イラの魔獣Beauté et bête magique   作:EMM@苗床星人

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3/魔術の王国・ヴィルヌーヴ(後編)

 

 気づけば私は二度(ふたたび)宙を舞っていた。

 周りに舞い散る煉瓦、昨日から忘れられぬ胸の鈍痛が更新されている。

 ぐるぐると重力が体を巡る奇妙な感覚に、手足が操糸傀儡のようにブラブラと動く。

 回転する町並みという二度はなかなか見ない光景に、私は昨日の出会いを思い出す。

 

「あぁ、なるほど」

 

 どうやら私はまた、朱き女神に押し飛ばされてしまったらしい。

 それもマンションの壁を突き破ってだ、後でウォーリー婦人に謝らねば。

 ……しかし、彼女は──朱き女神は直前なんと言った?

 

──俺は、男だあああああ!!──

 

 ふむ、謎だ。

 明らかに白き肌と豊満な体型は乙女のそれ。

 しかし魔物であらば、多少常識が通じないのは解る……いやいや。

 もしや、そう思い込んでいるということもあり得るが……

 

『《対象硬化(オブジェト・デューシスモ)》』

 

 意識の回復を察した機構剣が術式を解放し、私は身を捻って体制を整え落下地点となる民家の屋根に着地した。

 まぁいいか、話はゆっくり聞けばいい。

 紳士としてあるまじき詰めより方をした責は私にある。

 確か、クローシェ女史に曰くそのお名前は……

 

「イラ……勇ましく、そして奥ゆかしい名だ」

 

 こうしてはいられない、すぐさま私は彼女のもとへ向かった

 

 

 

 

 いかん、いかんぞこれは。

 やっちまった……

 

「……あっ。」

 

 目の前に規則正しく積み上げられていた筈の煉瓦の壁には、俺の身長の倍はある大きな風穴が開けられていた。

 というか、俺が開けてしまった。

 デュバルごと壁を吹き飛ばしてしまったのだ。

 今から住むマンションの、それも管理人の目の前で。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 俺はウォーリーさんに腰から頭を90度下げて謝罪した。

 ウォーリー婦人は腰から──クローシェの杖ほどゴツくなく、指揮棒より少し長い程度の──機械仕掛けの杖を抜いて壁に構えた。

 

「ミス・クローゼット、《修復(リスタウラション)》」

 

『了解、バックアップデータを呼び出します』

 

 ミス・クローゼットと呼ばれた杖から女性的な機械音声が鳴ると、杖から分離したパーツが杖自体を軸のようにして回転する。

 すると、先程月と呼ばれたそれのように優しく光る何かがその回転に沿って集まり、壊れた壁に向かって破裂音とともに発射された。

 

 すると、まるでビデオを巻き戻しするように外へ落ちていった無数の煉瓦が、リングの光に捕まれるように勝手にもドってきて壁と融合する。

 凄まじいのは、ひび割れた隙間すら逆再生のようにに元に戻ってくっついていくのだ。

 壁が綺麗に元に戻ると、リングの光はまた見たことない文字を走らせて波紋のように広がり消えていった。

 

「お、おぉー……」

 

「只の市販の修復魔術アプリよぉ」

 

 思わず拍手を送る俺に照れるように頬をかくウォーリーさん、しかし彼女はだ、け、ど、と強調するように一泊おいて俺を指差した。

 

「あんまりやると、炸裂晶(リソース)代を家賃に上乗せするからねぇ?」

 

「おっす!気を付けるっす!」

 

 ふたたび頭を下げる俺に笑いながら、ウォーリー婦人は杖をコッキングする。

 排出された空薬莢らしき物をハンカチで掴んで携帯灰皿のような入れ物に入れた。

 当たり前のように洗練された動作に見いっていると、呆然としていたクローシェが俺に怪訝な顔を向けて言った。

 

「あんた、今のどうやったの?」

 

「は?」

 

 いってることの意味がわからず疑問で返す俺に詰めより、クローシェは俺の腕を持ってブツブツと呟きはじめる。

 

「因鉄の反応はやっぱりない、なら体内に解析不能領域が?でも始めからそんな器官を搭載した魔物なんて遺産録に聞いたことも……ちょっと来なさい」

 

