夏祭り。それは夏を楽しみのイベントの1つでもあるだろう。家族で回るのもよし。友達と回るもよし、彼女彼氏と回るのもよし。夜に上がる花火など楽しみにする人間は多いんだろう。俺ももちろん楽しみだ。モカと一緒に花火は観たいし、甘い物だってたくさん奢ってあげたいとも思ってる。そう、こいつらさえいなければ。
「はい、ラテさん。焼きそば持ってください」
「あ、じゃああたしも。唐揚げ持っといて」
「ちょ、ちょっと2人とも。ラテ君がもうそろそろ限界そうだよ……」
「お兄ちゃん、大丈夫〜?」
両手いっぱいに食べ物や、射的などで当てた景品を持たされる事さえなければ。俺はモカと一緒にこの祭りを楽しめるというのに。
「はぁ、予想通りすぎてもう突っ込む気も失せた」
現在ここにいるのは、わたあめをつまみながら俺の顔を覗き込むモカに、大量の荷物を持たせられて項垂れる俺を心配するつぐちゃん。
「ラテさん、だらしないですよ!祭りはまだまだ始まったばかりです!!」
「ひまり。あっちでラムネ売ってるよ」
「ホント!?すぐ買いに行こ!」
そして、そんなベンチで座る俺をグロッキー状態に……もとい荷物持ちとしてこき使う蘭とひまりちゃんがいた。
「なんかさ、あれだよな」
「あれー?」
「女の子から夏祭り誘われたら普通喜ぶ筈なのに、もう一切喜べない俺ってやばいと思うんだ」
「それはあれだよー。蘭やひーちゃんだからじゃないの〜?」
「…………それはあるかもしれない」
「でしょー。もし誘ったのがあたしや、つぐだったら嬉しかったよね?」
「もちろん。妹であるモカは当たり前に嬉しいし、蘭やひまりちゃんと違って俺のことをいつも気遣ってくれるつぐちゃんが誘ってくれるならもう飛び跳ねて喜んでしまうと思う」
「あはは……何だか嬉しいな。はい、ラテ君。お水だよ」
つぐちゃんが自販機で買ってくれた水を俺に渡してくれる。疲れてる俺のためにわざわざ買ってきてくれたみたいだ。
「ありがと。いくらだった?」
「ううん……お金は大丈夫だよ。私もラテ君に荷物持ってもらってるんだし、そのお礼って事で」
「いや、でも………わかった。ありがたくいただくよ」
「うんっ!」
1度決めたらなかなか折れないつぐちゃんだ。お金はいいって言い続けるだろう。なら、俺が折れる方がいいはずだ。
「お兄ちゃんー?」
「ん?どうした?」
「モカちゃんもお兄ちゃんにご褒美をあげてしんぜよう〜」
そう言ってモカはわたあめをひとつまみとって、突き出して来る。いや、それ俺のお金が買ったわたあめなんだけどな……
「あむっ」
口いっぱいに甘い味が広がる。
「どう?美味しい〜?」
「あぁ。もちろんだ。ありがとうモカ」
俺を気遣ってくれたのであろうモカの頭を優しく撫でてあげる。
「えへへ〜。もっとあげるー」
「いや、いいぞ。それはモカのために買ってあげたんだから、モカが食べないともったいないだろ?」
「いいのー?」
「もちろんだ。その代わりモカの頭をもっと撫でさせてほしい」
「いいよー。好きなだけ撫でて〜」
許可をもらうことが出来たので、そのままモカの頭を優しく撫で続ける。わたあめが美味しくてなのか、それとも俺に頭を撫でられるのが嬉しいのかどっちかわからないが幸せそうな表情をしてわたあめを食べるモカはとてつもなく愛しかった。
「にしても、あの2人は俺に荷物持ちをさせてそんなに楽しいのか?」
「そんなことないと思うよ。きっと、蘭ちゃんやひまりちゃんだってラテ君とお祭り回りたかったんだろうし」
「どうかな。俺にはただ都合のいい荷物持ちをさせられてるようにしか思えないよ」
「蘭もひーちゃんもそんな酷いこと思わないよ〜」
「とは言ってもな」
たこ焼きパーティーした時も雑用みたいだったし、前のショッピングもそうだし、もういいように使われるようにしか思えない。
「っと、噂をすれば戻ってきた」
「ただいま」
「戻りましたよー!って……うわ、ラテさんがいつものシスコンになってる」
