ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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歓楽街。

 

オラリオの第四区画に属するそこは、とある女神(・・・・・)が支配する土地だ。表にはその女神の眷属であり娼婦でもある彼女たちが、ヒューマン・亜人(デミヒューマン)問わず溢れ、やって来た男たちに熱の篭った視線を送っている。

 

ヒューマンの娘が艶めかしい仕草で客に微笑みかけ、獣人の女が野性味溢れる表情で舌なめずりし、エルフの少女が密かに情欲に満ちた目を向けてくる。

 

そんな女の園に、武蔵は居た。

 

……と言っても、ここに来たのは全くの偶然だった。

 

バベルを出た武蔵は特に行く当ても無く、ただただ道を歩いていた。あの強き男(・・・)の事で頭がいっぱいになっており……ふと気が付けば、歓楽街(こんな所)にまで来ていたのだ。

 

「色町か」

 

久しく目にするこの光景。

 

煌びやかな行灯(あんどん)の光が路上を明るく照らしている。客である冒険者たちはだらしなく鼻の下を伸ばし、娼婦たちは良いカモが釣れたとばかりにほくそ笑む。

 

散々見慣れたその光景に、武蔵はある種の懐かしささえ覚えた。

 

「そう言えば、久しく行っとらんのぉ」

 

と、そこに。武蔵に声を掛ける者がいた。

 

「オジサン、いいガタイしてるねぇ。タマってるんじゃないのォ、あれもこれも」

 

「む?」

 

見てみれば、そこには一人の獣人の少女がいた。狼の耳に切れ長なその目……狼人(ウェアウルフ)の少女が、あられもない姿で武蔵の横に立っていた。

 

胸と局部だけを申し訳程度に隠す布。それだけがこの少女の身に纏っていた衣服であった。

 

裸同然と言って良い格好の少女は武蔵の腰にしなだれかかり、狼の尻尾をくねらせて上目遣いで続ける。

 

「えへへぇ。実はアタシ、結構オジサンみたいなの、好みなんだぁ」

 

「ふむ……」

 

熱にうなされたような潤んだ瞳の狼人(ウェアウルフ)の少女。

 

武蔵が黙ったままでいると、その少女は途端に畳み掛けてきた。

 

 

 

「ダイジョーブだってッ、あたしオジサンみたいな冒険者のお客、た~~~くさん知ってるよ?」

 

「毎日毎日、危険と隣り合わせで血と汗を流す冒険者稼業!」

 

「有り余る体力、溢れ出る精力。ど~すんのさ体力!ど~すんのさ精力!」

 

 

 

「はいっ決まり!30000ヴァリスぽっきり!」

 

「おっ、おお?」

 

「何も足さない何も引かない!」

 

そう言いつつ指を振りながら、少女は強引に武蔵の背中を押す。「一名様ごあんな~い!」と景気の良い声と共に、とある建物へと通されてゆく。

 

「青い桜……」

 

端に見える庭園、そこに植えられた蒼桜(アジューラ)に目を奪われている内に、その建物が目前に迫る。宮殿と見紛うばかりの大娼館……娼婦が刻まれた徽章(きしょう)が掲げられた大扉を開け、武蔵は中へと入って行った。

 

彼女たちの本拠(ホーム)……女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)へと。

 

 

 

 

 

入るや否や、武蔵は多くの娼婦たちに囲まれた。

 

ヒューマン、エルフ、獣人……見目麗しいという点以外、種族も年齢もバラバラな彼女らだが、中でも一番多いのはやはりアマゾネスだろう。

 

「あら、イイ男」

 

「そんなちびっこいのより、アタシと遊びなよ!」

 

「ちょっと!あたしの客に色目使わないっ!」

 

背の高いアマゾネスと、武蔵を引き込んだ狼人(ウェアウルフ)の少女が真正面から睨み合う。娼館ならではの女のいがみ合いが勃発しかけたが、これを武蔵は止めに入った。

 

「これこれ、女の嫉妬は犬も食わぬぞ。いくらでも相手してやるから、ここは収めよ」

 

「「 ! 」」

 

その声に、彼女たちは目を見開いた。

 

彼女たちは娼婦。毎日多くの男たちと体を重ねており、それ故に理解(わか)る事がある。ある種のスキルとも言える技能……男を見極める眼だ。

 

