やはり俺に青春はあってもラブコメはない   作:ナリマス

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思いの他、彼はどっちつかずである・前編

 先生が部室を去ってから何分過ぎただろうか…いや実はそんなに経っていない。俺は比企谷の隣に立ったまま、この時計の音しか聞こえてこない空気をどうするか考えていた。自己紹介?それはさっきやった。後は何があるか…そもそも何か大切な事を忘れている気がする。

 そんな感じで色々と考えていると「ガルルルルーッ」といった唸り声が聞こえてきた。え、ここ犬か何かいるの?って隣からかよ!?本当に何してんのさ比企谷…威嚇?ガルルモンなの?ウルフアンデッドなの?だがまだ甘い、狼や犬の唸り声と言うのはもっと喉の奥からくぐもった感じで出すものだ。動物園や生物系教育番組、さらにはガオウルフ等から研究した俺の方が巧くやれる気がする。一人旅団ならぬ一人ブレーメン舐めんな。なんなら俺も参加しようか?そう思った矢先、雪ノ下さんのにらみつけるが比企谷に炸裂した。

 

 「そんな所で気持ち悪い唸り声をあげてないで座ったら?」

 

 「え、あ、はい。すいません」

 

 どうやら彼はウルフェン族だったようです。主に活躍的な意味で。雪ノ下さんの目がかなり冷たい…もしかして殺気放ってました?何かとっさに防御体勢とりそうになったし。

 

 「井藤くんだったかしら?あなたも座りなさい」

 

 「あ、はい。それと比企谷、椅子は後ろにあるから適当に使って良いみたい」

 

 「わかった」

 

 「あなたには許可を出してない筈なのだけれど…まぁいいわ」

 

 雪ノ下さんは最後に呟くとまた文庫本を開いていた。比企谷も椅子を出した所で俺も元の席につく。しかし声をかけられただけで背筋が正してしまうなんてどんだけ迫力あるんだよ。あとやっぱり何か忘れているような…

 

 「何か?」

 

 「あぁ、悪い。どうしたものかと思ってな。わけわからん説明しかなくてここに連れて来られたもんだから」

 

 今度は雪ノ下さんの方から声をかけてきた。どうやら比企谷に見られていたことが気に障ったらしい。にらみつけるに加えてこわいかおも発動中だ。それと比企谷がナチュラルに応対しているのが凄い。突然女子に話しかけられたら普通になど俺には出来ない。普通に接しようとしてテンパるのが関の山だ。あとやっと思い出した、さっきから聞こうと思って忘れてたことを…

 

 「そ れ だ っ !!」

 

 「うおっ!?いきなり大声出すなよ驚くだろうが…」

 

 「あぁ、ごめん。ここって何をする部活なのかなって…」

 

 「お前も知らなかったのかよ…俺より先にいたんだから聞く暇くらいあっただろ?」

 

 「いやぁ、もう色々ありすぎて聞くのすっかり忘れてたわ」

 

 「まぁ、別にいいんだけどな。どうせ今聞くんだし」

 

 「…茶番はもういいかしら」

 

 雪ノ下さんはそう言うと勢いよく本を閉じた。それはもうとても嫌そうに。あと茶番って言ってましたけど色々あって聞くどころじゃなかったのはガチですよ?そして人以下の何かを見るような目で俺たちを睨んだあと、諦めたように溜め息をついた。まぁ、こちらとコミュニケーションをとってくれるようになったんだから文句は言えないわ。

 

 「…そうね、ではゲームをしましょう。ここが何部かを当てるゲーム、ここは何部でしょう?」

 

 ゲームって…何か雪ノ下さんの雰囲気からして負けたら命取られそうな闇のゲームにしか思えない。しかもヒント無し…まぁ実際に死ぬことは無いだろうから勘で行くしかない。さっき本読んでたから文芸部とか古典部でいいや。

 

 「他に部員っていないのか?」

 

 「いないわ」

 

 比企谷が質問をするがあまりヒントになるような答えは得られなかったようだ。これは本当に山勘で当てるしか無い…とりあえず文芸部で良いか。そして比企谷も何か見当がついたようだ。

 

 「文芸部か」

 

 「その心は?」

 

