「だぁからお前はアホなのだぁーっ!!」
「ならばあえて言いましょう…違うな、間違っているとっ!」
職員室の隅、応接スペースとして仕切りで隔離された一角に二つの怒声が響き渡る。机に勢いよく手をついた音も同時だったせいか、周囲の先生が一瞬驚いたのも仕切り越しに感じられた。でもそんな事はお構い無しにお互いの額がつきそうな距離で睨み合い、退かぬ・媚びぬ・省みぬの精神で意見を譲らない。
「銃火器や砲など花拳繍腿!ロボの真髄はその鋼のボディによる格闘戦にあるのだ!!」
「何をおっしゃりやがりますかぁっ!!ロボには大火力MAP兵器…粉砕!玉砕!!大喝采!!!その巨体が奮う圧倒的殲滅力にこそ浪漫があるんですよっ!!」
睨み合いから先に動いたのは平塚先生だった。机に手をついて前屈みになっていた体勢を直し、右の人差し指を目前に突き出す。両の足を大きく開き仁王立ちとなり左手は腰に添えられ、風もないのに広がる白衣も相俟ってまるで防衛組織の司令官のような佇まいだ…その右手に箸が握られていなければの話だけど。
こちらも負けじと上体をそらし両腕を交差させ、左の掌を前にかざす。その際どこぞの科学者よろしく空いた右手でメガネを連続でクイっとする事も忘れない。いったいなぜ俺と先生がこの様な状況になっているのか?それは時を少し遡る。
探索任務を終えた数日後、昼飯を早めに済ませた俺は平塚先生に提案したい事があって職員室を訪れていたのだ。しかし先生を訪ねてもデスクには山積みの資料しかなく、近くにいた家庭科の鶴見先生に聞いてみると一人で応接スペースにいると教えてもらった。
仕切りから顔を覗かせてみると、平塚先生は咥えタバコにイヤホンをつけながらノートパソコンを弄っていた。後ろから声をかければ先生は慌てて背を正し、軽く咳払いをしてからこちらに向き直る。訪ねて来た相手がわかると少し安堵した様子だった。
「む、井藤か。君が来るのは珍しいな…い、今はちょうど休憩中だ。とりあえずかけたまえ」
かなり動揺した調子で向かいのソファーへと促され、そのまま腰掛け一通り内容を話すと平塚先生は少し思案をした後に許可を出してくれた。
「本来は雪ノ下に一任しているのだがな…まぁそれ位なら構わない、私から許可を出そう。今回は特別だぞ?」
「ありがとうございますっ!!」
意外にすんなりと返事をもらい元気よく礼を述べると、いつの間にかタバコを消していた先生は少し意外そうな顔で話を続けた。
「しかし、君がここまで部活動に積極的になるとはな…っ失礼」
何かを言いかけた先生はレンジの電子音がなると即座に立ち上がり耐熱性のテイクアウト容器を取り出していく。すぐに他の先生がレンジを使っている所を見ると、後がつかえていたのだろう。隙間から湯気が漏れる器を見て俺はソファーから立ち上がる。
「お昼まだだったんすね。すいません、それじゃこれで失礼します」
「まぁ待て。君とはこうやって話す機会があまり無かったからな…ついでだ、こんな形だが軽く面談と行こうじゃないか。せっかくだから少しどうだ?それとも牛丼は嫌いかね?」
勧めるように容器(おそらくメガ特盛り)の蓋が開かれ、漂ってくる甘辛い匂いに足が止まって気持ちが揺らぐ。心なしか、唾液が口の中に溜まっているような気もする。でも俺はソレをグッと飲み込み先生の方へと向き直った。
「牛丼は大好きです。気持ちは有り難いんですが俺もう昼済ませちゃったんで…今度自分で食べにでも行きますよ。その方が味噌汁もつきますし」
「若いな、若僧。テイクアウトの醍醐味をあまり知らぬと見える。軽く炒めて焼き牛飯にするも良し。上の具を肴にして残った染み飯に紅生姜を散らし、茶漬けでシメるのも良し。味噌汁のお得感よりも勝る楽しみがあるのさ」
何それ凄い旨そう。立てた指を揺らして誇らしげに語る先生の話に聞き入って考えていると、その間に先生はセパレート式だった容器に中身を少し取り分けそれを俺の方へと置いた。
「そう遠慮するな。まぁ口止め料だと思えば良い。これくらいならイケるだろう?」
何の口止め料よ?と思いながらふと一時停止されていたパソコンの画面に目をやると、そこには3、4体の重機系ロボが合体して大型のロボになっているシーンが映っていた。おそらくあれはスーパービルドタイガー…完了時に首をクイッとこちらに向ける動きは他ではあまり見かけない。
口止めってこれかぁ…なら別に良いかと考えて再び席に戻り目の前の箸を手にもつ。
それを確認した平塚先生は片手で半熟卵と七味を牛丼に加え、もう片方の手でインスタント味噌汁に湯を注ぐと言うかなり器用な事をしていた。
「「いただきます」」
先生が準備を終え、同時に手を合わせながら言うと早速箸を割って牛丼に手をつける。やっば箸の割り方は仕事人割りだよね。
