ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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突如巻き起こった白煙に、ヘスティアたちも当然の如く混乱した。彼女たちの周囲にいる観客たちと同様に、その顔に驚愕と困惑の表情を浮かべる。

 

「一体、何が起こってんだよ……!」

 

「分からないけど、多分ムサシ君が……!?」

 

一部始終を見ていたヴェルフとヘスティアが茫然と呟く。

 

矢継ぎ早に繰り広げられる怒涛の展開。いつの間にか武蔵が捕縛される瀬戸際まで話は進んでゆき、気が付けば目にも止まらぬ速度でフィンとガレスが動き出していた。

 

あまりの出来事についていけない二人。そんな彼らの隣で一人、リリが慌てた様子で背負っていた巨大なバックパックを降ろし、広げてゆく。

 

「……おいリリスケ、どうしたんだよ?」

 

「さ、サポーターくん?」

 

訝しむ二人を差し置き、リリはその場に荷物の中身をぶちまけていく。そしてようやく動きを止めたかと思えば、消え入るような声でこう呟いた。

 

「……リリの煙幕玉が、ありません」

 

「何?」

 

その言葉にヴェルフは目を見開き、驚きの声を上げた。リリの言っている事が正しいのだとすると、武蔵は事前にこれらを用意していたという事になる。

 

オッタルとの戦闘で使うつもりだったのか、はたまたこのような事態(・・・・・・・)が起きる事を想定していたのか、いずれにせよその用意周到ぶりに、戦慄に近い感情を覚える。

 

「……ムサシ君……!」

 

茫然としているヴェルフの隣で、ヘスティアの小さな呟きが漏れた。近くにいたベルの事も当然心配だが、この出来事の渦中である武蔵はその比ではない。

 

ヘスティアは神意を解放しようかとも考えたが、そうすれば天界へと強制送還させられてしまう。こんな衆人環視の中で行えば言い逃れは出来ないし、せっかくレベルアップしたベルから恩恵(ファルナ)を奪ってしまう事にもなる。

 

だからヘスティアにはどうにもできない。この騒動の顛末を、指を咥えて見ている事しかできないのだ。

 

(こんな時に何も出来ないなんて……ボクは彼の主神なのに、なんて無力なんだ………!)

 

オッタルを殺そうとしたのは武蔵であり、それに待ったをかけたフィンたちの行動は正しい。立ち合い(試合)ではなく立ち合い(殺し合い)であると確定した以上、止めない訳にはいかない。

 

武蔵を捕縛しようとする彼らの行動はオラリオの総意であると理解(わか)ってはいるものの、それでも自分の団員(こども)の危機に無関心でいられる訳が無い。

 

武蔵の安否とオラリオの治安。その二つがヘスティアの小さな肩に、重くのしかかる。

 

それでも万能(むりょく)女神(ヘスティア)は、見ている事しか出来ないのだ。

 

 

 

 

 

武蔵の剣がガレスへと振り下ろされる。

 

真っ直ぐに、一刀両断にする勢いで振るわれたそれを、ガレスは目力をいっぱいにして見返す。そして手にしていた獲物であるグランドアックスを真横に構え、武蔵への盾とした。

 

「ぬぅッ!!」

 

ギャリッッ!!と切断されるガレスの大戦斧。

 

咄嗟の判断で動いた結果、ガレスは武蔵の振るった刃をその身に食らう事はどうにか免れた。しかし武蔵の一撃を受けた斧は完全に破壊され、もはやどう見ても使い物にはならなくなってしまった。

 

そんな事を考える暇すら与えず、武蔵は返す刀でガレスへと斬り込む。

 

万事休すか、と思われたその時。

 

「【リヴ・イルシオ】!!」

 

リヴェリアの鋭い詠唱の声が飛んでくる。

 

超短文詠唱によって発現した魔法、それはガレスと武蔵の間に魔法の防壁を生み出した。魔法・物理、そのどちらも防ぐ効果を持つリヴェリアの防御魔法だ。

 

「!」

 

突如として現れた翡翠色の障壁に武蔵は一瞬目を見開くも、そのまま剣を振るった。刃は障壁へと食い込み、まるでそんなものなど無いかのように軌跡を描いてゆく。

 

しかしその障壁は、僅かに武蔵の剣の歩みを遅らせた。

 

結果としてガレスは瞬時にその場から跳躍、武蔵の剣から逃れる事が出来た。袈裟がけに振るわれた剣の切っ先が僅かに届いたものの、致命傷は回避できた。

 

「フィンッ!」

 

「ああ!」

 

後方に飛んだガレス。その背を武蔵への障害物として利用し、あたかも突然現れたかのようにして、フィンは武蔵目掛けて飛び込んだ。

 

剣を振り抜いた格好の武蔵に、フィンは手にした槍の石突(いしつき)部分を振るう。狙いは屈んだ上半身、その脇腹だ。

 

決まるッ!!………見ていた者たち全員がそう感じた、次の瞬間だった。

 

フッ、と。武蔵の姿が掻き消える。

 

「!?」

 

空を切ったフィンの攻撃。振るわれた場所に武蔵の姿はなく、着地と同時に彼は素早く背後を振り返る。

 

