「とにかく、まずはついて来たまえ」
「はぁ…」
部活動への参加を命じられ呆けていた俺は、生返事を返しながら平塚先生の後ろをついて行き廊下を歩く。こうして見ると先生カッケーな…白衣を棚引かせながら颯爽と歩いていく姿はナチュラルに姉御と呼びたくなる。こう、ついて来れるか?的な…でもこうやってただ無言で歩いていると言うのも何だか気まずい。何を話せば良いかと考え、とりあえず質問してみる事にした。
「あの先生、部活への参加って結局何部になるんですか?」
「そうだな…それはついてからのお楽しみとしよう。心配するな、君にも良い経験になるだろう」
「さいですか…」
正解はCMのあとでか…まぁ行けばわかることだし、課題の取っ掛かりにもなるから別に良いか。知ってる奴がいれば良いなぁと思ったが、俺の友人は大半が帰宅部なので望みは薄い。願わくば部員が男子、少なくとも一人はいることを祈ろう。
そんな感じで歩いているといつの間にやら特別棟に入っており、プレートに何も記されていない教室の扉に先生が手をかける。職員室からここまで占めて五分強である、先生歩くの速ぇな…
「邪魔するぞ」
まるでラーメン屋か居酒屋にでも入るかのように進む先生の後ろに続いた俺が目にしたのは、一人の女子だった。触れれば壊れてしまいそうな程の繊細さを感じさせる、ほっそりとして華奢な体躯。比べる事は先生に失礼だと自覚しているが、平塚先生よりも数段上の艶やかさを持つ長い黒髪は日の光を反射して輝きを放っている。
手元の本に向けている顔はどこか憂いを帯びているようで、純粋に綺麗だと思った。そしてこの教室にいるのがこの女子だけだとわかった時、こうも思った。神は死んだ、この世界に神はいないと…
「平塚先生、入る時はノックをとお願いしていた筈ですが?」
「ノックをしても君は返事をした試しが無いじゃないか」
「返事をする間も無く先生が入ってくるからですよ…」
本を閉じ、視線を上げたその女子は入室のマナーに不満があったようで先生に苦言を漏らす。何か落ち着かない…と言うかこの人誰?あとここで何すれば良いの?
「それでそこの挙動不審な人物は誰ですか?」
「彼は井藤、入部希望者だ。ここに置いてやって欲しい。詳細は追って話す。次の面談する生徒を待たせてしまっているのでな…悪いが一度失礼する」
「お断りします。そこの不審者と同じ空間にいるなど身の…生命の危険を感じます」
うわぁい、挙動不審な人物から不審者に格下げだぁ。しかも客観的に見て今の自分の不審者っぷりを否定出来ない…何か睨まれてちょっとビクついてる俺ガイル。生命の危険とか言われてるけどそれも仕方ない、こんな怪しい男子と2人っきりになるなら警戒されても仕方ないだろう…でもちょっと凹んだ。
俺が口を挟む暇も無く二人で話しが進んでるな。先生もう行ってしまうんですね…俺も帰って良いですか?でも部活動命じられてるし課題の件もあるしなぁ。
「心配ない、彼は女子に対して非常に苦手意識を持っている。触れるどころか君に近付く事すらままならないだろう。あとは任せた」
「え、あ…ちょっと!?」
平塚先生は言うだけ言うと俺や部員の女子の返答も聞かずに部屋を出てしまう。去り際に「これも修行だ」と先生が俺の肩に手を置いて言ったが修行って何ですか?近付く事すら云々は事実なので流すとして、何かスゲー嫌そうにこっち見てる。睨まれただけで石化しそう…誰か鏡の盾ください。
「ハァ…とりあえず座ったらどうかしら?後ろの椅子は好きに使って構わないから」
「は、はい。ありがとうございます!!」
鬱陶しそうにため息を吐いたその女子は俺に座るように促す。突然話しかけられうわずった声で返してしまった俺は、とりあえず相手と対角線上になるよう教室の端のちょうど黒板の隅に椅子を置き「失礼します」と言って腰掛ける。あちらを見ると、既に視線を手元の本に戻して読書に耽っている。会話する気ゼロっすか、いや俺も女子相手じゃキツイけど…とりあえず『女子』や『相手』じゃあんまり良くないなと思いコンタクトをはかる事にした。ミッション1、名前を聞こう!まさに未知との遭遇。
「あ、あの。俺、C組の井藤泰明って言います。えっと…」
「知ってるわ。さっき平塚先生があなたの名前を言ってたじゃない…それで?」
顔は本の方に向いたまま、目だけがこちらを見ている。横から向けられてるせいか、読書を中断させられたのが嫌だったのか凄く鋭い視線だ。
「いや、名前を…」
「既にあなたが知ってる事をわざわざ言う必要があるのかしら?そういう無駄な事、あまり好きでは無いのだけれど」