昼飯後であってもそこは食べ盛りな男子高校生、いざ食べ出すと段々と箸が進んでいく。途中で米が気管支に入り咽せてしまったけど先生からお茶も貰った事で事なきを得た。
「ところで更正は…いや、部活動は順調かね?」
「あー依頼がチラホラありましたけど、俺は楽しくやってますよ。更正の方はあんま実感がないんで何とも…でも部内でなら少しは普通な会話を出来るようになったんじゃないかなと思います」
「楽しく、か…依頼や更正にも意欲的に参加している様だしその辺りはいいだろう。直接聞けて良かったよ。君自身は私に呼び出される程のモノを出してないからな。こうして話すのもあの日以来だ」
平塚先生は奉仕部の様子を尋ねてくるが最後はなんだか妙に引っかかる言い方だな。確か呼び出される様な事案で、思い当たる伏があるとすれば家庭科のレポートだろうか。欠席したクラスの男子がカレーの作り方を課されていて、作り方を知らないとの事で手伝った事がある。
その時には色々と補足して『野菜は面取りしない方が良く染みて良い』とか『短時間でとろみを出したいなら芋や餅を摺り下ろして混ぜるとグッド』なんて自分の知識を総動員したもんだ。まぁそのせいで鶴見先生には見抜かれ、本人諸共呼び出しを喰らって軽く注意を受けたりはした。
それ以外には特に心当たりはない。他に提出物と言ったら生物のレポート位だ。でもアレは自分なりに真面目に書いた筈。そもそも触角(角)だけでキリンコスと判断出来たり、MO手術のベース能力を解説される前から知っている位には生物は好きで得意科目でもある。手を抜くようなマネはしない。だとしたらいったい何があんのよマジで?
こちらのそんな考えなんてお見通しなのだろうか。暫く俺の様子を見ていた平塚先生はふむ、と少し考えた後にこちらが全く予想をしていなかった質問を投げかけてきた。
「単刀直入に聞こう。井藤、君は…人が好きかね?」
「…?いきなりな質問すね。何でまた」
「比企谷のついでに君の生物のレポートも見せてもらってな。内容は確か『都市部における野生動物の適応化』だったか、結構専門的な所にも突っ込んでいてなかなかに面白かったよ。ただ…その中で随分と人間を批判した内容があったのでね。普段の君の様子とは異なっていたので少し気になっただけだ。何、そこまで深く考える必要は無い」
真剣な様子で聞いてきた平塚先生の表情は最後に「ちょっとした疑問さ」と付け加えた所で柔らかいモノとなっていた。
レポート自体は半月以上も前なので内容は大まかにしか覚えてないけど、確か開発等で都市部に取り残された野鳥や狸などの野生生物がどのようにしてコンクリートジャングルで生き延びているかについて書いたと思う。
あとはその時に生じる問題とかもだ。具体的な例を出すとすれば犯罪抑止の為に黒単色から半透明なゴミ袋に変わったことで、視覚に頼った生物がより食料を手に入れやすくなった。しかしその結果ゴミが道端に散乱する事態が多くなり人間に迷惑がられる…といった要約すると人間が良かれと思ってやった事が別な問題を招き、場合によっては害獣扱いさりたりもする。
例え対策がされようと結局は人間の身勝手な都合に振り回されざるをえない、とか人間は自分が正しいと思えばどんな事でも出来る…とかそんな感じの事を端々に書いていた気がする。
でも何でそれが人間が好きかどうかにつながるんだ?そんなのを一々考えるのはメンドイと言うか割とどうでもいい…と思わなくもない。でもそこをあえて言うとしたらどっちになるんだろうか?チラリと一瞬パソコンの画面に目をやりつつ空いた容器に箸を置き、口元に手を当てて少し考えてみた。
「あぁ~人以外の視点で書いたらやっぱこんな感じになるかなぁと。今回はその手の話ばかり見てたんで、多少偏った内容だったかもしれません。だから人間が好きかどうかはなんて言うか…範囲が広すぎるんで難しいっす」
「範囲が広い…断言しかねる部分があると?」
「そんな感じです。例えば菓子って括りでイカのチョコはまだいいけどジンギスカンのキャラメルはちょっと…とかメカならガチムチやイケメンは好きだけど、美少女系は『はぁ?チェンジで』になるとか。まぁ、それでも全体の括りで言うなら…『好きでいたい』なとは思いますけど」
全体で考えてみるとそりゃあ嫌いだったり許せない、クソッタレな連中が少なからずはいる。それでもその中に家族や友人…平塚先生や奉仕部の面々みたいな好きな人達がいるんなら、トータルでは好きという事になるんだろう。と言うかそう思いたい。少し重苦しくなった雰囲気から逃れるように首の裏に手をやり揉み解しながら出てきた答えは、自分の中で若干腑に落ちない感じがあるものの現状で出せる一番近い状態だと思う。
「成る程な。好きでいたい、か…その辺りにあるのかもしれないな。少しずつで構わない、君がなぜその考えになったのかを今一度振り返ってみると良い。それが君自身を見定める上で必要になるだろうからな」
