帰国子女のヒーローアカデミア   作:ベリアル

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第1話

事の始まりは中国。発光する赤児が生まれたというニュースだった。

 

以降、各地で超常は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。架空は現実となる。世界人口の8割が特異体質となった超人社会となった現在、犯罪の成長が加速すると同時に、誰しもが憧れる職業が脚光を浴びていた。

 

ヒーロー。個性と呼ばれる超常を合法的に使用できる職業である。

 

そんなヒーローを育成する偏差値79の雄英高校へ向かう1人の中学生がいた。

 

「久しぶりに帰ってきて、やることが高校入試かよ。それが終わったら引っ越しの準備だもんな。ゆっくりさせてほしいもんだぜ」

 

長い髪を後ろにまとめた額を晒した中学生が雄英高校入試試験会場へ歩いていく。

 

髪の長さだけ見れば女に見えなくもないが、顔つきは明らかに男だし、顔には右の額から頬にかけて切り傷の痕が残っている。試験会場に向かう中学生は男子はズボン、女子はスカート。彼はズボンを履いている。

 

ただし、彼が他の生徒と異なる点は学生服ではなくスーツであるということだ。校章も学生ボタンもないその服装は少しばかり目立っていた。

 

試験会場へ迷うことなく到着し、指定された席に着く。

 

「あ、試験生なんだ」

 

「は?」

 

髪を一つにまとめた女子中学生が横から話しかけてくる。

 

「拳藤一佳っていうんだ。入学できるかわからないけど、よろしく」

 

「そりゃご丁寧にどうも。源 飴二郎(みなもと あめじろう)。よろしく」

 

互いに握手を交わし、友好を示すが飴二郎の気だるげな表情が変わることはない。

 

「ねえ、なんでスーツなの?」

 

当然の疑問を飴二郎に投げかければ、飴二郎は腕を組んで欠伸をかく。

 

「所謂帰国少女ってやつでさ。親の都合で中学からアメリカで住んでたんだよ。向こうは私服が基本だから制服なんてもんはないのよ。だから、向こうで使ってたこれ着てきたんだよ。おまけに飛行機からこのまま直行で疲れきってんだよね」

 

初対面に愚痴を溢すのはどうかと思うが、偏差値70越えの雄英高校に受験するのだ。愚痴の一つもこぼしたくなる。

 

「アメリカからまたこっちに戻ってきたってことは、親御さんの都合ってことでしょ。大変だね」

 

「家族は向こうに残ってる。俺だけ戻ってきて一人暮らしデビュー」

 

拳藤は眉をひそめる。アメリカは人口及び国土の割合からして日本のプロヒーローに比べてレベルが高い。となれば、雄英のような偏差値の高いヒーロー育成機関もあるのだ。

 

それをどうして、わざわざ親元を離れて日本に戻ってきたのか。それについて聞こうとしたところで、今度は飴二郎からの質問だ。

 

「拳藤の個性ってさ、肉体を強化するような個性でしょ?主に手を使うような」

 

いきなりの質問に驚愕を隠せなかった。表情を見て、飴二郎はやっぱり、とだけ言う。上着の鞄から板チョコを取り出し、場所など気にせずバリバリと食べ始める。

 

普段の拳藤ならば、試験会場で食べ物を食べるなと注意するところであるが、それどころではない。初対面で100点とまではいかなくても、80点90点に近い答えで自分の個性を言い当てられ動揺せざるをえなかった。

 

「よくわかったね」

 

「そういうとこも肉体強化の個性っぽいよな。んまぁ、個性で性格が出ちゃうのよ。拳藤みたいなタイプは人見知りしない・物事をはっきりする・直情。大雑把だけどこんな感じでね。面白いことに大体当て嵌まるんだよね。手に関しては女にしてはゴツかったし」

 

「ゴツ、い」

 

女性に向けるような言葉ではない以上に事実だから、気分が沈んでしまう。

 

「多少だ。気にするほどのもんでもないぜ。ケプリ」

 

「ゲップをするなら手で口を抑えな」

 

「こりゃ失敬」

 

銀紙をくしゃくしゃにしてポケットにしまう。拳藤の注意を聞き流して、チョコレートで渇いた喉をペットボトルの飲み物で喉を潤す。

 

出会って5分もしない内に拳藤の中で口元にチョコをつけたアホ面に対しての評価が高くなる。緊張した様子どころか、気を抜きすぎている。

 

拳藤がそんな男に話しかけるのも、彼女自身緊張を和らがせたい表れである。

 

そのおかげか、筆記試験をなんなくこなして、実技試験へと移る。

 

『今日は俺のライブにようこそ!エヴィバディセイヘイ!』

 

「お、始まった」

 

