帰国子女のヒーローアカデミア   作:ベリアル

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2話

雄英高校入学試験から数日、朝6時に飴二郎は海の外へ連絡を入れていた。相手が電話を取ると、先に口を開いたのは相手の方だった。

 

日本語ではなく、英語で低い声が聞こえてきた。声色は不機嫌そのもので、電話越しから男の声だけでなく、何かが破裂する音や多くの声がスピーカーを通して聞こえてくる。破裂音は銃声だろう、と確認するまでもなく嫌というほど聞いているので分かっていた。

 

どうやら、電話の相手は仕事中だったようだ。これで、仕事中すいませんなどと言おうものなら、舐めているのかと琴線に触れかねないので、あえて口にはしない。

 

相手は飴二郎の上司である黒人男性。

 

「<はい、ばっちりです。……ええ、ボス。あなたに殺されずに済みました。……大丈夫です。親にはもう連絡は入れました。……ええ。……ええ。では失礼します。……え?あいつは士傑ですよ。俺とは高校違いますね。……んなこと俺に言われても困りますって。……忘れてませんよ。俺、またはあいつでどうにかするっちゅー話ですよ。……んじゃ切ります>」

 

通話を切ると、日課の柔軟・ランニング・筋トレを軽めに行う。

 

それを終えるとシャワーを浴びて、朝食を摂る。雄英高校の制服に着替え、鞄に必要なものは入っているか確認をすると、6畳間のアパートから雄英高校へ自転車で向かう。アパートからは少し遠く、電車を利用するほどの距離ではない。雨の日は電車を使うと決めている。

 

駐輪場に自転車を置いて、下駄箱へ向かうと知った顔がいた。

 

「おはよう。合格したんだ」

 

「拳藤もな。入学おめでとう」

 

「そっちこそ、おめでとう。こっちはB組だけど、源は?」

 

「A組。クラスは違うけど、改めてよろしくな」

 

拳藤が右手を差し出し、2度目の握手を交わす。

 

途中まで一緒だった拳藤を別れ、1-Aの教室の扉を見上げる。高さ5mはありそうな扉に少しばかり驚くが、個性によってはこれぐらいは必要であるとわかると扉を開ける。

 

飴二郎が教室に入った時だった。既に教室に到着していた男子生徒は机に脚をかけていた。うめき声なのか不明であるが、眉間に皺を寄せて、体勢が体勢なので不良にしか見えない。

 

彼は入試1位を獲得した爆豪勝己。ヘドロ事件の被害者でもある。

 

そんな彼が教室に入ってきた飴二郎に抱いた第一印象はどこか不気味で気に入らない。同時にヤバいと感じた。

 

「なんか用か?」

 

正面に立ち、座っている爆豪を見下ろす形になる。

 

「ああ?んでもねよ」

 

「んなメンタン切っといてそりゃねえだろ」

 

元々目つきも態度も悪いが、飴二郎を見た時は自然と鬼の形相になっていた。

 

爆豪は席から立ち、飴二郎と目を合わせる。睨みあい、何時でも喧嘩になってもいいよう、爆豪は個性を発動できるようにする。一触即発の空気に既に教室にいる者達は冷や汗をかく。

 

「まあ。なんでもないならいいや。失敬失敬」

 

飴二郎の性格は穏やかというわけない。しかし、いくらなんでも入学初日に問題を起こすわけにはいかないし、喧嘩したところでメリットがあるわけでもなし。引き下がることにした。

 

飴二郎の気の抜けた言葉により、険悪なムードは霧散し、爆豪は舌打ちしながらも席に着く。爆豪も飴二郎と同じ考えに至ったのだろう。

 

右隣の席には既に生徒が座っていたようだ。被り物をしているかのような頭に目を引く。嘴(くちばし)に顔全体を覆う黒い毛は被り物に見えるようで実際には違うようだ。被り物にしてははっきりと目が見えるし、瞬きしたときに肌色の瞼が見えない。

 

「源 飴二郎だ。さっきは見苦しいとこ見せたけど、よろしくしてくれ」

 

「常闇踏影。気にしていない」

 

「はは、サンキュ。常闇」

 

その後、続々とA組の生徒が集まり出す。最後に来たのはもじゃもじゃした髪の男子と優し気な女子。そこに寝袋に入った男が現れる。無精ヒゲを生やし、肩に届く長い髪を縛らずに放置しているせいで、不衛生な印象を抱く。首にはマフラーのようなものを巻いている。

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

(誰だっけ?)

