やはり俺に青春はあってもラブコメはない   作:ナリマス

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 また時間がかかってしまった…話も進んでないし遅筆で申し訳ありません。


気をつけてはいても、抑えられない事がある。その1

 昼休みの教室で机上を飛び交う鋭き視線。負けぬ退かぬと闘志を燃やし、互いの手には五枚の手札。ギャラリーが固唾を飲んで見守る中、この勝敗で全てが決まろうとしている。

 

 「俺はこれでいい。お前はどうだ?」

 

 相手は一度カードを入れ替えると余裕を持って山札を譲る。余程良い役なのだろう、その表情は勝利を確信し不敵な笑みとなっていた。

 あちらの手札は未知数だ。でも役が揃えばこちらの勝利が確定する。俺の手にはスペードのカテゴリー10、J、Q、K、そしてハートのカテゴリー2…狙うカードは無論スペードのカテゴリーA、またはワイルドカードたるJOKER。

 次の引きでそのどちらかを当てるのは確率的に難しいだろう。だがここで全てを捨て空っぽの手札、役を0から始めようにも何が揃うかはわからない。ならば次のデスティニードローに賭けるしか無い。奇跡、切り札は自分だけなのだから。

 

 「…ワンペアだっと」

 

 スピリットヒューマン(ハートの2)を捨て、新たに引いたのはエボリューションパラドキサ(ハートのK)だった。勝率は低いがスペードのKと揃えればランク自体は高いし無いよりもマシだろう。それに変則ルールによってサレンダーも出来ないし。諦め半分、半ばヤケクソ気味に手札を放ると相手は不敵な笑みで自身の手札を開示していく。

 

 「ロイヤルストレートフラッシュ狙いか…でも残念だったなぁアキ、俺のはファイブカードだ」

 

 「なん…だ、と?だぁーっ!!クッソ、もうマジかよ。んなの勝てる訳ないわ」

 

 勝利者である対戦相手、矢車の手札は各スートのAとジョーカーだった。つまり俺の求めていたカードはあの時点で既に無く、仮に全ての手札を入れ替えてもあの役に勝つ確率は0に等しい。どっちに転んでも結果は変わらず、敗北が俺のゴールだったようだ。そして敗者への罰ゲームも確定している。

 周りで見ていたギャラリーからも「矢車パネェ。あの役には勝てねぇよ」や「あそこでロイスト狙うとか井藤ちゃんマジでチャレンジャーだわ」「さっきの二人の見つめ合い…これはこれでアリっ!!」などと口々に感想を言っているが、俺としてはペナルティが何なのかの方が気になる。

 

 「相変わらず賭けになると弱ぇ。罰ゲームはそうだな…あんま時間も無いから適当に学校うろついて、何か面白そうなもん探してこい」

 

 「それ地味にハードル高くない!?まぁ行ってくるけどさ…」

 

 矢車はショットガンシャッフルでカードを揃えながらさらりと簡単そうに内容を告げてくる。しゃーない、勝者になれなかった俺は渋々探索活動を始めるとしよう。だがギャラリーも解散してきたので立ち上がり、扉に手をかけると「おい」と呼び止められた。

 振り向けばピンッと金属を指で弾く音と共に、硬貨が回転しながら弧を描いて飛んでくる。当たる前に難なくキャッチして掌を確認するとそれは五百円玉だった。

 矢車の方を見ればトランプを片付け終え机に足を投げ出して組み、椅子を斜めに傾けてくつろいでいる。こいつがやると様にもなってるしカッコいい仕草だけどそれ俺の机…まぁ汚れてたら本人に拭かせれば良いだけの話だな。

 

 「ついでだ。何か適当に飲み物を買ってきてくれ」

 

 「それは良いけどさ、適当にって言われても困るっての。せめてオーダーをくれ。オーダーを」

 

 「じゃあパッションだ」

 

 「オーライ。酸味の強い柑橘系にでもするわ」

 

 よくわからん抽象的な注文などで無茶ブリをしてくるのはいつもの事だ。多分、今回は探索活動で成果0だった場合の代替案…クエストのサブターゲットみたいなもんだろう。と言うかそもそもなぜあいつと1対1で賭けポーカーをやっていたかのと言うと…

