第一話です。
今回の話はタイトルからもお分かりいただけると思いますが、オーズ・火野映司のお話です。
敵はグロンギ。
本編で名前は出てきませんが、狼のグロンギなので、
ズ・ミオガ・ダ
今のところ階級はズですが昇格するかもですね。
中米 コスタリカ
野生動物の宝庫と言われる熱帯雨林。未だ手付かずの木々が生い茂るこの地に似つかわしくない姿が樹木の間を縫うように走り抜ける。
木の上では様々な鳥が鳴き声を響かせ、森に彩を加えている。
駆け抜ける影はおおよそ人型をしているものの、その姿は人間からはひどくかけ離れている。
人間と狼を合わせたような外見はまさしく人狼と呼ぶに相応しいだろう。
その腰には銀色の光沢をもつバックルが装備されている。
かつて日本で未確認生命体と呼ばれた異形の怪人たち。
ゲゲルと呼ばれる殺戮ゲームを繰り返す彼らの蛮行は、同じく未確認生命体と認定され4号と呼ばれた赤い戦士と警察の協力により収束するに至った。
未確認生命体。またの名をグロンギ。
人狼の姿はまさしくグロンギのそれである。
その足が突如止まる。足を止めたその場所には小川が流れている。一見すれば、何の変哲もない水の流れだが、彼の眼には確かに目当てのものが見て取れている。
「ジョグジャブリヅベダ」
その呟きが何を意味するのか。
その答えを示すかのように、水中に腕をゆっくりと差し入れる。
その腕には筋肉の唸りが聞こえる程の力が籠められ、徐々に水面には波紋が広がる。
次々と生み出される振動は川の流れを遡り、数メートル離れた滝壺に至る。
人の背丈ほどしかない小さな滝。
その滝には波紋が押し寄せ、流れが遮れれて行く。そうして拓かれた水流は一本の道を生み出す。
川の真ん中と滝の中心をつなぐ一本の道筋。
その先、滝の裏側には洞窟の入り口が顔を覗かせている。
一歩、また一歩。
人狼は迷いなくその洞窟を目指す。
太陽の光の届かないはずの空間。しかし、その内部は淡い光に照らされている。
紫色の淡い光は洞窟の奥から、漏れ出しており、銀色のバックルはその光を反射し、怪しく輝いている。
最奥に近付くにつれ、光は強さを増す。
人狼が遂に最奥にたどり着く。
そこには一枚の石板が鎮座しているだけだ。光の源はその石板。正確にはその石板に掘られた文字の一つ一つが紫に光り輝いている。
その文字は人類の歴史の中では僅かに使用されただけの文字。
リント文字と呼ばれるそれは日本の各地で発見例が相次いでいるものだが、近年同じものと思われる文字が世界の各地で発見されている。
ここ南米もその地域の一つである。
人狼がその石板を手に取る。その瞬間、紫の光は激しく明滅を繰り返す。
瞬きの間隔が短くなるにつれて、強さを増し、その輝きが頂点に達した瞬間に、石板は砕け散った。
後に残ったのはその石板の中から弾き出された一枚のメダル。
「ラズザギヂラギ」
メダルを握り占めた人狼はその場を後にする。
その姿が洞窟の中から現れた瞬間、背後の洞窟は凄まじい音を立て、崩れてゆく。まるでその役目はすべて終えたと言うかの様に。
周囲では響き渡る爆音を受け、動物たちが騒ぎ立てる。
空に逃げる鳥たちは羽音を鳴らし、地を走る者は声を大にして鳴く、その様子はまるでジャングルそのものが邪魔者を排除するという意思を持っているかのように感じられる。
同時刻
その小川から数キロ離れたベースキャンプ
このベースキャンプは鴻上ファウンデーション出資の研究機関“KFMR”のもである。
MRとはMedal Reserchersの意味であり、その名の通りメダルの研究を行う専門機関である。KFは言わずもがな鴻上ファウンデーションの頭文字だ。
白衣の研究員の中に混じって一人、浮いた服装の男が作業に参加している。
暖色を基調にしたエスニックな衣服に身を包む彼は火野映司。自らをグリードとし、世界に終末をもたらせようとした真木清人の野望を止める為、鳥のグリードであるアンクと共闘。その結果、彼の野望を食い止めることができたが、アンクの意識を宿したコアメダルは二つに砕けてしまった。
