イラの魔獣Beauté et bête magique   作:EMM@苗床星人

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1/目覚め・逃亡(前編)

 

「女になってる。」

 

 呆然と俺は、自分の胸にぶら下がっている二つの脂肪の塊を掴みながら呟いた。

 ガンガンとした痛みが響く頭。

 冷たい石造りの部屋に、鉄格子の檻。

 現代日本にはない施設、たぶん。

 いや、探せばあるか。イメクラとか?

 しかし俺は自他ともに認める健全な男子高校生だ、間違っても前科を負ってまでそんなところに行くほど落ちぶれちゃあいない筈だ。

 まぁ欲求不満なのは認めるけど、それくらいならその辺の女の子をお茶に誘うわ。

 それともまさか、行っちゃったのか?

 知らない世界に脚を踏み入れて、記憶が跳んだり性転換しちゃうくらいの凄いことしちゃったのか?

 だとすれば記憶をうっかり落っことしたその時の俺を殴りたい。

 記憶と言えば、名前が出てこない。

 落ち着け俺は生まれてこのかた18年、東京生まれの大阪育ち。両親とも健在でごく一般的な高校に通いガールフレンド作りに燃える花の男子高校生。

 

 

 で、今は角の生えた巨乳のストリッパー女。

 

 

「……どうしてこうなったあぁっ!!?

だせーだせー!俺は無実だこれは何かの間違いだぁおっ!?」

 

 現実に引き戻された俺は鉄格子を掴んで思い切り揺らす。

 予想通りの金属が擦れる不快な音が石の個室に思い切り反響する。

 この身体の耳は予想異常に良いらしく、ましになってきた頭痛が余計にひどくなった。

 (つの)を押さえて蹲る。

 

「ごぁぁあっ……ううっ、何でこんなことに」

 

 嘆いていると、今度は性能の良い耳が見えない位置にある階段を降りる足音を拾う。

 カツコツと軽く、そして上品にテンポを刻む足音。

 あかん、こんな状態──いや多分ぶちこまれた時点で色々見られてるだろうけど──監守や何かに見られたら、エロい目で見られてしまう!?

 えっちなお姉さんならまだしも男にエロい目で見られるなんて死んでもごめん被る!!

 

 

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「まま待って来るなギブミーサムシング服ー!?」

 

「ふ、ふ、報告通り流暢に喋るわね、安心したわ」

 

 ……壁に隔たれた死角から、純白のドレスが姿を表す。

 降りてきたのは胸元の開いたドレスから白い肌を晒し上品なれど妖艶な魅力を放出する金髪の美女だった。

 今の自分の胸を無修正で見てしまったから目が肥えたかなと正直危惧していたが、この美女のそれは安心に足るデカさ。

 右頬に深い傷が一筋ついているが、それもまたミステリアスな魅力となっている。

 その陰りを見せる物憂げな瞳は真っ直ぐと俺を見つめていて、不思議な笑みを浮かべていた。

 とにかく何度でも言う、彼女は美女(えっちなおねーさん)だった。

 

「こんな私めの身体なら幾らでも見てください。ありのままを!」

 

 結論として、隠すと言う選択肢が消失した。

 立ちあがりポージングする俺を見て、その美女ははたと固まると……手で口許を覆ってそれまた上品に笑った。

 

「うふふふ、成る程、成る程、そういうこともあり得るのね?面白いわあなた(・・・)。」

 

 ──変貌したとはいえ──俺の裸体をしげしげ眺めて愉快そうにコロコロと笑う目の前の美女。

 あかん、何かに目覚めそう。

 それ以前になんだ、流石に恥ずかしくなった。

 

「えっと、ちょっくら質問していいですか?」

 

「どうぞ?」

 

 ええー自然体やん、状況もそうだがこの美女も何かおかしいぞ?

