Fate/stay night[Lost of Einzbern] 作:メンダコとスミス
イリヤルートが欲しかったんです。
幾億の魂が存在するこの世で一人の男がその生涯を閉じた。
彼は数え切れないほどの命を救った。
偽善と言われたその在り方も、最後まで、一度も曲げることは無く、一途に人々の幸福を願い続けた。
時として悲惨な結果になったこともあった。 助けたはずの人々に疎まれることさえもあった。
だが、彼はそれに絶望しなかった――――つまり、彼は
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満足な人生だった。
こんな俺を、ほっとけないと戦地にまで付いてきて、その人生のほとんどを俺のために費やしてくれた女性がいた。
家族のいない俺を、家族だと言ってくれた姉のような人がいた。
俺の命を救ってくれた上に、生涯の理想を与えてくれた人に出逢えた。
あとは不本意だけど、あいつに出逢えたこと。
正義の味方になる……。
「誰かを救うということは、その手から零れ落ちた少数を切り捨てるということだ」
あいつはそう言った。
確かに、あいつの言っていることは正しい。
現実でも、そういうことは数えたらきりが無い。
救えなかった人々がいた。 救いたかった人がいた。 それらを数の比率という理由だけで、機械のように判断を下すのが正義の味方だといわれた。
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人が闘うとき、その根底にあったのは
それが、アイツと決着をつけたあの丘で見つけた俺の答え。
その答えを貫いて生きた。
……後悔は無い。 やりたいことはすべてやったし、やれることはすべてやった。
……ただ。
一つだけ、やり残したことがある。
最後まで
だから……もし―――――――――――。
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「……イリヤ」
血こそ繋がってはいなかったけれども、顔も名前も覚えてすらいない両親や爺さんも失い、天涯孤独の身になった俺に残った最後の家族であり、妹のような、時に姉のような人だった。
俺と爺さんを、恨んではいたが、本当の兄弟のように優しく接してくれた。
もっと話をしたかったし、爺さんへの誤解だって解きたかった、そうすれば……なんて、そんなことを言ってもしょうがないな。
現実とは、とく非情なもので、その機会は、跡形もなく霧散してしまった。
サーヴァントであるバーサーカーを、英雄王に殺され、心臓を抉り出され、彼女は俺の目の前で命を落とした。
後になって分かったことだが、イリアは生きた時間のほとんどを、聖杯戦争のために過ごすことを義務づけられていたらしい。
人として得られるはずの、当然の幸福を知らないため、その在り方は、俺とはまた異なる方向に歪だったと思う。
だがもし、願うとするならば、彼女を……
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一体、どれくらいの時間が経っただろうか、意識のみが存在しているようなここでは、時間の感覚が無い。ただ、ゆっくりと磨耗していくだけである。
思考はまどろみ、いよいよ考えることさえ行わなくなってきた頃。
ふと、何かがこちらに向かって、近づいてくるのを感じ意識を向ける。
とても、不思議な感覚だ。 どうやら、相手はヒトではないらしい。
「―――――――――――――――――――――」
声もなければ姿も認識できない。だが、意識に直接、情報が送られてくる。 こちらに交渉を持ち掛けているようだ。
「――――――――――――――――――」
はぁ、一体どこから嗅ぎ付けてきたのやら。都合のいいことに、俺が望む願いを叶えてくれるらしい。
「―――――――――――」
そして、代償はお決まりの死後の安寧。
当時の俺なら、迷うことなく応じていただろう。
だが……すこしばかり葛藤する。
ここで承諾してしまえば、
何よりも、彼女にあわせる顔がない。「死んだ後も、誰かの為に働くなんて‥‥」とか朦朧としながら言いそうだ。
それでも、輝くような笑顔で日々の安寧を過ごしている、美しい、雪のような髪の少女の姿が理想に映る。
嘆息をひとつ……。
……すまないな、遠坂。
「――――――――――」
「ああ、その契約に―――――」
「お話しの途中悪いんだけどね、まだ、決断は早いんじゃないかな?」
突如、妙に意識へ響く、恐らく男であろう声が介入してきた。
「あ、あんたは……」
「そうだね、僕は――――――」
「――――――――――」
男の言葉を遮るように
「まったく、うるさくて敵わないなあ。 君と話す気は全くないから、彼は頂いていくよ」
