その日、フィアは久しぶりに「HKO」へログインしていた。
……とは言っても、ログイン自体は定期的にしていたのだ。
尤もその時のフィアは町やフィールドに出ることはなく、ゲームの世界でやることと言えば専ら「生命の泉」でリージアやモンスター達と一緒に戯れながらまったりとした時間を過ごすといった程度のものだったが。
そのような経緯もあってか、フィアはプレイ早々胸に飛び込んで肩までよじ登ってきたリージアと会うのも、今日がそれほど久しぶりというわけでもなかった。
ただ記憶を取り戻してからは初めてのプレイになるこの日は、体感的にはどこか懐かしさを覚えるほどに、フィアはログインした「HKO」の世界に感慨を抱いていた。
そんなフィアが町に繰り出し、向かったのは雪の町「アルカーデ」にある集会所である。
施設の中にある冒険者――即ちプレイヤー用のスペースとして設置されているテーブルを囲みながら、フィアはフレンドのレイカ、ペンちゃんと共にこれからのプレイに対する打ち合わせを行っていた。
二人の前でフィアがウインドウ画面を開き、そこに記載された情報を一同に公開している。
《イベントカード「エンドレス・マスカレード」について
4人までのプレイヤーが参加可能。
※イベントの発生にはVRギアへのカードの挿入に加えて、以下の条件が必要です!
1.同行するプレイヤー含む全員が「HEAT」スキルを解放済みであること。
2.オンラインワールドで「聖地ルディア」へ到達済みであること
3.1、2の条件を満たした上でヘブンズナイツと会話することでイベントが発生》
それは、フィアが自身のウインドウにメモ書きした文章である。
内容は、先日紅井クレナが志亜に手渡してきた皇ソロからの説明書を書き写した、イベントカードにおける注意事項の書き写しだった。
イベントカード。
それはVRゲーム「HKO」において、特別なイベントを発生させることができる限定商品の一種である。
その希少価値は志亜が思っているよりも桁違いに高い。質に出せば莫大な額で取引できるほどの、やり込み勢の誰もが憧れるカードであった。
志亜はそれをくれたソロの好意に甘えて、早速そのカードを使ってみることにしたのだ。
使ってみることにしたのだが……志亜が望むプレイをするには、現在注意事項のうち二つが障害になっていた。
まずその一つが、「HEAT」スキルが解放済みであること――という条件である。
フィアには「蒼の領域」という、偶然の産物によってだが確かに習得した立派な「HEAT」スキルがある。
この点に関してはフィア自身には何の問題も無く、フィア一人でプレイする分には条件を満たしていた。
しかし、それでは駄目なのだ。
それでは……
「レイカと一緒に、できない……」
「キュー……」
フィアは「HEAT」を持っているが、レイカはまだ「HEAT」スキルを取得していない。
もう一人のフレンドであるペンちゃんはわからないが、誘いたい友人がまだ条件を満たしていない以上、イベントを受けるわけにはいかなかった。
フィアの肩に乗るリージアも、心なしか悲しそうに鳴いている。
その態度に遺憾そうな顔を返したのは、当人であるレイカだ。
「誘っていただけるのは嬉しいですが、この私が足を引っ張っているような言い方は癪ですわね」
「ごめん……レイカ」
「いえ。まあ、フィアさんが持っていて私が持っていないのは問題外ですし? 丁度いい機会です。そのHEATスキルとやら、すぐに手に入れてみせますわ」
「でもなー、HEATの習得は人によって早かったりすれば遅くなったりもするからなぁ」
事情を聞き、フィアによって招集されたレイカが、現実世界と同様に自信満々な顔で宣言する。
そんな彼女に対し、ホットドリンクを片手にくちばしを動かすのがコウテイペンギンのペンちゃんである。よくよく考えるとシュールな絵面であるが、フィアとレイカの二人にはもはや慣れたものだった。
そのペンちゃんがカップの中身をついばんだ後、フィアの座る席の後ろで壁に寄り掛かっている一人の女性の方へ顔を向ける。
「そこのところどうなんだ? へリアルさんよ」