 

 「はいよ麻痺った。はぁ、ダークネス復活しねぇかな…虫麻痺ランスで」

 

 「モハハハハッ!!でかしたぞ和泉氏ぃ!!我の剣術を見せてくれるわ。面胴小手面胴小手面胴小手ぇっ!!そ

して突きぃっ!!」

 

 「え、ちょ、材木座さん事故ってる!巻き添えくってる!!俺がスラアクふれない。こんの太刀厨があぁっ!!」

 

 「お前ら静かにできんのか…ほら、今のけぞり無効吹くからそれまで我慢しろ」

 

 もともと昼休みに和泉、義輝、城戸、織田、俺の5人で狩猟生活を嗜もうとしたのだけどあれは最大プレイ人数が4人。1人あぶれてしまう。そしてジャンケンで負けた俺が1人でボーッと大地の結晶マラソンをしながら順番を待っている時、偶然目が合った矢車に賭けポーカーを挑まれ今に至ると言うわけだ。

 

 「おい、次は俺も混ぜろよ。俺の操虫棍捌きを見せてやるぜ」

 

 みんなに一言断りを入れた後で教室を出るとそんな会話が聞こえてくる。どうやら俺のチャージアックスやガンランスが活躍するのはまた今度になりそうだ。棍の事故率は高いが矢車の腕ならそれも杞憂だろう。なんせ俺を含めて全員がHR三桁超えの猛者(廃人)なのだから…

 

 

 

 

 先にサブタゲを済ませようと購買に向かい、飲み物を買い終えるとそのまま校舎の周りへと出てみた。中よりは何かあるだろうと検討をつけてうろついているけど、いっそ植え込みや茂みの中でも探して見るかな。

 この時期ならネギの香りがする草や寿命が1日しか無い花、舐めると異様に甘いオレンジ色の花の塊とかが見つかるかもしれない。

 

 「心に剣、輝く勇気っと…おぉいい風だ」

 

 先ほどのポーカーの余韻から関連する言葉を呟き、急に変わった風向きを肌に感じながら散歩気分で歩いみると何だかだんだんと楽しくなってくる。別にテンションが上がるとかそんなのでは無いけど、ぽかぽかとした陽気や吹いてくる風がとても心地良い。

 もうダイボウケンとかダイタンケンとか関係なく、このまま時間までのんびりと過ごそうかなぁ…などと思っているとテニスコートの辺りにさしかかる。するとちょうど角を曲がった所で、状況がよく理解出来ない光景が目の前に広がっていた。

 

 「ていうかあたしの事バカにし過ぎだからっ!ちゃんと入試受けてはいったんだからねっ!?」

 

 「うおっつ!?何々?」

 

 あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!とでも言えたら良いんだろうけど長くなりそうなので割愛する。とにかく状況としては由比ヶ浜さんが手刀で八幡の喉を突き刺している状態だ。セリフ的に八幡がからかったとかそんな感じかもしれないけど全くわからん。

 いったいどうするべきか…とりあえず待機状態のスマホを取り出して耳に当ててみた。

 

 「イエス?イエス?ポリスメン?」

 

 「ゲホッ、ノー。ノーポリスメンだ…」

 

 「とりあえず冗談を返す余裕はあると。つーか大丈夫かよ八幡?ちょっとお茶跳ねてるけど。あぁ俺のはもう無いや…由比ヶ浜さん、ティッシュか何かある?邪魔して悪いね。終わったらすぐ離脱すっからさ」

 

 「え?えっとはい、ティッシュ…ってやっちん待つ待つ!!何か勘違いしてないっ!?」

 

 「あれ?二人で飯食ってたんじゃないの?」

 

 まだ少し咽せている八幡の背中を由比ヶ浜さんがさすり、俺は受け取ったティッシュで八幡の頬や手を拭き取りながら話を聞く。

 どうやら二人で食べてた訳ではなく、一人で昼飯中だった八幡とさっきの俺みたいに遭遇しただけらしい。クラスも部活も同じなら一緒に飯食ってても普通な気がするけど、なぜそんなに慌てて訂正してるのかよくわからん。まぁいいや。