 今度はクローシェに手を引かれ階段を下りていった。

 その間にもクローシェは杖に指示を出す。

 

「ベルモッド、ケイリーに繋いで」

 

『かしこまりました』

 

 返事をしたベルモッドの先端にあるダイアルが勝手にギリギリと廻る。

 すると光る文字がクローシェの回りを囲み、女の子とおぼしき丸い映像がクローシェの顔の横に表示された。

 うぅむ、相変わらずこの杖SFもいいとこだ。

 

『はいもしもし? 師匠?』

 

 む、映像を見る限り茶髪をポニーテールにしている白衣の美少女だ。

 

「例の魔物だけど、やっぱり昨日の資料通り不可解な現象を起こしてるみたい。

解析班に連絡してMRSにかける準備しといて?」

 

『は、はい!』

 

「待てなに自然に人の体弄くる相談してんだちょっとおぉぉぉ……」

 

 引きずられていく俺を見送って、ウォーリーさんはふと思い出したように呟いた。

 

「……あら、そういえばデュバルくんは良いのかしらぁ?」

 

 

 

 

 昼になって日も昇ると、いよいよもって街の活気はピークに達している。

 異種族くらいあって当たり前かなとも思っていたが、街を往来する人々の顔立ちは本当に様々だ。

 ──相変わらず女性は美人揃いだが──

 引き摺られていた俺だが、自然と足はクローシェに合わせて歩いていた。

 

「ヴィルヌーヴは魔術の中心だからね、各国から最新の技術や魔術を求めて様々な種族が来るわ」

 

「あの首輪つけてるのは何なんだ?」

 

 エルフや猫耳はそうでもないが、とかげみたいな大男やコウモリの羽を生やしたエロい格好のおねーさんなど人外具合が高いやつは皆一様に同じデザインの首輪をつけていた。

 たぶん、俺の首にあるのも同じデザインだ。

 

従魔(ファミリアー)の首輪? 魔物よどれも?」

 

 ……んん!?

 

「ちょ、ちょい待ち?

魔物って人類の天敵で目茶苦茶危険やーとスザンヌ王女さまに言われとったんやけど?」

 

「あんたたまに出るその口調なんなの?

スザンヌは魔物嫌いだしおおよそその認識は間違ってないわよ

でも魔物にだって飼い慣らせる程の知能を有するものは居るし、人語を解する高位の魔物(ディモン・スペリオーレ)もいるわ

魔物はあくまで体内に魔術を起こせる器官を持った生命体の総称だからね

国によって高位の魔物の一部は人種として認められてるわよ」

 

 魔物嫌いだったのかスザンヌ……何で俺は平気だったんだ?

 

「ただこの国では最近力で周囲の下級魔物を従えた高位の魔物によるテロがあったからね、高位の魔物であろうと入国時には従魔の証である首輪の着用が義務つけられてるわ。

その首輪はあなたの特性に合わせた特注品だけど

忠告無視して外して出回ったりしたらこれだから、重力魔術無しでも外さないのが身のためなのよ」

 

 クローシェが首を指で横になぞるジェスチャーをするのが恐ろしい。

 そしてクローシェはふと遠くに見えたものを指差した。

 

「そうそう、あれが貴方が登る筈だった処刑台、今整備中みたいね」

 

 遠くからでもわかるギャリギャリとした嫌な音、遠目に見たそれは高ーい階段つきのでかいミキサーだった。

 

「表現と随分処刑方法が違うと思いますが!?」

 

「それだけスザンヌに違法の魔物近づけるのはご法度ってことよ。研究のために持ち帰った私も大概立場が危うかったんだから」

 

 やっぱマッドじゃねえか。

 頭のなかでドナドナを歌っていると、尻の付け根にいきなり激痛がはしった。

 

「ぎゃんったぁっ!?」

 

「クローシェねーちゃん、こいつ高位の魔物? 従魔?」

 

 振り返るとそこには、俺の尻尾を掴んだ繋ぎ姿の少年が悪戯っぽい笑みを浮かべている

 

「あ、ふんどし」

 

 しかも少年が引っ張っている尻尾にスカートが押し上げられ周囲の視線を集めてしまっていた。──恐ろしいことに主に野郎の──

 

「よし小僧生きて帰れると思うなよぉ」

 

 指を鳴らしながら威嚇する俺を無視してクローシェが少年の頭に手を置いた。

 