へリアル――ペンちゃんからその名で呼ばれたのは、燃える炎のような真紅の髪を腰の長さまで下ろした美しい女性だった。
赤いロングコートを身に纏う凛々しい風貌は、研ぎ澄まされた宝剣のように苛烈な存在感を放っている。
そんな女性は髪の色と同じ色をした瞳を閉じながら、淡々とした言葉を返す。
「……前提として、HEATスキルを習得するにはまずヘブンズナイツから「祝福」を受ける必要がある。そして習得するHEATはヘブンズナイツの祝福と、そのプレイヤーのプレイスタイルによって決定する。上級職でなければ習得できないわけでもないし、理論上はプレイを始めて一時間以内のプレイヤーでも問題ない」
つらつらと語られた言葉は、この「HKO」における特殊なスキル「HEAT」についての説明だった。
その内容にはフィアも知らない情報があり、レイカにも初めて知ったことがあったのだろう。彼女もまた、感心するようにふむふむと頷いていた。
「なるほど……つまりまだ上級職に至っていない初級職の私でも、ヘブンズナイツにさえ会えばフィアさんのようにHEATを得られるということですわね」
「フィアは、運が良かった……フィフスに会えて良かった」
そう考えるとプレイから早々にヘブンズナイツの一人であるフィフスと会えたのは、他のプレイヤー達から羨まれるほどの幸運だったのだろうとフィアは理解する。
プレイヤーでありながら今一つゲームの情報に詳しくないフィアは、自身の異常なプレイ内容に対する自覚が乏しい。
新たな情報を入手したことで、しばし考え込んだのはレイカである。おそらく彼女は、これからの自分のプレイ方針について考えをまとめているのだろう。
そんな彼女は、納得した様子で顔を上げると、今もフィアの後ろの壁に寄り掛かっている紅の女性に対して言葉を発した。
「っていうか、貴方誰ですか?」
あまりにも自然な流れで話に入ってきたが故に鮮やかに流してしまったが、レイカにとって彼女は初見――厳密にはそうではないが――の人物であり、存在に驚きながら正体を訊ねるのは至極当然の反応だった。
今更かよ、と呟くペンちゃんの声を耳にしながら、フィアは「どうして一緒に座らないんだろう?」と別の疑問を抱きながら振り向き、彼女の姿に目を移す。
紅の女性は組んでいた腕を解いて壁から離れると、椅子に座るフィアの傍らに立って改めて名を名乗った。
「……私はへリアル、フィアのフレンドだ」
「うん、へリアルもフィアのフレンド。フィアが誘った」
だから決して怪しい人間ではないと、フォローするような形でフィアが彼女を紹介する。
ちらりと彼女の横顔を見上げながら、フィアは彼女がここに来てくれたことを喜びながら穏やかな気持ちで頬を緩めた。
アバターシステムで再現したのだろう。大人の女性として磨きが掛かっている容貌には、最初顔を合わせた時は思わず固まってしまったものだ。
へリアル――本名はアイン・へリアル。現実世界での名前は、紅井クレナ。
このゲームでの彼女のアバターの素顔は、かつてシライシユウシが愛し、共に異世界で戦い抜いた女性――アカイクレナそのものだったのである。
言わばこのアバターは、今の紅井クレナが大人になった姿である。ならばその高貴的な美しさも当たり前だと、志亜は何故か誇らしい気持ちで小さな胸を張っていた。
そんなへリアル――紅の女性を前に、珍しく気後れした様子でレイカが応対する。
「そ、そうですか……なんか、どこかで会ったような気がしますねぇ」
「ああそうそう、へリアルはβテスト時代からのプレイヤーらしいし、このゲームにはかなり詳しいみたいだぞ」
「ほう! βテスターでしたか! それは頼りになりますね」
ペンちゃんが彼女の紹介にそう付け加えると、それまで訝しむように見ていたレイカの目が嬉々として輝いた。
この「HKO」が試作段階の時点からプレイ経験のあるプレイヤーの数は、全体を見渡しても極めて少ない。そんなβテスターの一人だというへリアルに対して、レイカはわかりやすく興味を示したのである。
……嘘をついているわけではないが、本当のことを話しているわけでもない。ペンちゃんの語った紹介に何も言わないへリアルに対して、フィアが首を傾げた。
「……いいの? クレナ」