巨大スクリーンの前に立つサングラスに髪を逆立たせた独特の髪型をした男が両手を広げて、試験会場の奥にまで声を届かせる。ボイスヒーロー、プレゼント・マイクの登場に試験会場全体に緊張が走り、拳道も背筋が伸びる。緊張しているのだろうが、それはごくわずか。

 

そのごくわずかの中には拳藤の隣に涎を垂らしながら、頬杖をついているアホ面を晒したマヌケも含まれている。

 

「こいつぁシヴィーーー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHHH!」

 

プレゼント・マイクの言葉に一人として返す者はいない。そこは経験からなのか動揺することなく、実技試験の説明を進めていく。

 

彼の説明を聞きながら手元の資料に目を通す。

 

「内容的には攻撃を得意とする個性が有利、なんだが」

 

実技試験の内容は各エリアに受験者が散らばり、1~3Pに振り分けられたロボを機能不能していく。不能にしたポイントが受験者のポイントとなる。例外的にポイントのつかない強力なロボが存在する。

 

「これ攻撃が苦手な人もいるよね?」

 

拳藤が口にした疑問は飴二郎も思っていたことだ。

 

飴二郎は攻撃的な個性が有利過ぎる試験に考えを巡らそうにも、思考を中断させてしまう。眠気が残ってる上に、元来考えることを苦手とする彼はその辺りはどうでもよくなった。

 

「人の心配たぁ余裕じゃん。運が悪かったそんだけだろ? ま、戦うことだけがヒーローじゃねえし、ヒーロー科は他の学校にもある。ここに来てる奴はみんな滑り止めあるから問題ないだろ」

 

「あ!」

 

戦うことだけがヒーローじゃない。

 

拳藤は飴二郎の言葉に一つの答えが導き出された。拳藤は実技試験に隠された解答を飴二郎に教えようか迷った。ここで言って誰かに聞かれないか、聞かれれば自分の合格が遠ざかる。そもそも教える理由などないのだ。だが、ここで教えなかったら教えなかったで、ヒントを貰っておいて教えないのはどうかと思い、自分の考えを伝えようとしたが既に飴次郎の姿はなく、他の受験生も実技試験会場へ移ろうとしていた。

 

場所は移り、実技試験会場には皆動きやすい恰好をしている中で、飴二郎だけは上着を脱いだだけでベルトがない代わりにサスペンダーをしている。

 

「広いな。んなのがいくつもあんのか」

 

誰もいないビルの林となっている模擬市街地を見た感想を述べながら、屈伸運動をする。他の受験生も緊張しているし、飴二郎も緊張をしている。ある人物を思い浮かべると背筋が凍るように恐怖が押し寄せる。

 

「落ちたらボスにぶっ殺されそうだな」

 

『はいスタート』

 

「え、いきなり?」

 

プレゼント・マイクの言葉に反応できたのは飴二郎を含めて、5人もいない。ほとんどはいきなりのスタートに戸惑い、指摘されるまで動き出せずにいた。なんにせよ、他の受験者よりも早く動けたのは一歩リードできた言っていいだろう。

 

前方を走っていると、横の壁を突き破って車輪をつけたロボットが飴二郎の前に現れると機体のどこかにあるスピーカーから声が発せられる。装甲にはペイントで1と書かれている。

 

『標的補足!ブッ殺ス!』

 

「水飴・手甲」

 

足を止めずに飴二郎の両腕から空色のジェルが溢れだし、肘から指の根元までを覆う。ジェルだった手甲は歪な状態でカチコチになり、止まらない足で跳躍し、ロボットを殴り飛ばす。1と書かれたロボットは破片をまき散らしながら、機能を停止させる。

 

「モロっ。手甲する意味なかったかも」

 

ブツブツ呟きながら、前方から向かってくるロボットを狙いつつ、後方を確認すると遅れてきた集団が迫ってくる。それぞれ移動速度は異なり、3秒ほどで到着すると判断した飴二郎は手の平から再び空色のジェルを生み出し、瞬時に形作る。

 

「水飴・手裏剣」

 

生み出したのは1枚の十字の手裏剣。腕を下ろすように斜めに振って、手裏剣を飛ばすと、最前列にいた2ポイントのロボの手前で分散する。1枚に見えた手裏剣は実は数枚で空気抵抗により、ショットガンのように宙で手裏剣が発射する。

 

2ポイントのロボに手裏剣は深く突き刺さると、機能停止になったのか動きを止め、地べたに横たわる。

 

ガラクタと化したロボットを踏み台に同じ、奥にいた1ポイントのロボに飛び蹴りを与える。これで飴二郎の持ちポイントは4ポイントなる。しかし、当の本人はポイントを数えることを忘れ、ひたすら近くにいるロボットを破壊していく。

 

後続の受験者も到着すると、各々ロボットを破壊していく。

 

