ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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時刻は夕暮れ時、もう少しもすれば夜が訪れるであろう時間帯。

 

冒険者で溢れるオラリオは、むしろこの時間から賑やかになり始めるとも言えるだろう。日中はダンジョンに潜っていた冒険者たちも、その日の疲れを癒すために酒場へと足を運び、オラリオならではの夜を演出する。

 

しかし、この日は朝から何かが違っていた。

 

いつもなら冒険者で溢れるダンジョンだが、今日ばかりは足を運ぶ者の姿はまばらだった。午前中でダンジョンへと潜った人数は、せいぜい20人くらいか。おかげでこの日のギルドの仕事は、そのほとんどが溜まった書類の整理だけであった。

 

なぜ今日に限ってそうなのか?その理由は簡単である。

 

皆、今日と言う日の夜に備えていたからだ。

 

 

 

 

 

「ほな行くでー!」

 

夕暮れ時の“黄昏の館”の前で、そんな呑気な声が響き渡った。その声の主は子供っぽい動作で大きく手を振っている。

 

神ロキである。

 

彼女も彼女でこの日の催しを楽しみにしていたらしく、既に闘技場の席を予約していた。一緒に行く面子は彼女のファミリアの幹部勢+一名(ちなみにロキ本人はちゃっかり別の特等席(・・・)を確保していたりしている)。

 

そんな訳で今から上機嫌なロキは早く行こうと後ろを振り返って急かす。既に行きの馬車を待たせており、御者もまだ来ないのかと呆れ顔だ。

 

「やぁ。待たせたね、ロキ」

 

「フィン!もう、(おっそ)いわー!もう馬車来てる、で……」

 

待ちわびた声に反応したロキは、急激にその声を萎ませた。

 

その原因は、彼らの格好にあった。

 

「自分ら……なんやねん、その格好?今からダンジョンにでも潜るんか?」

 

思わず笑ってしまうロキ。引き攣った顔で指をさす彼女の目の前にいるフィンたちの格好は、今から行く場所に対して確かに場違いなものだった。

 

フィンの手にした槍、ガレスの背負った大斧、リヴェリアの杖。

 

アイズの剣にレフィーヤの杖。ティオナの大双牙(ウルガ)に、ティオネの湾短刀(ククリナイフ)

 

普段街中を歩く時とはかけ離れた、完全武装と言った格好のフィンたち。背後に控えるラウルは必死そうな顔でバックパックを背負っており、その端から覗く武器の柄から、中身が彼らの予備の武装である事は容易に察せられた。

 

「別にそう言う訳じゃないさ」

 

「ほんなら、なんでやねん?」

 

「……親指がね、朝からずっと疼いてるんだ」

 

「………そっか」

 

自身の親指を見ながら語るフィン。意味深な台詞に黙り込むロキであったが、フィンに限って何の考えも無しにこのような格好で出てきた訳では無いだろうと信用する事にした。

 

若干気まずくなった空気の中、ロキは再び景気の良い声で出発の合図を出す。その声に御者が扉を開け、彼らを馬車へと乗せる準備を始める。

 

「ウチ一番前の馬車がええ!アイズたんっ、一緒に乗ろーっ!」

 

「嫌です」

 

「なんでやー!?アイズたんと一緒にラブラブドライブデートしたいんやー!」

 

「嫌です」

 

「ぐぬぬぬ……っ!い、いつからそんな子になってもうたんや……!?母親(ママ)からもなんか言うたってやー!」

 

「誰が母親(ママ)だ」

 

馬車に乗るにもそういった一悶着があったが、それでもようやく全員が馬車へと乗った。御者の手綱の合図で馬が動きだし、目的地である闘技場へと動き出す。

 

夜を裂かんばかりに眩く照らす魔石灯によって浮かび上がった巨大なシルエット。そこへと足を運ばせる人々の列は、未だに途絶えそうもなかった。

 

 

 

 

 

闘技場内はすでに人々でごった返していた。

 

血の気の多い冒険者からごく普通の一般人まで、今日と言う日を心待ちにしていた者達が集い、異様なまでの盛り上がりを見せている。

 

「おい、どっちが勝つと思う?」

 

「そりゃやっぱり『猛者(おうじゃ)』だろ。オラリオ一なんだし」

 

「でも『猛者(おうじゃ)』から申し出た対決なんだろ?だったらこの“ムサシ”って奴も相当強いんじゃね?」

 

あちこちでどちらが勝つかについての話声が聞こえてくる中、アイズたちはロキが予約しておいたという席へと向かう。

 

闘技場に入る際には、門番を務める【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちにぎょっとされたが、特別に武器を携帯した状態での入場が認められた。日頃の素行の良さと信頼の厚さのお陰だろう。

 

「あっ、ここじゃない?」

 

「結構いい席ね」

 

ティオナとティオネの声にアイズが顔を上げると、そこだけぽっかりと、誰も座っていない数人分の席があった。アイズたちの登場に周囲の人々は驚き、自然と遠ざかる様にして距離を開けてきた。

