だいぶ急ぎ足で書きました。
番外編 お兄ちゃんと呼びたいひまりとお兄ちゃんに甘えたいひまり
「あ、ひまりちゃんだ」
「あれ?ラテさん偶然ですね」
学校からの帰り道。腹が減ったのでパンでも買って帰ろうと商店街に行くと、おそらく俺と同じで学校から帰る途中なのであろうひまりちゃんに出会った。
「どうした?1人なんて珍しい」
「あはは、なんかみんな用事があったみたいなんですよ。そういうラテさんは?」
「俺は腹が減ったからパンでも買って帰ろうかと思ってさ」
「そうなんですか。あ、て事は今暇なんですか?」
「ん?そうだな。今日はバイトもないし暇だな」
「なら良かった。ちょっと付き合ってください。私も暇してたところなんですよー」
「あぁ、別にいいよ。どこ行く?」
ここであったのも何かの縁だろう。予定を変更して俺はひまりちゃんとどこかに遊びに行くことにした。
「そうですね〜。じゃあどこかでお茶しませんか?」
「いいぞー。じゃあ行こうか」
「はい!」
テンションが上がっているのか、ご機嫌なひまりちゃんと一緒にお茶するためにカフェに向かうことにした。
「で、なんで俺の腕に抱きつくんだ?」
「いいじゃないですか。モカがよくしてるの見てるとどんな感じなのかなー、って気になっちゃうんです」
「まぁいいけどさ」
ただひとつ。ひまりちゃんの胸が俺の腕に当たっている。この暴力的までの胸が俺を襲っていると考えると少し興奮してしまう。
「あれ、どうしたんですか?顔赤くして」
「なんでもない!」
顔が赤いのを気付かれるなんて。俺もモカで慣れたものだと思ったがまだまだ甘いようだ。
「そうだ。あの、1つお願いがあるんですけど」
「ん?」
「今日だけ、ラテさんの事『お兄ちゃん』って呼んでいいですか?」
「やだ」
「即答!?酷いですよも〜!」
「いや、俺の妹はモカだけだし」
モカ以外の妹なんて認めない。俺の妹であるのはモカだけだ。
「私お兄ちゃんいないんでちょっと興味があるんですよ。私も小さい時からラテさんと一緒にいるわけですし、いいですよね?」
「ダメ」
「そんなに否定するなんて。うぅ……」
俺の隣を歩きつつも涙目になるひまりちゃん。そうだ。この子喜怒哀楽がはっきりしてるから、けっこう涙もろいんだよな。
「今日だけ。今日だけですから……ダメ、ですか?」
「くっ………」
腕に抱きついている上に暴力的までの胸。それに加えてそんな涙目でお願いしてくるなんて。ひまりちゃん、強敵だ。
「い、いや、ダメったらダメ!」
だが俺も負けない。俺の精神もちゃんと貫き通す。これだけは譲れられない。
「お願い、ラテお兄ちゃん……」
「よし、いいぞ」
「やったー!ありがとう、お兄ちゃん!」
しまった。甘い言葉につい引っかかってしまった。こんな方法を取ってくるなんて……卑怯な女だ、上原ひまり。
「じゃあレッツゴー!」
「はいはい。ったく、モカに見つかったらなんて言われるか」
モカにだけは会いませんように。そう願いを込めながら俺たちはカフェに向かった。
「でねお兄ちゃん。今日は巴がお昼に弁当持ってきてたんだけど」
カフェについて注文を取ってから、向かい側に座ったひまりちゃんは俺に対して物凄く色々なことを話してきた。所謂マシンガントークというやつだ。今日のひまりちゃんは一段と機嫌がいいみたいだった。
「でさでさ、巴がお弁当箱開くと」
「なぁ、ひまりちゃん」
「なーに、お兄ちゃん?」
「くっ……いや、今日は物凄く機嫌がいいんだなって思ってさ」
やばい。俺の妹はモカだけ。モカだけなのに、ひまりちゃんが本当の妹のように思えてきた。モカののんびりとした口調とは違い、元気ハツラツで色々なことを話してくれるひまりちゃん。こんな妹もありなのかもしれないと俺は思ってしまった。
「えっ?そうかな?私は普通のつもりなんだけど」
「いや、絶対いつもより機嫌いいよ」
絶対そうだ。俺とカフェに来られるのがそんなに…………いやこれは自意識過剰すぎるか。
「じゃあ、多分それは今日はお兄ちゃんが一緒にいてくれるからだね!!」
「ぶふっ!ごほっ、ごほっ」
「あぁ、お兄ちゃん。大丈夫?」
「うん。大丈夫。大丈夫だぞ」
突然の発言に驚いて口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。いきなりなんて事を言いだすんだこの子は。
「ごめんね、お兄ちゃん。私何か悪いことしたのかな?」
「いや、悪いことっていうか……今自分が何言ったのかを理解してくれたらいいと思うんだけど」
「何をって…………あ、ち、違うんだよ!お兄ちゃんが一緒にいてくれるからっていうのは事実なんだけど、その、そういう意味じゃなくて!!」
そんなに必死に否定しなくてもわかるのに。顔真っ赤にしてるひまりちゃん。グッジョブ!
