操真晴人のメイン回です。
また、ちょっとだけ剣崎さんも登場致します。
今回の怪人さんはグリードです。
折角なので、甲殻類の王としてダリというキャラクターを設定しました。
モチーフは勿論のことエビやらカニやらサソリやらです。
名前の由来は「ダルイ」
怠惰から頂きました。
エビカソリコンボが出来るかもしれませんね。
「コネクト プリーズ」
魔法の発動を告げる呪文が唱えられ、空間を繋ぐ魔法陣が展開される。
魔法の主、操真晴人の腕は空間という縛りを飛び越え、遥か頭上のバナナの木、その葉に絡めとられている竹とんぼを摘み上げる。
「ほら、取れたぞ」
晴人の差し出した竹とんぼを受け取った少年は、先ほど目の前で起きた現象が信じられず目を白黒させている。
無理も無いだろう。
晴人が先ほど使ったのは魔法。この世の理を捻じ曲げ、不可能を可能にする奇跡の具現化。
「今のは何?マジック?兄ちゃんはマジシャンなの?」
一つ疑問を口にすれば次々と質問が湧いて来る。しかし、それに対する晴人の答えはシンプルなもの。
「通りすがりの魔法使いだ」
そして、バイクにまたがり颯爽と去っていく彼の背中を少年は見守るしかなかった。
肌の色の違う大人を見るのはこれが初めてじゃない。
このオモチャ。
手で回せば空高く飛んでいく不思議な木の玩具。作り方を教えてくれたのも同じ肌の色をした大人だった。
優しい笑顔で、いろんなことを教えてくれたあの人は元気にしているのだろうか。
きっと今も、自分と同じように色んな子供に面白可笑しいことを教えてくれているのだと思う。
全然似ていない二人にどこか同じ雰囲気を感じ取った少年は、もう遠くなってしまったバイクの背中に向って右手を伸ばす。
握り込まれたその拳の親指をグッと空へ突き出す。
サムズアップ。
あの人が教えてくれた合図。ちゃんとした意味は理解できなかったけど、彼にとってはすごく特別な意味があるみたいだった。
少なくとも、さっきの魔法使いの幸運を祈るくらいの使い方は出来ると思う。
少年はその背中が見えなくなるまでずっと見守っていた。青く広がる空と海岸線が繋がる先。その先に背中が吸い込まれて行くまで。
海岸線をひた走る。
マシンウィンガーに跨る晴人の肌を海岸の潮風が包みこむ。
かつてコヨミの願いをかなえる為、安息の地を探して世界中を旅していたが、自分の心に整理がつかず長い間指輪を封印することができないでいた。
そして自分の弱さ、コヨミへの想いを利用されたが最終的には指輪を自身のアンダーワールドへと安置した。
そんな彼は今、気ままに世界を旅している。
目的が無い訳ではないが、行きたいところに行くというのが当面の行動指標である。
目的の一つは世界に存在するファントムの脅威から人々の希望を守ること。
絶望から生まれるファントム。
かつてのサバトで誕生したファントムは多くが殲滅されたが、それでも日本の国外に逃亡したものも少なからず存在しており、それらを無力化することも晴人の目的の一つである。
そして、世界地図を適当に眺めていた時、ふとここが気になり訪れたのだ。
気ままな旅にはそれくらいの大雑さが必要だ。その点においてはかつての戦友である仁藤功介を見習うべきなのかもしれない。
「仁藤を見習うか。自分で言ってておかしな話だ」
彼にとっては妙な思い付きを振り払うように、マシンの速度が一際上がる。
吹き付ける風は強くなり、磯の香りはどんどん風に運ばれて行く。
海岸には熱帯植物の木が無造作に植えられている。何処も同じ風景ではないはずなのに、どこも同じように見えてしまう。そんな不思議な風景は終わりを告げ、目の前には同じ樹木がびっしりと並ぶプランテーションが広がっている。
「行ってみるか」
なぜか無性にそのプランテーションの中が気になる。
別に何か変わった点があるわけではなかった。ただ少し、空気に違和感を感じたのだ。
その違和感の正体は直ぐに明らかとなる。
プランテーションに乗り込んだ晴人の目の前には奇妙なものが存在していた。
メダルの塊。
そう形容するのが正しいのかは定かではないが、少なくとも晴人の記憶にはメダルで体が構成された生物など心当たりは無い。
「なんだこいつ」