平塚先生は俺の答えに一応は理解してくれた上にアドバイスもしてくれたらしい。何だか初日の口論の時の質問といい、先生は俺が今まで意識していなかった物事を考えさせるようにしてるんじゃないか?と思う時があったけどやはりそうだったらしい。生返事で返してしまったけどそれ自体は別に嫌って訳じゃ無いのでとくに構わない。自分でも知りたくてどうにかしたい事だし。 ただそう思う反面、それがわかった時に自分がどのようになっているのかは…少し怖い気もする。
まぁそういう時こそ、パソコンに映っている彼らの雄姿を見て気分を高めるに限る。色々あるけど主にカッコいいメカ、動物、由比ヶ浜さんの元気な姿とかは俺の精神を補正してくれる三種の神器みたいなもんだ。
「ふむ、さっきの例えといいその視線といい…メカ好きと言うのは本当らしいな」
話題が変わってきたけどやっぱり気づかれてたのか…自分で注意しつつも何度か画面をチラ見していた事はバレバレだったらしい。でも特にそれを咎められているとかでは無いみたいだ。
「はい、いつプラフスキー粒子が発見されても良いように機体をカスタマイズしておく位には…特に凄く強い、凄くデカい、凄いロボットってのは正義ですよ」
親指を立て自慢気に語りながら二人して澄んだ目、所謂『少年の目』になって画面に映るメカの雄姿を眺め出す。そうすると平塚先生から惚れ惚れするような言葉が漏れていた。
「良いよなぁこういうの…生きてるうちに出来ないかな」
「メカは良い…心を満たしてくれる。人類の生み出した文化の極みです。ホンットMSなんて贅沢は言いませんからATとかレイバー位は目の黒い内に乗りたいもんです」
「全くだ。そしてメカ、ロボと言ったら何よりも…」
「もうアレですね。なんと言っても…」
「「拳での近接戦だよな/大火力兵器ブッぱですよね」」
「む?」
「え?」
これがきっかけだった。最後に嗜好のズレが出てきてしまい、それが冒頭のバトルファイト(口論)へとハッテンしてしまったのだから。
「えぇい井藤、君は何も感じないというのか!?ガンダムファイトを!!メタルファイトを!!バトロボマッチを見ても魂が震えないのか!?」
「異議ありっ!!Gガンやレッドバロンはともかくダイガンダーは必殺技がキャノンじゃないですか!?と言うかそれはこっちの台詞ですよっ!!先生こそブレストアースバスターやギャラッティガバスターとかのゴン太ゲロビ系、さらにはバーニングビッグバンやエンドオブワールドみたいなフルバースト系に浪漫や快感を感じたりしないんですか!?」
内容を聞けば周りからは呆れ声や溜め息が出るだろう。だが俺は謝らない。あぁでもないこうでもないと議論は加速していき、収まってきたのは互いに息が切れ気味になってからだ。呼吸を整えた先生が先に切り出していく。
「ハァ、私とてな…決して嫌いという訳では無いのだ。単に格闘戦のが好きというだけなのだよ…」
「ゼェ、俺だって…そうですよ。フル装備をパージしてからのバトルとか、勇者王の覚醒引きちぎり系とかシビれますし…」
「ふ、なんだ。結局はどっちもじゃないか」
「全くッスよホント…」
そう言うや否や平塚先生はスッと右拳を前へと突き出す。俺はそれに合わせる様に自分の右拳を出し、先生のへと突き合わせた。その時触れた拳は矢車や義輝曰わく『武道の心得がある佇まい』と思わせ無い程に華奢な感じがして、何かノリ的にハートとクラブの戦士を両サイドに配置したい構図だった。
「「浪漫に貴賤無しっ!!」」
拳や言葉を交えた結果俺達はわかりあえた…みたいな感じになり、テーブルが間に無ければ肩を抱き合っていそうな勢いで高々と宣言する。勿論、その間柄は例えるなら師弟愛以外の何物でもないけど。
「ちなみにスクライドはイケるクチか?」
「あったり前じゃないですか。寧ろあの漢の英才教育を嫌いな方が少ないッスよ。ちなみに好きなアルターはスーパーピンチです」
「やはりそうくるか。あぁいや、近頃は半端な輩にしか会ってなかったからな。原作見てないがパチンコで知ってるだの、やれ『アニメ?好きですよ、エ○ァとか(笑)』などと急にに主張したりな。この前の婚活なんてそれでついハメを外したらドン引きされて…」
盛り上がってきた談議から平塚先生はだんだんとうなだれていき、自身の体験談を交えた愚痴になりつつあった。そこで俺は自分なりに先生を励まそうと試みる。
「大丈夫ですって。そんな焦らなくても平塚先生ならまだ引く手数多ッスよ。よく女の人をクリスマスケーキに例えたりしますけど、同じのが安く買えるなら俺ん家なんてイブ過ぎとか全然余裕ですし。だから売れ残りとか気にせずにいた方が、もしかしたら物欲センサー的なのも外れる可能性だって…」
