私が住んでいる高等部菊花寮は一人部屋が割り当てられている。だからつい油断して散らかしちゃうのを、この一週間、放課後を使って掃除した。……図書委員の仕事の後だからなかなか時間を取るのは難しかったけど、まがりなりに星花に通う先輩として恥ずかしいところのないように頑張ったつもりだ。……それでもまぁ緊張する。同級生はわたしのちょっとずぼらなとこも知ってるし、菊花に住んでいる女の子たちはわりと勉強以外でちょっと抜けたところもあるし。ただ、年下の女の子相手にはきちんとした“お姉さま”でありたいの。
「服装、よし。寝癖なし、うん。いい感じ」
うすくドットの入った白いブラウスは青のリボンタイが上品に見せてくれるし、ターコイズのジャケットと合わせれば甘すぎず大人っぽさを演出できる。スカートはちょっと透け感のある膝下丈が落ち着いた雰囲気だし、夏先取りって感じ。靴下はシンプルに白。
「なんか緊張しちゃうなぁ。大丈夫だよね……?」
――ピンポ~ン♪――
「あ、来た! はーい」
扉を開けると、居たのは紅葉ちゃんだけだった。
「かおりはもう少し仕度に時間がかかるみたいで」
そう言って一礼してから部屋に入る紅葉ちゃん。上品な淡いグリーンのワンピースが時季っぽい。襟や袖口など要所に白が散りばめられていて、レースの装飾もとても綺麗だ。
「ワンピース、似合ってるね。紅葉ちゃんでもグリーン着るんだね」
「ふふ、この季節ですから」
そんなやり取りをしながら居間に通して、飲み物のしたくをする。紅葉ちゃんのために用意したこれを喜んでくれるかな?
「あ、抹茶ラテ」
「いやだった? 抹茶が好きって前に言ってたから」
「い、いえ、好きです。ありがとうございます」
アイス抹茶ラテを紅葉ちゃんの前において、自分はアイスココアを飲む。
「菊花寮に入ったの初めてです。……広いですね」
いつものように丁寧に編まれた三つ編みを指先で弄びながら、落ち着かなそうに部屋を見渡す紅葉ちゃん。わたしもかおりちゃんに部屋へ引っ張られた時は少し緊張したから……まぁ、緊張するよね。
「「あ、あのっ」」
……被ったぁ!
「お姉さま先どうぞ」
「え、いいよ。紅葉ちゃんからで」
少し俯いてやっぱり緊張したような面持ちで、紅葉ちゃんが口を開いた。
「お、お姉さま、す……好きです!」
耳に届いたその声は、かすかに震えていたけれど……確かにわたしへの好意の言葉だった。
「物語の中にしかないと思っていた感情が実際にあって……私、分からなくなってしまって……でも、お姉さまなら……お姉さまとなら!」
「紅葉ちゃん……わ、わたし」
「分かってます。女同士なんて……でも、でもっ」
「違うの紅葉ちゃん!」
わたしだって……。紅葉ちゃんのこと……でも……。
「いいんです……伝えられたから。自分の言葉で言えたからっ」
そう言って駆け出す紅葉ちゃんの背中を追うことがわたしには出来なかった……。言えないよね、紅葉ちゃんのこともかおりちゃんのことも好きだなんて……。