「て事があったんだよ。どう思う、蘭?」
「別にどうとも。というかそれ悪いのラテじゃん」
「いや、そうだけど。そうだけどそこまで食べるまでしなくてもいいと思うんだ。ただでさえ自分の体重気にしてたくせにそれを自分で増やしてるんだぞあいつは」
この前ひまりちゃんとあった時の出来事を俺は商店街のとある喫茶店で愚痴っていた。相手は女の子。当たり前だがモカではない。
「ひまりはそういう子だから仕方ないよ」
「くそー。今度あったら絶対に体重の事で弄り倒してやる」
「大人気ないね、ラテは」
「うっせー!!」
クールにズバッと俺に言葉を返してくるのはモカの幼馴染にして1番の友達、美竹蘭。モカの組んでいるバンド、Afterglowのギター&ボーカル。黒髪に赤いメッシュを入れているのが特徴でとても気が強い。でもたまにデレる。いわゆるツンデレっ気がある女の子。
「まぁそれはさておき。俺に用っていうのはなんだ?」
そもそもここにいるのは俺からではない。俺の目の前にいる蘭が俺を呼び出したからだ。なにやら用があるようなのだが。
「うん。特に用事があるわけじゃない」
「へっ?じゃあなんで?」
「たまにはラテとお茶でもしたいって思ったから。だから呼び出した」
「はっ?」
え、なに。つまりあれか?用事も相談もなにもないけど、ただ俺とお茶したいから呼んだと。
「ふざけんな!モカと一緒にいられる時間を割いてここまで来たのに!!」
「いいでしょ別に。てか、シスコンキモい」
「くっ………この」
俺がモカと一緒にいる時間を削るのがどれほど辛い事なのかわかっているのかこいつは。今頃家で1人寂しく、『お兄ちゃ〜ん、お腹空いた〜』と嘆いているに違いない。
「あ、ちなみにモカは今日ひまりと巴と遊ぶって言ってたから大丈夫だよ。寂しくなんてしてないと思うから」
「さりげなく俺の心を読むな!」
「ラテの表情がわかりやすいんだよ。つぐみ、おかわり」
「はーい」
ちなみに今店の中には俺と蘭以外は誰もいない。いるのは店員であり、モカ達の幼馴染である羽沢つぐみとそのお父さん。
「どう思う、つぐちゃん!俺のモカとの時間を奪ったんだぞ蘭は!」
「えっ?えっと、その……ラテ君は少しモカちゃんに構いすぎじゃないかな、って思うこともあるけど?」
「だってモカだもん。構うよ!」
「だ、だよねー、あはは」
羽沢つぐみ。モカの組んでいるバンドのキーボード担当。とっても頑張り屋さんで、多少のことではめげない性格。
「ラテの頭の中の8割がモカの事でいっぱいそうだよね」
「ん?なに当たり前のこと言ってんだ蘭?1日24時間。そのうちの8割はモカの事でいっぱいだぞ。むしろ俺が日常の中でモカの事を考えてない方がおかしいぞ?」
「うわっ、きも。本気できもいよラテ」
「ち、ちなみに寝る時はどうなのかな?」
「それ絶対聞かなくてもいいでしょつぐみ」
「い、いや、なんだが気になっちゃって」
「愚問だな、つぐちゃん」
寝る時。そんなの普通なら考えれるわけがない。だが俺の手にかかれば余裕だ。
「夢の中でモカと会えるからな」
「「………………」」
「ごめんなさい流石に冗談です。見ない時もあるから。だから、そんなに露骨に引かないで」
蘭とつぐちゃんがお互いに手を握りあい俺から離れて行った。冗談だから、本当に。4割くらいは冗談だから。
「よくモカもこんな兄と一緒に過ごせるよね。私なら絶対無理」
「お前それは流石にひどいぞ!つぐちゃんはそんな事ないよな!?」
「え、私!?私はえっと……その……あ、蘭ちゃん、コーヒー入れてくるね!」
「逃げたな」
「逃げたね」
小走りで新しいコーヒーを淹れに行くつぐちゃんを見て俺はショックに陥りそうになった。
「いいさ。結局俺のことを理解してくれるのはモカだけなんだ。モカが俺の全てなんだから」
「はぁ……ラテ。別に妹離れしろって言うわけじゃないけど、モカにもっと自由にさせてあげたら?」
「はぁ?何言ってんだ。モカには自由させまくってるぞ。バンドもしてるし、バイトもしてる。学校だってお前らと同じ女子校だし、クソ自由してるじゃないか」
「そうじゃなくてプライベートの事。休日とか、あんたといる事の方が絶対多いでしょ」
「そりゃまぁ、そうだけど。でもそれはあいつから俺に絡んで来ることも多いぞ」
まぁ、いつもってわけじゃないけど。そりゃ確かに俺から絡むことの方が多いけどさ。
「あんたほどでないとはいえモカもラテの事大好きみたいだし。でも、あたしとかみんなだってモカとその……一緒にいたいし」
頬を赤らめてそう言う蘭。もしかしてこいつデレた?いつもツンツンしてる蘭がデレたのか?
