天災兎と猫博士   作:四季の歓喜

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お待たせしました、続きです。

しかし、今回もクロちゃんネタは少なめになってしまいました…(汗


その3

 

 

「わぁー、美味しい。ニニちゃん、コレ凄く美味しいよ!!」

「恐縮です。さぁ、千冬様も遠慮なさらず」

「は、はい、ありがとうございます。それと、本当にさっきはすいませんでした…」

「いいえ、特に気にしておりませんので、気にしないで下さい。それに、居候先の新居を悪の組織のアジトと勘違いして完成したその日の内に破壊したお馬鹿さんを知ってますから」

「ニニちゃん、それ僕のこと?」

 

 束本人の説明もあり、どうにか誤解は解けた。解けたら解けたで千冬は恥ずかしさで死にそうになったが、恥ずか死する前に手の出血で死にそうだったので、取り敢えずコタローの言う通り治療の為に施設の中へ。ボロ小屋の入り口からは欠片も想像できない、まるでSF映画のような内部の様子に千冬は驚愕に目を白黒させ、束はそんな彼女の様子をニヤニヤしながら見ていた。

 そして千冬の手の治療をあっという間に済ませ、場所は移り施設の内部、その食堂。ここに来るまでに見た光景に反して、定食屋のような内装に最初は束と千冬も戸惑いはしたものの、ニニの用意した料理の数々を前にしたら、そんなことはすぐにどうでも良くなった。和、洋、中と種類問わず彼女が用意した料理はどれも絶品で、先程から二人の箸を持つ手と、咀嚼する口は止まる気配が無い。現に千冬も、ニニに謝罪しつつもその手に持った箸には唐揚げがしっかり掴まれていた。

 

「コーさん、そんなことしたの?」

「あ、あははー、若気の至りって奴かなぁ……剛博士、あの時は本当にごめんなさい…」

 

 その唐揚げを口に放り込むと同時に、千冬の動きが止まる。そして彼女の視線が、楽しげに会話するコタローと束の二人、特にコタローの方へと向けられた。その時に浮かべた表情はまるで、とてつもなく奇妙なものを目の当たりにしたような…いや、自分が目にしている光景が幻覚では無い事を再確認しているような、何とも複雑なものだった。

 

「あれ、どうしたのちーちゃん、変な顔して?」

「いや、別に…」

 

 束の問いにはそう返すも、やはり彼女のことを良く知る千冬からすると、目の前の光景は本当に信じがたい光景だった。何せ、あの束が、興味の対象外なら両親すら有象無象扱いする束が、自分以外の人間と楽しそうに談笑しているのだ。まだまだ自分達は小学生、生きている内にそんな奇特な奴の二人や三人現れるだろうとは思っていたが、いざ目の前にするとやはり純粋に驚きである。

 

(それに…)

 

 視線を再びニニに向けると、彼女は空いた皿を手際よく片付け終え、それを持ってキッチンへと向かっていくところだった。

 彼女にしたって先程のやり取りで見せたパワーに加え、この料理の数々を作るだけの腕、更に小柄で幼い外見とは裏腹に止めどなく溢れでる出来る女のオーラ。これだけでも充分に驚愕に値すると言うのに、彼女はロボットだと言うのだからたまったものじゃない。そして、そんな彼女を作った張本人こそが、目の前で恐ろしく気難しい筈の親友と朗らかに談笑する彼、コタローなのだ。

 

(もしかしなくても、束と同じくらいとんでもない人なんじゃ…)

 

 良く考えれば、この秘密基地自体とんでもない存在だ。束の秘密ラボも充分に凄いのだが、この場所は比べるのもアホらしくなるくらいにずっと大きいし、中に備えられた設備の数も半端じゃない。しかも、そんなものを彼の作ったロボットは、一日で建造したと言うのだから開いた口が塞がらない。

 メイド仕事から戦闘までこなすニニ、強大な秘密基地を一日で完成させる建築ロボット、おまけに束が言うには他にもコタローが作った発明品はたくさんあるらしく、その事を話す彼女のウキウキした様子から察するに、それらも束が興味を持つ程の凄い代物なのだろう。そんなものを幾つも作ってしまう彼は、間違いなく束級の天才だ。

 そう考えれば成程、二人が意気投合するのも納得だ。科学者として他の追随を許さない天才同士、通じ合うものがあるのだろう。そう思い、再び視線をニニの向かったキッチンから前に戻すと、いつの間にかニコニコしながら自分を見つめていたコタローと目が合った。

 

「気になる?」

「ひゃい」

 

 思いがけず声が引っくり返り、顔が赤くなる。取り敢えず腹を抱えて笑う束は後で殴ると決め、気を取り直してコタローと向き合う千冬。

 

「ニニちゃんのこと」

「えっと……彼女はロボット、なんですよね…?」

「そうだよ」

「それが、いまいち信じられなくて…」

 

