ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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黄昏の館、客間。

 

現在ここには【ロキ・ファミリア】所属の冒険者数名が揃っていた。

 

団長、フィン・ディムナ。

 

副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

団員、アイズ・ヴァレンシュタイン。ティオネ・ヒリュテ。ベート・ローガ。ラウル・ノールドの計6名。

 

主神ロキも加えて彼らの視線は一箇所に集約している。客人用のソファにどっしりと腰を落ち着かせている、宮本武蔵である。

 

「夕食が出来るまでまだ時間があるからね。ちょっと話でもしないかい」

 

「うむ、構わんが」

 

武蔵の正面のソファに座るフィンはにこやかに対話を始める。傍らにいるアイズ達はその話し合いを邪魔しないように口を閉じている(ベートは嫌悪感を隠そうともしていないが)。

 

さて、と前置き、フィンが口火を切る。

 

「マナー違反なのは承知の上だけど、君のレベルと所属しているファミリアの名前を教えてくれないか?恥ずかしながら、君程の腕の冒険者を僕たちは知らなくてね。出来れば教えてほしい」

 

「俺の“れべる”と“ふぁみりあ”か?」

 

ふむ、と腕を組んで考え込む武蔵。その様子、にフィンは直球過ぎたかと反省する。

 

当然の事である。ファミリアはともかく、レベルとは無闇やたらにひけらかすものでは無い。

 

しかし、武蔵はあっけらかんと答えた。

 

「“れべる”はよく分からんが、“ふぁみりあ”なら答えられるぞ」

 

(流石にレベルは教えてくれないか……)

 

分からない、とお茶を濁す武蔵。フィンは胸中を悟られないよう、顔には出さずにそれで了承する。

 

「それだけで十分だよ、ありがとう」

 

「では……俺の所属は【へすてぃあ・ふぁみりあ】と言う」

 

【ヘスティア・ファミリア】。

 

その聞き慣れない神の名前に、フィンはもとよりアイズ達の頭にも疑問符が浮かぶ。あの実力から察するに【ガネーシャ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】のような、強大なファミリアの所属だと思っていたからだ。

 

武蔵の返答に誰もが訝しんだ。

 

一名……否、一柱を除いて。

 

「ハァ!?自分ドチビんトコの眷属(こども)やったんかッ!?」

 

「何か知っているのかい、ロキ」

 

突然のロキの発言に、その場にいた全員が注目する。

 

聞いてみれば、そのヘスティアという神はつい最近ファミリアを立ち上げたと言う。そんな零細ファミリアにあるまじき実力者がいる事に、フィン達は更に混乱した。

 

「どういう事?」

 

改宗(コンバート)でもしたのか……?」

 

様々な憶測が飛び交う中、フィンが更に探りを入れる。

 

「……以前はどこの所属だったのか、聞いても?」

 

「それならば細川殿の所になるが……」

 

「………」

 

訳が分からない。そんな顔をするフィン。

 

「ンな事はどうでも良い」

 

と、ここで。

 

今まで黙っていたベートが動いた。苛立ったような口調で背を預けていた壁から離し、ずかずかと移動する。

 

「ちょっと、ベート……っ」

 

「黙ってろティオネ。俺が用があんのはコイツだ」

 

ティオネの制止を無視して武蔵の元まで詰め寄るベート。傍らまでやって来た彼は歯を剥き出しにし、ソファに座っている武蔵を見下ろした。

 

「よォ、数日振りだな」

 

「おお、少年(ボン)

 

その声に武蔵は顔を上げる。その視線の先にいるベートは、今にも飛びかかりそうな顔で睨み付けている。

 

「背中はもう良いのか?」

 

「てめぇ……!」

 

「やめるんだ、ベート」

 

いよいよ剣呑な空気が張り裂けようとした瞬間、すかさずフィンが止めに入る。目を血走らせるベートは振り返り、フィンにさえその怒りの形相を向ける。

 

「止めんなッフィン!俺はコイツを……!」

 

「やめろと、僕は言ったよ」

 

しかしフィンは少しも怖気ない、譲らない。その言葉に込められた団長としての命令に、ベートは苦虫を噛み潰したような表情で佇む。

 

「チッ!!」

 

盛大に舌打ちし、ベート。退室していった。閉ざされていた扉を乱暴に足で蹴り開けて去ってゆくベート、その轟音に廊下にいた他の団員達の肩がすくみ上がる。

 

