「お兄ちゃ〜ん」
「ん?なんだ?」
家のリビングのソファの上に寝そべりながら漫画読む俺に声をかけてきたのは、俺の妹のモカ。
「昨日ね〜、バイトの初のお給料が入ったんだよー」
「あー、そっか。モカはコンビニでバイトをはじめたんだよな」
先月のはじめから。高校に入ったモカはアルバイトを始めた。場所は近くのコンビニ。なにやら幼馴染のみんなとバンドを始めるためにお金が必要なのだと。
心配だな。モカが変なお客さんに絡まれてるかもしれないと思うと……俺は心配だ。もう心配すぎて今勤めているバイトを辞めて、モカと同じコンビニに移りたいくらいに。
「それでねー、お給料は大半は貯金するんだけど、やっぱり初めて自分で働いてもらったお金で少しは使いたいから〜」
「ふむふむ」
「お兄ちゃん、今からあたしとショッピングに行こ〜」
「行く!!」
読んでいた漫画を放り投げ、財布と携帯をポケットに入れ、俺は玄関に向かった。
「さぁいくぞ!ショッピング!」
「は〜い」
折角モカが誘ってくれたんだ。モカを楽しませれるように頑張らないと。
「さーて、着いた」
「いっぱい歩いたのでモカちゃんは疲れました〜」
家から歩いて数十分、この街の大きめのショッピングモールに到着した。これなら歩くよりも自転車で来る方が良かったかもしれない。
「大丈夫か?少し休憩するか?」
「だいじょーぶ〜。まずは何処からまわりましょうか〜?」
「モカが誘ってくれたんだから、モカが自由に決めてくれていいんだぞ?買う物が多いなら俺が持ってやるし」
「ありがと〜。んーとね〜、まずは服を見にいきましょうー」
「はいよ〜」
ちょっと考えるような仕草をしたモカはすぐに2階にある服屋に向けて歩き出した。そんなモカについて行くように、横に並び歩き始める。
「……そういや、なに買うのかはもう決めてるのか?」
「もちろん決まってるよ〜」
「へぇ……なに買うんだ?」
「それはひみつなのだ〜」
「なんだそれ……」
「買うのは決まってるけどー、何を買うかは決めてない〜」
「…………なんだ、その謎かけみたいなの」
「ふっふっふー」
妹のことなのに何を考えてるのか分からないのはすごく悔しい。兄として。
「うーん…………と、すいません」
考え事をしながら歩いていると、前から歩いてきている人に気づかず、肩がぶつかってしまった。
「休日だからやっぱり人多いな」
「そうだね〜。これだけ人が多いと逸れちゃいそう〜」
「だな。逸れないように手でも繋ぐか?」
「そうしよ〜」
一応許可をもらい、人混みの中逸れないようにモカの手を取った。
「モカはのんびりしてるから放っておくと1人でどっかいってそうだよな」
「そんな事ないよー。モカちゃんはこう見えても迷子になった事がないんだよ〜」
「それは嘘だ。昔祭りの時に迷子になったのを俺は覚えてるぞ」
あの時もこうして手を繋いでいたはずなのに気がつけばモカの手が離れていて、何処に行ったかわからないモカを人混みをかき分けて探し回った。いや、あれは大変だった。
「あれはモカちゃんが迷子になったのではなく、お兄ちゃんが迷子になったんだよ〜」
「どの口が言うんだまったく。俺があの時どれだけ心配したか……」
「ごめんね〜」
「まぁ過ぎた事だ………っと着いたぞ」
「お〜、ほんとうだ〜」
話しながら歩いていると、いつの間にか目的地の服屋に着いていた。繋いでいた手を離してモカは服を見て回る。
「どうだ?なにか欲しいものあったか?」
「女の子の服選びというのは時間がかかるものなんだよー。デリカシーがないなお兄ちゃん」
「わ、悪い………っていつもフード付きのパーカー着てるやつにあまり言われたくねえな」
「あれはあたしのファッションだからね〜」
「まぁ、どんなパーカーを着ていてもモカはモカだから可愛いけどな」
「お〜、今のはちょっとキュンってなったよ〜。お礼に後でパンを買ってあげよう〜」
「じゃあ、メロンパンな」
「は〜い」
