恋は芽吹いて百合が咲く   作:楠富 つかさ

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第六話 かおりとデート(前編)

金曜日の放課後、私は委員の仕事ではなく本を借りようと思って図書室を訪れた。すると、

 

「あ、かなみちゃん!」

 

かおりちゃんがわたしに抱きついてきた。

 

「かおりちゃん、久しぶりだね」

 

頭を撫でながら、声をかける。取り敢えず、かおりちゃんと一緒に近くの椅子に腰掛ける。

 

「実はね、春のコンクールの時期だから頑張って部活で絵を描いてたんだけど……うまく描けなくて」

「なるほど……スランプなんだ」

「うん……だからね、一緒に動物公園に行って欲しいの」

動物公園は市内のちょっと北にあって、小動物が多く飼われている家族の憩いスポットだ。風景を題材にするのか、動物を題材にするのか気になる。

 

「何を見に行くの?」

「カピバラさん!」

 

可愛いな。うん……あれ?

 

「ルームメイトは?」

 

なんだか同じ質問を紅葉ちゃんにもしたなぁ。

 

「なんだか最近いそがしいみたい。パソコンに向かう時間が増えて、つまんないの」

「じゃあ、明日でいいのかな?」

「うん!」

 

 

と言うわけで翌日、四月の第三土曜日。わたしはかおりちゃんと一緒に空の宮動物公園へとやってきました。

 

「えへへ、かなみちゃんとデート!」

 

かおりちゃんはすっかりご機嫌で、小脇に抱えたスケッチブックと大きめのリュックがなんとも小学生感を出している。中学生だけどさ。

 

「デート、か」

 

なんだか二週連続でデートしてる自分に思わず苦笑。

 

「さ、行こうか」

 

無料で入れるというのがこの動物公園の凄いところ。都市計画の一環として整備されているため、ここは市が運営しているのだ。

 

「カピバラさんどこだっけ?」

「あっち!」

 

今にも走り出しそうなかおりちゃんと手を繋ぐ。転んだら大変だもの。

 

「えへへ、デートだもんね」

 

かおりちゃんはそういう解釈をしたっぽい。……端から見たら姉妹だよなぁ。

 

「なんでデートなの?」

「ん? 二人っきりのお出かけはデートなんだよ?」

 

さも当然のように言い切るかおりちゃんに、笑みがこぼれる。デートだもんね、楽しまなきゃだし、楽しんでほしい。

 

「あ、うさちゃん!」

 

カピバラのエリアの前にウサギ小屋があった。ちなみに、この公園で飼われているのは、ウサギ、カピバラ、ハムスター、羊、ミニチュアホースの他に、保健所に来た犬猫の中で人に慣れている犬や猫だ。犬や猫は希望が通れば引き取ることも出来るため、そっちのエリアは人が多い。で、ウサギやカピバラは反対方向にいるため比較的空いている。

 

「ほら、カピバラさんが待ってるよ?」

「あ、そうだよね。バイバイ、うさちゃん」

 

かおりちゃんは多分、うさぎ系だよね。で、紅葉ちゃんは間違いなく猫。

 

「あ、カピバラさん!」

 

カピバラ小屋の前に行くと、かおりちゃんはリュックを下ろしてペンケースを取り出した。それから、

 

「あ、そのリュック椅子になるやつか」

「そなの!」

 

甘ロリチックな可愛らしい服に合わない大きくてメンズライクなリュックだなぁと思ってたら、そういうことだったのか。

 

「一緒に座る?」

「ん?」

 

流石にそれは無理なんじゃ……って思ってたら、かおりちゃんにひっぱられ、座らされた。そんなわたしの膝の上にかおりちゃんが座る。

 

「えへへ」

 

無防備な笑顔に思わずわたしも笑顔になる。でもすぐに、かおりちゃんの眼差しは真剣なものになり、カピバラをみつめる。スケッチブックの上を鉛筆が滑らかに動く。執筆中の紅葉ちゃんも凄いけど、かおりちゃんはやっぱり絵を描いているから、鉛筆の軌道がとっても自由で、伸び伸びと描かれているのがよく分かる。わたしも一応、イラスト部で絵を描いているから、テイストは全然違うけどかおりちゃんの凄さは伝わってくる。

 

「うん、いい感じ」

 

あっという間だった。シンプルに見えるカピバラだけど、毛色の濃淡や硬い毛が反射する光の加減など、リアルに描こうとすると意外と細かい動物だ。でも、かおりちゃんは動くカピバラを見ながら全身を丁寧に描き上げていた。

 

「ね、かなみちゃん。駅前でクレープ食べて帰ろうよ」

「いいね! 行こっか」

「うん!」

 

今度はかおりちゃんから手を繋いでくれた。あっという間だったけど、かおりちゃんの

凄さを知れた、いい時間が過ごせたと思う。

 

 

「ここのクレープ美味しい!!」

「ねー美味しいね!」

 

かおりちゃんが教えてくれたクレープ屋さんは、シンプルなメニューが多い分、素材にきっちりこだわりを持っていて、それでも良心的な価格で凄く美味しい。

 

「カスタードが滑らか」

「チョコクリームも美味しいの」

 

そう言ってクレープを差し出すかおりちゃん。一口くれるのだろう。端っこから一口もらう。

 

「あ、こっちも美味しい。クリームがくどくなくて生地といいバランス。はい、わたしからも」

 

カスタードとバナナのクレープをかおりちゃんに一口あげる。かおりちゃんは笑顔をより輝かせ、

 

「こっちも美味しいの!」

 

嬉しそうに言ってくれた。シュークリーム好きのわたしは、カスタードにはちょっとしたこだわりがある。ここのカスタードはわたしの想像を超える美味しさだ。絶対また来ると心に誓って、わたしとかおりちゃんは駅へと向かった。

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