ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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武蔵の食事シーンを書きたかっただけのお話です。




「いやはや(かたじけな)い。道を教えて貰った上に金まで……世話になった」

 

そう言って男は、宮本武蔵は感謝の印として貰った金貨が入った袋を片手に、ダンジョンから出て行く。出口の手前まで彼を案内した【ロキ・ファミリア】の一行は、その去りゆく背中を黙って見つめていた。

 

「何だったんすかね、あの人……」

 

ラウルの呟きに応じる者はいなかった。と言うより、それは彼らの方が聞きたいくらいである。

 

「せめて、どこのファミリアの冒険者かは聞いておくべきだったかな……」

 

そんな独り言が、フィンの口からは知らずに漏れていた。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

宮本武蔵は驚いていた。

 

目覚めれば見知らぬ洞窟だった事にも驚いた。

 

次から次へと現れる面妖な化物にも驚いた。

 

時折見かける南蛮人から放たれた妖術にも驚いた。

 

驚愕(おどろ)きに次ぐ驚愕(おどろ)きに、最初こそたじろいだものの次第に慣れていった。化物も斬ってみれば大したことはなかった。

 

もう左程驚く事は無いだろうと思っていたが、今こうして、武蔵はまたしても吃驚(おどろ)いてしまった。

 

眼下に広がる多くの人の群れ。

 

その全てが南蛮人特有の顔つきをしており、武蔵のような東洋人らしき者は見られない。それどころか、獣の耳や尻尾を持つ者や小人までもが、当たり前のようにそこらを闊歩している。

 

武蔵の吃驚(おどろ)きはそれだけに留まらない。

 

(灯篭では無い、光り輝く魔石灯(あれ)!)

 

(幾つもある、真っ白い柱によって構成(つく)られた万神殿(これ)!)

 

(天まで届かんばかりの、果てしなく巨大なバベル(それ)!)

 

他にも見た事の無い形の建物が幾つも立ち並び、人々はそれらが面している道を忙しなく動き回っている。

 

かつて武蔵がいた都でもかなりの人口であったが、ここまで何もかもかけ離れていれば、流石の武蔵も動揺を隠せなかった。

 

「……とんでもない所に来てしまったなァ」

 

 

 

 

 

ある日の事であった。

 

ダンジョンから帰還してきた冒険者達が酒と見目麗しいウェイトレスを求め、あちこちの酒場が混み始める時刻。

 

その中でも特に人気のある店、『豊穣の女主人』の入り口から一人の男が入って来た。

 

その異様な姿と風貌(かお)に店内にいた全員が固まる中、男は開口一番こう言った。

 

「飯をくれ。この小判が使えるのだろう?」

 

 

 

 

 

「見た目はちょっと怖かったですけど、でも良い人でしたよ」

 

そう語るのは『豊穣の女主人』の看板娘といっても過言では無い人気を誇るウェイトレス、シル・フローヴァだ。

 

「ムサシさん、って言いましたね。いかにも冒険者って感じのする人でした。本人は剣士って言ってましたけど、私にはいまいち違いが分かりません」

 

「彼が何を食べたか、ですか?えーっと……あはは、特にこだわりは無さそうでしたよ。お肉もお魚もお野菜も、何でもよく食べました。お酒も飲んでましたね。」

 

「……アッ!そういえば、鶏の香草焼きを食べてた時に“リューキューのハブより旨い”って言ってましたけど、ハブってあの毒を持った蛇ですよね?ふふ、冗談にしてはちょっと笑えなかったです」

 

 

 

 

 

ぞぶっ。

 

ミリ、ミチっ。

 

もにゅ。

 

もちゅ。

 

にょむ。

 

「ふう」

 

ちゅぴっ、と骨から口を離す武蔵。そしてカラン、と骨が皿の上に置かれる。

 

一息吐く彼の目の前には平らげられた料理の皿が多く積まれていた。

 

サラダにスープ、肉・魚料理に(ライス)。久しぶりに食べるまともな食事に、ついつい食べ過ぎてしまった。

 

「いやぁ、旨かった」

 

「それは良かったです」

 

そう言葉を返したのはシルは慣れた手つきで皿を片付けていく。大量の皿を片付けるその姿は、女性の細腕からは考えられない程に頼もしい。

 

「ムサシさん、食後にお酒でもいかがですか?」

 