「ラッド、相手が女好き好きヘンタイ男女でもそんなことしちゃ駄目よ紳士でしょ?」

 

「わかったー」

 

「悪かったな女好き好きで」

 

 さりげなく罵倒されたのも許しちゃう、俺こそ紳士だもん。

 あと名誉のために誰かに言っとくが、スカートもふんどしも断じて趣味ではない。

 腕よりも遥かに敏感な足の毛がごわごわしてズボンも短パンもはけないのだ、解ってくれ誰か。

 ラッド少年は背中からよじ登り今度は角をぺたぺた触ってくる、何だろう頭の魚の目撫でられてるような変な気分。

 

「角でっけぇー、流石ねーちゃんの従魔格好いいな!

女好きなの?」

 

「良いか小僧、お前も大人になったらきっと解る。

乳尻太股こそ生命の黄金比であり、それを賛美するのに男も女も関係ない

恵まれた世界に生まれたことに感謝するんだ」

 

「さっきから私とそこの獣人闘士を見比べてるのは当て付けかコラ」

 

 俺だって出来るなら猫耳ビキニアーマーのボンキュッボンに拾われたかったさ……

 そう思ってそこ行く女性を見ていたら、ローブ姿の何者かが丁度俺が見ていた女性の後ろからぶつかって走っていった。

 すると女性は顔色を変えてビキニアーマーを纏う体のあちこちを触りはじめる。

 うひょひょ眼福って、これアレじゃないか?

 

 

「にゃ、にゃ!? ど、泥棒ー!!」

 

 

 やっぱりか!!

 猫耳ビキニアーマーの叫びとともに俺は小僧を下ろしてクローシェの横に置いて走り出した!

 

「クローシェこの小僧頼む!!」

 

「ちょっと!?」

 

 俺の足の早さは知ってる、決して追えない速度じゃない。

 ローブ野郎は人混みを器用に掻き分けて走っていくが、俺はそんなに器用じゃないから昨日の手を使ってみるか……

 

「あら、よっと!!」

 

 人外の膂力を使い、民家の瓦屋根に跳び乗って出店の屋根を跳びながらローブ野郎に近づいていく。

 ローブ野郎は俺の存在にも気付いているのだろう、ぎょっとした様子で俺を見て人にぶつかり転倒すると、慌てた様子で大通りから外れる路地に身を隠した。

 

「逃がしゃしねぇぞ!!」

 

 俺はそのまま人気のない路地に着地してローブ野郎を追い続ける。

 全てはビキニアーマーとのお近づきのため!

 しかし俺の耳はローブ野郎を追いかけながら違和感を感じ始めた。

 足音が多い気がする、なんだこれ反響とかそういうの……か?

 

「うおっ!?」

 

 横道から銀色に光る何かが光り、身を反ってそれをかわす。

 そしてバランスを崩し背中から地面にぶつかり転がる俺を目掛けて二人の(・・・)ローブ野郎が飛びかかって来た。

 

「んにゃろっ!?」

 

 ギリギリその場を離れると、俺のいた位置を銀に輝くナイフが貫通する。

 地面は壁と同じ赤煉瓦だ、只のナイフじゃないのは一目でわかった。

 

「ギキッ!!」

 

「ギキキギ……!!」

 

 かなり小柄なローブの下から、獣じみた笑い声が聞こえる。

 ローブの下には緑の肌に長い鼻、噛み合わせの悪そうな歯が見える。

 なるほど複数犯か、でも俺の狙いは逃げてるあいつだ!

 俺は駆け出しついでに襲撃してきたローブ野郎共の頭をひっつかむと、怪我をしない程度にぶつけて放り投げた。

 

「てめぇらに構ってる暇はねえ!!」

 

「ギャア!?」「ゴエッ!?」

 

 その悲鳴を合図にしてか、周りに聞こえる足音が余計に増えた気がする。

 

「治安悪いのな、ったく!!」

 

 それでも逃げた奴を追って駆け出すと、今度はいつかと同じ寒気が……いや、熱い何かの気配が体を貫通した気がした。

 

「なんか解ってきたぞっと!」

 

 後ろから迫るものを昨日の要領で質量倍化した腕で弾くと、毛皮が燃え始めた。

 

「あつぁ!? 今度は火の魔法かよ!!」

 

 手を振ってなんとか火を払うと、ナイフ持ちが今度は壁を走り襲ってくる。

 傍らにさっきの火球をひきつれて。

 

「うぉぉおお!?」

 

 火球をよけると地面に炎が広がり足を焼く、弾いたら腕が熱い。

 ケチなスリの癖になんて連携だよそれで稼げよ!!

