「確か、この辺りだった筈…」
コタロー達の別荘…今は再びゴミ山に隠れ、残っているのは入り口のボロ小屋だけだが、その付近をランドセルを背負った一人の少女が徘徊していた。彼女の名前は織斑千冬、本人は素直には認めようとはしないが、束の親友である。
「おい束、出てこい!! お前がこの辺に居るのは分かっているんだ!!」
今朝、学校とは関係ない荷物を大量に抱え、学校とは真逆の方角へと走る束を見かけた千冬。日頃、彼女の両親にはお世話になっており、二人が学校での束の様子に頭を悩ませているのは子供なりに理解していた。だからこそ、これ以上あの二人に余計な心労を与えてなるものかと思い、束を連れ戻すことを決意。彼女の後を全速力で追いかけた。因みに、束を連れ戻す為なら自分も学校サボって良い訳では無いと言う事実や、束が居ないと学校行っても寂しいと言う本音からは、全力で目を逸らした。
そして、街外れのゴミ捨て場まで追いかけ続けたものの途中で見失ってしまい、途方に暮れていたところへ耳に届いた大きな音。目を向けると、遠くからでも良く見える程に巨大な建物が、いつの間にか現れていた。呆気にとられてポカンとしている内に、その建物は再び地響きと共にゴミ山の中へ。我に返り、根拠は無いがあそこに束が居ると確信した千冬はその場へ直行、そして現在に至る訳なのだが…
「と言うかさっき見えたデカいのは何だ、ちょっと格好良かったけど、またこの前のみたいに物騒で迷惑な奴じゃないだろうな。言っとくが、もうお前の実験に付き合う気は無いからな!!」
「物騒で迷惑とは心外です」
「うわッ!?」
いきなり目の前のボロ小屋の扉が開け放たれ、中から人らしき者が現れたことにより、千冬は思わず飛び上がるように後ずさった。人らしき者と表現したのは、文字通り目の前に現れた人物が本当に人なのか判断しかねる外見だったからだ。小学生の千冬よりも小柄な体躯、けれでも大人びた口調。一見すると黒髪ショートな普通の少女なのだが、袖とスカートの裾に複数の電灯が取りつけられたメイド服。極めつけに、頭に生えた、本物にしか見えない猫耳。
千冬はまだ小学生、まだまだ知らない事は多い。けれど流石に、普通の人間の頭に猫の耳は生えないことは知っていた。
「だ、誰だ!?」
「驚かせてしまい申し訳ありません、私はニニと申します。以後お見知りおきを」
両手でスカートの裾を摘みながら、綺麗な御辞儀を見せるニニ。思わず千冬もそれにつられ、『ど、どうも』とぎこちない動きでペコリと頭を下げた。その様子に子供ながら最低限の礼儀は弁え、話が通じる相手と判断したニニは、そのまま千冬に問いかける。
「で、貴方様のお名前は?」
「……織斑、千冬…」
「織斑千冬…織斑様ですね。それで織斑様、何故貴方は、このような場所で大声を?」
当然の質問に、千冬は口ごもった。このあからさまに変な姿をした奴に、こっちの事情をバカ正直に答えても平気なのか迷っているのである。そもそも何でこんな場所にメイドなんかが居るのだ。おまけに、ニニが出てきたのは、さっき見かけた秘密基地らしきものが出てきたであろう場所。考えれば考えるほど、目の前のメイドが怪しい奴にしか見えなくなってくる。
しかし悩んだ末、目の前の怪しいメイドの他に手掛かりが無いのも事実。結局さっき見た巨大な建造物のことは伏せつつも、本来の目的は話すことにした。
「学校をサボった友達を、連れ戻しに来た…来ました」
「その友達のお名前は、もしや篠ノ之束だったりしますか?」
ピンポイントで出てきたその名前、思わず千冬は目を見開いた。その様子を見たニニは、逆に何か納得したかのような表情を見せ、そして…
「あぁ成程、束様の御友人でございましたか。分かりました、少々お待ちください」
「え、あの…」
ひとつ頷くと、そう言ってニニは千冬の返事も待たずに、ボロ小屋の中へと戻って行った。その彼女を、千冬は黙って見送る事しかできなかった。
(行ってしまった、何なんだアイツ…)
再び一人になり、暇潰しがてら色々と考えてみる。
ニニの口ぶりから察するに、彼女は束のことを知っているようだった。やはり束はここに居るのだろう。となると、さっき見掛けた秘密基地っぽいのも見間違いではなく本物。てっきり束がまた周りの迷惑も顧みず傍迷惑なものを作ったのかと千冬は思っていたのだが、中から出てきたのが束以外の人物だったことを考えるに今回は違うのかもしれない。なにせ束は極度の人見知り、これまでも自分以外の人間とまともにコミュニケーションをとっていたところは見たことが無い。あの建物が、そんな束が作ったモノだったとしたら、彼女は千冬以外の人間は中に入れない筈だ。だからきっと、あの秘密基地の持ち主は束では無い。
そう結論付けたところで、ある考えに行き着いた。
あれ、だとしたらアイツって今、他人の家に居るの?