彼は現在そのコアメダルを復活させる方法を探している。
同時に希望もある。かつて、時を超えた者がいた。仮面ライダーポセイドン。彼は未来のメダルシステムにより生まれた仮面ライダーであり、強者を求めて過去である現代に現れた。圧倒的な戦闘力を誇るポセイドンに対抗するため、同じく未来から来た仮面ライダーアクアと共闘する。その最中、メダルが砕けたはずのアンクが戦場に舞い戻ったのである。
事件の収束の折り、アンクから伝えられたこと。
それは今、ここにいるアンクは未来の存在であるということ。
つまり、コアメダルを復活させることは必ず出来るのである。
それが、彼を支える原動力であり、希望だ。
どこまでも届く腕の中には、戦友であるアンクも含まれているのだから。
「今日は森が騒がしいな」
つい、今しがたベースキャンプから少し離れた場所では木々が騒めき、鳥が一斉に飛び出した。
「この辺りには人間なんて俺たちしかいないはずだよな。それに地震ってわけでもなさそうだし」
何か、妙な胸騒ぎがする。
ただの勘に過ぎないのだが、数々の修羅場を経験してきた彼にとってその直感は十分に信頼するに値するものだ。
「ちょっと様子見てきます!」
他の研究員たちの静止もどこ吹く風、颯爽と飛び出した映司は手近なベンダーにメダルを挿入した。
ボタンを押すと同時に自動販売機はバイクへと形を変える。ライドベンダー、セルメダルを動力源とすることで走行するマシンである。
エンジンが唸りを上げ、ジャングルの中を疾走する。
木々の根が至る所に這いまわるこの地は完全に悪路の類であるが、ライドベンダーはまるで更地を進むかのような走破性を見せる。
乗りなれたマシンのスロットルを上げ、更に加速してゆく映司。
いつしかその眼前には、不自然に破壊された滝が飛び込んでくる。
「これ、どういうことなんだろう。自然に崩れたにしては変な状態だしなぁ」
崩壊した滝は、何者の侵入も許さないと言うかの如く不自然にその滝壺の奥をふさいでいる。まるで、その奥には洞窟でも広がっていたかのような様子だが、彼には確認する術が無い。
不思議な光景に目を奪われていた映司だが、その目にまたしても奇妙なものが映る。
足跡だ。
それも、二足歩行の動物のもの。
そしてその大きさはちょうど人間のものと同じような大きさである。
この地に於いて、二足歩行を行う動物の種類はそう多くは無い。加えて彼の知識の中に、そのような大きさの生物は該当しなかった。
仮に人間であるとすると、その足跡は不自然な点が多い、足の先端には爪のようなもので抉った跡がハッキリと残っており、素足や靴の人間が歩いたものでは到底有り得ない。加えて、その足跡の深さも人間のそれと比較すると、深い。深すぎる。
人間の体格であるとするなら、その体重はせいぜい70kgであると仮定すれば十分でああろうが、その足跡から推定される重さは200kgを超えてもおかしくはない。
しかし、映司にとってそのような存在は全く覚えの無いものではない。
例えばグリード。
死闘を繰り広げたその存在はであれば、多少の非現実が起きても何ら不思議ではない。
「何はともあれ、確認しておきますか」
ライドベンダーに跨り、再びエンジンに吸気を開始させる。
足跡は川の上流に向かう様に川岸を進んでいる。手掛かりはこの足跡のみ。映司の選択肢はそれを追いかけること以外には存在しないのだ。
足後を追い、ジャングルをひた走る。
森の中では異質な轟音と振動を察知した動物たちは一目散にその場を離れてゆく。
驚かせてごめん。心の中でそう謝りながら、映司はさらにスロットルを回す。
ここに来て、足跡の歩幅が変化する。足跡同士の間隔が徐々に広がって行き、一定の間隔まで広がりを見せる。つまり足跡の主は走り出したのだ。
ドクン。