「いつものシスコンってなんだよ。それに俺は常にシスコンだ!」
「それ突っ込むところが違うんじゃないかな?」
つぐちゃんの突っ込みはもっともだった。俺が常にシスコンなのはみんな知ってることだったしな。
「それより、ラテさん。これどうぞ!」
「ん?何これ?」
「ラムネ買いに行ったら隣にチョコバナナがあったのでどうかなって思いまして。ラテさん好きですよね?」
「モカの分もある」
「わ〜い。蘭、ありがとー」
「別に……」
どうやらラムネを買いに行くついでにチョコバナナも買ってくれたみたいだ。ひまりちゃんが待っていた俺たち3人に1本ずつ渡してくれる。
「あと、さっき買った焼きそばも食べていいですよ。今日付き合ってくれたお礼です」
「あたし達じゃ食べきれないだろうしね」
「あ、ありがと」
なんだ。蘭にしろひまりちゃんにしろ、ちゃんと俺のことも考えててくれたんだ。
「ねっ?ひまりちゃんも蘭ちゃんもラテ君の事が好きだから、そんな風に思ってくれてる事なんてないんだよ」
「……みたいだな。俺変な思い違いしてたみたいだ。ごめん、2人とも」
「何の事?」
「よくわかりませんけど?まぁいいや!ささっ、食べましょ食べましょ」
「ごちそうさま〜」
「ってモカちゃん!食べるのはやっ!!」
わたあめに続きチョコバナナも一瞬で完食したモカは続けて、焼きそばを取ろうとする。この子の胃袋は一体どうなってるんだろうか?
「じゃあ俺も少し食べるか」
モカに続いて、俺もチョコバナナを一口食べる。うん、美味いな。
「あ、チョコバナナ200円だったんで後で返してくださいね」
「これ食べたら巴のところに向かうからまた荷物持ちよろしく」
「奢りじゃねえのかよ!しかもまた荷物持ち!?返せっ!さっき俺がお前らに感謝した気持ち少しでも返しやがれ!」
「あはは………」
「お兄ちゃん、水もらうね〜」
結局いつも通りの展開になってしまうだけだった。
その後いろいろ食べた後、また屋台を歩きながら祭り中に和太鼓をたたく巴や様子を見に来ていた。
「巴ー、来たよー」
「ともちん、元気〜?」
「おぉ、ひまり、モカ、それにみんなも…………って、ラテ。その荷物大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか?心配してくれるだけ嬉しいけど」
巴がひまりちゃんやモカの声に気づいてこっちに振り向いたが、俺の持つ荷物の量と俺の表情見た瞬間俺を心配してくれた。
「もうラテさん!だらしないですよ」
「ラテ。ダサいよ」
「おいこら蘭。なにさりげなく人の事ディスってんだよ」
「間違えた。だらしないよ」
「絶対間違えてない!故意に言っただろお前」
俺がそんな言葉に騙されると思ってるのか?もし本当に騙されると思ってるなら蘭こそダサいぞ。
「わかりました!じゃあ私がラテさんの事応援してあげます!」
「へぇ、どうやって?」
「では」
コホン、と一呼吸入れた後ひまりちゃんは言った。
「フレー!フレー!お、に、い、ちゃ、ん!」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「何でみんな黙っちゃうのさぁ!!」
なんて反応したらいいのかわからなかった。普通ならお兄ちゃんと言われてときめくはずだった俺なのになぜかときめかない。
「………モカ、見本見せてやれ」
「はーい。えっとね〜……お兄ちゃん、ファイト〜」
「任せろ!今すぐこの荷物持って家まで走って来てやるよ!」
「納得いきません!!何でそんなやる気のないモカの応援で元気出るんですか!私の方が絶対元気でるのに!!」
モカの応援を聞いて、表情を明るくした俺を見てひまりちゃんが詰め寄って来た。
「いや事実元気出たのはモカの応援だから。ありがとうモカ。おかげで元気出たぞ」
「とーぜんだよ〜。モカちゃんが応援したんだから」
「そうだな。モカ、偉いぞ」
「えへへ〜」
