紡ぎだす謎は   作:高望皆斗

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探偵vs.怪盗モノです。
*ミステリーではありません。どちらかと言うと、はやみねかおる氏の「赤い夢」的な考え方に近いものがあります。
感想、意見、批判など、お待ちしております。


序章

オリバー=J=パーキンズ先生が亡くなられたのは、ビルマ戦役で海軍将校として派兵された僕が、兵役を終えて帰国した丁度二週間後だったから、一八八七年の八月のことになる。元々、そろそろ寿命なんじゃないかという気はしていたから(確か、享年八十七だった筈だ)、さして驚きはしなかったけれど、やっぱり自分の先生が亡くなると言うのは悲しい出来事だったように思う。

 パーキンズ先生は私立探偵だった。頭の切れる名探偵、とは程遠かったけれど、探偵として在ることに誇りと満足を感じていた、ように思う。事務所では安楽椅子に腰かけてパイプを吹かし、事件とあらば鹿撃ち帽(ディアストーカー)にインバネスコートを纏って駆けつける姿は、まるで虚構の探偵劇を見ているようだった。

 僕はパーキンズ先生の事務所に居候し、帳簿をつけたり、お客にお茶を淹れたり、時には先生に同行して一緒に事件の捜査をしたりと、探偵見習いのようなことをやっていた。

 僕は最初、ロンドンには大学生活のために来ていた。母は数年前に他界し、父が学費を捻出してくれていたのだが、僕が大学二年の時にその父も他界。学費と生活費の両立が出来なくなり、ひもじくなっていたところをパーキンズ先生に拾ってもらったのだ。

 先生の葬式は教会で慎ましく行われた。元々交友関係も多い方ではなかったのだろう。葬式に参列したのは、最早未亡人となってしまわれた先生の妹君と、過去に付き合いのあった客が数人程度だった。

 さて、僕の人生の転機はその葬式の日、僕がオールドストリートの八十五番地、パーキンズ探偵事務所に戻り、そこで先生の骨董机から遺書を見つけ出した、その瞬間だった。遺書には、こうしたためられていた。

 

「親愛なるトニー(トニー=チャンバース。僕の名前だ)へ

 君があの馬鹿げた戦争から無事に帰国したとしたら、今頃この遺書を読んでおることじゃろう。

 知っての通り、儂はもうあまり永くない。故に、簡単にじゃが、儂の財をお前に残そうと思う。

 まず、金目の物じゃが、その骨董机の裏側に、ダイヤルがついておろう。それを正しい番号で回せば、その机の三番目の一番大きい抽斗が開くようになっておる。番号は、ヒントを出してやろう。儂とお前が一番最初に解決した事件じゃ。ちと、易しすぎるかのう。まあよい。その中には、儂の口座の小切手と、オールドストリート八十五番地の権利書が入っておる。その物件は掘り出し物じゃから、手放さん方が得じゃぞ。

 それから、金目、とまでは行かんが、その抽斗の中に、儂の探偵事務所の営業許可証が入っておる。その抽斗を開けられたら、儂の事務所はお前に継がせよう。無論、お前が嫌だと言うなら話は別じゃがな。

 あと、クロゼットの中に儂の鹿撃ち帽とインバネスコートがある。お前さんに譲ろう。探偵としての嗜みじゃ。

 最期に、一つ。儂は探偵稼業が好きじゃった。お前さんには、それを伝えきることが出来なかったやも知れん。もし、探偵になろうと志すのであれば、どうか精一杯、その稼業を愉しんでおくれ。

君の老いぼれ師匠 オリバー=J=パーキンズより」

 

 ダイヤルを開けること自体は簡単であった。最初に先生が僕を連れて行ってくれた事件は『七つのトランク事件』だった。こう聞くと、大層奇妙な事件に思えるかもしれないが、実は何のことはない。夫に愛想を尽かした妻が、家出のために自分の家財道具をトランクに詰めて実家に送り返そうとしたが入りきらず、結局、七回に分けて郵送した。そのトランクを見て不審に思った夫が先生に依頼をしてきた。それだけのことだった。この時ちょっと面白かったのが、妻が持ち逃げしようとした家財一式の総額が七十七ポンドだったことで、それがダイヤルの番号、七七七(七つのトランクに七十七ポンド)につながるだけの話だ。

 こうして先生の遺した遺産とオールドストリートの旧き良き下町の事務所、そして探偵事務所の看板を僕は手にしたわけだが、はてどうしようか。いや、答えは決まりきっている。僕は身寄りもないし、このまま大都会ロンドンの下町の隅っこに放置されたら野垂れ死ぬのも時間の問題だ。しかし、僕には探偵の魅力というのが理解できていなかった。だから、パーキンズ先生の遺した遺書の、「愉しんで」と言う部分は守れそうにない。なんだか、このまま探偵になったら先生の遺志を冒涜するような行為をしている気分になる。

 こんなことを悶々と考え、一週間くらいはパブに入り浸って暇をつぶしていたのだが、いよいよ先生が残した遺産も少なくなって(元々そんなに多くなかった。二週間分の生活費であっという間に摩ってしまった)、結論を出すことを迫られた。

 やむを得ず、僕は探偵になることにした。

 ただ、やっぱりどうしても「愉しむ」という部分を引け目に感じてしまう。だから僕は、クロゼットに鍵をかけたのだ。先生の考える、探偵の「愉しさ」の全てを、忘れ去ろうとするかのように。

 

 

 

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