そこまで言いかけた所で急に背筋に悪寒が走り空気が変わった様な気がした。先生の方をよく見れば右腕を軋む程に握り締め、弓を絞る様に構えて力を込めていたのだ。
「井藤、君に悪気が無いのは理解している。皮肉でも何でも無く、本気で言ってる事もな…でもだからこそ、私は君を殴らなければならない」
「え、ちょ何で…」
「問答無用!!シェルブリッドは比企谷の分だ…君にはこちらをくれてやる。喰らえ!ブロウクンマグナアァァムッ!!」
「うおぁっ!?プ、プロテクトシェエェドオォォッ!!」
突如放たれたコークスクリューをとっさに対抗出来そうな防御技で構え、何とか左手で直撃コースから弾いて逸らす。いやほんと気に障ったんなら謝りますから…先生の殺気はマジで心臓に悪い。冷や汗がドッと出る上に弾いた筈の左手も少ししびれているし。すると攻撃を防がれた先生は軽く舌打ち気味立ったけど少し関心した様子だった。
「クッ…今のもまた防ぐか」
「さ、流石にあそこまで溜めがあれば何とか…ファントムリング・プラス(ケンメリや指輪パンチの意)とかされてたらヤバかったッスけど」
「グハッ!?や、やめろ!今リングがどうとか言うな。色々と想像しちゃうじゃないかぁ婚約指輪とか…」
「ちょっと今のは完全に自爆じゃないですかっ!?」
ホントどうすんのよこれ…先生が自分からダメージを負って打ちひしがれているのをどうしようかとオロオロしていると、流石に正気に戻ったのか平塚先生は少しばつが悪そうに咳払いをしてから話を切り出してきた。
「と、とにかくだ。内容はどうあれ君とここまでぶつかり合いになるとはな…正直思っても見なかった。あぁ、別に咎めてる訳ではないぞ?寧ろ嬉しいのだよ私は」
「…?確かに同好の志と話せるのは嬉しいッスけど、そこまで何がどうって訳でもない気がするんですが…」
何を意図して言ってるのか検討が付かず疑問符を浮かべて首を傾げていると、先生は指で軽く先を整えた煙草を口に咥えている。以前俺が煙草に苦手意識があると言った事への配慮なのか火はついておらず、所謂咥え煙草の状態だ。話題が変わる時に煙草を取り出すのは映画とかでもよく見かけるけど、これは喫煙者なりの切り替えるサインなのかもしれない。
「君は女子自体はまだ苦手だが、雪ノ下の物言い等にはあまり反感を抱いてないのだろ?」
「確かに鶏冠にくるとか、こんな所にいられるか!俺は出て行く!!みたいにはなってないっスけど…何つーか雪ノ下さんのは自分の中でもつい納得するような感じで。じゃあ、別に良いかなぁと思っちゃったりとか」
「そこだ。今回私に話を持ってきた事や奉仕部への積極的な参加といい、普段の君は活発な部類に入るだろうな。だがその反面、最初の時などに見せていた無頓着さ。生来のモノなのか、曲者揃いのあのクラスだからか…でもだからこそこうも意地を張って、意見を譲らずにぶつけ合う君の姿はとても新鮮に見えた。
やはりこうやって教え子の意外な一面を見るのは良いものだな」
最後に『教師冥利に尽きる』と締めくくり先生は咥え煙草のまま器用に歯を見せ笑っている。それを見た時、誰にだって譲れないモノや意地はある。俺の場合それがプライド同様少ないだけなのになぜそこまで?と言うかウチのクラスが曲者揃いとか…否定できねぇ、俺も含めて。等と言った気持ちは失せていた。本当に平塚先生は生徒の事をよくみて考えてくれているんだなと感じられ、俺もそれが妙に嬉しく思う。
そして、意外な一面が見られたのはお互い様だとも思った。
「なら、もっと見つけられると良いッスよね。俺だけじゃなく八幡や雪ノ下さん、由比ヶ浜さんも…勿論先生のだって。いっそ奉仕部で合宿や校外活動なんてどすか?手始めにお台場とか。あそこなら御神体を拝みがてら、色々と廻れますし」
さらに言えば奉仕部の皆のも見てみたい。そう思い提案して見たけど先生はむぅ、と難しい顔をして苦い表情をしていた。
「合宿については一考しよう。しかしお台場とか…良くもまぁあんなアベックだらけで精神が削られる場所を行きたがるな。君は何とも思わないのか?」
「思いません。目的があるのなら周りがリア充の巣窟だろうが、オバタリアンの群れだろうが構わず進みます。と言うか、周りの他人なんて一々気にしてたら何処も行けやしませんよ。でも私服であの辺りを行くんなら、俺たちでも流石に家族連れ位には見えるんじゃ…」
その辺りの感情はいまいち理解出来なかったので自分なりの改善策を考じてみると、さっきと同じかそれ以上の殺気を感じて俺は我に帰る。改めて見ればそこには先ほどの焼き直しの様な先生の姿があった。
「まだ懲りて無い様だな井藤、どうやら君には修正が必要らしい…歯ぁ食いしばれ!ビルドオォッナックルッ!!」
「ぐぅ、何の!粒子ぃ…発・剄!!」