 襲い来るナイフを掴むと、その持ち主のローブを引っ張って強奪する。

 

「元人間様の知恵なめんじゃねぇぞっ!」

 

 それを両腕に巻いて引きちぎり、申し訳程度に火球対策の防具にする。

 

「キキキ」

 

「ゲゲゲ……」

 

 それが知恵のつもりかと言わんばかりに、並走する緑肌のスリ共の嗤い声はどんどん近づいてくる。

 道が開けたかと思ったら、たどり着いた先は……

 

 

 熱い殺意の針のむしろだった。

 

 

 路地の中でも開けた空間、四方を囲む建物の隙間から、打ち捨てられた土管から、マンホールから、木の影から、そして俺の追ってたローブ野郎の手に持つ杖から。

 無数の熱い殺意、火の魔術の前兆が俺の全身に突き立っていた。

 

「やべっ」

 

 身を翻す前に、火球が放たれる。

 今さらやってきたスローモーションの世界、火球を避ける隙間など有りはしない。

 ただひとつ、俺の目の前に落ちてくる冷たいものの影を除いて。

 

 破裂、そして爆発、焦げ臭い煙が晴れると、そこには氷の壁が突き立っていた。

 

「ばっっっかじゃないの!?」

 

 上空からの罵倒の声、飛行バイク形態の杖に股がったクローシェが俺を見下ろしていた。

 

「武装した緑小鬼(ゴブリン)の群れに単機飛び込むとか自殺行為も良いとこ、こんなとこに群れがあるってものおかしい話だけど……」

 

「あぶねっ!?」

 

 クローシェが言ってる間に発射された火球を弾く、んで腕に巻いた布が燃える。

 

「うぁぢゃちゃ!! 説明長いんだよ!!

あと単体のスリだと思ってましたゴメンなさい!!」

 

 即布を破棄してまた燃え移るのを防ぐ。

 背後にもローブ野郎の群れ、囲まれてクローシェと背を向けあう

 

「何処から仕入れたのかわかんないけど、火球(ボール・デ・フェウ)の魔術をそうとう仕込んでるみたいね

でも厄介なのは緑小鬼の魔物としての固有魔術、貫通(トラヴァース)……近づかれたら内蔵から抉られる」

 

「あれナイフが凄いんじゃなかったのか……でもそれは俺ならギリギリ対応できる」

 

「ならば私が補おう!!」

 

 何処からか聞こえてきた、もはや怖気を感じる大声に背筋がゾワットした!!

 

「ハッハッハッハッ……ハァッ!!」

 

 なんか目茶苦茶笑いながら、建物の上から飛び降りる青年。

 その腰に下げた機械の剣が自動的にコッキングする。

 その肩から物理法則を無視するかのように鎧が展開していきその全身に纏われ、武装した青年は俺の前で五点接地しながらぐるりと着地した。

 

「ウォーリー夫人に聞いて追い付いたぞ、異界より来たりし女神よ」

 

「げぇっ、デュバル!!」

 

 あまりの存在感の濃さについ覚えてしまった名を呼ぶと、デュバルは飛んできた火球を切り払いながら気持ち悪い笑みをこっちに向ける。

 

「名を覚えて頂けるとは光栄の極み……イラ嬢、いやイラ殿か」

 

「ウォーリーさんに聞いたんならわかるよな、俺中身男だからな!?」

 

 群れで襲い来るローブ野郎をぶん投げながら言うと、デュバルはそれでもローブ野郎をホームランする剣を緩めず言い放つ。

 

「にわかに信じがたいのも事実だが……イラ殿、元が男であるならば解るはずだ!!」

 

「なにがぁ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 剣を手動でコッキングしたデュバルは、振り抜いた剣閃から爆発を起こし火球を防ぎながら叫んだ。

 

「私は貴方の顔に惚れたのだ!!」

 

「解るけど下衆なこと堂々と言うな!!」

 