「ふむ……酒か……」

 

少し考え込む様子を見せる武蔵だったが、返答はすぐだった。

 

「ヨシッ、貰おう。何か適当に見繕ってくれ」

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

シルの誘導にまんまと乗った武蔵の前に出された酒は、武蔵が見た事の無いものだった。

 

一般的なサイズのグラスと、透明な瓶に満たされた琥珀色の液体(なにか)。シルによってコルクが開けられると、途端に強い酒気が広がった。

 

トクトクトク、と注がれる琥珀色の液体(それ)は、武蔵の前に差し出された。想像していた日本酒(さけ)とは違ったそれに、武蔵は不思議そうな顔をする。

 

「もし、これは……?」

 

「え?お酒ですけど……あの、もしかしてコレ、お嫌いでしたか……?」

 

「イヤ、嫌いとか好きとかって言うか~~~~~……………」

 

ゴクリ、と喉を鳴らす。

 

(焼酎に似ているが、少し違うな……随分と酒気が強いが)

 

やがて意を決して……とまでは行かないが琥珀色の液体(それ)を、ウィスキーを口にする。目の前ではシルがお盆を胸に抱いて、心配そうにしている。

 

「………」

 

モキュ……。

 

キュ……。

 

コポ……。

 

………。

 

ゴキュ。

 

たっぷり口の中で転がし、鼻から酒気を孕んだ息を吐き出す。注がれたウィスキーを一口で飲み干した武蔵に、シルは密かに驚愕する。

 

(飲んだ!?アルコール度数70%のウィスキーを一口で……ッッ!?)

 

「……強いな」

 

「ア……はい、ハイッ、ハイッ!お酒、お強いんですねっ!」

 

「強いな、この酒は」

 

「……あ、ウィスキーです」

 

「ふむ、そっちだ」

 

「………」

 

「―――にしても旨いなこれ」

 

武蔵はこの後も静かに飲み続けた。

 

 

 

 

 

「……で、いやがったんだよ!いかにも駆け出しって感じのひょろくせぇ冒険者(ガキ)が!」

 

「……む?」

 

武蔵が振り返ると、そこにはいつの間にか大勢の冒険者達が集まっていた。何やら話に花を咲かせているらしく、大いに盛り上がっている。

 

武蔵も久々の酒に程よく上機嫌になっていたので、それと無く聞き耳を立ててみた。

 

どうやらダンジョン(あそこ)での出来事について語っているらしい。しかしその話題はいつしか男女の色恋話に変わり、話し手の冒険者の言葉にも熱が篭っていく。

 

「……私は、そんな事を言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

遂に話を振られた女性の方は、その冒険者に明確な拒絶を示した。

 

その後、ドタンバタンと背後が騒々しかったが、今の武蔵には聞こえていなかった。

 

「ブッ」

 

勢い良く選択を迫った冒険者、そしてにべもなく拒絶されたその結末。

 

あまりにも無様なその姿に、思わず武蔵は

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

笑ってしまった。

 

 

 

 

 

「来店した時から何か起こるかもしれないと感じていましたが、まさかあんな事になるとは思いもしませんでした」

 

エルフのウェイトレス、リュー・リオンは当時の事を振り返り、そう語る。

 

「確かに彼、ローガさんの言い方には私も良い気分がしませんでした。だからもし彼が騒ぎを起こそうものなら、すぐにでも止めに入ろうと思っていました」

 

「しかし……あれは想像していませんでした」

 

 

 

 

 

「あぁ?」

 

ベートの胡乱な瞳が店の一点に注がれる。

 

そこに居たのは、ざんばらの髪に無精ひげの男。椅子に座ってグラスを片手に、悪びれもせずに大笑いしていた。

 

「ハハハハ……はァ~~~。……イヤ、すまん。ここまで笑うつもりは無かったンだが……つい、な」

 

周囲の空気がざわめいた。

 

彼が握っていたジョッキからミシリと嫌な音を鳴らしながら、怒りを隠しもしないベートは立ち上がる。

 

「テメェ……ダンジョンにもいたな。もういっぺん言ってみやがれ」

 

「だからスマンと言っているだろうが。気に障ったのならもっとちゃんと謝って……」

 

ここで唐突に。

 

ヒュオッ!!と。

 

困り顔を浮かべる武蔵に向け、ベートの鋭い蹴りが顔面に向けて放たれた。

 

 

 

 

 

「右足でした。彼は近接戦闘に特化した冒険者ですからね」

 

「狙いはミヤモトさんの顎、常人なら即死の一撃を彼は放ちました。酔っているとはいえLv5、同レベルの冒険者でも避けるのは至難の技です」

 

「ましてやミヤモトさんはかなり強いお酒を飲んでいました。確実にヤラれる、あの時私はそう思いました」

 

「そう、あの時は」

 

 

 

 

 

バシィッッ!!

