嫉妬   作:高望皆斗

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終章

 

 事の結末を最後に記しておこう。

 オスカーは、あの状況なら間違いなくそうだと思っていた通り、矢張り死亡していた。問題は、死因が焼死ではなく窒息死だったということだ。後のリサの証言と照らし合わせると、リサがオスカーとの無理心中を図り、彼の病室に乗り込んだときには彼は既に死んでいたと言う。自分の首にシーツを巻きつけ、壁にそのシーツを結わえて思い切り蹴飛ばし、己の首を絞める。典型的な自殺だ。

 リサは、私への復讐のため、オスカーと無理心中を図ったが、既に彼が死んでいたため、無理心中で死んだように見せかける工作をしようとしたらしい。彼の遺した〝遺書〟を噛み裂き、死体の自殺の痕跡を綺麗に燃やし尽くそうとした。しかし、彼女の計画は失敗に終わった。私の手によって。

 オスカーの遺した遺書の内容は、復元可能なところぎりぎりまで復元し、内容を考えるに以下のような内容だったのだろうと言うのが官憲の見解だ。私に宛てた物だった。

 

「しんあいなるべんじゃみん=へいわーずへ。

 ぼくはきみにべんかいしなければならない。きみのおくさんとのことは、ほんとうにぼくのほんいではなかったんだ。さいしょのうちは、かのじょはただぼくのことをかんごしてくれるだけだった。でも、あるとききゅうに、ぼくがみうごきできないのをいいことに、ぼくにこういをせまってきた。ぼくにはことわりようがなかったんだ。しんじてほしい。

 いや、それはいいわけか。ぼくもすこしはかのじょのことをほんきにしていたかもしれない。なんとなくだけど、きみとえるしーとのあいだにしんみつさがましていたようなきがして、しっとしてしまったようなきがするんだ。

 こんなことをいうなんてあつかましいとおもうかもしれないけれど、おくさんをゆるしてあげてほしい。かのじょはこういのとき、いつもきみのなまえをよんでいた。きっとさびしかったんだとおもう。きみはせんそうがおわるまえも、おわったあともいそがしかったから。

 きみは、ぼくがこんなからだになってしまったのはじぶんのせいだといっていたね。あのときもちがうといったけれど、もういちどいっておく。これはあくまでぼくのせきにんであり、きみにはなんのせきにんもない。だから、ぼくのこのじさつも、きみにはなんにもかんけいのないことだとおもってほしい。

 いや、これもおためごかしか。ぼくはこのからだになってから、えるしーにきせいしてせいかつしているといういしきにさいなまされてきた。とちゅうからはきみがぼくらのせいかつをささえてくれたから、きみへのきせいいしきもつよくなっていった。こんななさけないおもいをするくらいなら、しんだほうがましだとおもった。これがぼくのじさつのりゆうだ。だから、きみのせいだ、とおもっているいしきも、ぼくのなかにはあるのかもしれない。

 さいごに、こんなぼくをゆうじんだといってくれてありがとう。きみにあえてよかったよ。

きみのしんゆう おすかー=めいふぃーるど」

 

 ミルフォード嬢は事件の後、精神を病んでしまい、数週間後にオスカーの後を追うように逝ってしまった。私は彼らの親族に僅かばかりの見舞金を送らせてもらった。恐らく、彼らには不思議に思われただろう。自分の子供たちの死に、いきなり名も知らぬ男から金が送られてきたのだから。

 リサは官憲(ヤード)で取り調べを受けた。病院の火事では、オスカーは自殺と判明したものの、患者が一名、看護婦が二名命を落としたため、刑事事件として成立してしまった。裁判の結果、死刑が確定した。精神疾患が見受けられていたため事件後暫くは執行されなかったのだが、事件から十年、ついに彼女も絞首台に送られた。

 この一連の事件は、新聞によって拡散され、好事家(こうずか)たちの手によって私は一躍、〝悲劇に見舞われた男〟のレッテルを張られ、周囲の同情を惹いた。しかし、そんなものは求めていないということは、ここまで読んで来てくだすった諸君らにはお分かりいただけると思う。彼らには事件の一つの側面しか見えていない。違う側面から、私が細に構ってやれなかったこと、私がミルフォード嬢と関係を持ってしまったこと、この事件を見直せば、彼らもまた、私に対して違った反応、つまりは軽蔑・憤怒と言った感情をぶつけるのに違いないのだ。

 

 今私はランカシャーの湖水地方で養蜂業を営んでいる。誰にも注目されない田舎で、一人静かに余生を送り、残りの一生を、この一連の事件について後悔しながら過ごすつもりだ。

 

 結局、私はどうすればよかったのか、と。

 

 その答えは神のみぞ知る。

 

 ……否、神ですらご存知ないかもしれないのに。

 

 

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