天災兎と猫博士   作:四季の歓喜

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思いの外、早く書き上がったので更新です。


その1

 

 

 街外れの廃棄物集積所…この近辺一帯全てのゴミを集めるその場所は、他の集積所よりも広大な土地を有している。そして、そこに持ちこまれ溜まりに溜まったゴミの量も、その広さに見合うだけの規模がある。故に、そんな場所に突如、ボロ小屋が一軒建てられたところで誰も気付かないし、気にしない。

 

「コーさん、こんにちわー」

「やぁ束ちゃん、いらっしゃーい」

 

 一際大きなゴミ山の麓に、まるでめり込むように建てられた小屋。その扉の前で、白衣と猫耳ヘッドギアを身に着けた少年と、やけにメカメカしいうさ耳を装着して、荷物がギッシリのリュックを背負った少女が笑顔でハイタッチを交わしていた。傍から見ても、とても仲が良さそうである。

 

「むむッ!!」 

「ん、どうかしたかな、束ちゃん?」

 

 ふと、少女…束がボロ小屋の後、巨大なゴミ山に目を向け何かに気付く。そして、うさ耳に手を触れて、何かのスイッチを押した途端、彼女の目の前に複数の立体モニターが展開された。その様子を、猫耳の青年…コタローは口ぶりこそ不思議そうに、しかし顔にはニヤニヤとした笑みを浮かべながら、じっと彼女を見つめながら窺っていた。すると…

 

「見える、見えるぞ、束さんにも敵が…じゃなかった、コーさんのお家が見える!!」

「ははははは、ばれては仕方ないね。それじゃあ、とくとご覧あれ!!」

 

 束の言葉に合わせるように、コタローは指をパチンと鳴らす。その途端、二人の立つ場所が、まるで地震が起きたかの如く揺れ始めた。そして何かを期待して目をキラキラと輝かせる束の目の前で、ゴゴゴと地響きを立てながら、ゴミ山が真っ二つに割れた。更にそこから、何やら巨大な影が登ってくる。

 

「わ、わ、凄ーーーい!!」

 

 ゴミ山を蹴散らし、現れたのは巨大な要塞だった。中世の城を近代的な武装で固めたかのような外装は、まるで特撮やアニメに出てくる悪の組織の秘密基地のよう。これには、アニメに大して興味の無い束も流石に興奮せざるを得なかった。

 

「ふふふ、驚いたかい? これが今回の僕の別荘、『ビッグK・第21支部』さ」

「凄い、凄いよコーさん!! どうやったの、どうやって作ったの!?」

 

 よくぞ聞いてくれました…そう言ってコタローは、要塞が現れても残ったままのボロ小屋の扉に手を伸ばし、ガチャリと開いた。すると、外装の割に綺麗な玄関に、何かが立っていた。

 ソイツを見た束の第一印象は、『なんかどっかで見たことある』だった。全体的に黄色い毛並で、微妙に茶色い縞模様が入っており、猫で言うなら虎猫柄と呼ぶべきか。しかし猫と呼ぶにはこいつ、少々デカい、むしろデブい。束よりやや小柄だが、多分コイツの方が重い。おまけに左目が無い所謂隻眼なのだが、その某電気鼠を連想させる肥満体型と、完全に野性を捨てた腑抜け面が全てを台無しにしており、迫力は皆無だ。そして何故か半被を身に纏い、大工道具一式を腕に抱えている。

 

『ぴっかー』

「紹介しよう、彼は建築ロボットの『MTTB親方』。腕は保障するよ、この要塞をたった一晩で完成させるくらいにはね」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 ボロ小屋に扮した正面玄関を通り、エレベーターで降りること地下10階。ビッグK21支部の中枢とも言えるコタローの研究室。本来ならコタローの発明品や、製作中のロボットなどで占拠されていたであろうその場所は現在、珍しく彼以外の者の手によって生み出された数々の作品、そしてそれらに関するデータが並べられていた。

 

「量子化システムねぇ、これは挑戦したことが無かったなぁ。新たな軽量化の形としては、確かに良いかもしれない」

「因みに、コーさんならどうするの?」

「身体に直接取り込んじゃう、こんな風に」

「ボールペンが手に吸い込まれてく!?」

 

 あのファーストコンタクトの翌朝、束の携帯に一通のメールが届いた。差出人は不明だったが、束は相手が誰なのかは半ば見当はついており、メールの本文を読むと同時にそれは確信に変わった。

 

―――昨日と同じ時間に、街外れのゴミ集積所においで

 

 迷う事無く学校をサボることに決め、持てるだけの荷物…自分の発明品と研究成果を詰め込めるだけ詰め込み、束は日が昇る前に家を飛び出した。これまで、つまらない玩具しか無い遊園地にも、くだらない下等生物しか居ない動物園や水族館にも、何が面白いのか分からない映画館にも、束は欠片も興味を抱いたことは無かった。行ったとしても家族に付き合わされる形で、渋々ついて行っただけに過ぎず常に冷めていた。けれど、この時ばかりは束も年相応の…むしろ実際の年齢よりも幼く見える位に、抑えきれない期待と興奮に心を躍らせていた。