「ええ、関係のない人に、わざわざ面倒な素性を明かす必要はありません。このぐらいで十分でしょう」
「そう……」
へリアル――クレナがレイカに対して、自身がβテストどころかゲーム会社「SOLO」自体に大きく関わっている身分であることを話すことはなかった。
彼女にとってはフィア――双葉志亜の存在やその弟こそが例外に当たるだけであり、他の者に対しては同じように接するつもりはないのだろう。
しかし「関係のない人」とレイカのことをはっきり分別されたことは、志亜にはやはりどこか寂しい気持ちだった。
へリアルとフィアの間でかわされた小声のやり取りを見て、何を感じたのか向かいに座るペンちゃんが話題を変えるようにくちばしを開いた。
「へリアルも来たってことは、そのエンドレスなんたらっていうのを受けるのは、この四人で決まりか? っていうか、誘ってくれてありがとな、フィア。私なんかを貴重な枠に入れてもらって」
「ううん、ペンちゃんもフィアの友達だから当然。この服のお礼も、ちゃんとしたかったから……受けてくれてありがとう、ペンちゃん」
「いいってことよ。うむ、お姉さん張り切っちゃうぞー!」
今日この場に四人が集まったのは、もちろんソロから貰った「エンドレス・マスカレード」のイベントカードについて決めたいことがあったからだ。
フィアはそのカードによって引き起こされるという特別なイベントを、彼女らと共に受けようと考えていた。
誘った理由だが、レイカは親友なのでこの説明を呼んだ時点で最初から確定していた。
数少ないフレンドであるペンちゃんも同様である。
そして当初、最後の四人目の枠には弟の千次を誘おうとしたのだが、彼は出来た弟なことに「俺はいいから、姉さんは友達と楽しんできなよ」と遠慮したのだ。
そこで、これ見よがしに自分の存在をアピールしてきたクレナが四人目のパーティメンバーとして立候補したのである。
もちろんフィアは、クレナの都合があうのならと快く受け入れた。
当初クレナではなく弟を誘おうとしたのも、彼女がゲーム内の「バグ」を破壊するという役目を担っている運営側の人間であることに配慮していたからに過ぎない。
その都合が問題なく、彼女自身から一介のプレイヤーとして活動することもできると早口で説明されれば、フィアは彼女の参入を心から歓迎した。
――クレナと一緒は、志亜も嬉しい……一緒に頑張ろうね。
彼女の手を取ってそう言ったのは、その時の志亜だ。
志亜の言葉に、クレナが歳相応の表情で照れていたという余談である。
そんな思い出をフィアが振り返っている間に、三人は思い思いに親睦を深めている様子だった。
「しかし、βテスターならへリアルさんもHEATスキルぐらい持っているのでしょうが、ペンギンさんも持っているのですか?」
「ああ、持ってるぞ。私のは戦闘向きの能力じゃないが」
「因みに、どういうものなのか教えてもらっても?」
「聞いて驚くなよ? ペンギンの形をした物が作りやすくなる能力だ」
「なんと、意味不明な能力ですね。なんだか一気にロマンがなくなりましたわ」
「……同感だな」
「ペンギンはロマンだろう!」
ペンちゃんが東條ルキならば、へリアル――クレナとの仲を心配する必要は無いだろう。
しかし今回が事実上の初対面であるレイカとヘリヤルに関しては、お互いにどのような反応をするのかフィアにも想像つかなかった。
ユウシの知る限り、クレナは非常に我が強く直情的で苛烈な性格だ。
そしてフィアの知るレイカもまた、我が強く私が私がとリードを取りたがる性格である。
二人ともベクトルは違うが、そういう意味では似た者同士に思える。そんな二人がお互いに受けた印象としては、今のところは問題無く応じているように見える。
それには二人にとって共通の知人であるペンちゃんの存在が、上手い具合に緩衝材になっているからなのかもしれないとフィアは感じる。
「HEATスキルは、プレイヤーのプレイスタイルによって能力の傾向が変わる。応用の利くものもあれば、そこのペンギン擬きのようにピーキーな能力が発現することもある。だが確かなのは、どれも通常のスキルとは一線を画す強力な力だということだ」