「ああもううるさい!! 男共は馬鹿だってのがよく解った!!」

 

 熱さと寒さが混沌としてきた空間を、突如として寒さが支配する。

 すると寒さは熱さへと急速に変わってクローシェから走る文字が浮かび上がる。

 

「さっきから打ち出すだけの中途半端な術式見せられてイライラしてるのよ

せめて魔術を悪事に使うなら、こんくらいやりなさい!!」

 

『お嬢様、それはそれでまともとは言えません』

 

 静かに突っ込みを入れながら、ベルモッドが自動的にコッキングする。

 クローシェを中心として電子回路のような熱くない炎の線が爆発的に広がっていくとベルモッドが無慈悲に魔術の名を告げる。

 

『≪経路感応(ヴォイエ・センシブル)≫・≪火炎炸裂(フランメ・エクスプロシプ)≫』

 

 すると火の回路をネズミ花火のような火花が大量に走っていく、そして危険を察知して逃走を試みるローブ野郎共の下へ潜り込むと、その場で雷のような音をたてて指向性のある衝撃とともにローブ野郎を打ち上げた。

 

「ギャッ!?」「ギエ!!」「ギャア!?」

 

 限定された空間のなかをローブ野郎共の悲鳴が埋め尽くした。

 一人残らず黒こげで、それでもなんとか生きているであろうローブ野郎共の中心で呆然と立ち尽くしながら思う。

 この世界の女性って、美人が多い分逞しいのが多いんだな多分……。

 

「イラ殿」

 

「んだよ」

 

 小さく呼びあうと、デュバルが手を差し伸べていた。

 

「心の性ゆえに思い遂げられないならそれで良い

よしんば付き合ってほしいのも事実だが、今は友としてよろしく頼めないだろうか」

 

 正直なやつ、しかしまぁ美人に話しかけずにはいられないってのはよく解る。

 仕方ないか、同じマンションに住むんだし……程ほどに仲良くしてやっても良いか。

 そう思って手を握りかけたその時だった。

 

「はぁっはぁっ、私の財布……追い付いたにゃァ」

 

 さっきの猫耳ビキニアーマー!!

 こうしちゃおれん、さっきのローブ野郎は……

 

「探し物はこれですか、お嬢さん」

 

 そいつは、丁度デュバルの足元で倒れ伏していた。

 可愛い猫デザインのがま口財布をデュバルに手渡されたビキニアーマーは、その顔を見だに頬を赤く染めていき……

 

「わ、私アンヌマリ王国から来た獣人闘士のキャス・バークマンって言いますにゃ!

あのっ、術式回線の番号交換しませんかっ!?

というか付き合って下さいにゃっ!!」

 

 あ、これ見たことあるやつだー

 ナンパするたんびに近くにいるイケメンにかっさらわれて置いてかれるやつ。

 初恋の先生の旦那さんもイケメンだったなー

 ハッハッハそうだったこいつもイケメンだったわー。

 

「いやいや待って下さい私にはもう心に決めた御仁が……イラ殿?」

 

 発射準備、オーライ。

 

「……やっぱりイケメンは敵だあああぁぁぉ!!」

 

「ぅぱぅ!?」

 

 俺の怒りを込めた鉄拳は、デュバルを何処までも遠く高く射出した。

 

 

 

 

 エフロンド卿がまた飛ばされている。

 まぁそれは良いとして、私は倒れた緑小鬼のローブを開き首を確認する。

 この国では、国の許可が降りた証である従魔の首輪がなければ人里に魔物は入ってはいけない……そもそも許可を下ろした者でなければ結界で入れないようになっているのだ。

 

 しかし、その首に首輪は無かった。

 

 その手に持っていたのはナイフと、一度に一術式しか登録できない旧式儀式杖。

 それをここまで揃えるなんてこと、野生の魔物にスリだけで可能なの?

 

 正体不明の能力を持った古代の魔物。

 

 彼のものの異世界から来たと言う証言。

 

 あり得ない場所に、あり得ない装備を揃えた下級の魔物の出現。

 

 本当に無関係なの?

 

 そして、魔物嫌いのスザンヌがイラを生かしたと言う事実……三年前のテロで、夫を喪ったスザンヌが。

 

「何が、起こってるのかしら……この国に」


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