 

アメリカで過ごしていた時から、日本のプロヒーローの情報は一般常識程度には仕入れていた。雄英はプロを教師とするのだが、飴二郎の知識の中に彼のような人物は該当しない。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

名を名乗ると、寝袋から一着の体操着を取り出す。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

担任の指示に従い、体操服に着替えてグランドに移動する。

 

「個性把握…テストォ!」

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然り」

 

(なんか苦手な感じがするな)

 

初対面で会話も交えていないが、胸の中で不快感が蠢く。というよりも、デジャブに近い感覚がある。

 

「ソフトボール投げ・立ち幅跳び・50m走・持久走・握力・反復横とび・上体起こし・長座体前屈。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 

(あー日本ではそうなんだよな。俺んとこは緩かったからな)

 

飴二郎が通っていた中学では体力テストはともかく、休み時間であろうとも個性をガンガン使っていた。無論、人の迷惑に掛からない範囲での話だし、州や学校によってその規制はばらつきがある。

 

「爆豪。中学のソフトボール投げ、何mだった」

 

「67m」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ。思いっきりな」

 

相澤はそう言って爆豪にボールを投げ渡す。

 

「んじゃまぁ……死ねえ!!」

 

大きく振りかぶって爆豪の手の平が爆発すると、爆風に乗せられてボールは遥か彼方に飛んでいく。

 

数秒後、相澤のスマホから電子音がなると、生徒たちに705.2mと表示された数字を見せる。それだけで爆豪が飛ばしたボールの距離だと分かる。

 

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 

「何だこれ!!すげー面白そう!!」

「705mってマジかよ」

「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 

生徒達が沸き立つ中で、相澤は呟く。

 

「面白そう、か」

 

その一言に再び生徒は相澤に向き直る。

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

空気が重くなるのを感じた瞬間、飴二郎は冷や汗をかき、苦笑いを浮かべる。自分の上司と初めて会った時のことを思い出した。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

「はああああ!?」

 

有無を言わせない実力と権力を行使して従わせる。

 

「生徒の如何は先生の"自由"。ようこそ、これが」

 

髪をかきあげ、ようやくを見せた笑みは最悪のタイミングだった。

 

「雄英高校ヒーロー科だ」

 

先程まで盛り上がりはどこへ行ったのか全員に緊張が走る。

 

(さーて、どうっすかな。運動に自信がないわけじゃないし、今回のテストも問題ない。でも、担任があんな人じゃこの先やべえよな。それにあの担任何考えてんだ? 最下位を除籍? ちとおかしいよな)

 

このテストに一つの疑問を覚えながらも、ストレッチを始めた。

 

「よっ!やっぱりお前も雄英受かったんだな」

 

「え、あ、どちらさま?」

 

声をかけた人物の染められた髪でワックスで上げられており、一度見れば忘れそうにはない。ただし、飴二郎の記憶には該当しない。それを遠回しに伝えると、自分を指さし、必死に自分を思い出してもらうよう、雄英入試の日を話し出す。

 

「ほら、俺だよ。受験でほら、実戦テストの!0Pロボで話しかけただろ!?」

 

その必死さが功をなしたのか、飴二郎は彼を思い出す。

 

「あんときの……。え、その髪は?」

 

入学試験の際の彼の髪は今のように赤くも逆立ってもいなかった。黒い髪を目元まで伸ばしていた。

 

「いやまあ、入学を機にイメチェンを。なんか人から突っ込まれると恥ずかしいな。まあ、いいや。俺は切島 鋭児郎!よしくな!」

 

「源 飴二郎。同じジロウ同士よろしく頼むな、鋭児郎」

 

「おう!」

 

第一種目:50m

 

「5秒01。まあまあか」

 

3秒台4秒台がいる中で、5秒台はあまり目立つことはない。飴二郎は相澤の意図を考えつつ、他の生徒を観察している。

 

(メガネかけた真面目ちゃんはスピード系。俺に絡んできた奴は爆破系、爆豪だったか?バリバリ戦闘に向いた個性だな)

 

~系と言っているが、これは飴二郎が勝手造った言葉で公式的な用語ではない。世には似た個性があるので、適当というわけでもない。

 

(個性把握ってもこのテストじゃ俺個性あんま使えないんだよね。それは他にも複数はいるはずだし、非合理だ。人間向き不向きがあるように個性も然り。んなもん、あの教師も分かってるはず。なのに最下位は除籍。意図が図れねえ。実際、爆豪の隣にいた奴なんか足がとろいし、いかにも前線向きの個性じゃねえだろ)

 

普通なら生徒をからかう嘘だとか生徒に全力を出させるだとか、そういった結論にも行きつく。

 

飴二郎はそれはないと、勘で判断した。中学時代、犯罪者相手に嫌というほど、騙し騙されの応酬をしていた。その経験で生まれた直感から導き出されれば、相澤は嘘を吐いていないと言っている。なにかを隠してもいる。

 

飴二郎が相澤の意図を図れないのは無理もない。除籍の話はたった一人のために生まれた話なのだから。

 

「どうかしたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

その後もつつがなく個性把握テストが進んでいく。人によっては個性に合ったテストが複数もあれば、一つも発揮できない人もいる。前者はともかく、後者の表情はよくはなく(一人は見えないが)、特に緑谷と呼ばれる生徒は顔面蒼白といったところだろう。

 

ソフトボール投げで彼の番になると、下を見ながら進んでいく。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

 

「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」

 

「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

「は?」

 

2人の会話に聞き耳を立てて、緑谷を観察する。

 

これまでA組の個性を観察してきて、個性の練度がどの程度か把握するに十分だった。緑谷に関しては、何もわからずじまいで、2人の会話を聞いている限りではなにかしらありそうだ。

 

そうこうしている内に、緑谷がボールを投げようとした時、ボールはただ普通に飛んでいき、46m地点に落下するだけに終わる。

 

その結果には緑谷自身が驚愕していた。

 

「な…今確かに使おうって…」

 

「”個性”を消した」

 

相澤のマフラーが解かれていくと同時に垂れ下がっていた髪が逆立ち、眠そうな目つきが怒りに近い瞳になっていた。

 

「つくづくあの入試は、合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

 

「消した…!!あのゴーグル…そうか!見ただけで人の”個性”を抹消する個性!抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」

 

”個性”そのものに干渉する個性にクラスがざわつく。

 

(”個性”を消す個性っておま、反則だろ。そもそも、そんな個性なら有名だろ!)

 

飴二郎は日本に来てからも日本プロヒーローの情報は有名どころからみたが、イレイザーヘッドの名はなかった。

 

(いや、徹底した合理主義者なら、メディアの前に出ない。それなら筋が通る。うわ、俺とは人間的に合わなそうだな。この除籍付きテストだってボスに似てんだもんよ)

 

相澤は緑谷を首のロープで縛りあげると、なにやら喋り出しているが、飴二郎の位置からでは聞き取れない。

 

2度目のボール投げを始めよとしている緑谷に対し、飴二郎は欠伸をかいて、半ばどうでもいいと思い始めていた。癖と化している観察をほぼ終えている本人としては除籍候補から外れているので、あとは残りのテストを終わらせるだけである。

 

そうして、緑谷がボールを投げた瞬間、彼方へと飛んでいく。

 

「へえ」

 

緑谷の人差し指は変色し、折れているのだとすぐにわかった。

 

飴二郎は緑谷の個性を推測し始める。が、その思考もすぐに中断することになる。

 

「どーいうことだこら!ワケを言えデクテメェ!」

 

爆豪が個性を発動しながら、緑谷へと突っ込んでいく。それを相澤が個性とロープを利用し、爆豪を捕縛する。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ」

 

(うわ、もったいねえ)

 

頭が冷えたのか爆豪はロープから解かれると、再度襲い掛かりには行かないが、緑谷の背中をこれでもかと睨んでいた。

 

そのまま、怪我人が出ることなく全ての種目を終える。

 

「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

除籍者が決まる中で相澤はたんたんと話を進めていく。スマホからの立体映像で個性把握テストのランキングが開示される。

 

「因みに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「はーーーーー!!!??」」」

 

クラスの大半が驚きの声を上げる。表情は様々だが、ドンケツの緑谷の表情はなんとも言葉に言い表せるものではなかった。

 

個性把握テストで1位を取っていた八百万が「あんなもの嘘に決まっている」の発言に、飴二郎も「あ、やっぱりそうなの?」と納得した。疑問が解消されたわけではないが、終わったことを考えても仕方ないと、思考を放棄した。

 

本日は個性把握テストだけで終わり、飴二郎は鋭児郎を含めた男子たちと少しばかりの談笑をして、安アパートに帰宅する。そのまま、四角い折り畳みのちゃぶ台の上に乗せられたノートパソコンを起動する。画面が開くまでの間に、制服から部屋着へ着替え、引き出しからファイルに閉じられた資料をノートパソコンの横に置く。

 

ファイルを開くと、そこには一枚の顔写真が張られたさながら、履歴書のような形式を資料である。

 

鮮やかな紫色の髪に灰の瞳をした少年は、綺麗な顔立ちをしている。履歴書同様に、顔写真の横には名前が表記されている。

 

「やってくれたぜ、トルソンのボケ。俺のスクールライフが削れっちまうぜ」

 

トルソン・ロドゲリス。ケルベロスカンパニーに所属、元シニアインタホーン戦闘ランキング6名中6位。

 

ケルベロスカンパニーにインタホーンとして所属し、2年半を過ごすが、ランキング3位セナロウ・ハンゲリーを殺害し、日本へと逃亡。その後は、行方をくらまし、日本警察への協力を仰ぐが、足取りは掴めずにいる。

 

飴二郎は日本へ渡る直前で、ケルベロスカンパニーの長、ボスと呼ばれる人物から指令を預かっている。

 

トルソンの抹殺。または捕縛。

 

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