 

「此処は何処?」

 

「ヴィルヌーヴ王国王都最厳重封印牢です」

 

 聞いたことない地名だ。

 

「俺は何で此処に?」

 

「古代遺跡の奥で封印されていた魔物ということで、妥当な処置でしょうね」

 

「ファンタジック」

 

 確かにこの角じゃなんかモンスターっぽいなぁ。

 ていうか封印って、俺の身体がこれだから何でも驚きゃしないけど……

 

「あの、日本やアメリカって国に聞き覚えは?」

 

「…………古代の大国かなにかですか?」

 

「はいはいはいそう言う映画ありました……夢だこれあっはっは」

 

「そう夢、そう思っていれば楽でしょうね、処刑は明日なので」

 

「あっはっは処刑ね。処刑と来たか何でぇ!?」

 

 また現実逃避に浸っていたらとんでもないワードが聞こえ急ぎ現実へ帰還する。

 

「だって古代人でさえもて余したであろう厳重に封印された魔物ですもの、寝ぼけてるうちに駆除するのが当たり前でしょう?」

 

 当たり前の事を聞かれたように、目の前の美女は首をかしげた。

 解らない、これは現実?それとも夢?それともイメクラの高度なシチュエーションプレイ?

 どんな上級者向けのコース選んだんだ俺は!!

 

「いっ……?!」

 

 あらゆる可能性が脳内を駆け巡っていると、破裂音が石の部屋に響いた。

 頭痛、そして腿に感じる暖かさとじわりと来る焼けるような痛み。

 振り替えると、いつの間にか美女の真横に立っていた鎧姿の男が猟銃らしき機械を俺に向けていた。

 その銃口は見たことのない輝く文字が描かれていて、空気を焼く特徴的な香りを匂わせていた。

 

「動くな魔物!!スザンヌ様、お怪我はありませんか!?」

 

「あら、ご苦労様」

 

「銃、本物で……ぇ、あっ!?」

 

 貫かれた筋肉が遅れて反応したのか、腿に激痛が走る。

 恐怖と虚脱感に脚から力を根こそぎ奪われ膝をつく。

 美女に駆け寄る鎧の男、腿から滴り落ちる血が脚を伝って石の地面に染みを作っていく。

 痛い、夢じゃない、何で……訳解らない。

 裸、男、おねーさん、痛い、痛い、痛い!

 

「な、に、すんだ……っ、てめ……」

 

「お待ちください、覚醒前に仕留めますので」

 

「あ、待って」

 

 鎧の男はまた猟銃らしき機械を俺に向ける、やめろ、それを俺に向けるな。

 怖い、痛い、不快だ、なんで、俺が、こんな目に逢わなきゃならない。

 

 めきめきと両腕か変化する。

 視界が狭く、広くなる。

 身体が、喉が、グルルルと変な音を立てる。

 先まであんなに痛かった頭が、すっきりとして腿の痛みだけが残る。

 

 不快な破裂音が、また、石の部屋に響いた。

 

「や、め、ろおおおお!!!!」

 

 腕を振る、醜く変化した鋭い爪が射出された弾丸をバターのように切り裂き弾き飛ばした。

 その光景をゆっくりと認識できる程回りの時間は遅くなって、俺は駆け出して鉄の檻を掴み捻った。

 簡単に檻はひしゃげ、鎧の男に手が届く。

 その胸ぐらを掴み、握った拳を男の腹に叩き込む。

 

「痛いって言ってるだろうがぁ!!」

 

「ごっお!?」

 

 だらりと力を失った男を怒りのままに壁に叩きつけると、壁は発泡スチロールのように簡単に崩れた。

 そこで、俺は冷静な思考を取り戻した。

 

「うわ脆っ!?大丈夫かおっさん……!!」

 

 慌てて駆け寄り瓦礫を払うと、鎧の男は白目を向いて泡を吹いては居たがとりあえず息をしていた。

 鎧から先の銃と同じ光る文字か浮かんでいるが、これの効果だったのだろうか傷はないようだ。

 

「ど、どうしよう?」

 

 美女に聞くと、彼女はニッコリと微笑んだ。

 

 

 

 

「おらおらぁ!!道を開けんかいワレぇ!!いてもうたろか奥歯ガタガタ言わせたるぞ!!」

 

 普段は絶対言わないであろう柄の悪い言葉使いを乱発しながら、俺は先の男の鎧を身に纏い美女を肩車しながら石造りの道を爆走していた。

 

「す、スザンヌ様!?」

 

「スザンヌ様が賊に!!いや魔物に浚われている!!」

 

「やめろ撃つなスザンヌ様に当たったらどうすげぼぁ!?」

 

