翌日の放課後、わたしが図書室へ行くと約束通り城咲さんがそこにはいた。
「あ、先輩。えっと、よろしくお願いします!」
束ねられた原稿用紙はそこそこの厚みだった。文庫本換算で一冊くらいだろうかな?
「それじゃ、読ませてもらうね」
長机に対面で座る。彼女の書く物語は、冒頭から驚かされるものだった。
『恋心を抱いていた女性は自分のことを愛していなかった。きっと、世の男性諸君の多くが体験したことではなかろうか。とはいえ、自分のケースは特殊だと思う。なにせ、自分も……女なのだから。』
冒頭の直後は、比較的よくある主人公のモノローグだった。主人公は売れない小説家で、ルームシェアをしていた親友に恋心をいだいていたが、彼女には実は彼氏がいて、主人公に書き置き一枚と半年分の家賃を残して突然いなくなってしまったのだ。
「ふぅん……」
失意に暮れる主人公は家事に手が付かず、夕食を調達しにコンビニへ。その帰りだった。主人公に運命的な出会いが訪れるのだ。
「女の子同士で……はぅ」
そこから物語は主人公と少女を中心に進んでいく。拾った少女にかつての親友の面影を重ね……。
「ひゃわわ……」
そっと原稿を元に戻し、城咲さんに声をかける。
「あの、さ。これって……女の子同士で恋愛してるよね?」
「えぇ。ジャンルとしては百合というものです」
「そう、なんだ。わたし、あ、えっと……恋愛とかよく分からなくて、こういう恋もあるって知らなくて……」
顔が熱い……なんでこんなにドキドキしてるの、わたし?
「先輩、顔真っ赤ですよ? ふふ、私の物語でドキドキしてくれる人がいる。……すごく嬉しいです。先輩のこと、好きになっちゃいそう」
「ふぇ? ダメだよ! えっと、だって……」
「そんなに焦らないでください。友愛と親愛みたいなもので、私だって、百合は物語の中にしかないと思っているので、先輩に恋しちゃうなんて、ないと思いますよ」
「そ、そうだよね……あはは」
大人びて、どこか艶めいた城咲さんの冗談はなかなか心臓に悪いということが分かった。
「そうだ!」
口紅は塗っていないはずなのに、その名のような紅の唇がわたしに近付いてくる。ちょっと待って、小説の中みたいにわたしに……? まさか、さっきと言ってること違うよね?
「先輩、私のこと、紅葉って呼んでください」
耳元で囁く彼女の声に背中がゾクゾクしてしまった。どうして……だろう。
「紅葉ちゃん」
「はい」
たおやかなで、にこやかな微笑みを浮かべる彼女のお願いは断れる気がしない。
「私も先輩のこと、お姉様ってお呼びしますね?」
「ふぇ?」
「ふふ。私の愛しいお姉様。では、ごきげんよう」
……なんだかよく分からないけれど、どうやらわたし、紅葉ちゃんに懐かれたらしい。