再び部屋に静寂が訪れる。

 

「……うちの団員が無礼を……」

 

「否!それには及ばん」

 

武蔵はフィンの謝罪を遮り、きっぱりと言い放つ。アイズ達は武蔵が何を言うのかと注目していたが、その口からは驚きの答えが返ってきた。

 

「赦されい、皆の衆。少しからかってみた」

 

「「「 !! 」」」

 

一同は武蔵のその言葉に驚愕する。

 

オラリオでも屈指の実力者であるベートに対して、からかってみたとのたまう武蔵。まるで相手にしていない様子さえ感じさせる武蔵に、ある者は動揺を隠せず、ある者は閉口する。

 

そしてまたある者はベートが……【ロキ・ファミリア】が舐められている(・・・・・・・)と、静かに憤慨する。

 

「言ってくれるじゃない……!」

 

ベートに負けず劣らずの形相を浮かべたのはティオネだった。隣にいたラウルがすくみ上る程の憤怒(いか)りを見かね、リヴェリアが彼女を諌めている。アイズも平静を装ってはいるものの、その胸中は穏やかではないだろう。

 

「待て待て。からかったとは言ったが、別に俺はあいつが弱いなどと言った覚えはないぞ」

 

「……どういう意味だい?」

 

皆の思いを代弁するかのように、フィンが口を開く。武蔵はふむ、と一拍おき、自身の思いを述べる。

 

「一見すると賭場の三下のような振る舞いではあったが、その実、良く鍛えられておる。おぬしらも同様に、かの戦国の世にあってもそこそこ名を成したであろう」

 

しかし、とそこで武蔵は再び一拍おき、総評を述べる。

 

「俺ほどじゃないがな」

 

 

 

ピキッ、と。今度こそその場が凍り付いた。

 

 

 

勇者(ブレイバー)

 

九竜姫(ナイン・ヘル)

 

怒蛇(ヨルムガンド)

 

『剣姫』

 

【ロキ・ファミリア】最大戦力の半分がこの場にいるにも関わらず、言い放ったその言葉。ティオネは言うに及ばず、今まで彼女を諌めていたリヴェリアも、静かに聞いていたフィンも、平静を装っていたアイズも、皆が武蔵を険しい表情で見つめている。

 

(いやぁ~~~、こらアカンわ)

 

唯一、主神のロキとラウルだけが、このとんでもない発言に目を見開いて驚愕している。

 

「……随分と言ってくれるじゃないか」

 

すっ、とフィンがソファから立ち上がる。

 

小人族(パルゥム)である彼は立ち上がっても、ソファに腰かける武蔵と同程度の目線にしかならない。しかしその目には既に濃密な闘気が宿っている。

 

「ラウル、演習場は空いてるね?……今から僕とこのムサシで少し手合せがしたい」

 

「なっ、団長!?」

 

その発言にラウルはもちろん、アイズ達も驚いた。

 

「大丈夫、怪我はさせない。ただここまで言われてハイそうですねと引き下がれる程、僕も人間が出来ていないんでね」

 

「いやいやいや、無理っす!団長は『勇者(ブレイバー)』、オラリオでも屈指の実力者なんすよ!?自分でも分かるっす、今の団長は冷静じゃないっす!?」

 

「フィン、気持ちは分かるが少し落ち着け。いつものお前らしくもない」

 

「大丈夫、手合せだけさ。槍は使わないし、使う必要もない(・・・・・・・)

 

ラウルとリヴェリアの制止も聞かないフィンは既にやる気で、未だに座ったままの武蔵を振り返る。

 

「僕はLv6の冒険者、五体が武器さ。ムサシは刀を持っているようだけど……」

 

にぃ、と口元を獰猛に歪め、フィンは静かに口を開く。

 

「手刀に足刀、貫手に前蹴り……刀も槍も、よりどりみどりさ」

 

 

 

クス……。

 

 

 

「面白いことを言う……」

 

忍び笑いであった。

 

普段の冷静沈着なフィンからは到底考えられない爆弾発言にアイズ達が固まっている中、不意に武蔵が笑い始めたのだ。

 

その笑いの意図が分からないアイズ達は、困惑の表情で武蔵を見やる。

 