「そ、そんなことよりお兄ちゃん!このケーキとっても美味しいよ?」
「へぇ。まぁひまりちゃんは食べ過ぎに注意だけどな。ほら、今は食欲の秋だろ?食べ過ぎるとまた体重増えちゃうよ」
「またって、私そんなに体重増えてないのに!も〜!」
「そんなに、って事はちょっとは太ったんだな」
「うっ…………」
ぱっと見はわからないけど今の言葉で詰まらせるという事はやっぱり体重増えたんだろうな。かわいそうに……
「モカはあんなに食べても体重増えないのにどうしてひまりちゃんは……」
「も〜酷い!!女の子に体重の話をしたらダメってモカに言われてないの?」
「バカやろー。まず俺がモカにそんな話すると思ってんのか?だいたいモカは太ってても太ってなくても可愛いんだよ。モカはどんな姿してても可愛いんだよ。てか、モカは可愛いんだよ」
「うっわー。本当引くくらい酷いねそのシスコン。あ、でもでも今は私もお兄ちゃんの妹なんだよ?」
「だから?」
「その……私にも甘やかして欲しいな、なんて?」
「つまり、ひまりちゃんにモカと同じ事をしたらいいのか?」
「はい!」
結局この子も相当な甘えん坊だな。まぁ、それもひまりちゃんの可愛い一面ではあるんだけど。
「ひまりちゃん。こっちおいで」
「こっちって………お兄ちゃんの隣って事?」
「あぁ」
「わかった!」
返事をするとひまりちゃんは向かい側の席から俺の隣の席へと座った。
「で、何してくれるの?」
「ん〜そうだな……じゃあまずは無難に」
いつも俺がモカにしている事を考えた。モカにしてること……多すぎて、というか普段してる事を他の女の子にするっていうのはなんだか難しいな。とりあえず、隣に座ったひまりちゃんの頭を撫でてあげる。
「ふわぁ………」
「ちょ、そんなに驚かれたら逆にやりにくいんだけど」
「あ、ごめんなさい。いきなりでびっくりしちゃって」
「モカなら無言で頭撫でてもすぐに俺の方に頭寄せてくれるぞ?」
「普段からしてたらそうなるのは当たり前だよ〜」
「そういうもんかな?」
モカにいつもやってあげるように優しく頭を撫でてあげるとひまりちゃんは気持ちよさそうにしていた。
「えへへ〜、幸せ〜」
「それは何より。じゃあ次な」
頭を撫でている手を止め、俺の残っているケーキをフォークで切って、それをひまりちゃんの口の前まで近付ける。
「ひまりちゃん、あーん」
「えっ、それもしてくれるの?」
「いつもモカにやってる事だから。興味あるんでしょ?」
「う、うん。それじゃあ、あーん」
ひまりちゃんは緊張しながらも、俺の差し出したケーキを口の中に入れた。
「どう?美味しい?」
「はい!とっても!もう一回して欲しいな〜」
「はいはい。何度でもしてやるよ」
と、ふいに言った言葉。その言葉で俺は後で後悔することとなってしまった。そう、さっき言ったばかりだったのに忘れていたのだ。ひまりちゃんが甘いものを好きだという事を。
「お兄ちゃん、もう1回!」
「まだするのか?てか、もうケーキなくなったぞ」
「あ、ホントーだ」
「そろそろ出よう。ひまりちゃんもケーキ食べ終えた事だし」
「すいませーん、ケーキの追加お願いしまーす!」
「聞けよ!!」
ひまりちゃんは結局この後、ケーキを5回も追加して頼み、そしてずっと俺にあーん、とせがんできた。流石にそろそろやめようかと思いフォークを下げようとしたら、ひまりちゃんがまた涙目になって俺を見つめてくる。そんな顔をされてやめられるわけがない。このループが続いてしまった。
「そ、そろそろ帰ろう。なっ?」
「えー、お兄ちゃんのケチー!」
「ケーキはタダじゃないの!」
「わかったよー。じゃあ支払いはよろしくね、お兄ちゃん!!」
「……どれだけがめついんだこの妹は!」
モカなら頼んでも2つなのに、と後悔を思いながら俺は支払いを済ませた。
「ごちそうさま、お兄ちゃん!」
「本当ごちそうさまだったなひまりちゃん。まぁいい、じゃあそろそろ…………とメールか?」
ポケットの中で携帯が鳴ったのを確認してみる。差出人はモカだった。
『今すぐひーちゃんをつぐの家まで連れてきて〜。この事はひーちゃんに内緒だよ〜』
「なんだこれ?」
何故ひまりちゃんをつぐの家に?今日なんかの予定でもあるのか?