 「特殊な環境、特別な機器を必要とせず、人数がいなくても廃部にならない。つまり部費を必要としない部活だ。加えてあんたは本を読んでいた。答えは最初から示されてたのさ」

 

 答えが被った…しかもあっちは根拠もある。この短時間でここまでの結論に至るとかいったい何者なんだ?聞いた限りじゃおかしい点は何も無い。現に雪ノ下さんも感心したようにふむ、と息をついている。

 

 「はずれ。あなたの方はどうかしら?」

 

 「えぇっとごめん、俺も文芸部位しか浮かびませんでした…」

 

 「そう、では最大のヒント。私がここでこうしている事が活動内容よ」

 

 はずれって言った時ものすっごい馬鹿にしたような顔だったよこの人…俺もつい敬語で答えちゃうし。しかもヒントがヒントになってない気が…とにかく考えるしか無い。クイズとかは好きな方だし。悪いが比企谷の推理を借りる事にする。比企谷の推理、文芸部の否定、ヒントは雪ノ下さん自身、そこから導き出される結論は…確かJ組って国際教養科だった筈。

 

 「ESSかな?理由は比企谷と殆ど同じ、あとは雪ノ下さんが国際教養科である事くらい」

 

 「はずれね」

 

 「じゃあオカルト研究部だ」

 

 「それもはずれ…幽霊だなんて馬鹿馬鹿しい、そんなのいないわ」

 

 俺の撃沈のあとすかさず比企谷も答えたがバッサリと否定されてしまう。雪ノ下さんは幽霊全否定っすか…一言物申したい気もするが今はそれどころじゃない。

 

 「降参だ、さっぱりわからん」

 

 「同じく…」

 

 「そう…じゃあ二人とも、女子と話したのは何年ぶりかしら?」

 

 二人して降参すると雪ノ下さんからよくわからない質問がきた。女子との会話…ついこないだの授業でしたばかりだがプライベートな会話だと今年度は全くしていない。男子とばっかり話しているな…二年になって面白いやつともクラスで出会ったし。

 

 「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える…人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を、困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ…ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ」

 

 あまり歓迎されてる感じがしない言われ方な上にちと上から目線な気がするけど…奉仕部って要はスケット団とかジャージ部的な感じか。普通に面白そうだな、でも俺に務まるの?

 

 「平塚先生曰く、優れた人間は憐れな者を救う義務があるそうよ。頼まれた以上責任は果たすわ。あなた達の問題を矯正してあげる。感謝なさい」

 

 「あ、それ知ってる。ノブレス・オブリージュって奴だっけ?確か貴族の務めとか騎士の役目とかそんな感じの…」

 

 「お前それ絶対に『神に代わって剣をふる男』で知っただろ…」

 

 「おぉ正解」

 

 そうか、俺は憐れな者だったのか。まぁ矯正してもらえるなら特に問題はない、実際自分でも何とかしなきゃと思ってた事だし。特に女子とのコミュニケーションに関しては社会に出てからも必要だし…正直助かる。ただ一つ訂正するとしたら俺は別にモテなくても良いという点だ。普通に大切な人は一人いれば充分だしハーレムとかモテモテなんてめんどくさい。でも俺の場合、その一人すら有り得ないだろう…例え女子と普通に話せるようになったとしても。俺はそれで納得していたが比企谷の方は納得しなかったのか抗議をしていた。

 

 「このアマ…俺はな、自分で言うのもなんだがそこそこ優秀なんだぞ?実力テスト文系コース国語学年三位、顔だっていい方だ。友達と彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!」

 

 「最後に致命的な欠陥が聞こえたのだけれど…そんなことを自信満々にいえるなんてある意味凄いわね…変な人、もはや気持ち悪いわ」

 

 「うるせ、お前に言われたくねぇよ。変な女」

 

 国語学年三位だったのか…そりゃあさっきの早い推理とか出来るはずだ。ちなみに俺の成績は総合でだいたい16~25位、火星では武器の携帯が許されないレベル。推薦を狙ってるので絶対評価での成績はそれなりにあるが、そんなの成績だけの話だ。成績や発想は良いが基本はバカだと昔から良く言われてるし、自分でも単純と言うか短絡的な所があると自覚している。たまにあれやこれやと考えたり分析したりもするが、基本はどうでも良いや気にしないで済ましてしまう。