 それと雪ノ下さんがジャンケンで小さくガッツポーズしたと言う下りは想像して『やだそれちょっとカワイイかも』と思いました、まる。

 暫くして息を整えた八幡から「何でお前までここにいんの?」と聞かれたので「罰ゲームで学校探検中」と答えるとなぜか微妙な顔をされた。

 

 「探検とか何弘、だお前。こんな所探したって冒険もドキドキも始まらないし、ホントのエナジーが動き出すこともねぇよ」

 

 「まぁ、それは重々承知してるけどさぁ。それはそうと八幡」

 

 「…何だ?」

 

 「今日は、風が騒がしいな…」

 

 まだ吹き続けている風を感じながら空を見上げ、風が強い日に言ってみたい…いや言うべきお約束の言葉を言うと、八幡は一瞬面倒臭そうな顔をしてから淡白な対応を始めた。

 

 「…言わねぇぞ。風が泣いてるだとか良くないモノを運んでくるとかな。そもそもこの風は別に今日だけって訳じゃない。この時間になると風向きが逆になるんだよ」

 

 「つれないなぁおい。でもまぁ良いこと聞いたわ。これはアリかもな…っしゃ、これでミッションコンプリートだ」

 

 「何か中二みたいなこと言ってるし…」

 

 中二って誰よ?と思いながらも由比ヶ浜さんの呟きを軽く受け流し、伸びをすると俺は丁度八幡の斜め前辺りに二人を見上げるような形でしゃがみこんだ。

 二人とも食事が済み、俺もお題をクリアしたから軽く小休止…のつもりでついでに買っておいた自分の分の缶飲料を開ける。

 プシュッとピッチの高い音と共に中身を口にすると千葉に越してきてから愛飲するようになったソレの濃い甘さが舌に広がっていく。良く冷えていたので喉元を過ぎてからも胃にまで染み渡る様な感覚を覚えた。基本コーヒーはブラック派だけどこの甘さはかなり癖になる。

 その美味さを堪能しながら一気に半分ほど飲んで大きく息が漏れると、その様子を視界に捕らえていた八幡は珍しく俺に対して感心するような表情を向けた。

 

 「MAXコーヒーか…それを選ぶとは漸くお前にも千葉県民としての自覚が芽生えてきたようだな」

 

 「あぁ。コレの甘さが実にたまらない、中毒性とかマジヤバイ。そう言やさっきの入試だか入学だかで思い出したけどさ、今年の入学式も部活の新人勧誘が派手だったらしいね。

 俺らの年も結構すごかったけど来年は俺達(奉仕部)もやんのかねぇ?」

 

 体育館と校舎を繋ぐ通路で、毎年よく待機している各部活の新入生勧誘…チラシを渡したり運動部が何かしらしたりとあの歓迎っぷりは空港で海外スターを待ちかまえている熟年層ファンのような感じだった。

 確か今年はサッカー部が特に変わったことをしなくても目立ってたとか何とか…そして部に入った以上は俺達も何かしらやるのかな等と考えていると、この手の話題に詳しそうな由比ヶ浜さんは少しぎこちない反応だった。

 

 「ど、どうなんだろうねー。あたし達も何かやんないといけないのかなぁ…とか。自分の入学式の時は色んなことがありすぎてあんま覚えてないって言うか…

 ヒッキーの方はその、入学式の事って覚えてる?」

 

 「あ?あー、いや、俺は当日に交通事故に逢ってるからな。入学式に何があったとか覚えようがない。だから来年何かやれと言われても断固拒否する」

 

 「事故…」

 

 「来年のことよりも事故っておい、大丈夫だったのかよそれ?」 

 

 まさかの予想外な返答にかなり驚いてしまったが八幡は平然としていて事故の詳細を語っていく。後半から少し自慢気味な語り口調になってたけどもそれも当然の内容だ。

 何でも道路に飛び出た犬をヒーロー的に守ったとかそれで骨にヒビが入って全治三週間になったとか登校時には既にコミュニティが出来ていたとからしい。

 でもクラスメートが事故って登校してきたら話しかけたりするもんだと思ってたけど違うのか?C組だったらそう言う奴多いんだけども。

 とにかく八幡のやったことは凄い事だと思うわ。冗談抜きで尊敬出来る。その様にこちらが熱い眼差しを送っているとそれを感じたのか、少し居心地の悪そうな様子で目を逸らされる。

