ロマンシングサガ 〜Diva of the last song〜 作:シズりん
詩人と別れパブを出る頃になると辺りは何もかもが寝静まる真夜中になっていた。この時間になるとメルビルの街に聞こえるのは人の声では無く港から聞こえる波の音だけだ。塩気を含んだ風がグレイの髪を揺らすが温暖な気候であるバファル帝国は、真夜中と言えど暖かい。
さすがにこの時間から宿屋をとることはできるだろうか。まぁとれなかったとしてもこの気候なら問題ないかなどと頭の中で考えながら郊外を歩いていると、夜の闇に紛れるように小走りで走る三人組に出くわした。
闇夜に目が慣れてくると、正確には二人の男が一人の少女を抱えて走っている事に気付いた。
普段自らに関係無い事に自分から関わるようなグレイではなかったが、今宵は酒が入っていたからか、または気がたまたま向いた…或いはこれが運命の導きと言うものだったのか、グレイは二人の男の後方から声を掛ける。
「貴様らこんな真夜中に何をしている。」
「「!!」」
二人の男は一瞬だけ驚いた表情で振り返りグレイを見る。しかし何方も声は一切出さずにお互い顔を見合わせると、まるで示し合わせたかのように片方の男が腰からダガーを抜いてグレイの前に立ちはだかった。
つまり彼らは目撃者であるグレイを生かして帰す気は無いということだ。
男はダガーを逆手に持ち、目にも留まらぬ速さで間合いを詰めグレイの首を薙にかかるがグレイはまるで苦も無くヒラリとそれを交わし、バランスを崩した男の背に瞬時に抜いたカタナの塚の部分で一撃を加えた。
男はさすがに苦しそうに悶えるが、それでも呻く声一つ挙げないところから殺しのプロ或いはそれに準ずる者であろとグレイは推察した。
再び適度な間合いを取りダガーを構える男は、グレイが只者では無い事に気付き今度は不用意に間合いを詰めようとはせずに、じっくりと相手の出方を探る。闇夜と言うこともあり顔立ちは良く分からない。先程の声や180近い身長から相手が男である事は認識できる。長い髪は風で揺られているが武器を持つ身体の軸は少しのブレも無い。武器は…男は初めて見る形状のものだが、独特な反った刀身などからリガウ島特有の武器であるカタナで有ろう事が瞬時に判断できた。
そして武器を構えた相手の立ち姿は、暗部の仕事を幾度もこなしてきた男だからこそ判る自身より強き者の風格をだしている。
「来ないのか?それならこちらから行くぞ。」
感情の籠らない酷く冷たいその一言が男が最後に聞いたグレイの声だった。
『秘踏の太刀』
高度な刀型の技により一刀のもとに男は斬り伏せられた。その刹那斬り伏せられた男の背後からいつのまにか男の背後に潜んでいたもう片方の男がグレイを襲う。
しかしグレイは男との戦闘中も周囲への配慮は怠っていなかった。当然のようにもう一人の立ち位置は把握していた。そんなグレイは男の隙をついた一撃も刀で受け流し、そのままの勢いで斬る『切り落とし』でもう一人の男も斬りふせるのだった。
「大丈夫か?」
男達がピクリとも動かないのを確認したグレイは気を失っている少女に声をかけた。
「ここは…そうだアタイ夜遊びの帰りに変な男達に声を掛けられて…。」
まるで記憶を辿るように頭を抑えながら話す少女。見ればまだ若い。
「あんたは此奴らに攫われる所だったんだ。」
「!!」
少女は倒れた男を見て身震いする。今になって恐怖が込み上げてきたのだろう。
「男達って…一人しかいないじゃないですか。」
「何?」
グレイが言われて振り返ると真っ二つの遺体があるだけで、後から切り落としで斬った男の遺体が無く、点々と続く血の跡があるだけだった。
浅かったか?グレイが表情を変えずに考えていると
「血は地下の下水道に続く扉へ向かっていますね。それより助けてくれて本当にありがとうございました。アタイは宿屋の娘です。宿屋に泊まる際は声を掛けてくださいね?必ずサービスさせてもらいますので。」
「これに懲りたら夜遊びは控えるんだな、気をつけて帰れ。」
少女が何度も何度も振り返っては頭を下げて家である宿屋に入って行くのを見届けたグレイは、再び血糊が続く下水道への扉に眼を向けるのだった。
書き溜め放出中