男がそういうと、次の瞬間、視界が一瞬、真っ白になり、再び目を開けると、そこには二十代半ばくらいだろうか、ローブをまとった青年が立っており、周りには――――鮮やかの花畑が広がっていた。
まるで……。
「夢の世界みたいだろう? 安心してくれていいよ。 これ、夢だからね」
「夢なのかよ。 というか、死んでるのに夢とか見られるのか?」
「まあ、冥界の神も夢を見るというんだし……ありなんじゃないかな」
なんとも、アバウトな回答だった。
「そんなことより、君は僕に聞きたいことがあるんじゃないかい?」
その通りだ。 聞きたいことは山ほどあるが……。
「二つだけ教えてくれ。 まず一つ、あんたは何者なんだ。 二つ目は、どうしてあんなことをしたんだ」
そうすると、男は少し考えるそぶりをして。
「よし答えよう。 一つ目の質問だけれども、それは……秘密だ」
「なんでだ?」
俺の不満そうな顔に満足したのか、男はカラカラと笑いながら。
「至極まっとうな理由さ。 めんどくさいから」
…………
当然、魔術は使えない。
「まあまあ、怒らないでくれ。 実際のところ、僕の正体なんてどうでもいいのさ。 だけど、二つ目の質問には真面目に答えよう。 ズバリ、君を助けるためだよ」
……言われたことがよくわからない。
「たった一人を救うために、抑止力に魂を売るなんて、正気の沙汰じゃないぞ」
承知の上だ。
「後悔は今でもしていない」
迷いの一切ない返答に、男は困ったような表情になった。
「まったく、彼女も彼女なら、その主も主……というわけか」
何かを悟った、というよりは、あきらめに近い感じで男は納得したようだった。
そして、一転、硬い態度になり。
「たとえ、その選択が、君の今まで歩んできた人生を全否定するものだったとしても……かい?」
喉から出そうとしている声が詰まる。
「理想とは、一度、妥協してしまえば陳腐なものへと堕落する。君がしようとしていることは、まさに妥協そのものじゃないか」
「違う!!」
思わず、声を荒げる。
「何が違うというのかな。 いや、何も変わらない。 君がここから、前に進むためには二つに一つだ。 さあ、選びたまえ、衛宮士郎」
まるでそれは、神の審判のようであった。 だが、それを口にした男の目は、見極めと同時に、期待の色を含んでいるようにも見えた。
……ならば、望みたいようにやろう。
「俺は……両方を望む」
それを聞いた男は、すこしポカンとし、にやりと笑って。
「それは、矛盾を抱えながら生きていくということだ。 その矛盾は、常に君に纏わりつき、そして、事あるごとに、君自身の覚悟を試すだろう。 それでもなお、その道を選ぶのかい?」
「ああ」
「そうか……ならいいだろう」
返事はとてもシンプルであっさりしたものだった。
「……あれだけ脅迫してきたのに、ずいぶん簡単に認めるんだな」
すると、男はまたケラケラと笑いながら。
「脅迫なんかしてないさ。 ただ、君自身が、考えたうえで、その結論に達したというならば、僕がいうことはなにもないよ。 そもそも、さっきも言ったけど、抑止力に魂を売るような考えを持った君が、普通の選択をしないことくらい予想していたしね」
「……なんでさ」
「でも、君が選択したことの重要さと覚悟はくれぐれも軽んじ見ないことだ。 運命を変えるというのはそういうことだからね」
「分かった。 肝に銘じておく」
答えを改めて聞き、男は満足そうにうなずいて。
「よしわかった。 では、旅路の箱舟は抑止力に代わって私が務めよう」
一見、ただの妄言も、この男の言葉には異様な説得力があった。
そして、ふと、ある疑問を思い出した。
「ああ、ありがとう。 ところで、まだ、俺を助けてくれた理由を聞いてないんだけど」
「なあに、ただのお礼だよ」
まったく身に覚えがない。 そもそも、この男にあったのはこれが初めてのはずだ。
「一体なんのこと――――――」
最後の言葉を言う前に体が不可視の力に引っ張られた。
「あ、そうだ。 これは、僕からのささやかな贈り物だ。 使い方は意識に送り込んでおいたから、その時になればおのずとわかるだろう。 それでは、お別れだ衛宮士郎。 私はどこでも、君の行く先を見届けよう」
突如、右手に激痛が走る。
その言葉を最後に意識は途絶え、視界は真っ黒になった。
「……これで借りは返せたかな。 君にはおっきな借りがあったからね。 誰にも変えることのできなかった、かの王を変えてくれたことを……ね」
花畑の景色は徐々におぼろげとなり、狭い石畳の個室に変わっていた。
そして、今日も花の魔術師は
「さあ、異章の幕は開けた。 始めよう、新たなる
感想、いくらでも、お待ちしてます。
心優しい方々は誤字脱字があった時はそっと言ってくれると幸いです。
ちなみに作者に文才はないです。