平塚先生から放たれた正拳突きを正面から平手で受け止めたのがいけなかった。衝撃をモロに受けた左手は痺れ、しばらくは使い物にならなかったのだ。満開もしてないのに散花しちゃったよ…まぁ特に支障は無かったけど。
「ちわーっす」
「あら、珍しい事もあったものね。井藤くんの方が先に来るなんて。予報では傘の必要は無いと言っていたけれど…どうしたものかしら」
あれから数日が過ぎた放課後のことだ。ノックをして部室に入るともうすでに来ていた雪ノ下さんが、読んでいた本から視線を外し意外そうな顔で声をかけてきた。今日は俺が二番乗りか…ってか八幡達はまだなのね。
今日は早かったけど確かにここ最近はHR後もクラスの誰かしら(男子のみ)とくっちゃべってから行くことが多く、八幡や由比ヶ浜さんとは30分程ズレて来ることが多かったので何かしら言われても仕方ないだろう。でもまぁ天気に関しては杞憂に終わるとは思う。
「はぁ、これから早めに来れる様に気をつけますよっと…それと天気の方は大丈夫でしょ。折り畳み傘も何本かあるから、いざとなったら貸すし」
「まさか普通に返されるとは思わなかったわ…前から思っていたけれど鞄に随分と色々な物を入れているようね。重くはないの?」
張り合いが無いのね、とでも言うように溜め息混じりで言われたけども上手い返しがそう簡単に思い付く訳でもない。精々、その時に思い付いた事や感じた事をそのまま口にする位だ。
荷物の方は重いけどもまぁあれだ。あると便利や何かしら役立つかも、とかで色々と詰め込んだ結果なので自己責任だからしょうがない。
でもその代わりクラスでは『困った時、井藤なら何かしら持っている』と言う認識を受けているので、聞かれればよく物を貸したりもする。ちなみに相手には女子も含まれているけど、その時は持ち物の方へ集中して無心と言うか無我の境地になっているのであまり詳細は覚えていない。その様子は織田たち曰わく目や顔が虚ろらしい。
「軽くは無いけどまぁ、こんな事もあろうかとっ!!備え有れば憂い無しぃ!!ってね。そうそう、それよりも今日はこんなの持ってきたんだわ。内容は宇宙で戦う事しか知らずに生きてきた少年が海面だけの惑星に不時着して、現地の人々と触れ合う事で成長していく話なん…」
「全く興味を惹かれないのよね…それと、そろそろ座ったらどうかしら?いつまでも出入り口に立ったままだと由比ヶ浜さんが来た時に邪魔になるわよ」
「さいですか…ってか何気に今八幡の事オミットしてたよね!?」
思い付いたネタも、用意したラノベも、ついでに八幡についての抗議もその全てが一蹴され視線を手元の本に戻されてしまった。
義輝の依頼以降、たまに読んで貰えそうなラノベを見繕って用意しているが結果は芳しくない。もともと気が向いたらという話だったけども現在は全戦全敗、ラノベ・ヨムキナイネンな状態だ。我ながら語呂悪いなこれ…
でもまぁ、俺も八幡が持ってきた少女漫画は数ページでダウンしたからしゃーない、次は何にしようか。いろいろと考えながらも後ろから椅子を出し始め、ついでに八幡や由比ヶ浜さん…それと来るかどうかもわからない依頼人の分の椅子も用意していく。
近頃は俺や八幡が店を広げる事が多くなったので長机も出すようになった。席順もだいたい固定されていて所謂誕生日席の窓側に雪ノ下さんが、廊下側には俺が座り彼女から見て右側の角へは由比ヶ浜さん、そして俺の左側の角には二人分の距離を置いて八幡が座るようになっている。
一通りの用意を済ませ、鞄から八幡に貸す用で持ってきたマンガを取り出しながら自分の席へと腰を落とす。少しブルーな気分だったために椅子を前後逆にして前のめりに傾け、顎を机に密着させながらグラグラとバランスをとって読んでいると流石に行儀が悪かったのか雪ノ下さんに見咎められた。
「姿勢が悪いわよ。全身の筋肉を緩ませてこれ以上だらしない顔になりたくなければ、ちゃんと座って読みなさい」
「へーい」
「返事は簡潔に」
「…はい」
姿勢を注意されモソモソと動きながらも椅子を整え、今度は普通に座って本を読み始める。もうこれで大丈夫だろうと思ってあちらの様子を伺って見ると、何故か雪ノ下さんはこちらを凝視していた。
正確には俺の手元と言った方が正しい。その証拠にモノは試しと手に持った本を右にズラし、上へ掲げ、左にスライドさせるなど順に動かしていくと雪ノ下さんもそれに追随して首を向ける。その精度と言ったらまるでCIWSだ。
この雪ノ下さんの目には何だか覚えがある。まるで俺や弟が適当にテレビをつけていて、急に前触れも無く興味のあるモノが出た時にするのと同じ目だ。さらに詳しく例えるなら期待せずに見ていた新作アニメにガチムチメカが現れ、反射的に背筋を伸ばして画面に食いついた感じ。でもいったいこれのどこが気になったのか…?