言ってしまえばそれだけのことだが、束のことを良く知る千冬にとっては割と衝撃的な状況である。あの人見知りが、あのコミュ障が、唯一の親友と称す自分以外の奴の家に上がり込んでいるなんて、普通に有り得ない。面白がってこっそり忍び込んでいるとかならまだ分かるが、あのメイドの口ぶりと、『束様』呼ばわりから察するに、下手するとお客様待遇っぽい。
正直、あの迷惑兔をお客様扱いするような奴が自分以外に居るとは到底思えなかった。他人に対する態度は最悪だし、そもそも自分達はまだ小学生、出来ることなんてたかが知れている。束の場合、大人顔負けのぶっとんだ頭脳があるが、その大人達が頑なに彼女の才能を認めないのでノーカン。しかし、あんな巨大な秘密基地みたいなの作れるような人間だったら、もしかしたら束の凄さを分かってくれるかもしれない。
そう、束の頭脳の価値を理解できる、あんな悪の組織が持ってそうな、秘密基地の持ち主ならば…
(ま、まさかッ!!)
その時、千冬の脳裏に電流が走る。そして束に遥かに劣る、年相応(下手すると脳筋寄り)の頭脳で導き出した自分の答えに、自分で衝撃を受けていた。その答えとは…
「まさか、さっきの大きな建物はッ!!」
―――悪の秘密結社
「そして、アイツはッ!!」
―――そして束は、その頭脳を利用する為に誘拐された?
人気番組『ヒーロー教師、ウッディケーン!!』の視聴を始め、悪の組織『ハゲタカ組』の存在を半ば信じている小学生の出した結論がコレだった。
(せ、先生に、柳韻先生に連絡…いや110番が先、それとも自衛隊に!?)
しかし、もう色々な意味で手遅れ。一度始まった思い込みを止める者はどこにも居らず、千冬は半ばパニック状態に陥いった。目をグルグルと回しながら同じ場所を右往左往、今の自分はどうするべきなのか、あまり考えるのが得意では無い頭を使ってああでも無いこうでも無いと一杯考えて、精神的に一杯一杯になた彼女は遂に…
「た、束を返せええええええぇぇぇぇぇ!!」
友達を助け出すべく、そこに落ちてた鉄パイプを手に、悪の組織のアジトへ突撃することを選んだ。
既に世界最強の片鱗を見せていたこの少女は、子供とは思えない筋力で、思いっきり鉄パイプをボロ小屋に叩き付けた。その瞬間、その見た目とは裏腹に、とても頑丈に作られていた筈の扉が大きく凹む。だが、それに構わず千冬は、そのまま何度も鉄パイプを小屋に叩き付けた。形振り構わず滅茶苦茶に叩きつけられる鉄パイプと、それによって何度も殴打されるボロ小屋によって、異様な騒音がゴミ集積所に響く。
しかし暫くすると、再び小屋の扉が開かれた。咄嗟に千冬はその場を飛び退き、同時に中から再びニニが出てきた。
「いったい何をしてるんです?」
「うるさい悪党、私の友達を返せ!!」
怪訝な表情を浮かべながらの当然の質問に、千冬は鉄パイプを突きつけて答えた。それだけでニニは全てを察したようで、彼女は米神を抑え、心底呆れたように深い溜め息を吐いた。
「思いっきり勘違いされてますね、困ったものです。だから剛博士の美的センスは参考にしない方が良いと、常日頃から申し上げておりましたのに。いつか自分と同じような勘違いをする人が現れますよ、と…」
かつて、主がやらかしたと言う話を思い出しながら、再び千冬に視線を戻すニニ。今の彼女の様子は、見るからに人の話を聞いてくれるような状態とは言い難い。これが見ず知らずの赤の他人ならボコボコにして終了だが、生憎と彼女は大切なお客様の大切な御友人、無闇に怪我をさせる訳にはいかない。ならば…