 そして容姿にしても…今窓ガラスに映った自分の姿は身長こそ175前後だがシルエットは標準よりガッシリして肩幅が広く元運動部みたいな体型だ。黒縁に青いラインが入った眼鏡の奥にある目は睫毛が長く大きい方で、鼻筋も通っているし肌も白い方だが整っているかどうかは自分でもよくわからない。多分フツメン、せいぜい愛嬌があるくらいだろう。くせっ毛な髪を染めるなりしたら面長な雰囲気イケメン位にはなるだろうが、そんな無駄な事はメンドイししない。

 なまじ同じ血を分けた弟が細身の正統派イケメンで両親からも長年比較されてると無駄な努力だと自分でも感じてしまう。でもだからと言って弟を含めた他の奴が憎いとか妬ましいとは思わない。そいつらにはそいつらなりの苦悩とかがある筈だから。まぁそれでも万が一とか、いつかは自分も…などと多少の夢や希望を抱く事はあっても結局はあり得ないと思って根本的には諦めている。

 だからこそ、自分について胸を張って言える比企谷は純粋に凄いと思う。でも自分のこんなしょうもない自己分析なんかどうでも良い、今はそれよりも確認したい事がある。何かさっき比企谷から驚愕の事実を聞かされた気がするし。

 

 「友達がいないって…俺違うの?」

 

 「え、俺とお前って友達なのか?」

 

 「いやいやいや、普通に授業の合間とかに話してたじゃん!?」

 

 「いや、あれはお前が一方的に話しかけてただけだろ。正直、鬱陶しかったし…だいたい休み時間に話した程度で友達だなんて軽過ぎだろ…せいぜい、知り合いくらいが妥当なんじゃないか?」

 

 「マジかよ…」

 

 俺が比企谷に言葉でノックアウトされていると、雪ノ下さんは微笑みを浮かべていた。うん、にらみつけるやこわいかおよりも全然いい気がする。人間やっぱ笑顔が一番だよ、せっかく美人さんなんだし…若干冷たさを感じるけど。

 

 「どうやら見解の相違があったようね…まずは比企谷くんだけれど私が見たところ、あなたが自称独りぼっちなのってその腐った根性や捻くれた感性が原因みたいね。まずは居た堪れない立場のあなたに居場所を作ってあげましょう。知ってる?居場所があるだけで、星となって燃え尽きるような悲惨な最期を迎えずに済むのよ」

 

 「えっとなんだっけ?確か鳥が出て星座になるかどうかの話だったような…」

 

 「『よだかの星』とかマニアックすぎんだろ。あと自称独りぼっちってなんだよ?」

 

 「…意外だわ、宮沢賢治なんて普通以下の男子高校生が読むとは思わなかった」

 

 「後半無視かよ…それと今、さらりと劣等扱いしたな?」

 

 タイトルや作者がすぐに出てくるとか二人とも何者なんだ…槙島なの?免罪体質者なの?あと雪ノ下さんの言葉の辛辣さが増してる気がする。綺麗な花にはトゲがあるってこのことなのか?

 

 「ごめんなさい、普通未満と言うのが正しいのよね」

 

 「どっちもあんまり変わらない気がする…」

 

 「よく言いすぎたと言う意味か!?学年三位って聞こえなかったのかよ!」

 

 「三位程度でいい気になっている時点で程度が低いわね。だいたい一科目の試験の点数ごときで頭脳の明晰さを立証しようという考えがもう低脳ね」

 

 よく考えたら初対面の人に対して劣等扱いって何気にひどいな…Mr.イノベイターなの?そしてELSに取り込まれると。あ、でも女子だからMr.じゃなくてMs.か…しかも雪ノ下さんの場合逆に取り込んでフルメタル化しそうだな。それと比企谷…なにを言っても攻撃となって返ってくるから多分もう何も言わない方のがダメージ少ない気がする。

 

 「でも『よだかの星』はあなたにとってもお似合いよね。よだかの容姿とか」

 

 「それは俺の顔が不自由だと言ってるのか…」

 

 「そんなこと言えないわ。真実は時に時に人を傷つけるから」

 

