ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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繰り出された武蔵の蹴りは、まっすぐにリヴェリアの腹部へと吸い込まれていった。

 

咄嗟に杖の柄を滑り込ませる事は出来た。しかし怪力を誇る武蔵の前に、その防御はあまりに頼りなく―――精製金属(ミスリル)聖皇金属(ホーリーダイト)で出来た杖は、真っ二つにへし折られた。

 

「がっ……!?」

 

そして、衝撃。

 

一瞬の間を置き、腹部から生じた激痛(いたみ)が全身を駆け抜ける。

 

圧倒的な存在感を主張するそれ(・・)に、リヴェリアの身体は完全に硬直してしまった。どうする事も出来ずに、彼女は蹴られた勢いのままに後方へと飛ばされる。

 

「リヴェリア!?」

 

ティオナの声が上がり、同時にティオネが蹴り飛ばされたリヴェリアをしっかりと受け止めた。

 

彼女を巻き込んでゴロゴロと地面を転がるリヴェリアは、10Mほどの距離でその勢いが止まった。受け止めたティオネはすぐさま彼女を仰向けにし、怪我の具合を確認する。

 

「ちょっと、リヴェリア!?」

 

「………ぁ……!」

 

苦悶に満ちた呻きが漏れた。

 

口の端からは一筋の血が流れ、形の良い眉が、絶世の美貌が苦痛に歪む。吐血からして内臓にダメージを負っているのは必至であり、また戦闘の継続も不可能である事を示している。

 

「ふむ」

 

一方の武蔵。

 

ヒュッ、と虚空に向けて剣を振るい、そして驚愕の表情を浮かべている【ロキ・ファミリア】一同へと向き直る。その手に獲物を携えたまま、武蔵は口を開いた。

 

「蹴ってみた」

 

平然とそう言ってのけた武蔵は、さらに続ける。

 

「臍から上は蹴とばさんが……まともに食らえばなかなかの効果だ」

 

何てこと無いかのように(のたま)うも、それがどれだけの意味を持つかを知るフィンたちは絶句した。

 

リヴェリアはオラリオでも最強と謳われるほどの魔導士だ。しかしその力は飽くまで魔導士としてのものであり、肉弾戦となると本来の実力の半分も出せないだろう。

 

だが、それでもLv6の肉体である。並みの攻撃で戦闘不能になるほどヤワではない。

 

そんな彼女が倒されたのだ。

 

何の技術もない、ただの蹴りの一発で。

 

その事実、武蔵の持つ規格外の膂力に、彼らは改めて戦慄を覚えた。

 

「さて。随分と広くなったが……」

 

腰に手を当て、観客たちがほとんどいなくなった闘技場を見回した武蔵はそう呟いた。

 

まばらに見える人影は【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちで、警備兵のように各々の持ち場に立っている。何らかの動きがあった際に、すぐさま主神であるガネーシャに報告する為であろう。

 

万が一のために武器を携帯しているが、抜く様子はない。武蔵との戦力差は歴然としており、自分から仕掛ける事はするなと厳命されているからだ。

 

つまり……この場には、武蔵と【ロキ・ファミリア】との戦いを直接的に妨げる者はいない、という訳である。

 

この場にいる武蔵以外の全員の顔に汗が伝う。

 

どう切り込む。

 

どう戦う。

 

……どう捕らえる。

 

そんな【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちの疑問に答えるように―――――観客席から放たれたのは、一筋の光の矢であった。

 

 

 

 

 

「【アルクス・レイ】!!」

 

魔法を行使したレフィーヤの脳裏に、先ほどまでの記憶が蘇ってくる。

 

フィンたちが観客席から飛び出す時、彼女も一緒に行こうと腰を浮かせたが、それは他ならないフィンによって静止された。

 

『レフィーヤ、君はここに残ってくれ』

 

『え?』

 

予想外の言葉に面食らったレフィーヤであったが、フィンは彼女に疑問を口にする暇さえ与えずに、矢継ぎ早に切り出した。

 

『君はここからムサシを狙え。僕たちが初手で彼を捕らえられなかった場合、君がムサシを行動不能に追い込むんだ。タイミングは君に任せる』

 

『!』

 

レフィーヤの高い魔力を考慮し、魔法の強襲によって鎮圧を図る。それがフィンの考えた作戦だった。

 

ある意味での“切り札”的な扱いに、杖を握る彼女の両手に力が籠った。

 

『……分かりました、団長!』

 

 

 

(ここ……この瞬間(とき)しかない!)

 

攻撃魔法『アルクス・レイ』を撃ち込んだレフィーヤは、絶対に当たると確信する。

 

高い魔力が込められた光の矢は一直線に武蔵へと向かってゆく。レフィーヤは武蔵の背後に立つような場所におり、彼のがら空きの背中を狙うのは容易だった。

 

リヴェリアがやられた時は思わず叫びそうになったが、アリーナ上のフィンが視線でそれを制した。その瞳に射抜かれ、レフィーヤは来るべきこの瞬間に備えていたのだ。

 

死角から撃ち込まれる光の矢。魔力量を調整して殺傷能力は抑えているものの、一度食らえば行動不能に追い込まれるほどの威力である。それは上級冒険者の肉体であっても例外ではない。

 

加えてこの魔法には追尾機能が備わっている。たとえ奇跡的に躱したとしても、光の矢は武蔵に着弾(・・)するまで執念深く追い続ける。

 

(絶対に逃れる事なんて出来ない!)