鼓動が速くなる。足跡から伺うことのできる走り方は肉食動物が獲物を見つけた時に行あうそれと同じだ。楽観視をしないのであれば、足跡の主は何かを見つけ、襲い掛かったということになる。
それを証明するかのように、もう一つの足跡が現われる。
片方は逃げるように。もう片方は追う様に。
そして、遂に、足跡には血の雫が混じる。
まだ水気を帯びた血液はそれが新しいことを意味する。進むにつれ、大きく、数の多くなる血雫。
映司には焦りだけが募る。
ある光景がフラッシュバックする。届かなかった腕とその先に居る少女。
自分の弱さを呪った光景。
それを振り払うように先を急ぐ。
「グああああああああああ!!」
森に絶叫が響く。映司がその場所に到着したのはまさにその瞬間だった。
だが、その光景は映司にとって予想外の光景であり、とても奇妙なものだった。
彼の眼前には二体の怪人がいる。
一つは狼のような頭部を持ち、手足には鋭い爪が生え、その全身を毛が覆い、鈍い銀色の体表にはシンプルな装飾の青銅鎧を纏っている。
もう一つはワニのような特徴をした怪人だ。
そして、先ほどの絶叫はワニのもの。見れば、左腕は引きちぎられ、腹部には人狼の腕が深々と突き刺さっており、致命傷であることは疑いようがない。
この状況に於いて、映司は動くことができないでいた。
どちらかが人間であれば、助けに入る準備は出来ていたし、そのつもりであった。しかし、この状況では果たして自分が動くべきなのか。さしたる確証が得られなかったのである。
「リントグボンバドボソビバビンジョグザ」
人狼から発せられた言語は全く理解できなかった。
自慢ではないが映司はかなりの言語に精通している自負がある。そんな彼にとっても目の前の存在が発した言語には全く馴染みが感じられなかった。
「今、なんて?」
完全に思考が寸断される。敵意こそ感じられないが確実に言えることはこちらに友好的ではないということ。
言葉のニュアンスから判断できることはこちらを歯牙にもかけていないということ。
「ギラパラザゲゲルンドビゼパバギ。リントビジョグパバギ。」
そして、再び発せられた言葉の中に先ほどと同じ単語が混ざっている。
リント。
それが正確には何を意味するのかは分からなかったが、少なくとも、映司自身のことを指しているらしいことはぼんやりと理解できる。
「ジババギバ。ギバダバギ」
そして、遂に人狼が映司に対して明確な敵意を向ける。
「黙ってやられる訳にはいかないよ!変身!」
懐から取り出したのは3枚のメダル。
赤いタカ、黄色のトラ、緑のバッタ。装填された三枚のメダル。
手にしたスキャナーで順番にそれらをスキャンする。
タカ!トラ!バッタ!
タ・ト・バ・タトバ!タ・ト・バ!
ベルトに装填された三枚のコアメダルがスキャナーに読み取られその力を開放する。
映司の体をコアメダルの力が覆い、その姿はオーズとなる。
「クウガ!?」
その変容を目にした人狼の表情には明確な驚きが現われる。
「クウガ?何のことかは分からないけど、来るなら来い!」
そして、人ならざる者たちの戦いが再び幕を開ける。
最初に動いたのは人狼。
人のそれとはまったく異なる強靭な脚は莫大な筋力を有し、数メートルの距離を一瞬で詰める。目にも止まらぬ俊足は疾風と形容するに何ら不足は無い。つまり、それだけの距離は人狼にとっては十分な間合いである。
しかし、それに対するオーズとて、常人ではない。
タカの眼。
その眼力は風をも超える圧倒的なスピードを完全に捉え、その攻撃を完全に見切っている。
ガキン
狼とトラ、二匹の獣の爪が交錯する。
初撃を防いだオーズの腕には確かな衝撃が伝わる。人狼の攻撃力はそのスピードもさることながら、その体重も大きな要因となっている。
一撃が今までのグリードやヤミーと比べても圧倒的に重い。
今の状態では防戦一方になるのは想像に難くはない。
しかし、オーズの戦いの真骨頂はその多彩な戦闘スタイル。つまり、メダルチェンジを駆使した変幻自在の攻撃にある。
「だったらこいつで」
タカ!カマキリ!チーター!
