ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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時刻は真夜中、魔石灯の明かりが街並みを照らし、多くの冒険者たちが酒場に出入りし、大声で笑い合っている。

 

そんな中、武蔵は黄昏の館を出てオラリオの街を歩いていた。

 

流石に他ファミリアの団長をのしておいて悠々と夕食をごちそうになる程、図々しくはない。よって依然、空腹のままである。

 

「腹へったなぁ」

 

武蔵はどこかで夕食をとるべく、周囲の酒場を眺めながら歩く。その道中で、不意にその右手が左の頬に当てられる。

 

「ふふ……“ふぃん”と言ったか」

 

先程の出来事を思い出しつつ、自然とその口元に笑みが浮かぶ。

 

あの子供と変わらない見かけをした勇士の顔を思い出し、懐かしむように口を滑らせる。

 

「良い“目”であった」

 

小僧っ子の頃を思い出す。

 

武蔵はそんな事を思いながら歩いていた。そしてその足は、一件の酒場の前で止められた。

 

「あっ、ムサシさん!」

 

「おう、また来たぞ」

 

薄鈍色の髪を持つウェイトレスに歓迎されながら、武蔵はその酒場へと入って行った。

 

 

 

 

 

朝、と言うには少し遅い時間。ベルとヘスティアは本拠(ホーム)へと戻っていた。

 

怪物祭(モンスターフィリア)』での一件の後に突如倒れたヘスティアの介抱のため、『豊穣の女主人』の従業員用の寝室を借りていた彼らは、その後帰宅を果たした。

 

「ただいまー、帰りましたー!」

 

「む……おう、“べる”。それに“へすてぃあ”」

 

「ただいまぁ~、ムサシく~ん」

 

未だに疲労困憊(こんぱい)と言った様子のヘスティアに肩を貸しつつドアをくぐるベル。

 

武蔵はと言うと床に胡坐をかき、壁に背を預けた状態で寝ていた。しかしベル達の帰宅と同時に目を覚ましたようで、その顔をゆっくりと上げる。

 

「どうした、随分と疲れておるが」

 

「本当ですよ、すごく疲れました……」

 

「ふっふっふ、しかしそれだけの収穫はあったぜ」

 

ヘスティアはベルに掴まったままの状態でグッと親指を突き上げ、何故か不敵に笑って見せる。その意味する所を知らない武蔵は不思議そうな顔をしている。

 

「聞いておくれ、ムサシ君!なんとっ、ベル君のステイタスが爆上がりしたんだ!聞いて驚け、なんとトータル600オーバーだぁーーーーーッッ!!」

 

ばぁーーーんっ!!と効果音が付きそうな勢いでそう言ってのけるヘスティア。しかしその勢いでベルはバランスを崩してしまう。

 

掴まっていたヘスティアも引かれる形でベルの上に倒れ、二人はもつれるようにして床に倒れ込んだ。

 

「うわっ!?神様、大丈夫ですか!?」

 

「うぐぅ、へ、平気さベル君。君がこうして受け止めてくれたからね……!」

 

「え……わ、わぁ!?」

 

ベルの両手はヘスティアの小さな肩をしっかりと掴み、二人の身体は衝撃が分散するようにしっかりと密着していた。ヘスティアの豊かな双丘はベルの胸に押し付けられ、自然と暴力的な形に変えられており……。

 

「ごっ、ごめんなさい神様ぁ!?」

 

「気にするなベル君!それよりボクはまだ疲れが取れていないようだ、起こしておくれ!」

 

「このままじゃ起き上がれませんっ!!」

 

「それじゃあこのまま添い寝しておくれ!人肌が恋しいんだ~~!」

 

真っ赤になるベルと迫るヘスティア。

 

完全に二人の世界に浸っている彼らを見下ろしつつ、武蔵はどうしたものかとその場に突っ立っている。

 

「って、あれ?ムサシ君、その頬はどうしたんだい?」

 

「ああ、これか」

 

やっと落ち着きを取り戻したヘスティアが、武蔵の頬を見てそう指摘する。その頬には以前に武蔵が作った傷薬(馬油(ばーゆ)に藁の炭をこねた物)が塗られており、それは傷口に沿って横一文字に広がっていた。

 