「な、納得いかない!」
「まぁまぁひまりちゃん。落ち着いて」
「そうだぞひまり。何言ってもラテには無駄なんだから」
「確かに」
「そうだぞひまりちゃん」
「そーだよ、ひーちゃん」
「何で私が悪いみたいになってるんですかっ!私は善意で応援してあげたのに!」
顔を赤くしてプンプン怒るひまりちゃん。いつも思うけど、ひまりちゃんは本当に表情豊かだよな〜。喜怒哀楽がはっきりしすぎている。
「まぁ、それはともかく。なぁ、巴。あこちゃんはどこ行ったんだ?」
「あこか?あこならさっき、りんりんと屋台まわってくるー!って走って行ったぞ」
そうか。あこちゃんはいないのか。残念だな。
「よし。巴、こいつらの荷物ここに置いていくから後は頼んだ。俺はモカと一緒にあこちゃん探してくるから」
「待てい!!」
いつの間にかりんご飴をペロペロと舐めていたモカの腕を掴んで走りそうになっていた俺の腕をひまりちゃんが掴んだ。
「荷物置いてどこ行くつもりなんですか」
「あこちゃんのところだ。モカとあこちゃんを連れてお祭り回るのが俺の本来の目的だったからな」
「そんなの聞いてませんよ!」
「当然だ。今言ったんだから」
モカとあこちゃん。2人の妹(1人は妹じゃないけれど)を連れて屋台を歩くのが俺の今日の目的だったのである。
「私達はどうするんですかっ!」
「ん?心配するな。和太鼓本番になったら戻ってくるさ」
「そういう問題じゃないですよね!?」
「そういう問題だ!俺はモカとあこちゃんの2人を連れて屋台を回るんだ!2人と手を繋いで『お兄ちゃん、あれ買ってー』って言われたいんだよ!!」
他にも、お兄ちゃん、おんぶ〜とか。流石お兄ちゃん!とか、いろいろ言われたいんだ。
「本当どうでもいい野望だね」
「で、でも、ラテ君らしいよね」
「というかあこはアタシの妹なんだけどな」
「ダメです!ラテさんは私達と一緒に回るんですっ!」
「ひまりちゃん達とはさっき一緒に回って荷物も持ってあげただろ!俺はもう行く!さぁ、モカ。行くぞ!」
いつまでたっても離そうとしないひまりちゃんの手を乱暴に離して、モカの腕を引いてそのまま去ろうとする。
「って、あれ?モカ?」
「………………」
モカの腕を引こうとしたら、モカが何故かその場から動こうとしない。何でだ?
「おーい、モカー?」
「あたし、いかない〜」
「…………はい?」
「お兄ちゃんは1人で行って来て〜。あたしは蘭達と一緒にお祭り回るからー」
「どうして!?俺は今日この今のためにこうやって荷物持ち頑張ったのに!!」
「うっわー、さりげなく本音漏らしてる」
「ラテ、最低」
「ラテ君、いくら何でもそれはひどいんじゃ…………」
「あぁ。酷すぎるな」
グサグサと俺の心臓に言葉の槍が飛んでくる。じゃなかった。それよりモカだ。
「どうして?」
「だって〜、お兄ちゃんはあたしと2人で回りたいわけじゃないみたいだから」
「えっ?い、いや。そんな事ないぞ。俺はモカと一緒に回りたいと思って」
「だったら、あこちんを誘う意味ないよね〜?」
「えっと……それは、その、なんていうか」
やばい。モカが怒ってる。というより拗ねている。そうだ。当たり前じゃないか。何で俺はモカの目の前であこちゃんとも一緒に行こうとしていたんだ。モカが拗ねるのは当然な事なのに。
「ち、違うぞ。そ、そのあれだ!この前あこちゃんにはちょっと世話になって。そのお礼にこの祭りで何かを買ってあげようかと思ってたんだよ」
「世話になったって何したの〜?」
「こ、この前晩飯選ぶのに付き合ってくれたんだ!」
「……ホント〜?」
「も、もちろんだ!」
厳密には俺が晩飯の買い出しに付き合っていたんだが。
「あれ?あの時って確かラテ君があこちゃんの買い物に付き合ってたよね?」
「あぁ。アタシの家までわざわざあこを送ってくれたし。何だったらあいつあこのためにおやつも買ってたぞ」
何でこのタイミングでバラすんだよ!空気読んでよ2人とも!!