「まぁ、お前らなら全然良いんだよ。そこは心配してない。というか、蘭。もしかしてお前さ」
「なに?」
「俺がモカと一緒にいる時間長くて、お前らといる時間奪うせいで、一緒にいる時間少なくなってるから、それでお前拗ねてるのか?」
「なっ!!?ちがっ!あたしはそんな!!」
「なーんだ。そういう事ならそう言ってくれたらいいのに。蘭は本当にわかりにくいな〜」
「はぁ!!?あたしが言ってるのはそういう事じゃなくて!モカの将来のために言ってるの!」
「はいはい、わかったよ。本当に蘭はモカの事が大好きだな〜。今日家に帰ったらモカにそのこと伝えといてやるから」
「違うって!!その確かにモカといる時間は物足りないかもだけど、あたしが心配してるのバンドの事!!練習時間少ないと、本番で変なミスしたら恥ずかしいでしょ!!」
蘭は顔を真っ赤っかにして俺に詰め寄って来る。でも、さらっと物足りないって本音言ってるし。もう面白いな、蘭は。
「わかったわかった。とりあえず蘭の今の姿の写真撮ってモカに送るから。はいピース」
「やめて!絶対撮らないで!」
「じゃあ俺も一緒に写ってやろうか?」
「そういう問題じゃないし!」
「お待たせ〜、蘭ちゃんコーヒー………どうしたの?」
「あ、つぐちゃん見てみろ。蘭のこのデレっぷり。いやー、俺を呼んだ理由がそれだって言ってくれたら良かったのにさ」
「だから、違うって言ってるでしょ!!」
「えっと、なんだかよくわからないけど、楽しそうだね蘭ちゃん」
「楽しくない!!ラテも撮らないでってば!」
「つぐちゃんも一緒に写ろうぜ、ほら」
「あ、うん!」
「つぐみも乗らなくていいから!!」
やっぱりデレた蘭は可愛いな。モカには負けるけどそれでも可愛いと思う。
「お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
その日の夜。家に帰った俺は速攻風呂に入って、モカと一緒に飯を食った後、自室で勉強をしていた。蘭の可愛い姿撮れたし、今日は本当にいい日だった。
「今日は一緒に寝よー」
「おう。いいぞー…………ってえっ?」
「わ〜い。じゃあ枕持って来るね〜」
…………なに突然?もしかして俺今日死ぬのか?蘭の可愛い姿撮れただけでなく、モカが一緒に寝ようなんて言うなんて。
「いや待て落ち着け俺。きっとあれだ。今日は俺の運勢が大吉。もしくは一位だったんだろう」
とりあえず勉強道具をしまって、俺も寝間着に着替えて、よし準備完了!!