 

ベートの鋭い蹴りが肉を打つ音が、『豊穣の女主人』の店内に響いた。

 

誰もがそれを、ベートの蹴りが武蔵の顎を砕く音だと錯覚した。

 

そう、錯覚したのだ。

 

「なッ……!?」

 

ベートの蹴りは確かに武蔵の顎の位置に届いていた。

 

しかし、その足と顎の間。その僅かな隙間には、他でも無い武蔵の左手が挿し込まれている。

 

ベートの放った蹴りは、武蔵の左手の甲で防がれたのだ。

 

「ふむ」

 

「おッ、おッ、お!?」

 

呆気にとられるベートとその周囲を差し置き、武蔵はおもむろにベートの右足を、左手で掴んだ。それだけなら、まだ良い。問題はその後だ。

 

武蔵はあろうことか、そのままベートを宙に持ち上げたのだ。左手一本で。

 

「てッ、てめぇ!離しやがれッッ!!」

 

「ん~~~……」

 

しかし武蔵は暴れるベートなど全く意に介さず、何かを確かめるような顔で考えている。そして納得がいったように口を開いた。

 

(かね)粗悪(わる)い」

 

 

 

 

 

「ローガさんの武装、フロスヴィルトは精製金属(ミスリル)製。これは冒険者達の間でもかなり人気のある武器の素材にもなっています。最硬金属(アダマンタイト)不壊金属(デュランダル)ほどでは無いにしても、その堅牢さは折り紙つきです」

 

「それを粗悪(わる)いと……ミヤモトさんは言いました」

 

 

 

 

 

少年(ボン)、お前こんなものを脛当(すねあて)に使っているのか?」

 

「ガッ!!!」

 

ベートを片手で持ち上げて軽々とそう言ってのける武蔵に、ベートが空いた左脚で蹴りを見舞う。

 

しかしその蹴りも、武蔵が左手を軽く動かすだけで封殺されてしまう。

 

今のベートにとっての地面は、武蔵の手の内にある。故に武蔵が軽く手首を動かすだけで、ベートの体勢は大きく歪んでしまうのだ。

 

「おいたが過ぎるぞ、少年(ボン)よ。それにお前は随分と血の気が多いな。どれ……」

 

再度蹴りを放とうとするベートに対し、武蔵は静かにそう呟き、そして―――――。

 

「少しばかり血抜きをしてやろう」

 

ベートを振り下ろした(・・・・・・)

 

 

 

 

 

「あの時の音は形容しようがありません。しかし近いものをあえて挙げるとすれば―――――そう、強竜(カドモス)。あのモンスターの渾身の踏み潰しに匹敵するかと思います」

 

「事実、ローガさんの身体は床を突き破り、その下……土が剥き出した地面までめり込んでいました。あとで測ってみたのですが、深さは50Cを越えていました」

 

「無論、ローガさんは無事では済みませんでした。鼻や口から血が出ていましたし、恐らくは脳震盪によるものでしょう、気も失っていました」

 

「しかし私が驚いたのはそこではありません。彼の……ミヤモトさんの手元を見た時でした」

 

「はい、ご想像の通りです。……砕けていたんです、精製金属(ミスリル)が」

 

 

 

 

 

『豊穣の女主人』は静寂が支配していた。

 

響き渡った轟音はここら一帯の店にまで聞こえた事だろう。その轟音を物語るかのように、ベートが叩き付けられた地面には巨大な窪み(クレーター)が出来ている。

 

誰一人として動けない中、武蔵だけが自由だった。

 

「あァ~~~。やっぱりか……」

 

彼はベートの右足から手を離し、その掌を見つめる。

 

そこには粉々に砕かれた精製金属(ミスリル)が……フロスヴィルトの姿があった。

 

 

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