「えっと、何か気になるもんでも…?」
「い、いいえ。特に何も無いわ。単に井藤くんが悪ふざけをしていたから、気紛れで付き合って上げただけなのだけれど。それが何か?」
「んーいや、別に何も」
無意識でやっていたのか俺が話しかけると妙に慌てた様子で雪ノ下さんはまくし立ててくる。最後が少し強めな口調だったのと、本人が何も無いと言うならまぁ別に良いやと思い読んでいるモノへと意識を戻した。それでも何となく落ち着かなかったので少しずつ体をズラしジャストフィットな読書姿勢を模索し続け、黒板の方を向き左手で頬杖をついて読むのがしっくりと来た。その姿勢のままさらに読んでいる内容へと集中していく。
ちなみに内容は猫好きの男子高校生を中心に、その周りの人々が飼い猫や野良猫などと戯れていく日常を描いた話だ。こういう小動物を見ていると心が洗われて和んでしまう。デカくて強いメカも正義だけど、可愛い動物もまた正義だ。毛玉万歳。特に主人公のバイト先にいる猫がこれまた堪らない。
「あぁ、やっぱシンガプーラ可愛いわぁ…」
「それはどうかしら。確かに愛らしさは認めるけれど、デフォルメがされ過ぎてこれでは犬との描き分けがついてないわ。作者の画力の問題ね」
「いやいやそうは言うけどねぇ、可愛いさに犬とか猫なんて関係ないって…ア″ァ″ッ″ー!?」
「ひゃぅっ!?」
あまりの可愛さに言葉が漏れてしまい、それが聞こえていたのか雪ノ下さんが何やら言っている。そしてそれは違うよっ!!と言いたくなって声のした方、何気なく真後ろを振り返ると目の前には雪ノ下さんの顔があったのだ。しかも俺の後ろにいる事など全く意に介さず、読んでいたモノへ視線が釘付けの状態で。
その予想外の出来事に思わず悲鳴を上げ、脱兎の如く椅子から飛び退いて転がりながらも教卓のそばまで退避する。当の雪ノ下さんもその大きな声に驚いて、小さく悲鳴を上げながらその場で体を少しすくませていた。
「ナンデ!?雪ノ下さんナンデ!?」
流石にアイエエエ!?とまでは言わなかったけどもNRSが現実にあることを初めて知った。 いつの間にか気配無く背後に立たれるのも、一応女子である雪ノ下さんがあの至近距離にいたのも本当に心臓に悪い。いやマジいろんな意味で。
雪ノ下さんはと言うと少しの動揺のあとそれまでの姿が嘘だったかのように腕を組み、落ち着いている所か少し冷ややかで不機嫌そうな表情をしてこちらを見てくる。その脇に俺が落としそうになった本を抱えていなければ、かなりおっかない状況だ。
「何でとは随分な言い方ね。井藤くんが締まりの無い顔をさらに緩ませていたから、いったいどんないかがわしいモノを読んでいたのか確かめていただけよ。それにいくら女性が苦手と言っても、今の悲鳴は失礼じゃないかしら?」
「それはついては悪かったってか謝るけど…と言うか読みたかったら背後に立たんでも良いから!!普通に見せるからね!!」
「別に読みたいとはまだ言ってないのだけれど…」
まだとか言ってる時点でやっぱ読みたいんじゃん。と思いながらもさっきの騒動で落ちた鞄から続きの本を取り出し、雪ノ下さんの反応を見る前に彼女の席の方へ数冊ほど積んでいった。その後に数歩下がり雪ノ下さんの方を見ると、若干不服そうな様子ながらも自分の席へと戻っていく。俺の方もそれを確認して自身の席へと戻り、安堵の息が大きく漏れた。
「少しはまともに会話が出来る様になったと思ったけれど…その様子だと予想よりも時間がかかりそうね」
「い、今の所は一人だとこの距離が限界かなと。クラスでも色々やってはいるけど、まともに話せるようになったのは雪ノ下さんと由比ヶ浜さん位だわ。もう面目次第も無いっす…」
「そう、一応努力の跡は見られると言うことかしら。でも意外よね、井藤くんがこの手のモノにもだらしなく反応するなんて…猫が好きなの?」
「あぁいや、猫に限らず動物全般が。あ、でもデスティニーのリスコンビやパンさんとかも…」
積んである本を手にとり雪ノ下さんは何かに期待するように聞いてくるが、こちらが例をだして答えると「そう…」と一言だけ漏らして少し残念そうに手にした本を開いてく。一瞬パンさんと言った時にピクリと反応した気がするけど多分気のせいだろう。
あ、他にも最近は塚っちゃんもか。体育でサッカーをしている時、フェンス越しにテニスコートを見ると一生懸命やっている姿が目に入り思わず抱き抱えてお持ち帰りしたくなってくる。ついでに今日は八幡と一緒に組んでいる様子も見れて、色んな意味で本当に良かったと思う。誘う前にあっちに行っていて、人混みから探すの大変だったんだよなぁ。ウォ○リーは得意な筈だってのに。