 

彼女は確信していた。絶対に当たる、絶対に逃れる事など出来ないと。

 

しかしその思いは半分正解で、半分外れていた。

 

武蔵の背中を穿たんとする光の矢。

 

その矢が着弾(・・)するかに思えた………その刹那。

 

 

 

ぐるんっっ!!と。

 

 

 

勢いよく武蔵が振り返る。

 

 

 

双眸を見開くレフィーヤ。しかし彼女の驚愕はそれだけに留まらなかった。

 

手にしていた刀を翻した武蔵はあろうことか、己に迫っていた光の矢を真っ向から迎え撃った。流れるような一連の動作に淀みはなく、レフィーヤの魔法は文字通り“一刀両断”されてしまう。

 

「ッッ!!?」

 

その光景に、全員の顔が強張った。

 

背後からの超速の魔弾。まともに正面から受けたとして、防ぐ事ならまだしも迎撃できる者は、果たしてどれだけいるだろうか。

 

事も無げにやってのけた武蔵はヒュラッ、と剣を空で泳がせると、そのまま静かに納刀した。

 

「どこかに弓兵が隠れているとは思ったが……一人だけか」

 

一人ごちるようにそう言葉を落とし、次いでその視線を襲撃者の元へと向けた。薄く開かれた双眸から注がれる無機質な眼差しに、レフィーヤの全身が硬直する。

 

「ひッ……!?」

 

「レ、レフィーヤ!?」

 

顔色を失った彼女の喉から引きつった悲鳴が漏れる。しっかりと立っていた両足はぶるぶると震えだし、遂には膝から崩れ落ちてしまう。

 

完全に戦意をなくしたレフィーヤはその場にへたり込み、隣にいるラウルが切迫した表情で彼女の名前を叫んだ。

 

そんな彼らの元へ、武蔵がつま先を向ける。

 

無造作に、無遠慮に。ズチャリと一歩、足を進めようとした……その直後。

 

 

 

「ぬぅうんッッ!!」

 

 

 

極太の剛腕が、武蔵の立っていた場所を通り過ぎた。

 

凄まじい風切り音を耳元に感じながらも、武蔵は余裕をもってその攻撃を回避する。そしてそのままくるりと身体の向きを変え、襲撃者の姿をその目に映す。

 

「ほう、おぬしか」

 

拳を振りぬいた格好の襲撃者……ガレスに、武蔵は僅かに笑みを浮かべた。

 

ガレスは躱される事を想定していたのか、はたまた最初から追撃するつもりだったのか、即座にもう一方の剛腕を振るう。迫りくる鉄拳を前にしてもなお、武蔵の表情は変わらない。

 

「おおぉおッ!!」

 

「おッほ!」

 

危なげなく避ける武蔵。しかし不意に、その顔に影がかかった。

 

「ん?」

 

異変を察知した武蔵が顔を上げる。

 

目の前のガレスの頭上よりもやや上へと向けられた視線の先。そこにあったのは、一筋の白い軌跡を描く銀靴だった。

 

ガレスの頭上を飛び越えて跳躍したベートは、勢いをそのままに身体を一回転。加速によって威力の増した回転蹴りを見舞う。

 

「オラァッ!!」

 

ガレスの攻撃が重い一撃だとすれば、ベートのそれは鋭い一撃だ。刃物さえも彷彿とさせる足技を繰り出した当の本人は、犬歯を剥き出してその顔を闘争心で満たしていた。

 

(ふむ………)

 

それに対して武蔵が取った行動は一つ。

 

ズ……、と。ごく僅かに、身体を後ろに引いただけである。

 

ガレスの時と同じく、空を切るベートの右足。どちらも武蔵が攻撃を回避しただけの事なのだが、その印象はまるで異なり、あたかもベートが相手との距離を見誤ったかのように見える。

 

「ちィッ!」

 

着地と同時に後方へと飛びのくベートに対し、武蔵は腑に落ちない感情を抱く。この獣人の性格から考えて、十中八九追撃を仕掛けてくると踏んでいたからだ。

 

何か思惑が……?と考える武蔵は首を回して後方を見る。

 

そこには特大の武器を携えた褐色のアマゾネス、ティオナが立っていた。引き締めた顔には年齢とは不相応の決意が現れており、今も鋭い眼差しを武蔵へと向けている。

 

そんな彼らから離れた位置。レフィーヤとラウルがいる観客席には、負傷したリヴェリアを抱えたティオネの姿があった。

 

壁によって隔たれている観客席へと一息に跳躍して飛び越えた彼女は、放心していたレフィーヤに喝を入れる。

 

「何をぼけっとしてるの、レフィーヤ!」

 

「テ、ティオネさん……?」

 