「ど、どこかでお会いしましたっけ…?」
「いいえ、今日が初対面よ」
名前を聞くのってこんなに難しい事だったっけ?話が噛み合わない…と言うか本当に誰?リボンの色で同じ二年生としかわからん。自慢じゃないけど人の顔と名前を覚えるのはあんまし得意じゃない。とくに女子、やれ髪型変えたとかメイク変えたとかでやっとこさ覚えても余程の特徴がない限り、すぐにわからなくなる。いったい何回変身残してるのさ…まさか芸能人か何か?これだけ美人なら有り得なくはないけど、アイドルなんてもっとわからんぞ。例えばAK○なんて元センターとアヒル口の人しかわからないレベル。後者は某二人で一人のライダーに出てたから。
「ごめん、本当にわからないんだけど…もしかしてテレビに出てる人か何か?」
「違うわ。本当に知らないのね…ごめんなさい、てっきり皆は知ってるものだと思ってたから。雪ノ下雪乃、J組よ」
やっとこちらに顔を向けてくれた。でも不思議だ、謝られたのにそんな気が全くしないのは。雪ノ下さんか…確か成績トップの人がそんな名前だった気がする。会ったことのない人の名前なんていちいち覚えてないが、皆が知ってる筈とのことだからきっとその一位の人なのだろう。しかし何故だろう、名前を聞くだけでここまで疲れるのは…
「えっとその…これからよろしくお願いします」
「それはどうかしらね。あなたがこれからもここに来るかはわからないのによろしくと言えるほど、私は軽薄じゃないわ」
…とりあえずJAMpro聞いて心の栄養補給をしたいなと思いました、まる。俺、この部活でやっていけるのかなぁ?雪ノ下さんはいつの間にか読書タイムに戻っていた。このままお互いに無言の状態が続くが会話が全く無くて非常に気まずい。やっぱり俺はタイマンはらせてもらうぜ!!とは行かなかった…
あとはもう考えるのを止めて救援(先生)が来るまで待機するしかない。雑念を捨て人間性を犠牲にして機械の様に…当機は無人である。中に人などいない。そんな感じで瞑想をしていると再び部室の扉が開いた。
「待たせたな」
「平塚先生、何度も言ってますがノックをして下さい」
何かデジャブを感じるやりとりをしている先生の後ろには一人の男子生徒がいた。助かった…これで俺と同じく入部希望者だと言うのなら、炎のMS乗りの如く神様信じちゃう。しかもあいつは…
「ヒキガヤじゃん!!」
「ゲッ…!?」
知ってる顔とは何たる僥倖、俺にとってはまさに救世主だ。先生の後ろにいる少し目つきの悪い男子はヒキガヤ、下の名前はまだ聞いてないから知らない。あいつとは二年になって始まった選択授業で同じ日本史を選択している。始業前の休み時間にちょうど俺から見て斜め前の席でヒキガヤは楽しそうに本を読んでいて、本のタイトルをみると邪神が出てくるラノベだった。
その作品自体初めは敬遠していたが毎回新アニメをチェックしている弟に勧められ、自身の『銀魂』や『太蔵のもて王サーガ』などに代表されるマニアックなパロディネタ好きも相まってかなり気に入った作品になった。とくにロボット作品や特撮の濃いパロディネタ満載なのが俺の中でかなりの比重を占めている。
それをきっかけに俺の方から話かけてみると最初は驚かれたり無視されたりもしたが、それでも構わずに話続けるうちに少しずつ反応してくれるようになった。大半は「あぁ」や「そうだな」位の反応だったがたまに作品の考察や批評やらで鋭い返しがあったり、特撮の撮影で使われる海浜幕張の場所などを教えてくれた。素っ気ないながらも何だかんだで対応してくれる上に、他のジャンルもいけるクチで話していて実に楽しい。
会ったのは今年度からで話した時間も週二回の選択の前後と決して長くはないが、俺にとっては充分に友達と言える存在だ。何故ここにいるのかは解らないが、この空気を何とか出来そうな自信が沸いてきて心強い。何かゲッとか言われた気もしなくはないがそんな事は気にしない。もう何も恐くない!気がつくと椅子から立ち上がり彼の方に駆け寄っていた。
「よく来てくれたな!!そして助かった!」
「は!?ちょ、おい少し離れろよ。顔近過ぎるんだよお前」
「知り合いかね?」
「こいつですよ平塚先生、さっき話してた趣味友です」
「ほぅ…なんだ、友達ならいるじゃないか比企谷」
「いや、そんなんじゃ無いですけど…」
俺とヒキガヤのやりとりを驚いたようで、どこか嬉しそうに先生が見ている。しかしいつもの事だけど相変わらず素っ気ないなぁ、照れてんのこいつ?そして俺が立ち上がってからずっと皆の様子を見ていた雪ノ下さんが先生の方に向き直った。