まぁそれは別として、俺の抱えている問題の一つである女子に対する苦手意識と言うのもいったいどうしたモノだろうか…以前雪ノ下さんに慣れの問題だと言われた様に自分でも何とかしてみようと考え今まで男子で固めて遠ざけ、あったとしても受動的だったクラスの女子との関わりを変えて見るようにしてみた。
具体的には近づいて話しかけられた時は出来るだけ相手をまともに見るように意識し、その際の語彙も簡潔過ぎず出来るだけ長くするように心掛けている。ほんの少しの変化ではあるがこれでもかなりの精神的負担になる。
話し中も気がつけば近くの仲の良い男子の肩や腕にくっついていたり、話終えた後にドッと妙な疲れが出てくる。クラスメート曰わく他のクラスよりも男子に対して比較的フレンドリーで、特殊な趣味を持っている者が多いらしいC組の女子相手ですらこの様だ。
一度精神的負荷がかかりすぎて発狂しそうになった時、義輝のアゴ周りを衝動的にこねくり回したくなって手を伸ばしたら「我に衆道の趣は無しっ!!」と全力で拒否られた事もある。
だから、まだ多少距離が必要であっても一人でそれなりに会話が出来る様になった雪ノ下さんと由比ヶ浜さんには俺にとってある意味特別な存在だと言えなくはない。
当人の方を見れば、俺が半ば無理矢理貸したような本に集中して時折「乳糖や鶏肉の骨についてもちゃんと説明されているのね。サーバルキャットは流石に、でもフィクションであることを考えれば…」と妙に感心したかの様な呟きを漏らしている。
何となくどういった系統が好みなのか分かった気がする。これも怪我の功名って奴なんだろうか。
「ウーッス」
「おぉ、来たか八幡!!」
雪ノ下さんが俺の本に没頭し黙々と読みふけっていると、八幡が扉を開け力の無い挨拶で入って来た。それに気付くや否や俺は八幡の下へ餌を撒かれた鯉のごとくよっていく。すると八幡も慣れたものらしく肩を軽くズラして避けると気にする様子もなく自分の定位置へと荷物を置いた。何故か俺から更に一人分間隔を開けて。
また袖にされた…軽くしょげる様なそぶりを見せながら俺も自分の席へと戻る。そうしたら俺の席にはいつの間にか雪ノ下さんに貸した筈の本が束で置いてあり、当の雪ノ下さんは何事も無かったかの様に自分の本を広げている。
八幡が特に何も気づいてないと言う事は恐らくあの時俺と言う死角が出来た瞬間、ジェットマンのワンシーンみたいにカウンターをショットグラスが滑るかの如く本を移動させたのかもしれない。その素早さと隠密性…
例えるなら個室で休憩中に突如親がガサ入れしに来ても、何食わぬ顔で勉強しているかのような手際。本の束が全く崩れていない辺り、やっぱり雪ノ下さんは侮れないスペックを持っている。元から俺が雪ノ下さんを侮れる点なんて皆無に等しいけど。
「比企谷くん。無駄な努力を重ねている様だけど…そうやって少しずつ私に近づこうとするのはやめてもらえるかしら?あからさま過ぎて見るに耐えかねるわ」
「まーたそんな事言ってる」
「…何でこいつから逃れようとしただけでそこまで言われんだよ」
会って早々、毎度恒例になりつつある雪ノ下さんからの挨拶代わりの口撃に八幡は苦言を漏らす。そしてそれを流して暫くの後、今度は八幡の方から雪ノ下さんへと口を開いた。本当に今日は珍しい事が続くと雪ノ下さんも耳を傾け、俺もその内容の意外さにポカンと呆ける。なんせ八幡から雪ノ下さんへの相談事だったからだ。
何でもテニス部に入らないかと勧誘を受けたらしい。相手が塚っちゃんだからか、八幡も少し乗り気な様子だ。相手から誘われ、当人もモチベーションが高いならやってみる価値はある…俺はそう考えていたけど雪ノ下さんの考えはどうやら違うらしい。
「無理ね」
そう断言した雪ノ下さんは集団心理がどうだとか、いつの間にか女子の集団が如何に面倒だったのかなどと、実体験を加えた負の感情混じりの解説が始まった。八幡は色々と幻想を打ち砕かれたらしいけど俺は家であったある出来事を思い出す。
それは夕食後リビングで寛いでいた時に暇つぶしでつけていた学園ドラマを見ていた際、丁度雪ノ下さんが言うような所謂『面倒な出来事』が流れた辺りの事だ。
『ハンッ!やはり三次ほど面倒なモノは無い。特にJC以上など愚の極みだ。そうは思わないか兄者よ?』
『待て弟よ。これはあくまで創作物、世の全てがと断ずるのは早計ではないか?』
『はぁ?お前ら何夢見てんの?群れてる女なんて基本外面良く見せて、誰かを下げる事しか頭にねーよ。どんなに仲良しこよししてようとな』
『『ファッ!?』』
なんて兄弟の冗談混じりな会話にお袋がマジレスしてきた事があった。確かにそんな事もあるのかもしれない。でも自分に都合の良い様にしか物事を捉えず、誰かにフザケたマネをする輩に男も女も関係ないと俺は思う。何だか次第に胸の奥が燻ぶる様な感じがしてきた。気が付けば眉間に力が入り、舌打ちも漏れている。