 何せ相手は自分が初めて、自分と同等の頭脳を持つと認めた本物の天才。殆どの人間に無関心な自分が、数少ない例外である親友達とはまた違う形で興味を持った、特別な存在。そんな相手からの直接のお誘いに、落ち着いていられる筈が無かった。

 

「実はコレ、僕の発明したバイオメタル製の手袋でね。機能に応用が効き過ぎるから使い道は多いんだけど、その一つに任意で触った対象を取り込むってのがあるんだ」

「しかも触れた対象を取り込むだけじゃなくて分解と再構築、更には取り込んだものを内部で無機物と有機物、どちらにも変換することができるんだ?」

「流石は束ちゃん、正解だよ」

 

 そして現在、束の抱いた期待は決して間違っていなかったと言えるだろう。彼女の見込んだ通り、やはりコタローは科学者として天才だった。一流の科学者を自称する老害共が微塵も理解出来なかった束の発明や研究の数々を彼は全て理解し、称賛してくれた。自分にしか理解できないと思っていた研究の話を最初から最後まで聞いてくれて、時にはひたすら褒め称え、時には自分でも気づけなかった欠点や改善点を指摘してくれる。何より彼は自分のことを子供と侮らず、一人の科学者として対等に見てくれている。それが分かるからこそ、束はたまらなく嬉しかった。

 妹は、無条件で愛している。親友は、ある分野においては一目置いており、故に対等の存在として認めている。親友の弟は、ちょっと特別な理由で興味を抱いている。けれど3人とも、自分の生き甲斐である発明と研究の話には殆ど付き合ってくれないし、ついてこれない。そもそも妹達に至ってはまだ赤ん坊だ、会話すらできない。自称科学者の無能共は、そのクソみたいな脳みそに不釣り合いなプライドを理由に話を聞こうともしない。

 故に束にとって、自分の発明と研究を話題にして誰かと話し合い、それを楽しいと感じたのは生まれて初めての経験だった。

 

「因みに僕自身が発明した訳じゃないけど、他の案としてはニニちゃんのポッケとかあるよ」

「あの『四次○ポケット』みたいな奴?」

「うん、それそれ。本来は装備の収納スペースとしてサイボーグやロボットのお腹に搭載する代物なんだけど、僕なりに生身の人間でも使える様に改良してみたのさ。大抵のものは大きさに重量、有機物無機物問わず何でも入れる事が可能な上に、別売りの『スモールライターmkⅡ』と一緒に使えば許容量も倍増するよ」

「ライター? ライトじゃなくて?」

「それはホラ、青い猫型のと丸被りするから」

 

 その後も互いの持つ知識と技術を披露し合い、会話に花を咲かせる束とコタロー。しかし、研究室の自動扉が開く音により、たった二人だけにして世界最高峰の意見交換会は一時中断される。二人が目を向けると、例によってメイド服姿のニニが立っていた。

 

「ご主人様、昼食のご用意ができました。こちらにお運びしますか?」

「いや、行くよ。折角のニニちゃんの料理だもん、束ちゃんにも食べて貰いたいからね」

「承知致しました。それともう一つ、お二人に報告することが御座います」

 

 ニニのその言葉にキョトンとするコタローと束。しかし、彼女の次の言葉に二人は、特に束の表情が一変した。

 

 

 

―――束様の御友人を名乗る少女が入り口前で暴れてますが、如何なさいますか?

 

 

 




○MTTB親方
 マタタビの姿と大工の腕を模倣した、コタロー作の建築ロボット。大工としての腕前は、オリジナルの折り紙つき。開発当初は本人そっくりの外見になる予定だったが、見分けがつかなくなると困るという建前のもと、クロちゃんが例のデブ状態を提案、採用されてしまった。親方がお披露目された日、元凶の笑い声と、『キッドオオオオオオオオオォォォォッ!!』の怒号が街中に響いたのは、言うまでもない。

○ニニちゃんのポッケ
 クロちゃん達のお腹にある収納スペースの機能をコタローが改良し、そのまま普通の衣服にも持たせたもの。なんでも入るし、幾らでも入る優れものである。因みに、コタローの白衣のポッケにも同じ機能が搭載されている。

○スモールライターmkⅡ
 あ、ち~さく、ち~さく、ち~さく、ち~さくな~れ♪の改良版。本物の百円ライターサイズまで小型化することに成功し、言えば歌もやめてくれる。しかし、あまり歌を禁止し過ぎると拗ねてしまうので注意。

○バイオメタル
 コタローの最高傑作のひとつ、と四季の歓喜が勝手に思っている。原作ではロボットに人間の食事を摂らせることを可能にし、ボディを自由に巨大化、あるいは縮小化させたり、埋め込んだ魂や感情(憎悪)を具現化させたこともあった。挙句の果てには、魂さえあれば死者の蘇生すら可能にすると言うとんでもない代物。
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