束のとんでも発明品で耐性が付いている筈の千冬が何度見ても、何度考えても、やはりニニは人間にしか思えない。先程、素手で土管を砕くところを見ていなければ、きっと信じなかったことだろう。

 

「ちーちゃんが驚くのも無理ないよ。ぶっちゃけ今の束さんでも、あそこまで人の思考に近いAIは作れないもん」

「束…」

 

 そんな千冬に同調するように頷きながら、束もまたそう言った。束が自分以外の人間を、それも科学者としての実力を格上と認めたことに、千冬は先程よりも驚いた。束と対等であるどころか、彼女自身に科学者として格上と認めさせる人間がこの世に居るなんて欠片も思っていなかったのである。そして、それを彼女が素直をに認め、口にすることも。

 

「だからこそ、コーさんに質問したいんだけど」

 

 そんな束だからこそ、この疑問をコタローに問わずにはいられなかった。

 

 

 

「どうして機械に人の心なんて載っけたの?」

 

 

 

 束にとって、この世に生きる大半の人間は下らない存在だ。自分の作った発明品や機械の方が、あらゆる面でよっぽど優れている。

 それを抜きにしても、人間は自らが生み出した機械…ロボットに様々な面で劣っている。人間の仕事場は肩代わりと言う形で次々に奪われ、ボードゲームの世界チャンピオンは悉く敗北し、歴史ある職人技は一瞬で模倣さてしまう。これらは全て、束が凡人と称する凡作達によって、束が生まれる前から成し遂げられてきた物事だ。そして、それらは長い年月と共に洗練されていった基礎技術と、それに伴い進化してきたAIによって成し遂げられてきた物事だと、束は思っている。

 

 故に束は、昔から疑問に思っていた。何故凡人共は優れたAIの究極系として、人間と同じ思考と感情を持たせることを目指しているのか、と。何故、わざわざ人間よりも優れた機械に、機械よりも劣る人間の『らしさ』を搭載しなければならないのか、と。

 

 確かに人間と同等の思考と感情を機械に持たせるのは、今の束の頭脳を持ってしても難しい。だけど同時に、そんな必要があるのだろうか、とも思っている。先の前例の通り、既に機械は人間を超えている。人間の思考や感情…心なんて余計なものでしか無く、搭載したところで劣化するとしか思えない。

 けれどコタローは、束が唯一その実力を認めた目の前の彼はそれをした。一人の科学者として、同じ天才として、彼女はどうしても知りたかった。その行為に意味はあるのか、そして自分の考えは間違っていたのかと…

 

「初めに白状しておくと束ちゃん、機械に心を持たせる技術を生み出したのは僕の師匠なんだ。君が思っている程、僕は凄い奴じゃない」

「らしくもない御謙遜を」

 

 束の問いに苦笑いを浮かべてそう言ったコタローだが、その言葉はいつの間にか戻ってきていたニニによって否定された。

 

「その師本人から貴方は、『もう教えられることは何も無い、むしろこっちが教えて欲しいくらいだよ』と言われたじゃありませんか。少なくとも、生前の時から心を既に持っていたサイボーグ達はともかく、私達のような純粋なガラクタから生み出されたロボット達に人の感情と言語を与えることに関しては、ご主人様の方が昔から優れていたと、剛博士から伺っていますよ」

「ニニちゃん」

「……失礼、口が過ぎました…」

 

 コタローに優しく、だけど少し困ったように窘められ、何か言いたげにしながらもニニは口を閉じた。それを確認したコタローは苦笑を浮かべたまま、束に視線を向け直して再び口を開いた。

 

「とまぁこんな感じに、始めた理由は大したことじゃない。けれど、今でもそれを続けている理由は、別にある」

 

 そう言って彼は徐に、ゆっくりとした動きで席から立ち上がる。そして…

 

「この現実世界に存在を示し、尚且つ世界の理に干渉するには、肉体というものは必要不可欠」

 

 唐突に、その場でクルクルと踊るように回り始め…

 

「その肉体の使い方を決め、動かすのは、この頭脳」

 

 芝居掛かった動きで自身の頭を指差し…

 

「じゃあ、その頭脳を突き動かすのは?」

 

 テーブルから乗り出すような勢いで、二人に顔を近づけた。彼の急な行動に束は面食らい何も言葉が出てこず、千冬に至っては驚いて椅子ごと引っくり返っていた。それに構わずコタローは手を自身の心臓の位置に当て、束の目を覗き込むように見つめながら、囁くように答えた。

 

「ここ、つまり心さ」

 

 そう言うや否や彼は再び束から距離を取り、またもやクルクルと回るように踊り始める。転倒する時にぶつけた背中をさすりながら起き上った千冬は、彼のその様子を見て顔を引き攣らせていたが、束は何を考えているのかよく分からない無表情で、ただただ静かに彼の言葉に耳を傾け、ジッと見つめていた。

 