「まぁいいか。モカからのお願いだし」
モカのお願いなら聞かないわけにはいかない。そう思い俺はモカに了解、と返して流石に食べ過ぎたのか、お腹をさすっているひまりちゃんに声をかけた。
「ひまりちゃん、まだ時間大丈夫?」
「ん?だいじょーぶだよ!」
「なら良かった。今からつぐちゃんの家に行こうと思うんだけどいい?」
「つぐの?どうして?」
「いや、モカがひまりちゃんを…………じゃなかった!モカが迎えにきて〜、って言うから」
「うん、いいよ!!」
危ない危ない。危うくモカのお願いを破りかけそうになった。でも、どうしてひまりちゃんを連れてこないといけないのだろうか。
「じゃあ今度はつぐの家にレッツゴー!」
「はいはい、って腕には抱きつくのな」
「着いたな」
「はぁ。食べ過ぎちゃったから疲れたよ……」
「はいはい、お疲れ様」
自業自得だ!と言ってやりたい。でも俺もそこまで鬼じゃない。その場に座り込みそうになるひまりちゃんの腕を掴んで、俺はつぐちゃんの店の中に入った。
「おーい、モカー。約束通りひまりちゃんをって…………?」
「んー、どうしたのお兄ちゃ『パン!!!』…………ふぇ?」
店のドアを開けて中に入ると、店の中は真っ暗だった。その様子に気づいてなかったひまりちゃんが声をあげると、いきなり店の中に大きな音が鳴り響いた。
「「「ひまり(ちゃん)、お誕生日おめでとー!!!」」」
「ひーちゃんおめでと〜」
真っ暗だった店の中に突然照明が付くと同時に蘭、モカ、巴、つぐちゃんが俺たちの目の前で待っていた。
「え、なにこれ……なにこれ!?」
「もう忘れたの?今日はひまりちゃんの誕生日だよ!」
「そうそう〜、ひーちゃんの生まれた日だよ〜」
「ひまりのためのアタシたちのサプライズだ」
「大成功、だね」
「そう、だった。今日は私の誕生日……」
日にちを確認する。今日は10月23日。確かにひまりちゃんの誕生日だ。俺もすっかり忘れていた。
「みんな私のために……」
ひまりちゃんがまた泣きそうになってる。今日は何度目だろう。ひまりちゃんの涙目になる姿を見るのは。
「蘭、モカ、つぐ、巴。ありがとう、みんな大好き!!」
そしてひまりちゃんは幼馴染4人に抱きついた。なんだろう、この俺の場違い感は。俺帰った方がいいんじゃねえのか?
「ひまりちゃん……もう、大袈裟だよ」
「ひーちゃん、おおげさ〜」
「まぁ、ひまりらしくていいんじゃないか」
「そうだね」
こんな微笑ましい5人の姿を見るのはやっぱりいいな。泣いているひまりちゃんにそれを見て慰める他の4人。やっぱり幼馴染が羨ましく思えるよ。
「………あ、誕生日プレゼント買ってねえ」
「うわっ、ラテ最低」
「お兄ちゃん、それは酷いよ〜」
「わかってる自覚してる!すぐ買って来ないと!!」
「とは言ってももう19時だぞ?」
「うん。この辺だとプレゼントに見合うものを買える店はもう閉まってるんじゃ……」
どうしよう。ひまりちゃん以外からのみんなの目が冷たい。しかも何より辛いのはモカまでもがそんな目で俺を見てくることだ。
「うっ………だ、大丈夫だよ……みんな」
「ひーちゃん?」
「もう、プレゼントは貰ったから!」
泣いていたひまりちゃんが涙を拭って俺の目の前に立った。そして、最高の笑顔で俺に向かって言った。
「今日は1日ありがとうラテお兄ちゃん!!一生の思い出にするね!」
「へっ、あ、うん……」
「「「「お兄ちゃん??」」」」
「なんでもないよ!みんな本当にありがとう!!」
ひまりちゃんはみんなに向き直った。今日の1日のことは俺とひまりちゃんにしかわからない事だ。ひまりちゃんの誕生日に、偶然にもひまりちゃんの一生の思い出となるようなプレゼントができたならば、それはそれでいい事なんだろう。
「…………誕生日おめでとう、ひまりちゃん」
この作品、モカの誕生日の前に思いついていれば…………
あと1年も待たないといけないんだな、モカの誕生日。
感想と訂正があればお待ちしております。
ひまりちゃん、ハッピーバースデー!!