 

 「…よくそんな目を輝かせながら見られるよな。少し脚色もしてんのに疑うとかないのかよ?」

 

 「んなの一々疑ってたらキリが無いっての。それにあれだ、一つの命を救うのは無限の未来を救う事なんだしもっと胸張っても良いと思うぜ。きっと飼い主もそう思ってるってば」

 

 「そ、そうだよ!その飼い主だってスッゴい感謝してると思う。絶対に!!」

 

 俺は正面から、由比ヶ浜さんは左側からとさながら十字砲火でも仕掛けるように2人して八幡に詰め寄る形になっていた。けど受け手側の八幡としては予想外な、または慣れていない反応だったせいか上半身だけ後退させて軽く距離を開けた。

 「犬助けた位で大袈裟なんだよお前らは…飼い主の方なんてもっと知らねーよ。入院中、後からお礼に来たらしいけど事故当時はそれどころじゃなかったしな」

 

 「そうなの?そんな大袈裟でもないと思うけどなぁ。あぁ、でもさっきヒーロー的とか言ってたけどガチヒーローとかだったら軽傷くらいで済んでるか…

 ん、でも待てよ?下手したら風に吹かれてる道端の新聞に『犬を救った英雄』と書かれてた可能性もあったわけだから…まぁどのみちスゲーって事に変わりないか」

 

 「なぁお前それ誉めてるつもりなの?後者だと俺死んでるからかなり微妙なんだけど。だいたい俺に東條みたいな英雄願望なんてモノもねぇよ」

 

 ジト目で見てくる八幡に「ハハハ、ごめんごめん」と軽く笑いながら謝ると膝に頬杖をつきながらそっぽを向かれる。だが向いた先で不意に八幡の表情が変わったのを見て、同じ様にその視線をやると先程まで元気だった由比ヶ浜さんが俯いていて表情も少し暗くなっていた。

 

 「そっか。『そういう事』もありえた、かもしれないんだよね…」

 

 漏れ出たのは八幡の身を案じるかのような言葉だった。確かによくよく考えてみれば俺や八幡の間では冗談やネタの類だとわかっていても、聞いている周りからしてみればその限りじゃない場合もある。

 まして由比ヶ浜さんは優しい人だから現実と直結したこの手の話が好きじゃないのだろう。「悪ぃ」と呟きどうしたものかと八幡と顔を見合わせると、我に返った由比ヶ浜さんは「えぇーっとその~」と取り繕うように手を振っている。その時だ、練習をしていたのだろうテニス部員がちょうど通りかかり此方に気づいたのだ。

 

 「あれ?由比ヶ浜さんと比企谷くん、それに…」

 

 「あ…さいちゃん!!今練習?」

 

 「うん。昼休みも使えるようにずっとお願いしてたらやっとOKをもらえたんだ」

 

 何だか物腰の柔らかい子だ。切り替えた由比ヶ浜さんがさいちゃんって子と話してるうちに、八幡のフォームが綺麗でテニスが上手だとか同じクラスだよね等と弾んでいく。

 でも俺はと言うと、その話を右から左へ受け流して眺めながらずっと考え事をしていた。はて、この子を以前どっかで見たことがあるような…駄目だ、思い出せない。

 顎に手を添え目を凝らしながら見ていたせいだろう。八幡に自己紹介をすると俺の方へ向き直り「えっと…」と遠慮がちに話かけてくる。まぁクラスが違うなら名前を知らなくても当然だろうし俺も自己紹介といきますか。

 

 「ん、あぁ俺?俺はこちらのお二人さんと友「俺とは知り合いだ」だそうで…まぁとりあえず部活仲間の井藤泰明。はじめまして、はもしかしてちょっと違う感じ?」

 

 「井藤くんって言うんだ。うん、確かに体育祭以来だから久しぶり、の方が合ってるかもね。あの時はとっても楽しそうにしていたから凄いなぁと思って…だから僕も見覚えがあったんだ」