コリ……と武蔵は顎を掻きながら、ヘスティアの問いに答える。

 

「少しやり合ってな、その時の傷だ。さして深くはない、じき治る」

 

「そうかい、それは良かった。……そう言えばムサシ君、君はまだステイタスの更新をしてなかったよね?」

 

「あの妙な儀式の事か」

 

「妙な儀式って言われるのは少し心外だけど……まぁいいや、せっかくだし今やっちゃおうか」

 

そう言って、ようやくヘスティアはベルの上からどいた。フラフラと若干おぼつかない足取りで寝室まで歩きながら、彼女はベルにシャワーを浴びるように促す。

 

「ベル君、君はシャワーでも浴びてきてくれ。いつまでも埃まみれなのは嫌だろう?」

 

「あっ、それなら神様が先に……」

 

「ボクはムサシ君の更新を済ませてからにするよ。それとも……終わるまで待って、一緒に入るかい?」

 

じゅるり、と肉食獣のような顔で舌舐めずりするヘスティア。標的(ターゲット)である哀れな兎は一瞬だけ硬直し、再び顔を真っ赤にしてその場から一目散に走り出す。それはもう脱兎の如く。

 

「さっ、先に頂きますーーーっ!?」

 

「あ~ん、ベル君のいけず~」

 

「なんだ、まだまだ元気だな」

 

 

 

 

 

着物をはだけさせ、武蔵は上半身を剥き出しにしてベッドにうつ伏せになる。その巨大な背中の上にヘスティアはどうにか跨り、手にした針で指先を少しだけ突き刺す。

 

(相変わらず、スゴイ背中だ……)

 

ヘスティアが見下ろす武蔵の背中は筋肉が隆起し、ベルとはまるで正反対の印象を与えた。まるで彫刻と見紛うばかりのその筋肉が、武蔵の並々ならぬ力強さを伝えてくる。

 

(それだけじゃない。全身に刻まれた刀傷……一体どれだけの修羅場を潜り抜ければこれほどの……)

 

刻まれた恩恵(ファルナ)の下にまで広がる、幾つもの刀傷。

 

最初に恩恵(ファルナ)を与えた時から刻まれていたそれらは、Lv1の冒険者(・・・・・・)には余りにも似つかわしくない。歴戦の冒険者でも、こうはならないだろう。

 

(ムサシ君……君は一体……)

 

「どうした、(はよ)うせい」

 

「うぇ!?ごっ、ごめんごめん!すぐに済ませるよ!」

 

武蔵に急かされ、その背中にポトリと一滴の神血(イコル)を落とす。その場所をなぞり、左端からゆっくりと刻印を施していく。

 

瞬く間に各能力値が数値化されてゆく。ヘスティアは慣れた様子で【神聖文字(ヒエログリフ)】を読み取り―――――その顔に困惑の色が浮かぶ。

 

「え?」

 

ヘスティアは目を疑った。その視線の先に記された【神聖文字(ヒエログリフ)】には、こう書かれていた。

 

 

 

宮本武蔵

Lv1

 

力:I0→I0 耐久:I0→I0 器用:I0→I0 敏捷:I0→I1 魔力:I0→I0

 

魔法  【   】

 

スキル 【   】

 

 

 

(これは……!?)

 

ヘスティアは静かに驚愕した。

 

確かに恩恵(ファルナ)を受けた所で何もしなければ、ステイタスは上がりはしない。モンスターとの戦闘を繰り返し、自身の腕を磨く事で、初めて能力は上がる。そしてLv1の冒険者であれば1層程度のモンスターとの戦闘であっても、最初はそれなりに上がるものだ。

 

しかし、武蔵は違っていた。

 

(おかしい……能力値の上昇がたったの1だけなんて!)