そうしている内にも、武蔵の笑いは止まらない。

 

「アンタらは実に滑稽だっ」

 

ゆっくりとソファから立ち上がる武蔵。忍び笑いはいつしか笑い声に変わり、部屋に響き渡る。

 

「たかが徒手空拳を“武器”と称し、周囲もまたそれを受け入れる」

 

「紙きれ一つ切れぬ生身に、刀だの槍だのと!!!」

 

「もはや茶番にも値せぬっっ」

 

開いた口が塞がらない、と言った様子のロキとラウル。

 

瞠目するアイズ、リヴェリア、ティオネ。

 

そして、無表情のフィン。

 

ぎょろり、と武蔵がフィンをその目で射抜き、決定打となる台詞を言い放つ。

 

 

 

「冒険者の演習とはさしずめ、児戯!小童の遊びといったところか。なァ!」

 

 

 

メキッ。

 

床を踏み抜く音が聞こえた。

 

フィンの小さな体躯は弾丸のような速度に武蔵に肉薄し、渾身の右足刀が繰り出される。

 

その余りの速さに、誰もが反応出来ずにいた。辛うじてその残像を追う事が出来たのは、ファミリアでも最速を謳われるアイズくらいか。

 

故に、その後の光景は目を疑った。

 

フィンの足刀が武蔵の顔面まで迫ったその瞬間、武蔵の右手がブレた。否、もはやそれは消えたと言っても過言では無い。

 

顔面を打ち据えられる直前、武蔵の両手はフィンの身体の前に置かれる。

 

 

 

その手に、刀を握った状態で。

 

 

 

驚愕に目を見開くフィン。その上半身に武蔵の刀身がしっかりと食い込み、その小さな体が空中でピタリと止められる。

 

直後、ダンッ!という音と共に、フィンの身体は床へと叩き付けられる。

 

アイズ達から見ても、その刀身はフィンの上半身にしっかりと埋まっており、血が出ていないのが不自然なくらいであった。

 

「……斬………」

 

その言葉は誰のものであったのだろうか。

 

静寂に包まれた部屋の中で誰一人として動けない中、武蔵はゆっくりと刀身をフィンの上半身から離す。

 

「ふむ……」

 

驚愕の表情を浮かべたまま倒れるフィンを見下ろしつつ、武蔵は静かに口を開いた。

 

「斬ってはおらぬ」

 

そしておもむろに左の掌を刀身に添え、ムニ……と強く押し当てる。

 

「当てて……圧しただけ」

 

刀身が離れた掌には線が残ったものの、確かに切れてはいない。刃に晒されたというのに、皮膚は全く傷ついてはいなかった。

 

「圧しただけでは、押しただけでは切れやせぬ」

 

今度こそ全員、空いた口が塞がらなかった。彼らの驚愕を余所に、武蔵の講義は続けられる。

 

「このように……」

 

そう言って武蔵はおもむろに胸元から何かを取り出す。日中にモンスターを退治した時に手に入れた魔石だ。

 

その魔石を空中へ投げたかと思えば、次の瞬間には魔石が真っ二つに斬られていた。

 

「当てて引かねば切れやせぬ」

 

カランっ、と澄んだ音と共に二つに分かれた魔石は床へと落ち、武蔵の足元に転がる。

 

「刃物とはそういうもの、皮膚とはそういうもの。いかな無銘・金重と言えども、その道理から外れる事は叶わん」

 

講義を終えた武蔵は静かに納刀し、アイズ達を見やる。

 

と、そこで武蔵は自身の左の頬をさする。

 

「ほう」

 

その手は血に濡れていた。武蔵がフィンの攻撃を防ぐよりも数瞬早く、その足刀は届いていたのだ。

 

「これはこれは」

 

武蔵は天を仰ぎつつ、嬉しげに笑う。そして足元に倒れ伏すフィンに視線を向け、ゆっくりと口を開く。

 

「大いに反省せねばなるまい……『紙きれ一つ切れやせぬ』?とんでもない」

 

「“ふぃん”とやら……あなたの手足は立派な刃だ」

 

まるで『豊穣の女主人』の時の焼き直しの様な光景。武蔵本人は斬ってはいないと言うが、その場にいた誰もが、胸中に抱いた思いは同じであった。

 

 

 

ぶった斬られた………!!!

 

 

 

 

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