「まぁ良いでしょう、売られた喧嘩は買う主義です。しかし織斑様、参考までにひとつよろしいですか?」
「なんだ!?」
指を合わせてポキポキ、首を左右に振ってコキコキ、利き腕を慣らすようにグルグル。そのまま千冬の前を素通りして、ゴミ山の方へテクテク。その中から自分の身体よりも5倍は大きい土管を見つけ、その前へ。そして、大きく腕を振りかぶり…
「今、貴方様が喧嘩を売ろうとしている私は…」
凄まじい粉砕音と共に、一瞬にして粉々にされた……素手で…
「こんなことも出来ます。それでも、やりますか?」
「……。」
土管を素手で殴り壊した姿勢のまま投げかけられた問いに、千冬はただ無言。暫く言葉も無く硬直していたが、やがてカランと音を立てながら鉄パイプを取り落とした。そして無言のままニニの方、正確には彼女の傍にあった、彼女が砕いたものと同じサイズ、同じ種類の土管。何を思ったのか、千冬はその土管の前に立つと、さっきのニニと同じように腕を振りかぶり…
「私だってええええぇぇぇぇぇぇ!!」
勢いよく土管に振り下ろした。ニニの時と負けず劣らずの大きな轟音を響かせながら、彼女もまた土管を粉々に粉砕してみせた。流石のニニもこれは予想外で叫びこそしなかったが、驚愕に大きく目を見開いた。
「どうだ見たか、その程度、私にだって出来るんだッ!!」
ドヤ顔を浮かべ、高笑いさえ上げそうな勢いでニニを指差しながらそう言い放つ千冬。しかし、その余裕の表情は長く続かなかった。まず、あまり間を置かずして顔色が悪くなり、冷や汗が滝のように流れ始めた。そしてニニを指差していた手…土管を殴った方の手はプルプルと震え、やがて我慢できなくったかのように反対の手で抑え始める。しまいには膝から崩れ落ち、その場で蹲ってしまった。
心配になったニニが少し近付いてみると、彼女は何かボソボソと呟いている。何を言ってるのか確かめようと、耳を澄ましてみると…
「痛いよぉぉぉ、死んじゃうよおぉぉぉぉぉ…」
「貴方バカでしょう」
完全にあきれ果てたニニが、さっきと比べ物にならないくらいに深い溜め息を吐いたその時、新たに二人の人物が小屋の扉をくぐり、外へと出てきた。そして、何故か暴れていると聞かされていた相手が、何故か半泣き状態で地面に蹲っている姿を見て、一言。
「何してんの、ちーちゃん?」
「た、束、無事だったのか!?」
束の無事な姿を前に、痛みも忘れ顔を上げる千冬。なんで千冬に心配されているのか分からず、本気でキョトンとする束。どういう訳か、まるでこうなった原因がお前にあるとでも言わんばかりに批難の目を向けてくるニニ。それらを前にしたコタローが取るべき選択は、限られていた。
「あー、取り敢えず治療しようか。見てるこっちが痛いし」
○ウッディケーン
問題児ばかり集められた6年Z組の担任、ケン太。彼は悪の組織、ハゲタカ組が秘密裏に進めていたイグドラシル計画に巻き込まれ、木製人間となってしまう。街の平和を守る為、何よりも大切な生徒を守る為、彼はヒーローとして、戦いに身を投じていく。
毎週日曜、朝9時より絶賛放送中!!未来のブリュンヒルデもド嵌まり中!!
○自分と同じような勘違いをする人
ニニのご主人様は、居候先の新居を悪の組織のアジトと勘違いし、完成したその日の内に破壊したことがあるそうな…
○私(拙者)だって!!からの、痛いよ死んじゃうよ
時々、彼が生身の存在であることを忘れそうになる…