「最初は特に深く考えていなかった。剛博士が生み出した皆は、元が動物だったサイボーグも、ただの無機物の塊だった筈の巨大ロボ親子も、何故か人と同じ心を持っていた。だから僕も同じように、自分の作ったロボットやサイボーグには心を持たせることにしたんだ。憧れだった父さんに褒められた分野でもあるからってのも、ちょっとあるけどね…!!」

 

 彼の言葉は段々と熱を帯び始め、まるで何かに酔いしれるかのように変貌していく。さっきまで理性的だった瞳には無邪気さと、一種の狂気が宿っていた。遠い目をしながら確信した。やっぱコイツも親友の同類だった、まともから果てしなく遠い人種だった、と…

 しかし、そんな千冬の考えていることを知ってか知らずかコタローは言葉を続け、束も黙ってコタローのことを見つめ続けた。

 

「そしてある日、僕は気付いたんだ。世界最強の可能性を秘めた肉体も、世界最高の可能性を秘めた頭脳も、持ち主の気持ちひとつで腐らせることもできるし、花を咲かせることもできるって。本来想定していたスペックを、良くも悪くも裏切ってね!!」

 

 またもや急な動きで、今度は束と千冬の肩を掴みながら詰め寄ってきたコタロー。既に彼に対して苦手意識どころか恐怖心すら覚えそうになっていた千冬だったが、束は逆だった。心の奥底まで覗き込み、更には吸い込まれそうなコタローの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、それどころか彼女自身も、知らず知らずの内に笑みを浮かべていた。その様子はコタローの狂気に共鳴するかのよう…いや、彼が見てきたものに思いを馳せ、喜びさえ感じているようだった。まるで、『彼に対する期待は間違っていなかった』と、そう言わんばかりに。

 

「僕は何度も見てきたんだ、この目で。この小賢しい頭脳が不可能と断じた物事が、与えられた筈の限界を超えて、あっさり覆される瞬間を。マシンである筈の彼らが、どこまでも人間くさい彼らが、僕の常識を粉々に破壊していく光景を。いつしか見続けている内に確信した、アレは奇跡なんて不確かなものじゃない、全て必然だったんだ。彼らの持つ喜びが、怒りが、悲しみが、楽しみが、彼らの持つ思いと想いが最後の一押しとなって、あの全てを可能にしていたんだよ!!」

 

 思い出すのは、幾つもの不可能を可能にしてきた一匹の黒猫と、その仲間達。あの出会いを切っ掛けに、その輪はどんどん広がり、彼らとの絆は掛け替えのない大切なものになった。一度はクソゲーと称した自分の人生も、いつの間にか随分と様変わりしていた。

 

 

―――そんな自分だからこそ、自信を持って答えよう。

 

 

「だからこそ断言しよう。科学者として作り出した最強の肉体 (ボディ)と、最強の頭脳 (コンピューター)。その全てを十全以上に使いこなし、本来持たせた以上のスペックを引き出すことができるのも、自らの意思で成長し、自身を進化させることが出来るのも、心を持った者だけ。故に僕は科学者として、彼ら彼女らには僕の最高傑作として、これからも心を持たせ続ける!!」

 

 

『少なくとも気合さえあれば防水処理されてないボディも、なんぼでも動かせるらしいからね』と、最後に悪戯っぽい笑みを浮かべると共に、彼はそう締め括った。

 

 

 

 

 

 

 

「自分の意志で成長して進化する、かぁ……ISにも心を載せれば、出来るのかな…?」

 

 

 




○巨大ロボ親子○
何気に自我がある上に、オーサムママは割と普通に喋れる。躾(?)も完璧(!?)で、本人曰く炊事洗濯掃除もやっているらしい。同じタイミングで元から居ない筈の旦那の保険金を心配してたんで、信憑性は低いと思うが…

○父さんに褒められた○
『父ちゃんみたいになりたい』と思う程には、なんだかんだ言って憧れていたらしい。そのコタローパパは、コタローの作るものには『心がある』と、ナナちゃんに言ったことがある。

○コタローが機械に心を持たせ続ける理由○
完全に妄想デス。

○師匠のお墨付き○
これも完全に妄想。けれどサム親子とナナちゃんの言語能力の差、原作当時から既に剛博士に匹敵する実力持ってたし、高校生になる頃にはそうなってもおかしくないんじゃないかな、と…

○気合でなんぼでも動く○
クロちゃんミサイル全弾発射


キリが良いので、兎と猫は今回で一区切り。次回は予定通り、アイ潜の外伝でクリスマス編を更新する…筈だったんですが、コナンクロス編、書いてる内にクリスマス要素の無い内容になってきてしまったんですよね…;

ですので予定を変更して、コナン編は別の機会に、クリスマス編は別の内容にします。

今考えている候補は、『何故か森の旦那がオルコット家に招かれ、セシリア達とクリスマスパーティする羽目になる』。もう一つは、『IF世界 代表候補生ヨーロッパ勢が全員森一派』……後者は外伝で普通にやれば良いか…

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