 

敏捷:I0→I1。これだけが武蔵の能力値の変動であった。

 

“とあるスキル”で能力値が爆発的に上がっているベルも異常だが、武蔵も異常だ。真っさらな状態からのスタートは他の冒険者と同じなのに、数日経ってもこれだけしか上がっていない。

 

「終わったか?」

 

「………ぁ、あ、うん。ごめんよ、待たせてしまって」

 

「構わん。で、どうだった」

 

「え?」

 

「“すていたす”だ」

 

「あ、ああ!ステイタスだね!うん、心配いらないよ!最初の頃は皆こんなモノさ!」

 

ヘスティアは咄嗟に武蔵のステイタスの変化について、お茶を濁すような回答をした。怪しまれるか、と身構えたヘスティアであったが、意外にも武蔵は興味無さげに「そうか」と答えただけだった。

 

更新を終えた武蔵はさっさと着直してベッドから降り、リビングへと戻って行った。呆気に取られるヘスティアは未だにベッドの上に座り、無言で武蔵の背を見ている。

 

「強くなった気もせんかったしなぁ」

 

寝室から出てゆく直前、武蔵はポツリとそう零した。

 

その呟きはヘスティアの頭に妙に残り、同時に先程も浮かんだ疑問が再び湧き上がるのを感じる。

 

(ムサシ君……本当に、君は一体何者なんだい……?)

 

 

 

 

 

同時刻、黄昏の館。

 

武蔵がフィンを軽くあしらってみせた客室には、フィンを除く【ロキ・ファミリア】の幹部勢が雁首を揃えていた。

 

昨夜の出来事をその目で見ていたアイズ達の口から語られた内容に、当然の如くティオナ達は目を見開いて驚愕する。フィンがやられたという事は、それだけの衝撃であった。

 

「まさか団長が……」

 

「ウッソでしょ……」

 

「信じられん……」

 

レフィーヤとティオナ、ガレスは困惑の表情を浮かべている。ベートは壁にもたれながらも、その顔は激しく歪んでいる。

 

「クソがッ……あのヤロォ……!!」

 

「やめろベート。呻いた所で事実は変わらん」

 

「黙れババアッ!!こンだけコケにされたんだぞ、このままでいられるかよッッ!!」

 

怒り狂うベートをリヴェリアは懸命に諌めるも、全く効果は無い。組まれた腕から聞こえてくるミシリという音が、彼がどれだけ激怒(おこ)っているかを物語っている。

 

「アイズさんでも、刀を抜く動作は見えなかったんですか?その……ミヤモトさんの」

 

「うん……全然、見えなかった」

 

立ち尽くし、俯くアイズにレフィーヤが語りかける。

 

アイズはあの時の光景を思い出す。

 

抜刀の瞬間は見えず、気が付けばフィンの攻撃は阻まれていた。魔法などによる補助も無く振るわれたその一撃は、宮本武蔵という人物の持つ卓越した技量を、アイズにこれでもかと見せつけた。

 

「そういえば、フィンは?」

 

「今朝から自室に篭ったまま出てこない。呼びかけには答えるし、大事には至っていないだろうが」

 

「そっかー……って、ティオネ?さっきから黙ってるけど、大丈夫?」

 

リヴェリアからフィンの現状を聞いたティオナは、ここでティオネの様子を心配した。今朝からどこか心ここに非ずといった様子の彼女であったが、不意に口を開いた。

 

「……団長…………ショックを………傷心して………」

 

「て、ティオネ?」

 

「あ?」

 

俯いてぶつぶつと何やら呟いているティオネに、危険な香りを感じ取るティオナとベート。

 

彼らのその野生じみたその勘が指し示した通り、ティオネは目をカッ!と見開き、はっきりと言葉を発する。

 

「……看護(みまも)らないと………」

 

「え?」

 

「私がッ、看護(みまも)らないとッッッ!!!」

 

バッ!!と勢いよく顔を上げるティオネ。瞳孔が開ききったその目は血走り、長い髪の毛を逆立たせながら彼女は狂ったように声を荒げる。

 

看護(みまも)らねばッッ、私が団長を看護(みまも)らねばァァアッッッ!!!」

 

「きゃぁぁあああああああああああああ!!?」

 

「おっ、落ち着けバカアマゾネスッ!?」

 

「なんか口調まで変わってるしーーーっ!?」

 

「ティオネっ……落ち着いて……!!」

 

今にもフィンの自室に殴り込み、看護(みまも)ろうとする彼女を、上級冒険者が3人がかりでなんとか食い止める。近くにいたレフィーヤは何も出来ずに悲鳴を上げている。

 

「ティオネも相当参っているようじゃのう……」

 

「目の前で見たんだ。フィンに懸想している故にショックが大きかったんだろう」

 