晴人の疑問に呼応するかのようにメダルの塊は徐々に姿を変化させていく。
そうして一分も満たないうちにその姿は人型の姿となり、その体はエビの特徴が随所にみられる。
後頭部から伸びる海老の尻尾のようなパーツに、右腕には巨大なハサミが装備されている。
腹部にはワシャワシャと蠢く複数の足があり、全身は赤い甲殻に覆われている。
「キシャアアアアアアアアアアアアア!」
奇声を発する怪人。そして、その巨大なハサミが晴人に襲いかかる。
「おいおい、いきなりとは挨拶じゃないか!」
迫りくるハサミを蹴り飛ばし、迎撃する。訳も分からず、このまま大人しくやられる晴人ではない。
ドライバーオン プリーズ
晴人がベルトのバックルに指輪をかざすことで、ドライバーが起動する。
シャバドゥビタッチヘンシーン
左手に嵌められた赤いウィザードリング。そのフェイスカバーを下ろすことで、指輪に魔力が満ちる。
フレイムプリーズ
そして伸ばした左腕の先から魔法陣が展開しその体を魔力の法衣が包みこむ。
ヒーヒーヒーヒーヒー
そして、晴人の体は魔法使いとしての姿。ウィザードとなる。
「さあ、ショータイムだ」
ウィザードとエビの怪人との死闘が幕を開ける。
最初に仕掛けたのは怪人。
目の前で姿の変わった晴人に多少の驚きを見せつつも、攻撃を仕掛ける。
怪人の最大の武器は一目瞭然そのハサミである。
その一撃を回避したウィザードの背後では、挟まれたバナナの木が、音もなく真っ二つに引き千切られる。
「ひゅー、流石にアレに掴まったら不味いな」
カチカチとハサミを鳴らし、威嚇する怪人。
しかし、上手く獲物を捕らえられないことへの苛立ちが同時に滲みだす。
その憂さを晴らすかのように、攻撃に鋭さが増し、ウィザードへと襲い掛かる。
迫りくるハサミの猛攻をウィザーソードガンで払いのけ、蹴りによる反撃を織り交ぜる。
この戦闘において軍配は完全にウィザードに上がっている。
敵の攻撃は直撃することなく、反撃は的確に体力を奪っている。
しかし、奇妙な現象は続く。
メダルの集合体であった敵であるから、当然と言えば当然なのだが、攻撃が命中する度にその体からは銀色のメダルが転がり落ち、その度に怪人は苦痛に満ちた呻きを漏らす。
「こいつもしかして本当にメダルで、できてるのか」
後に晴人も知ることになるが、敵の体はヤミー。グリードによって生み出され、人間の欲望を糧として成長するメダルの怪人である。
そして、晴人の指摘は全くその通りなのである。
加えて、ヤミーはその性質上宿主となる人間が存在する。
このヤミーも例に漏れず、親が存在している。
晴人がここに到着する数刻前、このプランテーションを任される青年の元に黒のコートを纏った大男が訪れた。
「貴様、良い欲望を持っているな」
突然のことに訳が分からず、混乱する青年の額に手をかざす大男。
その青年の額にダルの投入口が現われる。
「その欲望頂こう」
大男の手には銀色のセルメダルが握られている。その図柄はサソリ。
チャリンと音を立て、青年の額にメダルが挿入される。
その瞬間、青年の体に変化が生じる。
投入されたメダルが青年の体の中で増殖を始め、あふれ出したメダルがその体を覆う。
そして生成された蠢くメダルの塊ともいえる存在。
その中では白いヤミーが胎動を始め、目覚めの時を待つのだった。
そうして誕生したヤミーが突如現れた得体のしれない男に攻撃を受けている。
せっかく生み出したセルメダルが無駄に失われてしまう。その光景は大男にとってはこの上なく腹立たしいもの立った。
「めんどくせえ」
怒りをはらんだ呟きと共に大男は動き出す。
度重なる攻撃を受け、ヤミーの動きは当初とは比べ物にならない程、鈍くなっている。
ここが勝機。
戦いに決着をつけるべく、ウィザードはその指にリングを装着する。
「フィナーレだ!」
ルパッチ・マジック・タッチゴー
ドライバーから発せられる声。それに応じるようにリングをかざす。
チョーイイネ
キックストライク
足元に展開される深紅の魔法陣、魔力を破壊の権化たる炎へと変え、その足に纏う。
「はあああああああ」
ロンダート
遠心力を乗せ、威力を増した蹴りを叩き込む!