 先の男と同じ鎧を纏った監守たちが飛び出してきては、愉快そうに肩に股がる美女を見ては戦き、あるいは寄りによって目の前で硬直しては走る俺に撥ね飛ばされた。

 銃?を構えるものもいるが美女を恐れて構を解く。

 

「あんた偉い人なんだな、何でこんなこと勧めた!?」

 

「うふふははは、気にしちゃダメよ?」

 

「うふぁ!!頭頂部にっ柔らかいっ!?」

 

 前屈みになった美女は俺の目を覗き混みながら熱を帯びた声で言った。

 

「私の家まで案内してあげるから、たどり着けたら教えてあける……♪」

 

「……どっせあああああい!!!!」

 

 出口らしき脆い鉄の扉を蹴り飛ばす。

 そして俺は、懐かしく思える暖かい日の光の中へと躍り出た。

 

 何処か遠い異国を思わせる煉瓦作りの街が広がり、人間から獣耳を生やした人々、蜥蜴のような人から熊のような毛深い人々までが当たり前のように生活を送っていた。

 その誰もが俺を目を丸くして見ていただろう、だが俺も同様に驚き、そして戦き空を見上げていた。

 

 空に架け橋のような、土星の内側から輪を望むような

 そんな地球には決して存在しないような、途方もなく巨大な構造物が空を両断して存在していたのだから。

 

 それは紛れもなく、ここは少なくとも俺の知る地球ではないと感じるに足る光景だった。

 

「構えー!」

 

 空に気をとられ、目の前の大通りに銃を構えた監守の集団が隊列を組んでいたことに気付くのが遅れた。

 隊長格らしき男が指揮棒を振り下ろす、美女が居るのに……いや、よく考えれば偉い立場にある女を浚おうとしてる化け物をそのまま逃がした方が名誉に関わるとかそういう考え方もありか。

 そりゃそうだよなぁ……俺今化け物だもんなぁ……

 じゃあせめて、化け物らしく格好つけて終わりますか。

 

 俺達を囲む銃口が火を吹くよりも早く、俺は美女を下ろして抱き抱えるとそのまま後ろに振り向いて……

 

 

 

 

 思えばそれは運命だったのだろうか……。

 初め私はそれを不運と内心で嘆いていた。

 非番の日に非常通信でたたき起こされ、警備部の坊ちゃんから無理矢理呼び出されたかと思えば収容した魔物の暴走にかの方が巻き込まれたと言うではないか。

 だいたいあのお方は遊びが過ぎる、こんなこと口に出して言っては極刑ものだろうが少しは痛い目をみた方がいい。

 そんな愚痴を内心でこぼしつつ、私は装備を纏い件の封印牢へと馬を走らせた。

 

「やぁ、ウィンターガーデン署長」

 

「エフロンド卿、よくぞ此処へ。」

 

 おーおーやってるやってる。

 収容施設内部からは爆音が響き、内部の混乱が見てとれる有り様だ。

 

「件の化け物はスザンヌ様から出口を聞き出したようで、真っ直ぐ此処へ向かっているそうだ。

出たところを一斉()火を浴びせる算段となっております」

 

「彼女への流れ弾は?」

 

「我々も中でも特に腕利きの精密術士(スナイパー)を揃えております、施設内ならまだしも開けた場所なら正確に化け物のみを射ち貫けるでしょう」

 

 爆音が近づいてくる、打ち合わせの時間もないか。

 まぁあの方なら狙撃魔術の直撃で死んだりはするまい。

 

「よし、射ち漏らしたら私が撃ち取ればいいと言うわけか。この借りはでかいぞ、署長」

 

 そう言って私は、ホルスターから愛用の機構剣(エンジンブレード)を抜き構えた。

 

 音からして出口までの距離にして15サンク(メートル)……11……9……7……3……1……

 

 すさまじい力で鋼鉄で作られた厚さ3サンクもの扉が蹴破られる。

 因鉄の流動も計測できないとなると素の化け物か、厄介な……ぁ…………

 

 

 

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 その瞬間、世界の色が変わった気がした。

 

 

 即席で身につけた鎧の隙間から覗く白い肌、手足の体毛と同色でたなびく朱色の長髪は、それが戦女神の化身であるかのように己の存在を戦地へと誇示していた。

 その肩に担ぐあの方でさえも、その神話の一部にすぎないかのような。

 そして、ああ!そして何よりその目だ!