以降、飴二郎は個性を使うことなく格闘だけでロボットを沈めていく。が、遠くからの轟音と共に受験者が逃げるように飴二郎の横を通り過ぎていく。いや、逃げるようにではない。逃げているのだ。建ち並ぶビルを破壊しながら、ビルと同じくらい巨大なロボットが。

 

「あれが0ポイントのお邪魔虫か」

 

周囲の受験者が逃げ惑う中、飴二郎だけは巨大ロボットに歩いていく。

 

「なにしてんだよ!」

 

「え、どちらさま?」

 

耳を隠すほど長い髪をした男子が腕を掴む。

 

「あれが見えねえのか!」

 

「視力は1.0はあるけど」

 

「そういうこと言ってんじゃねえよ!ビルをぶち壊しながら進んでくるロボットだぞ。あれに立ち向かうつもりか?自殺行為だぞ」

 

「大丈夫。高校受験で怪我はさせても、死人は出さないだろ」

 

「でも、無事じゃすまねえぞ」

 

男子の腕を外し、男子の目を見ながら話す。

 

「ノープロブレム。勝つ自信はあるさ」

 

両腕の拳をぶつけ、手甲が金属同士がぶつかったような音を出す。

 

「ポイントにならないんだぞ」

 

「知ってる。説明聞いてないと思ってんの?」

 

「じゃあ、なんで戦うんだよ!なんの為に戦うんだよ!あんなのと戦うより逃げながら他のロボット壊した方がいいだろ!雄英の合格かかってんだぞ!」

 

「そうなんだけどさ、逃げたら絶対後悔する」

 

飴二郎は中学までをアメリカで過ごすと同時に、プロヒーローの元に所属していた。

 

武力だけでいえばそのプロヒーローはアメリカでも上位に食い込むのだが、彼は弱気になることを嫌い、部下にもそれを叩き込んだ。

 

弱気になるな。逃げるな。敬語を使え。などなど教えられ、口応えをすれば顔面に蹴りが飛び込む。弱気になった先輩は窓からぶん投げられる。無法地帯にも放り出され、一月生き残れと言われる。

 

3年間、頭脳と肉体と個性を酷使し並のヴィランには負けることはない。同時にボスと呼ぶ彼の教えがしみ込んでしまった。

 

《常に強気でいろ。逃げずに立ち向かえ。弱気になったら俺がぶち殺す》

 

ヒーロー志望だから立ち向かうのではない。教えに従って立ち向かうのだ。ここで逃げようものなら、ボスに殺される未来が待っている確信があった。

 

「お、お前漢だ!」

 

それをなにか勘違いしたのか彼は走っていく飴二郎の背中を見ながら叫んだ。

 

近付けば近づくほど大きく見える巨大ロボットに飴二郎は使いたくもない頭を使う。

 

(どうすっかなぁ。①一撃で破壊 ②関節などを地道に破壊していく ③は、まぁあんまり使いたくねえ。とくれば①②となるけど、時間に限りがある以上ちんたらしていられない。消去法で①になる。使用量が多いと疲れるからやりたくないんだけどな)

 

「ボスに殺されるよりはいいか」

 

8つの目を持つ巨大ロボットは建物を破壊しながら飴二郎へと進行していく。ある程度の距離になると飴二郎は足を止め、右手を後ろに下げる。

 

「水飴・円錐」

 

直後、ジェルが泉のように分け出るのと同時に、地面に落ちることなく回転し始める。回転は激しさを増していき、巨大ロボットが目前に来た瞬間、下げていた拳を殴るように突き出す。ジェルは硬化していくのと同時に回転しながら伸びていき、巨大ロボットの頭部を貫いていく。

 

硬化したジェルから金属の部品を破壊しながら突き進んでいくのが伝わってくる。横から見れば円錐は頭部を貫いる。

 

「水飴・枝」

 

止めを差すように円錐から硬化したジェルが木の枝のように成長していき、巨大ロボットを内部から破壊していく。頭部からは空色の枝が見え隠れしている。

 

『終了~~~~~!』

 

近くのスピーカーからプレゼント・マイクの合図が流れる。これにより、飴二郎はジェルを解除して、その場で息を深く吐いた。

 

解除されたジェルは空色でもなく、無色透明の水となって地面を濡らす。手甲も同様だ。

 

「お前すっげえな!」

 

「さっきのか。なんか用?」

 

「俺、切島鋭児郎。あんなバカでかいロボぶっ壊すとかすげえよ」

 

「まあな」

 

興奮した様子で切島は飴二郎をほめると、悪い気はしないのかニヤリと切島の言葉を受け止める。

 

「あ」

 

ここで一つの問題を思い出した。

 

「どうした?」

 

「ポイント計算すんの忘れてた」

 

こうして雄英の入学試験は幕を閉じた。

 









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