「それで平塚先生、そこの同性に近付かれて顔をひきつらせている人は?」
「彼は比企谷。この男も入部希望者だ」
「二年F組 比企谷八幡です。えーっと、って入部ってなんだよ」
「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは一切認めない。しばらく頭を冷やして反省しろ」
「え、ヒキガヤも部活入んの?マジか…助かる。主に俺の精神が」
「いや、俺はまだ入るとは…それといい加減マジで離れてくれないか。重いから肩に手をかけて体重乗せんな。だいたい何でお前がここにいるんだよ?」
「あぁ、悪い。俺も何が何だか…さっき先生とレポートの面談してたらここに連れてこられた」
「お前もかよ…」
離れるように言われ、一歩下がりながら答えた。さっきの雪ノ下さんとのやり取りで挫けそうになった俺にとって、ヒキガヤの存在は精神的に助かる。それとお前もって事はあのレポート書いたのお前だったのか…比企谷八幡って言ってたし時間的にも同一人物だろう。やっとフルネームわかったわ。それとペナルティって何か怒らせることしたのか?ふと周りを見ると俺と比企谷の会話で話しを中断された先生が軽く咳払いをしていにた。
「と言うわけで、井藤は単純そうに見えて自己を見定められずにいる難儀な奴だ。比企谷は見ればわかると思うがなかなか根性が腐っている。そのせいでいつも孤独な憐れむべき奴だ」
何か単純とか言われた…まぁ自覚はあるので否定はしない。余程納得がいかない事か興味のある事でもない限り、あまり深く考えずに行動するし。と言うか比企谷に対してちと言い過ぎやしませんか?何があったか知らないけど普通に良い奴ですよ?
「様々な人との付き合い方を学ばせてやれば少しはまともになるだろう。こいつらを置いてやってくれるか?比企谷の捻くれた孤独体質の更正、そして井藤の自己認識の明確化と…ついでに女子に対する苦手意識の克服が私の依頼だ」
「謹んでお断りします。そこの男たちの下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます」
何か身構えてますが何もしませんよ雪ノ下さん…だいたい下卑た目って何さ?比企谷は目つきが悪いだけだし、俺だって雪ノ下さんを直視出来ないからチラ見程度にってそれが原因か…まぁ最初の生命の危険とか言われてたのよりマシだけど。
「安心したまえ、比企谷は目と性根が腐っているだけあってリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのものだ。それにさっきも言ったが井藤は女子に対する苦手意識がある。同じ事を言うが近付く事すらままならないだろう…それは君も体験済みの筈だ。刑事罰に問われるような真似だけは決してしない、彼らの小悪党ぶりと小心者ぶりは信用してくれていい」
「何一つ誉められてねぇ…違うでしょう?リスクリターンの計算とか自己保身とかじゃなくて、ただ常識的な判断が出来るって言ってほしいんですが」
「きっと常識的な判断の中にリスクリターンの計算や自己保身も含まれてるんだよ…そう思おう、と言うかそう思わないとやってられんわ」
流石に比企谷もこの物言いに腹を据えかねて反論するが多分このまま話は進むだろう。そう思い比企谷の肩にポンと手を置く。言い方はどうあれ先生の説得は間違っていないだろう…多分。現に雪ノ下さんは納得したようだ。あと今更だけど比企谷がいる時のが対応酷い気がする…気のせいか?
「小悪党に小心者…なるほど。まぁ、先生からの依頼であれば無碍に出来ませんし…承りました」
「そうか。ならあとの事は頼む」
先生はそれだけを言うとまたどこかへ行ってしまった。取り残された俺たち、心なしかさっきより空気が張りつめてる気がする。
つーかさ…結局振り出しに戻ってね?
オマケ
プロフィール
井藤泰明
誕生日…7月16日
特技…雑学、防御、朗読、声帯・形態模写、年下の世話
趣味…アニメ・特撮鑑賞、動画視聴、読書(漫画、ラノベ、一般小説、エッセイ、健康本など)、ガンプラ、カラオケ(ひとりでも複数でも)、自然観察(主に昆虫採集)、実験料理、ゲーム(ロボゲー、モンハン、シューティング、アクション)、スポチャン、SS書き(二次創作限定)
休日の過ごし方…雑貨屋巡り、ガンプラ改造、たまに親に強制連行されて参加するボランティア、友達の家に集まって各自でだらだら過ごす
一人称視点の書き方って初めてですが難しいですね…