「させねえよ」
空中で捻りを加えた渾身の蹴りがヤミーに直撃する瞬間、その足首が何者かに掴まれ、必殺の一撃が阻まれる。
「何?!」
その眼前には、燃え盛る蹴りを平然と受け止め、悠々と立つ男の姿がある。
「フン」
軽い気合だけで、ウィザードを弾き飛ばした男はそのままヤミーを連れ去り、姿を消す。
「なんだったんだ今の」
さっきの男の目的はあの怪人を助けること。それは分かるがその目的が分からない。
周囲には太陽の輝を受け、燦然と光る幾つものセルメダル。
「ファントムじゃないにしろ、流石にアイツを見逃すわけにはいかないか」
メダルを一枚拾い上げた晴人は、男の消えた方角を目指して、再びバイクに跨った。
「まったく、折角のセルメダル無駄になっちまった」
薄暗い空間で、ヤミーと大男はゆっくりと先ほどの傷を癒す。
男の方は大したダメージではないのだが、流石に人間の姿を維持したまま、あの攻撃を受け止めるのは無理があったようで少しばかりメダルを消費してしまった。
それに対して、ヤミー側のダメージは深い。グリードと異なり、その存在をセルメダルの身に依存するヤミーはセルが減少することはすなわち存在の消滅なのである。
そして、先ほどの戦闘は想定外であることに加えて、敵の戦力が強大、おかげで半分近くのセルが失われてしまった。
ヤミーは生み出す親のグリードによってその性質が異なる。
甲殻類を司る黒の王、その手によって生み出されてヤミーの性質は怠惰。自身の宿主の欲望そのものを食らうことで、セルメダルを生み出すことができる。
そして、その存在の根本を食らわれた人間はまさしく抜け殻となる。そうして生まれた抜け殻をかぶり、ヤミーは人間の生活を模倣する。そうして、宿主の代わりに欲望を満たすことで新たなセルを生み出すのである。
「さっさとセルを生み出してくれよ。でないと、俺がまともに活動できん。まあ、活動する気もあんまりないんだがな。だりい」
足を投げ出し、体の力を抜く大男。黒いコートその身を包み込み、さながら闇の様である。
この場所がさっきの奴にバレる心配は無いだろう。
ただ、セルメダルが圧倒的に足りない。
もう少し、せめて今の二倍程度のメダルがあれば、満足な戦闘が行えるだろうが今のままでは精々人間を凌駕する程度の力を発揮するのが関の山。先ほどの無茶な出力は威嚇の意味合いも込めて、セルメダルを消費しながら行った無理の産物だ。
めんどくさいことを極端に嫌う性格は突き詰めれば、究極の効率主義であるともいえる。
一の行動に対して、一の成果では割に合わない。
一の行動に対して、十や二十の成果を出す。それがこのダリと呼ばれるグリードの本質なのだ。
「完全に見失ったな」
同じ頃、ダリ達を追った晴人だったがその姿を完全に見失っていた。
マシンウィンガーのエンジン音の身が辺りに木霊する。
そんな風に晴人の心が軽く、折れかけていた時、もう一つエンジン音が響く。
「ん?こんな所でバイクなんて物好きだな。俺も人のこと言えないけどさ」
その物好きの姿を確認するために振り返る。
そこには、銀色の車体をベースに青いパーツが目を引く変わったバイクにまたがる男がいた。
青いバイクの名はブルースペイダー。そのバイクを駆る男の名は剣崎一真。
かつてアンデッドがその繁栄を賭けて戦うゲーム、バトルロワイヤルに仮面ライダーとして参加、その戦いの最中、自らをジョーカーとすることで、バトルロワイヤルの決着を先延ばしにすることで、友である相川始と世界を救った。
しかし、この場に於いて、互いの素性を知らぬ二人は奇妙な邂逅を果たすことになったのだ。
「こんな所に日本人とは珍しいな」
最初に口火を切ったのは晴人の方だった。
「そう言うあんたもな。こんな森やら海やらだらけの場所でバイクなんて変わってるな」
「それは盛大にブーメランじゃないか。あんたは観光って訳じゃなさそうだな」
頬を掻いた後少し照れくさそうに剣崎は答える。
「まあ、仕事っていえば仕事かな。少し昔の仕事だけどな。そういうあんたも何か用事があってきたのか?」
「こっちに来るときには用事なんて無かったんだけどな。ついさっき出来たってところかな。そういえばあんた、この辺りで変なもの見なかったか?」
「変なもの?最近俺が見た一番変わってるものは・・・」
そう言って少し、思案した後剣崎は晴人を指さす。
「あんただ」
にこやかに笑う剣崎。何処か人懐っこいようなそんな笑顔を浮かべて。
「勘弁してくれよ」
それにつられて笑う晴人。
「ごめんな役に立たなくて。俺の名前は剣崎一真、あんたとはこの先また会いそうな気がするからさ、名乗っておくよ」
「奇遇だな、俺もそんな気がしてたんだ。俺は操真晴人」
「晴人か。いい名前だな。それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「ああ、またな」
すれ違う二台のバイク。二つの道が再び交わる時はそう遠くはない。