魔法少女はるか☆ウィング   作:青川トーン

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錬金術師で、魔法少女

 

 充足、満ちる。

 

 ここまで気分が良いのは、祖父から「錬金術師を名乗ってもよい」と言われた時以来か。

 

 あんなに行きたくない、と思っていたのが嘘かの様に、明日の登校が楽しみなのは、若葉と加賀宮が居るからか?

 

 しかして、こうなると家に帰るのも少し残念な気分になってくるものだ、後数分もすれば授業は終わり、放課後だ。

 

「すっげー悪い顔してるぜ、緋泉の奴」

「やべえぞ、きっと若葉をどう始末するか考えてる顔だぜ」

「死んだわ若葉」

 

 こそこそと滅茶苦茶失礼な事を言っている男子二人、誰かは特定したからな!

 万が一にも私が若葉を害する訳がなかろうが、もし死ぬとしてもそれは貴様らだぞ。

 

 そうこう思考に耽っていると終鈴が鳴り、授業が終わる。

 

 しまった、全く授業の内容が頭に入って来なかった、というか何の授業だったかさっぱりわからなかった……少しばかり浮かれ過ぎていた様だ。

 

 

 

「緋泉さん、放課後は暇かな?」

 

 授業が終わるなりこちらを向く若葉、確かに忙しい訳ではないが。

 

「ああ、特に急ぎでやる事はないぞ」

 

「よかった、じゃあオカルト研究部行かない?」

 

 オカルト。

 

「オカルトて」

 

「UFOとか魔術とか、陰陽術とか錬金術とか」

 

 失礼な、錬金術はオカルトじゃないぞ――と思わず口にしかけたが黙る、オカルトではないが秘術だ。

 

「まあ、いいぞ」

 

「よかった、何て言うか学者さんみたいだから「非ィ科学的な!」って断られるかと……」

 

「私はそれなりにそういうモノには理解はある方だと自負している」

 

 錬金術が本当にあるのだから、一応魔術も陰陽術もあると私は思う、実際に見た事はないが。

 

「い……意外だね……あ、でも私の事コロポックル呼ばわりしてたのもそういう知識があっての事だったんだ」

 

「最初は安易にドヴェルグにしようかと迷ったが女子に付けるアダ名ではないと思ってな」

 

「あ、随分深いね知識」

 

 ドヴェルグは北欧神話の小人だが「醜い」という特徴がある、とてもではないが私も使う気にはならなかった。

 

 ちなみにドヴェルグはドワーフと同一視される事もある。

 

「じゃあオカルト研究部行こうね!」

 

 放課後、若葉に連れられて向かうのはこの学校でも端の端、四階の屋上に繋がる扉のすぐ側の教室。

 

 人の気配すら殆ど感じられず、手書きの「オカルト研究部」の貼り紙以外に、そこが活動場所と証明できる感じがしない。

 

「ここだよ」

 

「随分と、まあ……」

 

「そうだねー、私の他には一人しか居ないし、今年の新入部員が0だったから今年で廃部確定なんだけどね」

 

 やはり科学が進めばオカルトは廃れるというか、案の定オカルト研究部は消滅寸前だった。

 

 私が扉に手を掛けようとすると、それよりも早く扉が開いた。

 

「フフフ……ようこそ滅び行く者達の楽園へ……」

 

 やけに前髪が長く目が隠れた女子が現れた、気配こそしてたがこんなのが突然現れたら驚く。

 

「やめなよ佐々見部長、何て言うかイタいよ」

 

「オカルト研究部に入ってる君が言うなよ若葉くん、して……そちらの方は噂に聞く銀色の魔女の緋泉さん?」

 

 ゆらりと髪を揺らしながらこちらを向く姿はまるでグールか何か。

 

「何だ……その銀色の魔女とは」

 

「佐々見さんのいつもの戯れ言だから気にしなくていいよ」

 

 若葉が興味なさげに切り捨てる、容赦無いなこいつ。

 

「自己紹介が遅れたね、私は佐々見(さざみ)理夜(りよ)、2組でも貴女の噂は聞こえている……なんせどうやったのか白衣での登校を認められている唯一の生徒だからね」

 

「緋泉遥だ、まあ担任がそう、いい人だったから助かっただけだ、よろしく……で、このオカルト研究部は何をするんだ?」

 

 そもそも部員二名で、どんな活動をするのかが全然わからない。

 