 

「ここなら場内も全て見渡せる。何かあれば一目瞭然じゃの」

 

「あの『猛者(おうじゃ)』が戦うのだからな。どこが壊れてもおかしくは無いが……」

 

「流石にあの猪野郎も雑魚共を巻き込むような真似はしねぇだろ」

 

そう言ってベートが乱暴に席へ座り、それを皮切りに他の面子も徐々に席へと腰かける。アイズも座ろうとしたが、ここで一人欠けている事に気が付いた。

 

「……フィンは……?」

 

「あ、あれ?さっきまでいたんですけど……」

 

アイズの呟きにレフィーヤが反応するも、彼女もフィンがどこに行ったのかは分からないようだ。小柄なために、こうも人が多いと流石のアイズも探すのに骨が折れる。

 

だからと言って無視はできない。フィンの行方を探そうとしたアイズであったが、そこにやや遅れてやって来たラウルがある報告を伝える。

 

「い、いま、団長とすれ違ったんすけど……ちょっと抜けてくる、って言ってました」

 

「抜けてくる……?」

 

重い荷物を地面に降ろして一息つくラウル。そんな彼をレフィーヤが労わる中、アイズはフィンがどこへ行ったのかを考えていた。

 

 

 

闘技場控え室。

 

観客たちからは見えないように地下に作られた控え室は、闘技場のサイズに見合うだけの膨大な数がある。その一室に、彼はいた。

 

簡素な作りのテーブルと椅子。武器を立てかけるための棚。他にある物といえば、等身大の姿見くらいか。

 

彼……オッタルは己の武器である大剣を念入りに整備していた。やがて手にした大剣を棚へと戻すと、彼は静かに立ち上がり瞳を閉じた。

 

瞑想するように静かに息を吐くオッタル。その背に、不意に何者かの声が掛けられた。

 

「準備運動はしない……やっぱり武人だね、君は」

 

「………フィンか」

 

振り返り、オッタルは来訪者を見下ろす。自分よりも遥かに小さな、しかしオラリオで自分に次ぐ強さを持つ、Lv6の冒険者を。

 

「やぁ。ダンジョンで会って以来だね、オッタル」

 

「何故ここにやって来た」

 

「ンー……まぁ、ちょっとした激励かな?」

 

手にした槍を担ぎ直し、フィンは傍らに立てかけられた大剣を一瞥し、次いでオッタルの姿を見る。

 

普段と変わらぬ軽装。各部に纏ったアーマーは分厚いが、二の腕は逞しい筋肉が直に晒されている。完全武装からは程遠い恰好であるのに、鍛え上げられた自身の肉体がその印象を覆している。

 

「あのムサシ・ミヤモトを相手取って大剣一本。しかもそんな軽装で挑む………いかにも君らしい」

 

「………ムサシと戦った事が?」

 

「結果だけ言うと……完敗、かな?」

 

「!」

 

フィンの口から出た言葉に、オッタルはハッキリと瞠目した。武人のその珍しい表情に、フィンが口元を緩める。

 

「あの時、僕は手も足も出なかった。これはおせっかいかも知れないけど、君は剣を手にしたムサシの実力は……」

 

「知らん。しかし三日前、徒手同士で触れている」

 

その時、上の観客たちからの、一際大きな歓声が響き渡った。地下にいるオッタルとフィンの元まで伝わる振動に、遂にその時が来たのだという事が分かった。

 

オッタルは立てかけていた大剣を手にし、フィンの傍らをすり抜けて扉へと向かう。部屋から出てゆく直前、オッタルは振り返らずに口を開いた。

 

「剣を手にしていないムサシ・ミヤモト。その時点で俺と五分と五分………」

 

 

 

或いは―――――俺を上回るのかも………。

 

 

 

その最後の部分だけ口にせず、オッタルは控え室を出て行った。

 

 

 

 

 

バッ  シュル……  ギュッ。

 

「ふむ」

 

控え室でたすき掛けを終えた武蔵が、パンッ、と腰を叩いた。

 

その傍らには不安そうな顔をしているベルたちの姿があった。結局、誰も武蔵を説得する事が出来ず、こうして立ち合い当日を迎えてしまったのだ。

 

「なんて言うか……」

 

「む?」

 

ぽつり、と零したベルの呟きに武蔵が反応する。棚にかけてあった刀に手をかける直前であった武蔵は振り返り、ベルへと向き直る。

 

「とても今から、決闘するなんて感じがしませんね……。ムサシさん、なんだかわくわくしてるみたいです……」

 

「“わくわく”………とな」

 

俯き、その言葉の意味を吟味する武蔵。

 

ベルが、ヘスティアが、リリが、ヴェルフが。近付く対決の時に緊張を隠せないでいる中、武蔵はふっ、と笑う。

 

「未熟ゆえ」

 

「ムサシ君!」

 