「胸糞悪ぃ…どこにでもいるんだな。そういうの」
「お前もかよ。キャラ変わり過ぎっつーか何、ここ地雷原か何かなの?」
「さぁな知らん、変わったっつってもフォームチェンジみたいなもんで本質は変わらんし…んなもん今はどうでも良い。それで、結局八幡は塚っちゃんの相談事にどうしたいのさ?」
黒いモノが漏れている俺や雪ノ下さんに対して引き気味な八幡に気づき、気持ちを切り替え改めて尋ねてみる。
「…誰かに相談されたり頼りにされるのって初めてでな。戸塚の為にも何とかテニス部を強くできないかとは思う。だからもう一度聞きたい。雪ノ下、お前ならどうする?」
まだ短い付き合いだけどあんなにまで口元を緩ませ、それでも割と真面目に相手を思って考えている八幡を初めて見た。つか俺が聞いたのにあえて雪ノ下さんに聞くのね…まぁ最初に八幡が相談したのも彼女だったしそれは良いや。そして雪ノ下さんの回答は至極シンプルだった。
「全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かしら」
「なるほど、極限状態まで追い込んでからの強化狙いか」
「いや、それ出来るのサイヤ人だけだからな?真に受けんな井藤。あと一応聞くけどお前の場合はどうする?」
「ん、あぁ俺の?雪ノ下さん式特訓以外だとアレだな。ボールにある数字を読みながら打ち返すとか、屈強な戦士となるためのイクササイズとか」
「…とりあえずお前に聞いたのが間違いだと言う事はわかった」
そう言われても聞かれたから答えただけだし…そもそも特訓の極論まで至ってしまった雪ノ下さんの案以上のモノなんて出る筈が無い。あるとしたら別な方向性の策だけだ。俺や雪ノ下さんの案に引く所か呆れた感じになっている八幡の方へ向き直ると、俺は最初に持ちかけてきた事について話てみる。
「まぁ、試しに仮入部とかでやるのもアリだと思うけど俺は。塚っちゃんが誘ったんなら悪いようにはならないだろうし。あぁでもそのまま続けるんならさ、たまには奉仕部にも顔出してくれよ。やっぱ八幡がいてくれた方のが、俺は嬉しい」
「あら、良かったじゃない比企谷くん。貴方みたいなのを頼ってくれる人がここにもいたわよ?」
「うわぁ、片たりとも嬉しくねぇ…やっぱ戸塚だからかこの気持ちは」
「えぇー何よその淡白な反応」
「やっはろーっ!!」
俺と八幡のやりとりに雪ノ下さんは少しからかう様に言い、居たたまれなくなったのか八幡は口元を引きつらせて顔をそらす。俺はその反応にげんなりとしていると、丁度由比ヶ浜さんが塚っちゃんを連れて元気に入ってきた。
なんでも塚っちゃんは相談をしにやってきて、テニスが強くなりたいらしい。最初、雪ノ下さんはそれは貴方次第だとか言ってたけど由比ヶ浜さんの言葉でスイッチが入ってやる気満々だ。そんな急に笑顔で張り切りだした雪ノ下さんに、塚っちゃんは怯え気味になって今じゃ八幡の背中に隠れてる。
きっと何が始まるのか、どんなことになるのか不安なんだろう。俺は八幡の肩越しに顔を覗かせ、安心させようと笑ってみせた。
「心配ないって。ヤるにしても単に死ぬ気で頑張る!!とかそんな感じだろうからさ」
「えっと…ギリギリまで頑張って、踏ん張るってこと?それで僕は強くなれるかな」
「あぁそうさ。ピンチのピンチのピンチの連続、そんな時ウルトラな力が手に入る筈…多分」
「おい最後で不安にさせるなよ…いい加減俺と戸塚から離れろ。それと大丈夫だ戸塚、お前は俺が守るから」
あ、それ俺も今度言ってみたい。親指を立てながら励ます俺の傍らで、八幡もまるで映画のワンシーンのような台詞を言う。後者の事で塚っちゃんも赤面してるけど、とにかく話はまとまった。明日以降の昼休みから特訓を始めるらしい。雪ノ下さん監修で無論俺達も強制参加だ。元から出る気満々だったけど。
ちなみに俺もさっき知ったけど、由比ヶ浜さんは今まで部員扱いでは無かったらしい。直ちに入部届けを作ることになりその際、判子が必要だったので俺が鞄から朱肉を取り出すと「何で持ってんの!?」と驚かれた。それに対してさっき雪ノ下さんに言った時よりも仰々しく「こんな事もあろうかと~」の下りをやったら言い切る前に、「あぁうん、そうなんだ…」と割とどうでも良さそうに流された。
俺の中で一度は言ってみたかった台詞なのに…
予告
『オニィチャン、アサダヨオキテ(裏声はぁと)』
『同じだろ。ガキもペットも』
『義妹に拒絶された…死にたい』
『妹は兄だけを殺す機械なんや…』
『軟派になれと言ったのでは無いのだけれど』
『エ、エスキ○ーズプッsh…えぇっと何だっけ?』
次回『気をつけていても、抑えられない事がある。その3』
次話の投稿間隔が一年以上とか…
読んで下さっている皆様、本当に申し訳ありませんでした。