒しを与えてくれます。その甘いものであるケーキは誰にでも平等に心に安らぎを与えてくれます」
「ああ、あんたの言うとおりだよ。さっきまでの俺はどうかしてた。職場から追い出されてから何もかも上手くいかなくなり、毎日が嫌になってきたんだ・・・・」
「それで、全てがどうでもよくなり、今のような状況になった。というわけですね」
煉の言葉に男は頷く。そして、涙を流しながら謝罪する。
「すまねえ。本当にすまねえ。謝って済む問題じゃねえが、謝らせてくれ。すまなかった」
男は立ち上がり他の客たちに土下座して謝る。突然の謝罪にどうするかわからなくなった客たちはざわめきだすと
「謝る必要なんてどこにあるのです?」
「え、だが、俺は銃でここを襲おうと」
「いったいどこに銃があるのですか?私の目にはどこにも銃が見当たらないのですが。あなたは今日、お客様としてここに来た。ただ、それだけです。他のお客様もそうでしょう?」
煉は他の客たちに向かってそう言うと煉は密かに視線を一誠たちに向ける。それに気付いた一誠たちは頷き合って
「ああ、れ、店員さんの言うとおりだ。あんたはただ、ケーキを食べに来ただけだ」
「そうだぞ。銃なんてどこにも見当たらないぞ!」
「ああ、俺の目にも銃なんて見えないな」
一誠、松田、元浜に続いてアーシアたちも
「そうです。皆で何も変わらずケーキを食べに来ただけです」
「そうだ。あなたはケーキを食べに来ただけだ」
「そうよ!一人のお客様としてあなたもここに来たのでしょう!?」
アーシア、ゼノヴィア、イリナも男を庇うように言うと他の客もそれにつられたかのように何もなかったと言う。男はその言葉に涙を流していると煉が一枚の紙を渡す。そこには会社の名前と簡単なプロフィールに住所が書かれていた。
「これをどうぞ。私はここを含めて様々な企業の会社を担っています。ここで新しい人生を見つけてください」
「・・・・ありがとうございます・・・・ッ!」
男は涙を流しながら煉に感謝した。すると、煉が他の客に言う。
「さぁ、皆さん!今日は私のおごりです!好きなだけ食べて下さい!」
煉の言葉にその日は盛大に盛り上がったのは言うまでもなかった。
そして、仕事が終わり、煉は携帯を開くと新たに増えたアドレスを確認した。
「ふふふ、増えた増えた。おまけに良い人材も手に入ったしな。一石二鳥とはまさにこのこと」
煉の携帯に新しく増えたアドレスは今日、ケーキ屋にいた女性客ばかり。盛り上がっているときに女性客からのアドレスの交換を煉は快く了承。そして、今日、事件となった男は前の仕事場は煉の会社の敵対関係のようになっていた貿易会社の責任者だった。
「喰える女も増えたし、あの男からあそこの情報を聞き出せば、その会社も俺のものに出来る。楽しみだぜ」
煉は笑みを浮かばせながらその場から姿を消した。