「年に一回のオカルト系の部誌の発行とかだね、去年ならまだ部員が7人居たからフィールドワークで市内の神社巡りとかやれたけど、先輩達が卒業しちゃってね」

 

 佐々見の言葉を信じるなら、こんなオカルト部にも去年はそれなりに人が居たのか。

 

「で、部長が新入生の勧誘に失敗して、ごらんの有り様だよ」

 

「ぐえ」

 

 若葉の容赦ない暴言に佐々見が変な声を出した、そうか、とりあえずここがどういうものかは分かった。

 

「それで今年の部誌のテーマは何か決まっているのか?」

 

「よくぞ聞いてくれた緋泉殿、今年のテーマはこの「夜芽海(よがみ)市」の街で最近起こってる怪奇現象についてだ!」

 

「怪奇、現象?」

 

 私達の住む、この夜芽見市は海と山に挟まれた幾つかの市が合併して出来た、それなりに大きな市だ。

 

 私の住んでいた祖父の屋敷は山の側、あまり人の居ない地域で、逆に市街地や繁華街と呼べるものは殆ど海側にあった為、正直に言えば街の噂なんかには私は疎い。

 

「そう、マンホールが次々と吹き飛んだり、ビルの間を飛び交う人影が見られたり、中にはフードを被っていて、袖から覗く手が全て刃物で出来た怪人「シザーハンズ」なんてのも……」

 

「部長、シザーハンズは怪奇現象じゃなくて不審者だよ」

 

 若葉の指摘通り、確かに怪奇現象じゃなくてそいつはただの危険人物だと思う。

 

「話には続きがあるのさ、シザーハンズの足は犬の足で、凄いスピードで跳び跳ねていたんだって、聞いているかね若葉くん、これがただの不審者だったら逆に怖いわい!」

 

 犬の足、つまりは足の甲がやたら長く、つま先立ちの様な姿勢。

 

「考えうる形としては義足だと思うが、刃物を持っているなら気を付けるべきだな……」

 

 義足というのは動きが遅い、というイメージが一般にはあるが実際はそうでもなく競技用義足なんかはそれこそ生身の足よりも早く走れる。

 

「ニュースじゃやってないけど、最近起きてる未解決の殺人事件や行方不明事件もシザーハンズの仕業だって言われてるくらいさ」

 

 現代の切り裂きジャックとでも言えようか、確かにここまで来ればオカルトらしさはあるな。

 

「まーこんな感じで部長は怪奇現象だとか都市伝説大好きで、私はどちらかというと魔術とかの伝承の方が好きなんだ~……で緋泉さんはどういうのが好き?」

 

 と相変わらずマイペースな若葉、そこはシザーハンズの話題に乗るべきだろうに……。

 

「私は錬金術に関しては……それなりに嗜んでいるよ」

 

 嘘は言ってない、境地に辿り着いた祖父に比べれば私はまだまだだ。

 

「そっかー!じゃあどちらかというと私側だねー!」

 

「くっ……おのれ若葉薫!だがしかし今年の活動方針は怪奇現象だからな!」

 

 負け犬の遠吠えというか、この佐々見という部長はどうにも若葉に勝てないようだ。

 

 

 そうして閉館時間である5時まで、私達はそれぞれの知識を披露した。

 

 若葉もなかなかやるもので、ルーン文字を覚えていたり、ソロモン72柱の悪魔を暗記していたり、錬金術の基礎的な話について来れたり。

 

 かなり充実した時間であった。

 

 とはいえ気になるのはこの街で起きてるという怪奇現象だ。

 

 夕暮れ、日没の校舎を背にする私達。

 

「案外怪奇現象も、魔術的なモノが関わっているかも知れないな……」

 

「そう思うかね緋泉くんも!?この辺りの土地は昔から竜脈、つまりは大地のエネルギーが集まり易いとも言われていてだね!」

 

 この部長、都市伝説の話になるとやたら早口になるな。

 

「はいはい、そこまでです部長、そんな事を言ってたら「あなたは知りすぎた」ってされちゃいますよ」

 

 それを黙らせる若葉、お約束をわかっているな。

 

 それぞれの帰路、若葉と私は同じ方向だが佐々見は逆のようだ。

 

「じゃあ部長、くれぐれも気を付けなよ~」

 

「また明日」

 

 手を振り彼女を見送ると、私達も帰路につく。

 

「まだ寒いね~この時期は」

 

 確かにまだ4月、日が落ちれば随分と肌寒いだろう、私は平気なのだが。

 

「それにしても、こうも学校が楽しいものとは思わなかった」

 

「緋泉さんは、学校通って無かったんだっけ」

 

「ああ、祖父の家で暮らしていた頃は殆ど外に出る事すらなかった」

 

 思い返せば祖父が死ぬ少し前まで錬金術だけあれば生きていけると私は本気で思っていた。

 

 だが祖父が居なくなってからはどうか?

