ある男の独白   作:高望皆斗

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終章

スコットランド=ヤードの連中は今回の一件を、完全に事故として処理した。驚くことに、アランは例の手記以外に、あの悪魔の樹に関する研究資料を一切残していなかったのだ。無論、現場にいた私は厳しい尋問を受けたが、私に疑いの目が向けられることはなかった。更に、キンネル=マグナソン教授の失踪の件も事故と言うことで正式に片が付き、大学には平和が戻った。

 しかし、この事件以来、私の心に平穏が訪れることはついぞなかった。私が学科を医学科に転科したのも、軍医に志願し、二度の戦争に従軍したのも、早いうちに自身の生涯に終止符を打ち、この苦しみを終わらせようと言う私の深層心理の表れだったのかもしれない。

 唯一、この事件からの五十年の間で私の心の支えになったのは、細のアリスの存在だった。どことなくマリアに似た雰囲気を持つ彼女と関わるのに、私は最初は戸惑いを隠せなかった。しかし、彼女はそんな私の暗い懊悩に気づいていたのだろう。ボーア戦争の戦地からヨークシャーに舞い戻った私に、彼女は病床から微笑みかけながら、私にこう言ってくれたのだ。

「貴方が私と結ばれる前に何か特別な事件を経験して、そのせいで深い悩みを抱えていることは存じ上げています。ついでに、貴方が、私に、嘗て貴方が好きだった女性の存在を重ね合わせてみているのも、薄々ですが存じ上げています。ですが、私は私です。貴方は私を、貴方のかつての恋人としてではなく、私として、愛してくださいますか?」

 この一言は、深い贖罪の海を永久に漂う運命だった私の心を照らす光になってくれた。アリスにとっては大変に失礼な物言いだが、私は彼女といるときだけは体よく罪の意識を忘れていられたのだ。

 しかし、その細が結核により他界した。私の心は再び罪の牢獄に幽閉された。この頃からだ。兼ねてから用意していた自殺の計画を実行に移そうと目論みだしたのは。

独り身となった今の私には聊か広すぎるヨークシャーの一軒家、その庭には、一本の立派な樅の木が生えている。私が官憲の目を盗んで苦心して手に入れた、例の悪魔の木の苗が、五十年の歳月を経て立派に成長したのだ。大人しく、自らの犯した罪を贖おう。

 

一九二二年十二月二十五日 

 

コートニー=スピアーズ

 

 

 イギリス、ヨークシャー州のとある一軒家。その庭に、一本の非常に立派なクリスマスツリーが飾られている。

 誰もいなくなったその家を、庭を、ツリーはただ、煌々と照らし続ける。

 

 

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