オーズの腕と足のメダルが交換される。
腕には緑のカマキリのメダルが、足には黄色のチーターのメダルがそれぞれ装填されている。本人曰く使いやすいカマキリの腕と高速戦闘を可能とするチーターの足。
動きの速い相手にはこの上ない組み合わせである。
「ゴロギソギ。メンヂバサゾリゲデジャソグ。ヌアアアアアア!」
叫びと共に人狼の毛が逆立つ。
そして、更にスピードが上昇する。
チーターの足をもってようやくたい対等に渡り合える程のスピード。メダルの交換が功を奏した形になる。本気を出させたことを考えると必ずしも成功であったとは言い難いが。
そして、高速の打ち合いが繰り広げられる。
疾走する二つの影。
刃と爪がぶつかり合う音が幾つも森に木霊する。一つの音が響き、次の瞬間には数メートル先で、同じ音が響き渡る。
互いにスピードを活かした戦闘は、相手の死角に回り込むための高速での駆け引きが常に行われ、その結果巻き起こる目にも止まらぬ高速戦闘。
「こいつ強い!」
心の中で映司がつぶやく。かつて戦ったグリードは己のコアメダルの枚数を増すごとにその強さを取り戻していたが、この人狼の強さはメダルを半分以上取り戻したグリードに匹敵している。
何度目の打ち合いだろうか。
互角に思えた二人の攻防は唐突に終わりを告げる。
オーズのオーラングサークルが光を放ち、腕のブレードにエネルギーを供給する。
カマキリブレードによる必殺の一撃。
「セイヤアアアアアアア!!」
研ぎ澄まされた一撃は人狼の腕をによって直撃を阻まれるが、その腕の装甲を完全に打ち砕き、その腕にも決して浅くはない傷を与える。
その衝撃に耐えきれず、大きく吹き飛ばされる人狼、次々と木々をなぎ倒し、遂にその勢いが失われる。
「ギランララゼパバデバギバ」
口惜しそうな呟きと共に人狼は密林の中へと走り去る。
撃破自体が目的ではない映司は一瞬反応が遅れるが、今回は見逃すことに。
「今のところは人間を襲っていたって訳じゃないし、さっき襲われていた方のことも気になるしね」
変身を解除し、先ほどの襲撃地点に向かう。そこには既に息絶えた怪人の姿が。
装備の雰囲気などから先ほどの人狼と同じ種族であると考えられるが、異なる点も多い。例えばベルトのバックルの色。先ほどの人狼のものは鈍い銀色であったのに対して、こちらのものは赤銅色のものになっている。
未確認生命体。その存在はかつて日本で大量の殺人事件を起こしたことで一般に知られるものとなったが、一連の事件が収束したことでその記憶は既に人々の記憶からは薄れてしまっていた。また、この事件の当時、映司は日本に住んでおらず、間接的にしかこの事件に触れていない為、その存在には思い至らなかった。
「とりあえず鴻上さんに報告して、調査員の皆に危険が無いように手配してもらおう」
この怪人の正体についても何かしら手掛かりが得られれば行幸。そんな打算も含めた映司の計画だが、その目論見は見事に成功することとなる。
「火野君、君の送ってくれた資料はしっかり確認させて貰ったよ。早速結果を伝えよう。この怪人はまさしく未確認生命体と言われるもので間違いない」
「未確認生命体ってあの?」
「その通り!未確認生命体、またの名をグロンギ。君はあの時丁度、日本に居なかったようで馴染みは薄いかもしれないが危険な存在だ。十分に注意してくれたまえ」
鴻上会長は相変わらず、ケーキ作りには余念がないようで、タブレット越しの映像通信の向こうではシャカシャカと生クリームをかき混ぜながら話が進んでゆく。
「研究員の安全は私が保証するのでそれについては心配しないでくれたまえ。変わりと言ってはなんだが、君にはそのグロンギの調査をお願いしたい」
「それは構わないんですけど、何を調べればいいんですか?」
「それなんだがね。君が発見した崩れた洞窟、実はそこに我々の探していたものがあったらしいのだよ」
「それって例のコアメダルですよね。あったらしいってことは・・・」
「そう、大体は君の予想通りだろう。君が戦闘したグロンギ、彼が例のコアメダルを持っていると考えるのが妥当だろう。目的は不明だが、我々の目的がコアメダルである以上、戦闘は避けられない」
「そういうことなら任せてください。未確認生命体ってことは人を襲うことも十分考えられますし」
「それではそちらは任せたよ。追加の情報があれば連絡をくれたまえ」
通信が終了し、タブレットの黒い液晶には映司の姿が写り込む。
そこに映る表情は普段の温和な映司のものと比べると幾分か険しい。未確認生命体、その凄惨な事件は噂のレベルではあるが海外に居た映司の耳にも届いていた。
そして、その未確認生命体がコアメダルを集めているという事実。
嫌な予感が増してゆくばかりだった。
そして、物語は更なる混沌へと突き進んで行く。