錬金術、それは異なる物質を黄金へ変える事を初め、人の肉体や魂をもより完全な存在へと昇華させる試みである。
その錬金術の到達点の一つ「賢者の石」
純粋で強大なエネルギーを持ち、精神に感応して様々な事象をもたらすそれは物質の根源たる「プリマ・マテリア」に「性質」を与え、既存のあらゆる物質だけでなく、自然には存在し得ない新たな物質にさえ変える事だって出来る。
まさに神にも悪魔にもなれる力。
多くの錬金術師達がそれを求め、やがて科学技術が発展し、錬金術が過去の迷信とされる現代。
かつての錬金術師の末裔の一人が「あらゆる生命体が持つ根源的な電気信号」から賢者の石を作る方法を解き明かし、ついにそれを手にした。
その錬金術師こそ、私「緋泉(ひいずみ)遥(はるか)」の錬金術師としての師であり、実の祖父である「緋泉十蔵(じゅうぞう)」である。
「遥よ、ワシにはもう時間がない。ようやく賢者の石へと辿り着いたというのに、未練この上ない!このままでは死んでも死にきれぬ!」
だが、齢128歳を越えた祖父に賢者の石の力を解き明かして行くだけの寿命は残されていなかった。
「故にお前に託す!この力を解き明かせ!その先で神になるも、悪魔になるもお前の自由だ!」
それだけ告げると、祖父はまだ14歳の私に、とてつもない「遺産」を託して生涯を終えた。
ミスリル銀の髪に覆われた頭を抱え、私はこれからを考える。
考える。
「行くか、市役所」
祖父の死亡届けや土地の相続などまず俗世的な手続きの問題が山積みだった、生まれて初めて早くに死んだ両親を恨んだ。
◇◇◇
私の身体と精神は錬金術の影響で同年代の人間に比べて早熟だ。
齢15にして身長165センチ、銀色の髪、胸はない。
それは、市役所で対応した人間が途中まで成人済みだと思って対応し、新居であるアパートの管理人も本人ではなく親族かと勘違いしていた程、私はどう足掻いても子供に見えないらしい。
ちなみに前に住んでいた屋敷や家財は必要最低限の器具を持ち出して全て売り払った、その際に受けとる為の通帳を作るのにも一苦労したが諸費用を差し引いても向こう数百年は家賃に困りそうにない額になった。
さて、何度も言うが私は見た目と精神がどうあれ、実年齢は児童だ。
故に、成さねばならぬ義務がある、行かねばならない場所がある。
それは中学校。
仕方無く来たセーラー服、姿見に映る自分の姿を見て。
「キツい」
普段着である白衣で登校しても許されるだろうか、許して欲しい、恨んでくれていい、許しは乞わぬ。
◇◇◇◇
――例え理想が叶う事が無くとも、決して屈しはせず、後悔のままに死ぬ事の無いように。
祖父の口癖だ。
粘り強い交渉の結果どうにか体育の時間以外は白衣で授業を受ける事を許された。
担任である真琴先生が新人教師であったのもあるが、彼女に放った「あなたがセーラー服で教壇に立つなら、私もセーラー服で授業を受ける覚悟がある」という言葉が効いた様だ。
ちなみに「それはそれで」とほざいていた教頭はスケベと認定しておこうと思う。
「今日からこのクラスに新しい生徒が加わります、緋泉さん、挨拶を」
私が真琴先生の合図と共に教室へ入ると、どよめきが広がった、当然か。
「緋泉遥、見ての通り少しばかりセーラー服を着るには厳しい見た目故に白衣で授業を受けるが……私は君らと変わらぬ15歳だ、そこだけははっきり伝えたかった」
女子からは「綺麗な髪」「銀髪ってあれ染めてるんじゃ」「マジで!?」「大人っぽいな~」男子からは「美人じゃん」「でも性格キツそう」「新しい先生かと思った」「セーラー服もそれはそれで」との声がよく聞こえた、最後の奴の顔はしっかり覚えた、このスケベ野郎め。
こうして私の学生生活が始まった。
ちなみにその日、私に話し掛けて来た者は居なかった、これが噂に聞くボッチか。