と。ここで今まで黙っていたヘスティアが口を開いた。もはや叫び声にも似た悲痛な声と共に、武蔵へと歩み寄る。

 

つかつかつか、と足早に歩み寄ったヘスティア。自分より遥かに目線が上の武蔵に対して、相手を射竦めるかのような視線を直視して、彼女は少しも怖けない。

 

「ムサシ君……今からでも遅くない。ボクたちと帰ろう」

 

その言葉に、ベルたちは驚愕した。

 

ここまで来てしまったら、もう後になど引けない。何千人もの注目を集めてしまった状態であるにも関わらず、ヘスティアは尚もこの立ち合いを中止させようとしているのだ。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】がいるからって、万全って訳じゃないんだ!打ちどころが悪ければ人間(こども)たちは簡単に死んでしまう!ボクはムサシ君にそうなってほしくないんだっ!!」

 

目に涙まで溜めて訴えるヘスティア。人間(こども)を想う慈悲深い女神の姿に、ベルたちも目を見張って事の行き先を見守る。

 

「すべての責任はボクが持つ。だから、お願いだ……。わざわざこんな危険な事、しないでくれ………!」

 

「………優しいのォ、おぬしは」

 

若干下がった武蔵の目尻。その変化に、ヘスティアはようやく自分の願いを聞き届けてくれたのだと笑みを浮かべる。

 

しかし武蔵は、急にヘスティアの前でしゃがみ込み、彼女の顔を覗き込んだ。いきなりのその行動にヘスティアが面喰らっていると、武蔵の両腕が彼女へと伸ばされた。

 

「ちょっ、ムサシ君……?」

 

「ヘスティア」

 

そして、ぎゅっ、と。

 

武蔵の太い両腕がヘスティアを包み込み、しっかりと抱き締める。

 

後頭部に回された大きな手の温もりを感じながら、彼女の耳は武蔵の言葉を捕らえた。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

離れてゆく武蔵の身体。涙を浮かべながらも動けないヘスティアは掠れるような声で武蔵の名を呼ぶ。

 

「ムサシ君……」

 

「それでは、行ってくる」

 

ベルたちにそれだけ言い残し、刀を手にして控え室を後にする武蔵。

 

「ムサシ君ッッ!!」

 

ばたんっ、と扉が閉まると同時に、ヘスティアの声が響いた。主神の悲痛な叫びに、ベルたちはかける言葉が見つからなかった。

 

項垂れるヘスティアと佇むベルたちの耳に、観客たちの大きな歓声が聞こえてきた。とうとうその時が来たのだ。

 

「神様……」

 

鳴り止まぬ歓声が振動となって身体を震わせ続ける中、ベルはヘスティアの肩に手を乗せた。そこに自身の手を重ね、彼女は首を回して自身の眷属を見る。

 

「ムサシさんを信じましょう、神様。きっと、大丈夫ですよ」

 

「ベル君……」

 

ヘスティアを心配させまいと無理に作った笑顔。余りにも脆いその笑顔ではあったが、今のヘスティアにはそれが嬉しかった。

 

ベルたちの気持ちも同じなのだ。

 

無論、武蔵の事が心配でないはずが無い。しかし武蔵の底知れない実力の断片を間近で見続けてきたベルたちには、不思議と武蔵を応援する気持ちが強くなっていたのだ。

 

「そうですよ!ここまで来たらムサシさんを信じましょう!」

 

「万が一怪我を負われても、【ディアンケヒト・ファミリア】の医療班がいます!大事にはなりません」

 

「ヴェルフ君、サポーター君……」

 

ヴェルフとリリも、ベルの背後から顔を覗かせてヘスティアを元気づける。健気な彼らのその姿に、ヘスティアの顔にも徐々に笑みが浮かぶ。

 

零れた涙を拭い、ヘスティアは武蔵が出て行った扉を見やる。そして決心したかのように、ベルたちに語りかける。

 

「そうだね……信じよう、ムサシ君を」

 

 

 

 

 

闘技場へと続く通路を、武蔵はひた歩く。

 

手にした刀……無銘・金重を腰に差すその顔には、笑みさえ浮かんでいる。

 

 

 

(そう、未熟ゆえ―――「明鏡止水」とは程遠い………ッッ)

 

 

 

闘技場に近付くにつれ、次第に歓声が大きくなってくるのを感じる。

 

ただそこに立っているだけで、全身を震わせるほどに。

 

 

 

(こみ上げる(たかぶ)りを止められぬ)

 

 

 

場内は魔石灯によってライトアップされており、まるで真昼のように明るい。

 

その光の元に、遂に―――――武蔵が姿を現した。

 

「来たッ!!」

 

「ムサシだ!!!」

 

すぐ隣から発せられた言葉すら、武蔵の耳には入らなかった。

 

その胸中にある思いはただ一つ………。

 

 

 

 

 

斬り結ぶ歓喜(よろこ)びに、一点の曇りなし!!!

 

 

 

 

 

 

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