 

 八幡に関係の訂正をくらい由比ヶ浜さんが「と、友達じゃないんだ…」と少し呆れているが…体育祭、となると去年の話か。目玉イベントの時に最高にハイテンションでウェイクアップフィーバーな状態だったから周りの人など一々気にしてなかったけど、何か良い意味で目立ってた子がいたような…そうかやっと思い出せた。

 

 「あぁっ!!あの時一緒にコスプ…」

 

 「い、言わないで!!その、僕から言いだしちゃったけどそこの所は恥ずかしいんだ…だから、お願い」

 

 ラケットを両手で抱え上目遣いで懇願してくる姿を見ていると、つい何も言えなくなってしまった。あの時はスゲー似合ってたと思うんだけどなぁ。まぁ本人が嫌だって言うのなら仕方ない。でもこうして良く見てみると…

 色素の薄い短髪にほっそりとした小柄な体躯、中性的な顔だちは今や羞恥心から頬が赤くなり目は若干涙目で潤んでいる。加えて身長差もある中で体を小刻みに震わせながら見上げてくる姿には、父性や母性を刺激されるような気がした。

 なんなのこのカワイイイキモノ、それとこの胸の高鳴りは…?脳内ではドリアン姐さんがメロン主任をロックオンした時のようなエレキ音が鳴り響いている。お持ち帰りしたいと言うか思わず抱き締めたくなりそうだ。

 そして体は正直だったらしい。気がつけば両腕を大きく広げ戸塚彩加と言う存在に歩み寄っていた。でもその両腕を閉じた時には中に誰もおらず、目の前に少し戸惑った様子の戸塚彩加がいるだけだった。

 

 「あれ?」

 

 襟首を引っ張られる感覚があったので後ろを確認してみれば、慌てた様子の八幡が軽く息を切らして俺の背中を掴んで引いていたのだ。

 

 「井藤、お前何しようとしてんの?ここで何かあれば現場にいた俺までとばっちりを被るだろうが。

 そもそも女子が苦手じゃ無かったのかよ。まさか硬派や奥手を装って気を引こうとでも考えてたの?ならそれは無駄だ。

 結局もとからの交流が無ければ溝が広がっていくばかりで何も始まりようが無い。ソースは俺」

 

 「何か悲しい話が始まった!?だ、大丈夫だよヒッキー、もし何かあったらあたしがベンゴするから。ちゃんと『ヒッキーは何もしてません。ただニヤニヤしながら見ていただけです』って言ってあげるからね!!」

 

 「いやそれ弁護じゃねぇよ。もう思いっきりクロだろ俺」

 

 なんだか盛大な自爆が繰り広げられてるけどいったい八幡は何を怒っているのやら…そもそも色んな前提条件が間違っているような気がする。

 

 「まぁ二人の夫婦漫才はさておき…何言ってんのさ?塚っちゃんは男でしょ。つーか女子だったらこの距離で触れ合うのとかこっちが発狂&悲鳴もんだわ」

 

 「はぁ?目ぇ腐ってんのお前?呼び方も含めて失礼にも程があるぞ。どう見ても女子だろうが」

 

 「あ、ありがとう。最初に男だって言ってくれるのって滅多にないから嬉しいよ!!でもその呼び方は嫌じゃないけど、抱き締めてくれるのはその…ちょっと恥ずかしいかな。ほら、僕今は汗かいてるから」

 

 ぱっと明るい表情で反応する塚っちゃんに八幡はマジで?みたいな顔をして、夫婦漫才と聞いてから動揺している由比ヶ浜さんにも確認をとっている。

 

 ついしたり顔になってしまったけどやはり、俺の性別センサーは間違っていない。特技…と言う訳じゃないけどハスタや秀吉、クラウズのルイみたいに初見の性別が不特定な人などは一発で判別出来る。これは現実でも有効な能力で、今までのある環境が起因しているのだ。でもヒヨコの判別で生かせないのがまた微妙なスキルなんだよなぁ。

 ちなみに塚っちゃん呼びなのは名前だと何となく発音し辛いし、名字だと某公園前派出所の強面警官を連想するからだ。当人も了承してくれたので問題はないだろう。

 