「擬きじゃない。私がペンギンだ」
「ふむふむ……と、言いますと?」
お世辞にも愛想が良いとは言えない態度で行われるへリアルの講釈に対して、レイカがペンちゃんのツッコミを無視しながら真面目に相槌を打つ。
そしてへリアルはフィアの傍から離れた後、その身に宿る力を解放した。
「――!」
瞬間――彼女の立つ空間の色が変わる。
へリアルの身体からおびただしい量の紅蓮の炎が奔流し、オーラのようにその全身を覆ったのだ。
彼女のHEATスキル――その顕現である。
視覚的な変化として表出させたそれは一目見てもわかりやすいものであり、レイカをしても思わず言葉を失うほどの光景だった。
「きれい……」
紅蓮を纏うへリアルの姿は、彼女の容貌も相まって「紅の天使」とでも言えるほど神秘的なものだった。
そんな彼女にはフィア達のみならず、この施設にいる全ての人々の視線が集まっているように思える。
それらの視線を鬱陶しそうに一瞥しながらも自分がやり出したことだと諦めるように溜め息をつき、へリアルは自身の身を覆う炎のオーラを鎮めながら言い放った。
「……魔法とは別に、さしたるデメリットもなくこういう力を身につけることが出来る。これがHEATスキルだ」
彼女なりに、HEATスキルについてわかりやすく説明したつもりなのだろう。
モンスターを相手にその力を見せるなりすればさらにわかりやすくなったのだろうが……へリアルに関して言えば、確かにこの程度の説明でもその力は伝わってくるものだった。
見ただけで、自然と納得してしまうエネルギーがあるのだ。彼女だけが使える、特別な炎には。
納得したのはフィアだけではない。
彼女の身を覆った炎が魔法によって顕現させることができる「ただの炎」とは明らかに別物であるということは、先の神秘的な彼女の姿を見た者ならば誰もが理解できることだった。
「す……」
長い沈黙を破り、レイカが声を上げる。
「すごい! すごいですわへリアルさんっ! ジョイナスですわー!!」
「っ?」
「掲示板などの攻略情報から知っていましたが、HEATスキルとはここまで凄いものでしたなんて……俄然、やる気が湧いてきましたわ!」
「そ、そうか……」
思わずと言った具合に感動の声を上げたレイカが席から跳び上がると、踊るような足取りでへリアルの手を掴みながら絶賛の言葉を述べていく。
彼女の感性は、へリアルの見せた炎のことを素直に綺麗だと感じたのだ。
親友が自分と同じ感想を抱いたことがフィアも嬉しかったが、それ以上に喜ばしかったのは二人のファーストコンタクトがこれを機に良い方向に向かっていけそうだと感じたことである。
「あっ、アイツちょっと嬉しそう」
「良かった……レイカとへリアル、仲良しになれそう」
「そうか? どうだろうね、あのツンツン娘は」
おそらくへリアルが今見せたHEATスキルは、アカイクレナの「浄化の炎」を再現した力なのだろう。
永遠雪原でも見たその力の一片は、へリアル――クレナにとっても特別な思いがあるのだろう。こうも素直に褒められると、彼女の方も悪い気はしていないようだった。
それを裏付けるように、へリアルは依然固い口調ながらもレイカに対して親切なアドバイスを贈っていた。
「……私のようなHEATが欲しいなら、今持っているスキルで戦闘系のものを重用していけばいい」
「ご心配なく! 私は戦闘特化のスキル構成を常々考え、効率よく伸ばしていますから! 誰かさんのように変なスキルに手を出すことはなくてよ!」
「おい、こっちを見て変なスキルって言いよったなあんた」
レイカとへリアルが仲良しになってくれれば、フィアも嬉しい。
そんなことを思いながら彼女らのやり取りを微笑ましい気持ちで眺めていると、それに気づいたへリアルが難しい表情を浮かべて視線を外す。
その肩は、どこか沈んでいるように見えた。
「それで、ヘブンズナイツの祝福とやらはどうすれば受けられますか? フィアさんのように新しいヘブンズナイツの封印を解けばいいのですか?」
「……フィアがやったようにするのが確かに最短距離だが、未発見のヘブンズナイツを見つけられる可能性は極僅かだ。今見つかっている九人の誰かに会いに行き、試練を申し込むのが手っ取り早いだろう」