そしてその“眼”は、的確に武蔵に反応した。

 

“いくらでも相手してやる”という武蔵の言葉。男の扱いに慣れた娼婦たちを前に放ったその台詞が嘘では無い……“こういった事”も含め、武蔵が“強い男”だと悟った彼女たちは、こぞって約束を取り付けようと殺到した。

 

 

 

「つぎっ!その次私にしてっ!」

 

「アッ、ずるい!あたしも!」

 

「もう一斉にやっちゃわない?」

 

「だぁぁああーーーっ!だからあたしの客だって言ってるでしょーーーっ!?」

 

「ふふ……人気だな」

 

 

 

どうにかこうにかその場を脱し、武蔵は部屋へと案内された。宮殿自体と比べれば簡素な造りだが、それでも一般的な宿よりもずっと豪華だ。

 

「それじゃ、ちょっと待ってて!すぐ用意するから」

 

「おう」

 

そう言って、狼人(ウェアウルフ)の少女は部屋から出て行った。他の娼婦たちにもみくちゃにされたためのお色直し、といったところか。

 

武蔵は部屋の中央に置かれたベッドに視線を移す。腰から抜いた刀を近くの小棚の上に置き、ベッドの表面を手で押し込んでみる。

 

「よく沈むのぉ」

 

普段座っているボロいソファよりも遥かに柔らかいその感触に、武蔵は困惑した。こんな柔らかいものの上でいたすのか、と。

 

その時、武蔵の耳が僅かな音を捕らえた。

 

「む……」

 

複数の足音と、何やら言い争っているような声。ベッドから手を離し、武蔵はドアの方を振り返る。そうしている内にもその騒音はどんどん大きくなり、しかもこちらへ近づいて来ていた。

 

『ちょっと、ホントに勘弁してよぉ!』

 

『いいじゃないのさ。あんたみたいな貧相な体じゃ、ソイツもかわいそうだろぉ~~~?』

 

やがて足音はドアの前で止まり、ドアノブが回される。

 

ビキッ!という破砕音とともに、ドアの蝶つがいが強引に引き剥がされた。そこにはもはやドアなど存在せず、ただの吹き抜けとなってしまっている。

 

「いたァ~~~~~」

 

 

 

そこから入って来たのは、2Mを越える巨漢……ではなく、巨女だった。

 

 

 

異様に大きく、短い手足。背丈だけならオッタルと同じくらいだが、ずんぐりとした体形は彼とは全くの正反対だ。

 

褐色の肌である事と赤黒の狩猟着である事から恐らくはアマゾネスであろうが、総じて美しい彼女たちとは似ても似つかないその姿。ヒキガエルのようなその顔など、もはやモンスターと言われた方が納得できる。

 

「あ~もう、ドアこんなにしちゃってぇ!ドアの無い娼館がどこにあるのさっ!」

 

「うるさいねぇ、カーテンでも引いときな」

 

狼人(ウェアウルフ)の少女と他の娼婦たちが遠巻きから非難する中、その巨女……フリュネ・ジャミールは醜く笑う。

 

「ゲゲゲゲゲゲッ!強い男だって聞いて来てみたけど……中々どうして、精悍な顔じゃないのさ!アタイの趣味じゃないけど、そそるねぇ~~~!」

 

「ふむ……」

 

悪臭を放つ息を撒き散らしながら、フリュネは舌なめずりした。横幅があるぶん、小山のように目の前に立つフリュネを見据えながら、武蔵は鼻を鳴らした。

 

「妖怪……見た目から察するに、大蝦蟇(おおがま)か」

 

「ゲゲゲゲゲッ!ひどいじゃないかぁ、こんな良い女に向かってそんな事言うなんて!」

 

その言葉にもフリュネは動じなかった。自身の美を信じて疑わない彼女は背後の娼婦たちの冷めた目も気にせず、しゃがれた声で笑って見せる。

 

武蔵は表情を変える事も無く、フリュネに問いを投げ掛けた。

 

「もしやとは思うが……お前が俺の相手をするつもりか?」

 

フリュネは更に口角を釣り上げ、思い切り顔を歪ませる。

 

「嬉しいだろう?こぉんな美女があんたの相手をしてやるって言うんだからさぁ~~~!!」

 

そう言って、のそりと動くフリュネ。窓は無く、唯一の出口はフリュネの後方のみ。他の娼婦たちの目からすれば、武蔵はフリュネに搾り取られる哀れな獲物に映っただろう。

 