 「ふ、心眼は鍛えている…っとまぁタネを明かせば弟にもこんな時期があったから感覚でわかるんだよね。

 あぁ、あの頃は良かった。にいちゃん、あんちゃんとチョコチョコ可愛かったのが今じゃ兄貴、兄者、兄上とすっかり男らしく暗黒進化しちゃって…」

 

 「遠い目をして弟の成長を暗黒進化とか否定するなよ…思春期なら普通、ってか相応だろ」

 

 「中3にして夜中に『中学生以上はBBA』『小学生は最高だぜぇ!!』『にゃんぱすー』と言い出すのを普通と申すか。それを否定する気は無いけど将来が少し心配ではあるわな」

 

 「こ、こじらせてんのか。そいつはご愁傷様だな…でものんびは良作だぞ」

 

 八幡が顔を引きつらせ、哀れむ様に言ってくるがそれは俺も知ってる。弟に原作を勧められて読んだら普通に面白かったしな。お気に入りは駄菓子屋とメガネくんと具にペチだ。まぁあいつの趣味は今は置いといてと…

 未だに半信半疑でいる八幡に意を決した塚っちゃんは「証拠、見せても良いよ?」と半パンのゴムに指をかけ出した。何と健気な…八幡も少し葛藤してるけど、何も性別の判断材料は下半身だけではない。

 

 「まぁまぁ待て待て、下じゃなくても喉仏を…それだと個人差があるからやっぱヘソか。内臓の関係から位置が男女で違うんだわ。

 ほら、男は骨盤とヘソが同じ高さにあるでしょ?あとは家で自分のとグラビアや妹さんなりのと比べれば一目瞭ぜ…」

 

 「どこの世界に妹のヘソを見たがる兄がいるんだよ!!平塚先生譲りの撃滅のセカンドブリッドかますぞ。

 そもそも自分の腹を捲って見せようとすんな。一応この場には女子…由比ヶ浜だっているんだぞ」

 

 珍しい、少しキレ気味な八幡だ。でもセカンドさんはあまり仕事をしないので脅し文句としてはちと弱い気がする。やっぱファーストだな。働きたくない繋がりでかけてるとしたら上手いけど。

 それよりも急に話をふられた由比ヶ浜さんはかなり慌てている。こちらから目をそらし、人差し指どうしをつつき合いながら口ごもり気味に答えだした。

 

 「え、えぇあたし?や、別にやっちんのは割とどうでも良いって言うか、どうせ見るならヒッキーの方が…ってか一応とかどういう意味だし!?」

 

 「だそうだぜ八幡?どうやら由比ヶ浜さんはお前のヘソがご所望らしい」

 

 「真顔で言うな真顔で。由比ヶ浜はさっきから何なの?男の裸を見たがるとかビッチにも程があるだろ」

 

 「またビッチって言う!!別にヒッキーのだから見たいってだけ…ってあぁもう何でもないっ!!」

 

 「とっても仲が良いんだね。楽しそうでちょっと羨ましいかな」

 

 俺達のやりとりを見て塚っちゃんが朗らかに笑っていると、ちょうど予鈴を告げるチャイムが鳴りだす。俺はふと五限の授業を思い出し、鳴り終える前に慌てて踵を返した。

 

 「やっべ、俺んとこ次は教室移動だった。それじゃ八幡、由比ヶ浜さん、また部活でね。塚っちゃんもまたな!!」

 

 去り際に挨拶をして駆け出すと後ろから「うん、またね」とか「ん」や「あ、じゃあね~」と声が聞こえてくる。さらに角を曲がった辺りで「あぁ!?忘れてた!」との叫び声も聞こえたけど由比ヶ浜さん、飲み物まだ買ってなかったのね…

 部室でポツンと待ちぼうけしている雪ノ下さんを考えると胸に何か込み上げてくるモノを感じました、まる。ってこの言い方よく考えたら作文かよおぉぉっ!!何かテンション高いな俺…

 

 

 

 