「なるほど、噂に聞くヘブンズナイツの試練ですね。では、早速ヘブンズナイツに会いに行きましょうか。私はまだ会っていませんからね、まずはかの騎士に会うことから始めなければ話になりません」
ともかく「エンドレス・マスカレード」というイベントを発生させる為には、パーティメンバーであるレイカも
HEATスキルを習得しなければならない。
彼女にプレイを急がせてしまったことを申し訳なく思ったフィアは、せめてもの自分の役目としてそんな彼女の為に協力を惜しまないことを約束した。
「レイカ、フィアも手伝う」
「言われなくともそのつもりですわ。せっかく集まったわけですし。二人も私に同行しなさい。へリアルさんにはβテスターの実力、期待していますわ」
「あいよ」
「ユ……フィアが行くなら、構わない」
この四人の中で早速リーダーシップを発揮しようとするレイカの姿が、フィアにはとても頼もしく映った。
本物の異世界を経験したことのある者が三人居るメンバーの中で、異世界とはただ一人関係のない彼女が最も堂々としているように見えるのは気のせいなのか否か。
しかしいつまでも頼もしい親友の姿がフィアには誇らしく、ここにいる全員が自慢の友達だった。
「だがどうするよお嬢さん? ヘブンズナイツに会いに行くったって、誰を目当てにするかで話は変わるぞ」
「そうですね……出来れば意外性で勝負したいのですが」
「なんだ、それは……」
今後のプレイ方針がレイカのHEATスキル習得へと定まったことで、その為の具体案を一同が提示していく。
このゲームの看板NPCである、「ヘブンズナイツ」の存在は合計で十三人だ。
1の騎士アイン。
2の騎士ツヴァイ。
3の騎士ドライ。
5の騎士フィフス。
6の騎士ゼクス。
7の騎士ズィーベン。
8の騎士エイス。
9の騎士ナインズ。
10の騎士エクス。
11の騎士イレヴン。
12の騎士ツヴォルフ。
13の騎士サーティーンス。
欠番を除くことで、以上の十二人がこの世界に存在することになる。それは、フィアがフィフスから聞かされた情報だった。
しかしこの騎士達の中でも1の騎士アインと2の騎士ツヴァイ、7の騎士ズィーベンはまだ実際に発見されていないらしく、実質的な人数は彼らを除いた九人に当たった。
……尤も、1の騎士アインは今この場にいるのだが。そのことをへリアルが語ろうとしないのは、きっと何か理由があるのだろうと思い、フィアもまたあえて何も言わなかった。
このゲームに存在するヘブンズナイツに対して、「モデル」となった人物のことを知っている今のフィアには思うことが多い。
しかしだからこそ、いつかは全員と会ってみたいなと考えていた。
「ヘブンズナイツの誰から祝福を受けようと、発現するHEATに影響することはほとんどない。誰でも良いのなら、賢者の森にいるゼクスがここから一番近いだろう」
「噂のゴリラさんですわね。どんなゴリラ具合なのか私気になりますわ」
「お嬢さんはエルフだからドライの試練が簡単になっておすすめなんだが、エルフの里はここからだとちょっと遠いしな。あのゴリラが妥当っちゃ妥当か」
一同の相談はレイカが九人の内誰に会いに行き、誰の試練を受けるかで進んでいく。
今の位置関係を含めて誰が最も適しているのか意見を出し合う一同の中で、フィアはふと頭脳に走る不思議な感覚に気づいた。
「あ」
思わず、声が漏れる。
そんなフィアの様子に最も早く気づいたへリアルが、何かあったのかとすかさず問い質してきた。
「どうした、フィア?」
「今なら……」
「ん?」
それはフィアの持つ「HEAT」に関係することなのかもしれない。
言葉では言い表しにくい、漠然とした感覚だった。
しかし確かに、間違いなく「そこにいる」と確信を得ていた。
彼女の存在を――フィアは再び「生命の泉」に感じたのである。
「今なら、フィフスに会えるよ?」
「キュー」
フィアが感じたものと同じ感覚に気づいたのか、リージアが長い尾を子犬のように振り回しながら嬉しそうに鳴く。
最も効率よくヘブンズナイツと対面する為の、レイカにとっては願っても無い直通切符だった。