色々とオリジナル設定が組み込まれているので、注意してください。
1942年6月4日。
その日、ブロフカ市立病院にて一人の患者の命の灯火が消えかかろうとしていた。
真っ白なベッドの上で力なく横たわっている一人の男。名前はラインハルト。フルネームはラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。
第三帝国国家保安本部長官にして、人々から『黄金の獣』と謳われた人物。それがこの男だ。
そんな男が何故死にかけているのか。その答えは今から一週間前の日に起きた事件にある。
一週間前の5月27日。自宅から勤務先へとオープンカーの車に乗って向かっていた途中、ラインハルトは突如として現れた何者かに爆弾を投げ込まれたのだ。
爆弾は車の横で爆発し、その破片は車の右側のフェンダーを破壊。車に乗っていたラインハルトの体には車体からの破片や繊維が突き刺さった。
幸いにも病院が近かった為に一時的に一命は取り止めたが、感染症による衰弱によって容態は日に日に悪化していく。
そして、6月4日の今日。遂にラインハルトは運命の日を迎えることとなったのだ。
無論、それは誰もが知っている訳では無いが、少なくとも当の本人には自分が今日死ぬという確信のようなものを感じていた。
まるで、ずっと前からこうなることを
「これが……私の
人体の黄金比とも称された美しき顔を憂鬱げに歪ませるラインハルト。
己の最期がこんな情けないものだとは、とでも言いたげな顔だが、しかしそこには何処と無く安堵しているように見えた。
「結局、この『飢え』と『渇き』を満たすことは最後まで出来なかったか」
数年前から感じるようになった二つの感情。『飢え』と『渇き』。
この二つの感情を強く感じるようになった当初は、どうしようもないもどかしさに苛まされていたが、今は違う。
「『飽いていればいい、飢えていればよいのだ』」
かつてとある者に告げた言葉を再び呟き、ラインハルトは少しだけ微笑んだ。
「所詮私はただの人。いずれ死ぬのは分かりきっていたのだ。ならば、空虚な幻想に身を委ね生を冒涜するなど以ての外でしかない」
生きる場所の何を飲み、何を喰らおうと足りぬ。だが、それでよいのだ。
現実に存在し、生に真摯であること。それこそが人としてあるべき姿。
『飢え』や『渇き』を満たす為にそのことを蔑ろにすれば、もはやそれは人では無い。ただの一匹の獣だ。
「私は人として死ぬ。神でも悪魔でもない、ただのラインハルト・ハイドリヒとしてここで死ぬのだ」
自分に言い聞かせるように呟き、ラインハルトは静かに瞼を下ろす。
あと数分もしない内に自分は死ぬ。迫り来る死の気配に、恐怖は一切感じない。
この国の行く末を見れぬことや、民を守ることが出来なくなること等々、心残りは幾らかあるが、それは後の者達を信じて託すしかない。
「
その言葉を最後に、ラインハルト・ハイドリヒは息を引き取った。
……だが、彼の物語はまだ終わらない。
黄金の獣が覇道に目覚めることは無く、一人の人間として死んだことで彼の物語は終わったかのように見えた。
しかしそれは、あくまで一時的な終わり。小説で例えるならば物語の第一章が終わったに過ぎない。
故に、これから始まるのは第二章。人として死んだ黄金の獣の続き。
さてはて────
「ようこそ、死後の世界へ!」
「……なんだと?」
いったいどのような物語になるのか。皆々様どうかご期待あれ。