 あれから校舎に戻り、競歩程度の早歩きにシフトして着いた教室には誰もいなかった。いや、正確には誰がいるかも確認する前に視界をあるモノが飛んできて遮ったのだ。

 俺は入ると同時に来たモノをとっさに掴んで確認すると、それは見覚えのある黒地に白で楽譜の模様が印刷されたトートバッグだった。

 

 「っとと…あれ?これ俺の手提げか」

 

 「良い反応だ。授業まであまり時間が無ぇ、少し急ぐぞ」

 

 「あぁ矢車、待っててくれてたのか。はいよこれ」

 

 どうやら矢車がまだ教室に残っており、俺が事前に用意して机の横にかけていた教室移動用の荷物を投げ渡してくれたらしい。

 軽く礼を言いながら買ってきた飲み物とお釣りを渡し、「悪くないチョイスだ」等と言いながら並んで歩き出す。特に中身のある会話をしていた訳ではないがその会話が途絶える事はあまりなかった。

 

 「そう言えば五限の内容は何だ?」

 

 「んー、確かフナだかの解剖実習だった筈」

 

 「あぁ、ゆとりの煽り受けて未経験の奴が多いからってヤれる時にヤるつってたアレか…食後にやるもんじゃねぇよな。まぁここは料理人のアキに任せるか」

 

 「豚の目玉や蛙よりはマシだから別に良いけど…ってだぁーかぁーらぁー!!料理人じゃ無いっての。切り身か姿焼き位しかやった事無いし、三枚にしたら内臓見れないじゃん。

 あぁそうだ、魚と言えば美味い干物の店とか見つけたな…土日も味醂干し定食とかのランチメニューあるし行ってみる?」

 

 「流石に魚の解剖の前にその話はよせ、と言いたいが中々に魅力的な提案だな。良いぜ、来週の日曜連れてけよ。

 それで、時間が随分とかかっちゃいたが面白いモノは見つかったのか?あるならとっとと言え」

 

 「了解、当日寝坊すんなよー。っとあぁ、忘れる所だった…」

 解剖の話からしばらく眉間を寄せていた矢車は少し不機嫌そうにしていたが、定食の話題が出てからは幾らか上機嫌になっていく。

 まぁ、授業に対するモチベーションが上がるなら何よりだ。不機嫌だと無意識に放っている威圧感が数段増すので中にはビビりだす奴もいるからなぁ。

 特に新規組のある奴なんて一悶着があって以降、泣きキャラが定着してナクハルなんて呼ばれる様になったし。もしあの状態で近くにいたら涙目どころかしめやかに失禁!!だって有り得る。

 まぁ今はあんな奴の事なんてどうでも良い。探索した結果を伝える方が大切だ。そう思い少し勿体ぶる様に咳払いをしてから俺は報告を始めた。

 

 「二つ、面白いことを教えるよ。一つ、テニスコートの辺りは昼になると風向きが変わる。

 二つ、この学校には…いや俺たちには、ヒーローがいるって事さ」

 

 風の方はあまり興味が薄かったようだけど後者には惹かれるモノがあったらしく、「ヒーローだぁ?」と怪訝な顔をして聞き返してくる。

 それに対して俺は詳しくは秘密と意味有り気な顔をすると、矢車は「ほぅ…」とまるで牙を彷彿させる様な歯を見せて興味深そうに笑みを浮かべていた。

 

 

 オマケ・アニガイル風予告

 

 「だからお前は阿呆なのだぁ!!」

 

 「どんないかがわしいモノを見ていたのか、確認しただけよ」

 

 「フォームチェンジみたいなもんさ」

 

 「お前に聞いたのが間違いだった」

 

 「何でそんなの持ってんの!?」

 

 「ギリギリまで頑張って、踏ん張れば僕も強くなれるかな?」

 

 

 次回『気をつけていても、抑えられない事がある。その2』

 




 最近ガイル系作品が増え賑やかで良いですね。

 長くなりそうだったので下書きよりもさらに分けました…

 出だしの書き方でナニコレと感じた方もいらっしゃるかと思いますが、色々な書き方の練習・模索をして今後もまた妙な始まり方になる時もあります。チラ裏レベルで不快に感じる事もおられるかもしれませんが、何卒ご容赦願います。


 クロボンキタコレ。でもジェガンD型がプレバンかぁ…
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