「お待たせ。いやー、待たせちゃったね」
「お、おう」
「ん〜?お兄ちゃん緊張してるの〜?」
「い、いや、そういうわけじゃない。ただびっくりしてるだけだ。モカがいきなり変なこと言うから」
「あたしは普通だよー。さ、早く早く〜」
モカがベッドの中に入るよう手招きをするのでそれに従って俺が先にベッドの中に入る。
「よ、よし。いいぞ」
「じゃあ、お邪魔しま〜す」
一言言ったモカはそのまま布団の中に入って来る。2人じゃちょっと狭いけど、そのおかげで密着度が高まって俺の心臓がバクバクいってるのがわかった。
「も、モカ。お前風呂上がりか?」
「そうだよー」
やばいな。通りでモカの体温があったかいわけだ。それに風呂上がりだと、匂いとかあったかさとかダイレクトに伝わって来る。この前のモカの昼寝していた時とはわけが違うぞ。
それに向かい合って寝転んでるからそれも相まって、モカの顔がこんなにすぐ近くにあるのもダメだ。
「えへへ〜、お兄ちゃんあったかいね〜」
「ま、まぁ、そりゃそうだ」
「心臓もバクバク言ってるよー。やっぱり緊張してるでしょ」
「くっ…………当たり前だろ。いきなりこんな事されて……なんのご褒美だ!!」
「モカちゃんからのご褒美なのだ〜」
素敵すぎるご褒美、ありがとうございます!!じゃなかった。
「で、なんでいきなりこんな事を?」
「んーとね、聞いたよひーちゃんから〜。この前カフェでケーキとかご馳走したって」
「あ、あぁ。したなうん。それがどうした?」
「ひーちゃんがそのお礼に、『あたしじゃ満足させられないだろうから、モカが代わりにご褒美をあげて』って言うから」
「それでこれか?」
「そーだよ〜。ひーちゃんとトモちんとぜーんぶ決めたんだ。気持ちいいでしょ〜?」
「もう死んでもいいと思えるくらいに気持ちがいいです」
「おぉー。予想以上の反応だ」
ひまりグッジョブ!!これがまた味わえるならケーキ何個でも奢ってやる!!
「あとね、蘭からも連絡があって〜」
「蘭?なんでだ?」
「今日の昼に蘭が辱めを受けたから仕返しして欲しいって。だからお兄ちゃん、こっち向いて〜」
「こっち?」
「上だよ、上〜」
なにがあるんだろう、と思いつつ上を見上げると、こっそりと携帯を構えていたモカがシャッターボタンを押した。
「これでよし。後で蘭に写真送っとくね。モカちゃんと一緒に添い寝して、顔真っ赤にしてにやけてるお兄ちゃんの顔〜」
「いや待て!それはダメだ!それがAfterglow内で拡散したら俺死んじまう!!」
「だいじょーぶ。あたしも一緒に写ってるから〜」
「そうか。なら問題ない……って事もないだろ!いや、おかしいぞそれ!!」
「お兄ちゃんはあたしと一緒に写真撮るのいやー?」
「いや、ぜんっぜん嫌じゃないぞ。むしろ嬉しい。モカとの思い出が増えるからな」
「なら何の問題もないよー」
「よくな…………いや、いっか。もう今更だろ」
「でしょ〜?」
あー、まぁいいか。モカとの思い出写真が増えた事だし。何よりこうやってモカと一緒に寝れる事が俺の中でどれだけ幸せなことか。
「モカちゃんはそろそろ眠たくなってきたので、おやすみしようと思いまーす」
「あー、うん。そうだな。じゃあ電気消すぞ」
「はーい。あ、1つ忘れてた。お兄ちゃん〜」
「ん?なんだ?」
電気を消そうとして体を起こすと、モカも体を起こして、そして俺の耳元で囁いた。
「お兄ちゃん、ラブ〜♡」
「……………………」
そのままモカはクスッと笑った後、固まった俺の代わりに電気を消して、起こしていた俺の体も一緒に倒した。
「じゃあ、おやすみお兄ちゃん〜」
「……………………」
おやすみ、の一言も言えずに俺は硬直してしまっていた。まさか最後の最後であんな事を言ってくるとは予想できず、俺はその日、モカが最後に囁いた言葉が頭と耳の中で一生こだまして眠る事ができなかった。
最後のラブ〜♡はわかる人はいるでしょうか?
あんなことモカちゃんに言われてみたいw
感想と訂正があればお待ちしております。