「じーーっ」
モカが嘘をついた俺をじーっと睨んでくる。どうしよう、他の言い訳を考えなければ。
「違うぞ!俺もあの時は暇してたんだよ!で、あこちゃんが買い物するのを誘ってくれたから、俺の暇が潰れたわけで。そのお礼って事で」
「あー!ラテおにーちゃんだー!!」
後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。…………何というタイミングで戻ってくるんでしょう。俺の事をラテお兄ちゃんと呼ぶのは1人しかいない。そう、あこちゃんである。
「ラテおにーちゃん!この前はあこの夕飯選びに付き合ってくれてありがとう!おかげであこ、お姉ちゃんと美味しいカレーが作れたよ!」
「…………あ、う、うん。どういたしまして」
「あ、おねーちゃん!ほら見て、このペンダント!凄いでしょー!!さっき射的でりんりんが当ててくれたんだ〜」
「あ、うん。そうだな。凄いぞあこ」
「あ、あこちゃん。ちょっと待ってて欲しいんだけどいいかな?」
「つぐちん?それにみんなも何だか怖い顔してるよー?」
当然である。俺が必死に言い訳しているタイミングでこの子が戻って来たんだ。もう今モカがどんな顔をしているのか見るのも怖い。
「えと、モカ。わ、悪気はなかったんだ。だから…………」
「お兄ちゃん〜?」
「は、はい!!」
「正座〜」
「は、はい」
モカに言われてその場に正座する。人通りの少ないところとはいえ何て迷惑なんだろう俺。
「モカちゃんに言わないといけない事があるよね〜?」
「は、はい。その通りです。モカの機嫌を直そうと嘘をついてごめんなさい」
「それだけじゃないよね〜?」
「えっ?えっと………モカ以外の女の子を誘おうとしてごめんなさい?」
「まだあるよー」
「えっとー…………あこちゃんにお兄ちゃんって呼ばせてごめんなさい、とか?」
「まだ〜」
「まだ!?」
あと何がある?モカに内緒で買い物に行ったことか?いや、そんなことならこいつは絶対怒らないし。モカ以外の女の子にお菓子を買うこと?いや、それならひまりちゃんになんて殺されるくらいあげてるし。
「え、えっとー。みんなに迷惑かけてごめんなさい?」
「違うよ〜」
「…………ダメだ。降参だ。答えは?」
「モカちゃん以外に勝手に妹作ったらダメだよね〜?」
(((((そこっ!!?)))))
「何の話ー?」
あこちゃん除く俺とモカ以外の4人のツッコミがシンクロしたような気がした。ていうか別に妹作ったわけじゃないんだけど。
「モカ?別に俺妹を作ったわけじゃないぞ。ただあこちゃんが純粋に慕ってくれるからそう呼ばせてあげてるだけで」
「それでもダメだよ〜。お兄ちゃんの妹はあたし1人だけなんだから〜」
「その通りだな。でも、あの子は単に俺と巴が被るからってそう呼んでくれてるのであって」
「お兄ちゃんの事をお兄ちゃんって呼んでいいのはモカちゃんだけなんだよ〜。わかるよね〜?」
「え、えっと……はい、その通りです」
「じゃあ、これからはあたし以外にお兄ちゃんって呼ばせたらダメだよ〜?」
「わ、わかりました」
「はーい。それじゃあ、お兄ちゃん。行こっか〜?」
俺の説教を終えたモカは俺を立ち上がらせた後満面の笑みでそう言った。
「えっ?行くってどこに?」
「屋台巡りだよ〜。今日はお兄ちゃんの財布の中が空っぽになるまで食べるから〜」
「え、いやいや!それは困る!俺もう貯金するぶんは銀行に入れたし!あと20日どうやって過ごせば!!」
「お兄ちゃん、だめ〜?」
「よし行こう。すっからかんになるまで今日は楽しもう」
「は〜い」
しまった。モカの甘い声と上目遣いと、何よりもモカ自身の可愛さにOKしてしまった。
「蘭〜。モカちゃんちょっと出かけてくるね〜」
「え、あ、うん」
「それじゃあ行ってきま〜す」
モカは俺の手を引いて、そのまま屋台へと歩いて行った。
「…………あんなモカ、初めて見たかも」
「モカって独占欲強いのかな?」
「多分ラテ君限定だと思うけど」
「だな。あこ、ちょっとアタシからお願いがあるんだけどいいか?」
「ん?なにー?」
「モカがいる時はお兄ちゃんって呼ぶのやめてあげてくれ。あれじゃあラテがかわいそうだから」
その後モカは本当に俺の財布の中がすっからかんになるまで屋台のものを食べきって今日の事は許してくれた。
独占欲の強いモカちゃん(ラテ限定)でしたっ!
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