悔しそうな、申し訳なさそうな顔をする彼女たち。

 

しかし武蔵は動じず、フリュネが眼前に迫るまでその場に立ち尽くしたままでいた。

 

「ゲゲゲゲゲ……観念しな、身も心もアタイの虜にしてやるよぉ!!」

 

「生憎と、妖怪といたす趣味は無くてな」

 

そう言って、武蔵はちらりと置いた刀を見る。それに気が付いたフリュネはニタリと目を細める。

 

「諦めな。例え抵抗しようにも、あんたの武器はあそこにある。どうしてもって言うなら、素手でこのアタイに挑む事だねぇ」

 

武蔵を見下ろしながらそう言い放つフリュネ。完全に武蔵を我が物にした気でいる彼女に対し、武蔵は自分の両手を見る。

 

「ふむ……そう見えるか?」

 

「あぁん?」

 

すっ、と。武蔵が構える。

 

左手の人差し指を右手で握り、更に右手の人差し指も伸ばす。最初は何をしているか分からなかったフリュネであったが、次第にその顔に汗が滲み始める。

 

「あ……あんた………それ……ッ!」

 

にぃ、と武蔵は笑い、告げる。

 

 

 

「どうだ、妖怪(がま)

 

 

 

「がっ、あああぁぁぁああああああああああああッッ!!?」

 

「「「  !?   」」」

 

突然雄叫びを上げたフリュネに、背後の娼婦たちはびくうっ!と肩を震わせた。その巨体に似つかわしくない速さで右腕を振り上げ、そして振り下ろす。

 

Lv5の冒険者の腕力で振るわれたならば、ただの振り下ろしも絶死の一撃になり得る。

 

武蔵の頭上へと吸い込まれるその一撃に、娼婦たちはアッと息を飲んだ。いくら武蔵が強い(だろう)とは言え、フリュネの豪力を知っている彼女たちは、武蔵が叩き潰される姿を幻視した。

 

 

 

その直後。

 

 

 

「あぎゃぁぁぁああああああッッ!!?」

 

またしても、突然にフリュネが叫んだ。

 

しかしその声は雄叫びではなく悲鳴だった。

 

振り下ろしたはずの右腕を押さえて悶えるフリュネ、娼婦たちは彼女がうずくまったおかげで、武蔵の姿を確認する事が出来た。

 

武蔵は、両腕を上に挙げたような姿勢だった。もしも剣を持っていたならば、ちょうど斬り上げの格好だろうか。

 

「………?」

 

「あれ……」

 

「……え……?」

 

そう思っていた彼女たちは、思わず目をこすって確認する。無手のはずの武蔵の手元に、あるはずのないなにか(・・・)が見えた気がしたのだ。

 

「っ、ぬがぁぁぁああああああああっっ!!!」

 

「「「  !!  」」」

 

茫然としていた彼女たちはであったが、再びフリュネが立ち上がった事に驚愕した。

 

うずくまっていた彼女はガバッ!と立ち上がり、涎を撒き散らしながら両手を振り上げる。先程と同じように、武蔵を叩き潰すつもりだ。

 

大きく体を逸らせ、渾身の力を発揮させようとするフリュネ。しかしその隙を見逃す武蔵ではない。

 

彼女の目が武蔵から離れたその一瞬の隙を見逃さず、武蔵は動く。

 

「むんっ!!!」

 

先程の状態から一息で上段の構えを取り、一直線に腕を振り下ろす。

 

武蔵が振るった無手の一撃。無論、肉体的なダメージなどあるはずが無い。

 

無いのだ、が―――――。

 

 

 

「ぁが………」

 

 

 

フリュネの巨体がぐらりと傾く。

 

白目を剥き腕を振り上げた格好のまま、床へと倒れ込んだ。

 

ズゥゥンッ!!と、まるで牛が倒れたような音が女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)に響き渡る。その余りの衝撃に、部屋の天井から僅かな埃が舞い落ちた。

 

「ふむ」

 

床に倒れるフリュネに目が釘付けになっていた娼婦たちの驚愕を余所に、武蔵はゆっくりと構えを解く。

 

Lv 5のフリュネを相手取ったというのに、その顔には汗の一つも浮かんではいなかった。

 

 

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