そうして見たのは、武蔵の後ろ姿だった。

 

既に小さくなり始めていたその背中は、まるで風を纏ったかのような速さで駆け抜けてゆく。その速さの正体はオッタルとの戦いで見せた、脱力が成せる驚異的な移動法だった。

 

あまりの速度に反応出来ない【ロキ・ファミリア】の面々を置き去りにし、武蔵はアリーナを囲む壁を駆け上る。垂直にそびえ立つ5~6Mほどもある壁を、武蔵は一息で乗り越えてみせた。

 

「ひッ!?」

 

「オワァッ!!」

 

ダンッ!と客席に着地音が響く。近くにいた観客たちはいきなり現れた武蔵に慌てふためき、無理やりに前の人をかき分けて武蔵から離れて行った。

 

ものの数秒で無人となった武蔵の周辺。その中心に仁王立つ武蔵はくるりと振り返り、眼下のフィンたちをぎょろりと見下ろす。

 

「戦の相手を遥か頭上から見下ろす……ふふ、中々に気分がいい」

 

「ッ、てめぇ……!」

 

「やめなさい、クソ狼。誘ってるだけよ」

 

武蔵の言葉を挑発と分かっていても反応してしまうベートをティオネが諌める。最も、彼女自身も拳をきつく握り、静かに怒りに身を震わせているのだが。

 

「ガレス、無事か?」

 

「ああ、少し掠ったが問題は無いわい。助かった」

 

彼らから少し離れた場所では、リヴェリアがガレスに駆け寄り安否の確認をしていた。

 

リヴェリアが展開した魔法の障壁のおかげで事なきを得たガレスは、調子を確かめるように肩を回す。その肩口から見える出血は、武蔵の剣の切っ先でつけられたものだった。

 

各人が武蔵と睨み合うも、仕掛ける事が出来ない。彼の周囲には観客たちがおり、巻き添えを食うかも知れないからだ。

 

そんな膠着(こうちゃく)した状態の中、武蔵はごそりと懐に手を忍ばせる。またぞろ何らかの飛び道具が出てくるのかと身構えたフィンたちであったが、そうではなかった。

 

それは試験管に入った治癒薬(ポーション)だった。リリから煙幕玉を拝借した際に、一緒に抜き取っておいたのだ。

 

ポンッ、という小気味良い音とともに栓を開封した武蔵は、その治癒薬(ポーション)を一口煽る。直後、武蔵の体内で消え残っていた鈍痛が嘘のように引いてゆく。

 

「ほぉ。なんと優秀な妙薬か」

 

感心したような声を漏らし、残った液体を頬の傷へとかける。すると見る見るうちに出血は止まり、大きな傷跡が残るのみとなった。

 

空になった試験管を放り投げる。ガラスが割れる乾いた音と共に、武蔵は再びフィンたちを見下ろした。

 

彼らは苦虫を噛み潰したような顔で武蔵が回復する様を見ていた。迂闊に手を出せない状況とは言え、この変化は彼らにとって好ましいハズもない。警戒心を限界まで研ぎ澄ませ、全員が武蔵の一挙手一投足を見逃すまいとする。

 

そんな緊迫した【ロキ・ファミリア】に対して、武蔵が抱いた感情……。

 

抱いた心象(イメージ)……。

 

それは、こんなものだった。

 

 

 

 

 

そびえ立つ朱塗りの巨大な鳥居。

 

地の果てまで広がる懐石料理(ごちそう)の平原。

 

そして地平線の彼方に控える、絢爛豪華な黄金の城。

 

贅沢という言葉では到底足りない、形容し切れないこの光景はまさに―――――。

 

 

 

「………竜宮城だ」

 

 

 

―――――食べても食べても。

 

―――――飲んでも飲んでも。

 

―――――愛でても愛でても。

 

決して終了(おわ)る事のない宴。

 

………なんと目出度(めでた)い事か!!!

 

 

 

「食べ放題、飲み放題、愛で放題………何という贅沢」

 

武蔵の口角が吊り上がる。

 

途端に溢れ出る圧倒的な闘気。

 

その急激な変化に、フィンたちは目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。これほどまでに威圧された事など、今までの遠征でも感じた事はない。

 

そして………こんなモノ(・・・・・)が見えた事も、初めてだった。

 

 

 

 

 

武蔵の背後に幻視した巨大なモンスターの姿。

 

人類の悲願である『三大冒険者依頼(クエスト)』の目標の一つ。『陸の王者(ベヒーモス)』、『海の覇王(リヴァイアサン)』以上とも噂される怪物の王。

 

その正体は、かつての最強派閥であったゼウスとヘラの両ファミリアが結託して討伐に動くも逆に返り討ちにしてみせた、最強最悪の黒竜である。

 

巨大な翼を広げ、漆黒の鱗に覆われた体躯を誇るそのモンスターの名前は『隻眼の竜』。

 

「「「 ~~~~~~~~~~ッッッ!!? 」」」

 

その竜の姿が―――――武蔵と(かぶ)った。

 

 




ちょっと短めで。
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