服を手にとって選びながらもモカは俺との話を合わせてくれる。なんというか器用だな、モカは。
「ねぇ、お兄ちゃん。このパーカーとこのパーカー。どっちが似合う〜?」
「どっちって……そうだな」
モカが手にとったのは同じタイプのパーカー。ただ色が違うだけ。水色か、黄緑色か。どっちも可愛いと思うんだけど。
「俺は水色の方が好きかな?そっちの方がモカにあってると思う。でも、モカが気に入らないなら試着してみればいいんじゃないか?」
「う〜ん。お兄ちゃんが選んでくれるのに間違いはないからこっちにする〜」
そう言ってモカは黄緑色のパーカーを元に戻して、もう片方の水色のパーカーをレジへと持って行った。
「絶対試着してみる方がわかりやすいのに……まぁいいか」
レジをし終えたモカはこっちに戻ってきて、再び手を繋いで次の店へと向かった。
「色々買ったな。まだお金はあるのか?」
あれから昼食を挟みつつ、いろんな店を回り、俺の手には計3つの紙袋があった。1つ1つが高いものなわけではないが、それでもやはりモカの所持金が心配になってきたところだ。
「そろそろかな〜?でも、もう1箇所だけ行きたいとこあるんだよ〜」
「そっか。何処だ?」
「あそこ〜」
モカが指差すのは、すぐそこの時計屋さん。なんでそんなところに行きたがるのかわからないが、行きたいなら付き合うまでだ。
「じゃあ行くか。あんまり遅くなっても母さん心配するだろうし」
「そうだね〜」
床に置いていた紙袋を手に持って、先を歩くモカの後ろを着いて行くように歩き出した。
「で、最後に何を買うんだ?」
「もう決めてあるんだ〜。お兄ちゃんはここで待ってってね〜」
「ん?わかった」
モカは時計屋の中に入った。何を買うつもりなのかわからないが、すでに決めてあるならそんなに時間もかからないだろう。
「お待たせ〜」
「って、え、はやっ!!まだ入って1分も経ってないぞ!!」
「ふっふっふ〜。支払いはすでに済ませてたのだ〜」
「そ、そうなのか……いつの間に。で、何を買ったんだ?」
「それは家に着いてからのお楽しみー。それじゃあ、帰ろ〜」
「あ、おい。待てよモカ!気になるだろ!」
結局モカは何を買ったのか教えてくれないまま家に着いた。モカが最後に買ったものをら持とうとしてもそれを渡そうとはしなかった。何故だ?物凄く気になる。
「ただいま」
「ただいま〜。お兄ちゃん、荷物ありがと〜」
「ん?あぁ、はい」
ずっと手に持っていた紙袋をモカに手渡す。それを受け取ると、モカはそれを床に置いた。
「それとー」
「ん?」
「これ〜。初お給料記念のプレゼント〜」
「………………へっ?」
モカは最後に買ったものを中身を取り出して俺に渡してくれた。戸惑いながらもそれを受け取る。
「えへへー。サプライズ大成功〜」
「あ、はは。何が何だか。中身開けてもいいか?」
「もちろん〜」
モカに許可をもらい、中身を開ける。入っていたのは高そうな腕時計だった。
「お前……これ」
「お兄ちゃんが去年あたしにしてくれた事のお返しだよ〜?このパーカー去年お兄ちゃんが初お給料記念ってあたしに買ってくれたパーカーだよ〜。だから、それのお返しって事〜」
そういえばそうだった。モカが今着ているパーカーは俺の初給料で買ったものだ。
「あー、なんだ。そういう事か。それで買うのは決まってるけど、何買うかは決めてない、だったのか」
「そういう事ー。よく気づけました〜」
買うのは『俺へのお返し』。何を買うのかはまだ決めてなかった、という事だったのか。
「はは。ありがとうモカ。俺の一生の宝物にする。大事に使わせてもらうからな」
「喜んでもらえて何より〜。じゃあ、お兄ちゃん。ご飯作って〜。歩き疲れてお腹すいた〜」
「はいはい。なんでも作ってやるよ」
「わ〜い。じゃあ、パンね〜」
「夜ご飯にそれはない」
「ケチ〜」
俺からした事を忘れるなんて俺もアホだな。でもいいや。この腕時計は大切に使わせてもらうとしよう。
でも少し急ぎ足で書いてしまった。
感想と訂正があればお待ちしております。