 

「一人になるというのは、かなり堪えた……それを考えると最後まで祖父の側に居られたのは、私が祖父にできた数少ない孝行だったのかも知れないな」

 

 私の父が子供の頃に祖母は亡くなっていて、男手一つで育てた父も私が生まれてすぐ事故で亡くなり、祖父は「置いていかれる」ばかりの人生だったと言う。

 

「緋泉さんは、優しいんだね、そんな緋泉さんを育てたお爺さんもきっと優しくて凄い人だと私は思うよ」

 

 私は静かに頷いた。

 

 錬金術や賢者の石だけじゃない、この私自身も、祖父の遺した遺産なんだと思えた。

 

 

 

「……緋泉さんちょっと待って」

 

 すると急に若葉が私の手を引いて引き留めた。

 

 何だと、私は前を見るとそこにはフードを被った「何か」が道を塞いでいた。

 

 人の気配ではない、故に気付かなかったが、尋常なモノの気配ではない。

 

 すると「そいつ」は身を屈め、私達へ向けて飛び込んで来た。

 

「若葉!下がれ!」

 

 奴の右手から光が反射したのを見て、私は手をかざして、ソレを受け止めた。

 

「刃……シザーハンズか……っ!」

 

 凄まじい力だ、右腕が軋みをあげる。

 

「ぉ……オマエ……ホントォに……人間か!?」

 

 困惑の混じる「女の声」。

 

「それはこちらのセリフだ」

 

 錬金術で強化されてる為に皮膚を切り裂く事こそ無かったが、この刃も尋常ではない、握り潰す事も叶わない強度、このパワーも合わされば生身の人間なら腕ごと体を両断されていた筈だ。

 

 怪人は驚きと困惑を隠せない様だが、こちらもそれは同じ、しかも後ろには若葉がいる分こちらが不利だ。

 

「……ハナセ!このバケモノが!」

 

 今度は左手が煌めいたのでそれよりも早く、右手を離して女怪人の胸に蹴りを入れる。

 

「硬い……な!」

 

 何とか吹き飛ばして距離を開ける事には成功したが、恐らくダメージにはなっていない。

 

 その証拠にローブが乱れただけで、ふらつきもなく怪人は立ち上がった。

 

「ひ……緋泉さん!大丈夫!?」

 

 呆気に取られていた若葉が声を上げた、私は大丈夫、大丈夫だが。

 

 せっかく得られた「何か」を奪われるのは、たまらなく嫌だ。

 

 だから。

 

「若葉、もし……もしも叶うなら、これから起きる事は、秘密にして欲しい」

 

「何……するの」

 

「ちょっとした魔法かも、な」

 

 詠唱もいらない、儀式もいらない、ただ「望む」だけ。

 

 だが叫ばずにいられなかった。

 

「ヘブンスハート!!」

 

 錬金術の輝きが空間を繋ぐ為の扉を錬成し、この身に纏う白衣を分解、そして錬金術武装(アルケミック・ジャケット)を固着させ。

 

 胸には青く輝く「賢者の石」とエネルギーウィング。

 

「ナニモノだ、オマエ」

 

 光に照らされ、フードの下半分が狼の様なマスクで覆われた怪人が戸惑う様に問い掛けて来た故に、私は答えた。

 

 

「魔法使い、みたいなモノだ」

 

 




キャラ紹介
「佐々身(さざみ)理夜(りよ)」
身長150cm
オカルト研究部の部長、前髪が長くホラーめいた動きをするのでモテない。


◆錬金術武装(アルケミック・ジャケット)

「ヘブンスハート」
青い「賢者の石」を胸に抱く、各部のウィングは質量のあるエネルギーで出来ているがフワフワ。
主な素材はミスリルとヒヒイロノカネ。
パワーアシスト、エネルギーシールド、物理的防御、飛行能力、武装生成など多機能。

装着時は左目が青く染まる。


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