 獣のような切れ長の相貌に、細長かった黒目が見る見る内に丸くなって……まるで憧れた世界への生誕を祝うような、いやさ、初めて目にした美しき世界に感動を禁じ得ない秘されし乙女のような……

 

「構えー!」

 

 署長の号令にしたがい、狙撃班が儀式杖を構える。

 その時彼女は我らを見卸し、慈悲深く微笑んで……

 

 担いだあの方をお庇いになられたのだ。

 

 剣が、閃いた。

 

 

 

 

 爆発が起きた。

 美女を庇い、背中に走るだろう熱い痛みを覚悟して難く閉ざした目を恐る恐る開き振り替えると、純白の鎧を身に纏った金髪の青年が剣を振り抜いた形で鎧の監守達と相対していた。

 

「なっ……気でも触れたかエフロンド卿!」

 

 指揮棒を構える男が叫ぶ、先の爆発はこの男が起こし銃弾を吹き飛ばしたのか?

 人外染みてる想像だが、返答するように金髪の持ついかした感じの剣がその一部を開いて勢いよく蒸気を噴出した。

 

「それはこちらの台詞だウィンターガーデン署長、対物術式など彼女の身体を貫くに十分足る威力のもの

陛下を庇われた彼女を貫き、その御身に傷つける不手際誰が赦せようか!」

 

「かの……え?いやそれは……その……」

 

 指揮棒のおっさんが焦りを見せはじめる。

 そっかあいつら対物ライフル的なの射とうとしてたのな、身を呈しても庇えないじゃん馬鹿だ俺。

 あれ?予想以上に偉い人じゃないかこの美女さま。

 だがこの金髪も、相等冷静で話がわかるやつなんじゃ……

 

 

 

「しかし私が赦せぬのは!

かような見目麗しき令嬢を化け物とそしり、事情も聞かず追い回す無法!

 

例え天下が赦しても、この近衛騎士白薔薇のデュバル・ド・エフロンドが!

赦すわけにいくものかよ!!」

 

 

 ……あ、みんな目が点になった。

 デュバルと名乗る金髪はかなりの重量を持った鎧の脚で大地を踏み鳴らし、さも歌劇やアニメのイケメン主人公もかくやな大見得を切り名乗りをあげた。

 

 ……あー、あー、美女の方を化け物と思ってるやつかな?

 美女さんは美女さんで何、俺の胸に手をおいて笑いを堪えてしてるけど知り合い?

 勘違いは正さないとなぁって、何?

 金髪(デュバル)がやたらと見てるの、美女さまじゃなくて俺じゃね?

 

「誤解を解こう、麗しき(あけ)き髪の御仁よ。さぁ、手をとって」

 

「……へ?」

 

 まるでナンパするような、むりくり優しくしたような声でなんか言いながら此方に手を差し出してくる。

 朱色の、髪の、ごじん。

 

「一目見て貴女に心を奪われてしまいました、朱き女神よ」

 

 

「ううおおおおああああああああ!!!!」

 

 固く握った拳に何か熱いものが流れ込み、目に見てわかるくらいギシリと重くなり発光する。

 なんか手順とか色々飛ばして咄嗟に出た必殺の一撃っぽいそれを、俺は危機感のままに金髪の胸へと押し込んだ。

 

「ぽぅ!?」

 

 哀れ金髪(デュバル)は射出されたロケットのように天高く弾き飛ばされ、錐揉み回転しながら遥か彼方の民家へと落下していった。




「直ぐ向かいます、ベルモッド!」

「うおおおお!地球一周だってしてやろうじゃないの!!」

「そこの陛下と同い年だ!!」

「~~~~っ!スザンヌぅううっ!!」

「ありがとう、もうあんたを人質にして突っ走るのは辞めだ」

「発情してるとこ悪いけど、時間切れよ……ベルモッド!」

「ヴィルヌーヴ王国第27代国王スザンヌ・デ・ヴィルヌーヴの名に於いて、此処に名もなき魔物への処遇を言い渡す!」

次回「目覚め・逃亡(後編)」

「かあさまー」

「どうなさったのですか?」

「この子角あるー」

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