「しっかりしなさい!」

 

そう言ってティオネは、腕の中にいたリヴェリアをレフィーヤへと強引に預ける。傍らにいたラウルが慌てて手伝ったお陰で、レフィーヤはどうにか彼女の身体を取りこぼさずに済んだ。

 

腕に伝わる人の重みに、レフィーヤはようやく我を取り戻した。いつもの調子が戻ったレフィーヤに、ティオネは手短に用件を語る。

 

「団長からのご指示よ。私たちはムサシ(あいつ)の相手をする、あんたはリヴェリアを診てなさい」

 

「わ、私が、リヴェリア様を……!?」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】の治療班も呼んであるけど、リヴェリアの杖は折られたわ。もうこれ以上の戦闘は出来ない」

 

簡潔にそう言い残し、ティオネは踵を返す。

 

力なく身体を投げ出し、苦しげに瞳を閉じるリヴェリア。そんな彼女を前に、未だ動揺が解けないレフィーヤとラウルを振り払い、彼女はアリーナへとその身を躍らせた。

 

そうしてティオネが武蔵を取り囲む包囲網に加わった。四人全員が第一級冒険者、しかもその内の一人はLv6である。これほどの戦力を前に抵抗できる者が、果たしてどれだけいるだろうか。

 

アイズもその包囲網に加わるべく、金の長髪を揺らして駆け出そうとする。が、それに待ったをかける声があった。

 

「待て、アイズ」

 

「フィン……!?」

 

小人族(パルゥム)の首領の声に振り返るアイズ。その目には何故という困惑と疑問の色が浮かんでおり、いち早く駆け出したい彼女の心を掻き立てる。

 

しかしフィンはそんな彼女の思いを両断し、きっぱりと言い放つ。

 

「アイズ、君はここで僕と待機だ」

 

「ッ、なんで……!?」

 

アイズの抗議ももっともだ。仲間が戦う姿を指をくわえて見ているだけ、そんな事が冒険者である自分に……【ロキ・ファミリア】(オラリオ最大派閥の冒険者)に許容出来るはずがない。

 

フィンとてその思いに気が付いていない訳ではない。むしろ自分も今すぐに駆け付けたいくらいである。

 

そうしなかった理由はただ一つ。激しく疼く親指に、アイズ(最終兵器)の投入はまだ早いと悟ったからである。

 

「ガレス、ベート、ティオネ、ティオナ……すまない」

 

故にフィンは静観を決めた。

 

この後に控えているであろう激戦に、己とアイズを備えて。

 

 

 

 

 

「遅かったじゃん、ティオネ」

 

「うるっさいわね、あんたみたいに暇じゃないのよ」

 

「べちゃべちゃ喋ってんじゃねぇぞ、アマゾネスども」

 

「まったく、協調性のない連中じゃわい……」

 

武蔵を取り囲む冒険者たち……ガレス、ベート、ティオネ、ティオナの四人は、視線を一点に固定している。彼らの両目が捉える標的は言うまでもない。軽口を叩き合うガレスたちに対し、彼らの視線を一身に受ける武蔵は先ほどから無言のままだ。

 

確かにこれほどの戦力に四方を囲まれれば普通は手も足も出ない。しかしここにいる武蔵は、あの『猛者(おうじゃ)』を下したほどの規格外の怪物。いつもの調子を取り繕う彼らではあったが、その心はかつてないほどに張りつめている。

 

「ふむ」

 

不動の姿勢のままに頷く武蔵に、ガレスたちはごくりと生唾を飲み込む。

 

「囲めばどうにかなる……とでも考えたか?」

 

まるでこうなる事を予知していたかの如く、武蔵は平然と言い放った。

 

多勢に無勢、孤立無援、絶体絶命……四方を囲まれる状況になる事は分かっていたハズなのに、まるで余裕の態度を崩していない。その姿に【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちは戦慄する。

 

そして、武蔵が動きを見せた。

 

すっ……と、無手のままに両手を大きく広げ、僅かに腰を落とす。

 

途端………陽炎すら錯覚させる、濃密なオーラが放たれる。

 

「「「 ~~~~~~~~ッッッ!!? 」」」

 

観客席から見た時以上の、至近距離で感じる“凄まじさ”。個人としての戦力とはここまで至るものなのかと問い正したくなる程に、武蔵の持つ『強さ』を思い知らされる。

 

「ッッ!?」

 

「うっそ……」

 

「なん………!?」

 

ベートが、ティオナが、ティオネが。Lv5の冒険者たちの顔が驚愕に染まる。

 

無手のはずの武蔵の両の手。持っている刀は一振りにも関わらず、腰に収められているにも関わらず………両の手に二振りの刀を幻視して。

 

「………」

 

ガレスの顔から汗が噴き出す。

 

かつてフィンが下した評価………“悪魔的”なまでの闘気を目の当たりにして。

 

「遠慮するな」

 

彼らの渦中に立つ武蔵が、静かに告げる。誰を見るでもなく、正面から全体を見渡しながら。

 

「いつでも構わん………来い」

 

 

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