 「ほぼ言ってるじゃねぇか…自分で言うのもなんだが顔だち自体は整っている。妹からも『ずっと喋らなければ良いのに…』と言われる程だ。むしろ顔だけが良いと言ってもいい」

 

 「あなた馬鹿なの?現実をそして鏡を見なさい。それに美的感覚なんて主観でしかないのよ?つまり、あなた達と私の三人しかいないこの場では本人以外の言葉が正しいのよ?」

 二人で話がヒートアップしている上に何かだんだん比企谷に対する個人攻撃になってやしません?俺もいるってのに…いや、別に俺も罵倒されたいとかそう言う意味じゃなくて。流石に友達…は否定されたけど、知ってる奴がこれ以上悪く言われるのはあまりいい気がしない。本人以外の意見が正しいのなら、俺の意見も正しい筈だ。

 

 「大丈夫だよ比企谷…確かに目つきは悪いけど、顔自体は良いし体型もスリムだ。俺より充分需要があるよ」

 

 「井藤お前…目つきは余計だ。でもまぁ、礼は言っとく」

 

 「造作はともかくあなたのように腐った魚のような目をしていれば必然、印象は悪くなるわ。目鼻立ちなどのパーツが云々ではなく、あなたは表情が醜い。性根が相当歪んでる証拠ね。その点締まりの無い顔だけど捻くれて歪んでない分、井藤くんの方がまだ好感がもてるわ」

 

 「え、俺の方が…?」

 

 「おい歪んでるぞ口元が…それに騙されんな、俺を貶めた上での比較だからな。結局お前もバカにされてるぞ」

 

 それは何となくわかってはいるがそれでも…今まで容姿について誉められる事なんて滅多に無かったからかなり嬉しい。雪ノ下さんって実は優しい人なんじゃないかと思えてしまう。チョロすぎだろ俺…まぁそれで惚れたりとかはしないけど。そんな俺たちのやりとりなど歯牙にもかけず、雪ノ下さんは勝ち誇ったように言葉を続けた。

 

 「だいたい成績だの顔だの表層的な部分に自信を持っているところが気に入らないわ。あと、腐ったその目も」

 

 「もう目のことはいいだろ!!もういい、俺が悪かった。いや俺の顔が悪かった」

 

 比企谷は泣きそうな目で雪ノ下さんに懇願している。例え表層的な部分でも自信をもって誇れることがあるだけ良いだろうに…少なくとも俺には誇れるものなんて何もない。確かに得意としてるものはあるが、そんなもの探せば上なんていくらでもいる。そして雪ノ下さんは比企谷の様子に満足したのかにこやかに笑っていた。

 

 「さて、これで人との会話シュミレーションは完了ね。私のような女の子と会話が出来たら、たいていの人間とは会話出来るはずよ。これからはこの素敵な思い出を胸に一人でも強く生きていけるわね」

 

 「解決法が斜め下過ぎるだろ…」

 

 確かに雪ノ下さんとの会話の後ならどんな人間とも会話出来るだろう。マストダイの後にイージーモードをプレイするようなものだ。最後でぶち壊しな気もするけど…確か孤独体質の改善が目的じゃなかったんすか?でもこの状況は比企谷には悪いけど助かったし感謝もしている。正直俺だけではここまで話が進まなかっただろう。比企谷に任せっぱなしで、自分の不甲斐なさには本当嫌になる。でもそんな風に考える時間は俺に無いようだ。

 

 「それじゃあ次はあなたの方ね。井藤くん」

 

 「…え?」

 

 「何を呆けているの?依頼にはあなたの更正も含まれているのよ。それとも、先程言われていた事を忘れてしまえるほど知性が欠如しているのかしら?」

 

 「せめて記憶力って言ってやれよ…」

 

 比企谷がフォローしてくれた気もするけど今はそれどころじゃない。何か雪ノ下さんがすげー良い笑顔をしている。ただの笑顔じゃない、どんな獲物にも全力で挑む猫科肉食獣のような目だ。比企谷の方をちらりと見ると「お前も一緒に地獄に堕ちろ」と言いたげな顔をしている。まぁ話すの自体は別に構わない。俺にも必要な事だから、ただ…

 

 「それでは始めましょうか」

 

 俺は生き残ることが出来るのか?




 あまり話が進んでない…
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