「ほら、開けるよ」
桜花寮の紅葉ちゃんとかおりちゃんの部屋の玄関前。かおりちゃんはもう扉に手をかけているけど、わたしが待ってって言ったから、待ってくれている。
「まだ、待って」
いざ紅葉ちゃんと会うとなると……さっきまで湧いていた勇気がどこかにいっちゃって……。
「かなみちゃん」
かおりちゃんに裾を引っ張られて、少し前のめりになる。
「「ちゅっ」」
ま、またキス……しちゃった。
「大丈夫のおまじない。ほら、行こうよ」
子供っぽいとか、護ってあげたくなるような、なんていう風にかおりちゃんのことを思っていたけど、……かおりちゃんはわたしが思っている以上に芯の強いしっかりした女の子なんだって、やっと分かった。だから紅葉ちゃんのことも、もっと知りたい。
「うん、もう迷わない」
扉を開けて、靴を脱いで廊下を真っ直ぐ進む。リビングを通って寝室に入る。壁に接するように二つ、ベッドがあって……先週はわたしと紅葉ちゃんが運んで三人で寝たっけ。一週間……早かったや。
「紅葉ちゃん」
奥の方にあるベッドで布団にくるまった紅葉ちゃんに声をかける。
「お姉さま……」
「紅葉ちゃん! わたし、紅葉ちゃんのことが好き! でも、かおりちゃんのことも好きで……どうしていいか分からなくって、だけど、その……二人とも好きなわたしを許してほしいの……」
うぅ、すごく自分勝手だ……わたし。でも、伝えないとだから。
「わたしの、気持ちは伝えたよ。だめ、かな?」
「そんなこと……ないです。私だって、かおりのことは大切ですし、かおりがお姉さまのことを好きなのも分かってました。……その、かおりは何て言ってたんですか?」
「かおりちゃんはね、わたしの気持ちに素直になればいいって言ってた」
「私は……お姉さまの気持ちを尊重します。私のことも、かおりのことも、どっちも愛してください」
「いいの? それで……」
わたしが言うべきことじゃないんだろうけど……本当に、こんな……わたしにとって幸せな答えがあっていいのだろうか。
「それが、いいんです」
ベッドから降りて、わたしに抱きついてくる紅葉ちゃん。カーテンも引かれ、電気も付いていない薄暗い部屋だけど……彼女の顔だけははっきりと見える。彼女の真剣な表情に、わたしはそっと瞳を閉じる。甘い香りと柔らかな感触。熱を持った紅葉ちゃんの吐息……。
「この口づけに誓います。私も、お姉さまのこと大好きですから」
「えへへ、良かったね。ふたりとも」
「かおりちゃん! いつから?」
「ふふん、かなみちゃんとくれはちゃんのちゅー、ばっちり見ちゃった」
「か、かおり!」
にこにこと笑うかおりちゃんと、恥ずかしそうに頬を染める紅葉ちゃん。やっぱり、彼女たちだからわたしは好きになったんだ。
「紅葉ちゃん、かおりちゃん、わたしに……好きを教えてくれてありがとう!」
「じゅぶ、んちゅ、じゅる……んぁ」
わたし、水藤叶美は少し前まで恋という感情を知らずにいた。
「ちゅぱ、っちゅ、ぁぅ」
そんなわたしが、誰かと口付けを交わしていることも驚きだし、
「お姉さま、愛しています」
「わたしも、かなみちゃんのこと、だぁいすき!!」
その相手が“二人の”女の子であるということも、二人とも年下であるということも、驚きだろう。でも、それが現実で……。よく、初恋は実らないなんて言うけれど、実際はそうでもなくて、わたしに誰かを好きになるっていう想いを教えてくれた二人の大切な女の子に、わたしの素直な心を受け入れてもらえて……わたし、今すっごく幸せです!