「ところで、ロキの姿が見えんが」

 

「ああ、あいつなら……」

 

 

 

 

 

「もうずーっと無言なんやけど、いい加減なんか言うてや」

 

ロキの呑気な声が部屋に空しく響く。

 

場所はフィンの自室。ロキは近くにあった木椅子に腰かけながら、目の前のフィンにそう語りかける。

 

部屋の主であるフィンはロキと向い合せに、ソファに座っている。手を組み、顔をふいたままの姿勢で、彼は何時間もの間、何やら考え事をしているようだ。

 

「……もうそろそろウチ泣くで?フィンが引くほどわんわん泣いたろか?」

 

遂に沈黙に耐え兼ねたロキが最後の手段に出ようかとした、その時。俯いたままのフィンの口が動いた。

 

「……ロキには、ムサシはどう見えたんだい?」

 

「?」

 

急に振られたその質問に面喰らうロキ。彼女が答えられずにいると、フィンは顔を上げて、更に語る。

 

「僕の目には最初、彼が屈強な冒険者に見えた。身に纏う気配も相まってね」

 

「まぁ……そうやね。ベートをぶん投げるくらいの腕っぷしやし」

 

「そう、彼は強い。それだけなら良かったんだけど……」

 

「……なんかあるんか?」

 

珍しく言葉を濁すフィンに、ロキは怪訝そうな顔で先を促す。フィンは少しの間を置き、再び口を開くが、その内容はロキが思っていたものでは無かった。

 

「……男として生まれたら誰しも一度は目指すものは何だと思う?ロキ」

 

「なんやいきなり」

 

唐突な質問に、またしても面喰らうロキ。フィンはその反応を予想していたかのようにふっ、と笑い、その答えを口にする

 

「“最強”という称号さ。程度に違いこそあれど、男なら誰しも一度はそれを目指すものなんだ」

 

それを呼び起こされた。と、フィンは言った。

 

 

 

「僕の目標は一族の再興、それは絶対に成し遂げると決めているし、投げ出すつもりなんて毛頭無い」

 

「でも彼……ムサシの目を見た瞬間、それすらもどうでも良い(・・・・・・)と感じてしまった」

 

「“俺が最強だッ”。“俺が一番強いんだッ”。………彼は本気でそう考えている」

 

「ムサシは誇示したいんだ。自分の強さを、凄さを、とんでもなさを……男に生まれた者なら皆が羨む称号、“最強”を持っているのは俺なんだぞッ!!……と」

 

 

 

「そんなものを見せつけられて……気が付けば飛び掛かっていたよ。その最強(称号)欲しさにね」

 

フィンは一息でそこまで言い、ふぅ、と溜め息を吐いた。

 

ロキは笑うでもなく、呆気に取られるでもなく、ただ黙ってフィンの言葉を聞いていた。その言葉に込められたフィン()の思いを、しっかりと受け止めた。

 

「いくら冷静ぶっても、いくら風格を持っていても、やっぱり僕も一人の男だったという事さ。“最強”という称号を欲する、どこにでもいる一人の男だったんだ」

 

フィンは武蔵の刃が食い込んだ上半身を撫でる。その口元にはうっすらと笑みが浮かんでおり、負の感情は全く感じていないようだ。

 

「バッサリ斬られるならまだしも、こうして無傷で制されるという気の遣いようだ。ただの敗北よりもずっとタチが悪い。少なくともこっちは本気のつもりだったのにね」

 

「………」

 

「斬られるよりも……ずっと痛い」

 

沈黙が二人を包み込む。

 

数秒か、数時間か。やがてロキが重苦しく口を開く。

 

「掛ける言葉が―――――見つからんわ」

 

「気を遣わなくても良いよ、ロキ。清々しいまでの完敗だった。それ自体には何の未練も無い」

 

「ほんなら、諦めるんか?“最強”を」

 

ロキは自然とそう尋ねていた。目の前にいる『ロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナ』ではなく、『一人の小人族(パルゥム)の男』に対して。

 

「………昨日までの僕なら、一族の再興だけが目標だと断言していただろうけど」

 

フィンは穏やかに笑いながら、こう答えた。

 

「今は、“最強”も目指してみようかな」

 

 

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