ご主人!ご主人!Playmakerって安直過ぎません? 作:エネミー
目を覚ました時、一番に感じたことは、違和感だった。
瞬きをする違和感、手足が動く違和感、呼吸ができる違和感、そして心臓の鼓動が聞こえる違和感。
生きているという実感が湧く。それが違和感の正体であり、昨日までの自分が感じることのなかった感覚。
「生きている……」
でも、己の身体ではない。
「なるほど……」
彼女は死んだらしい。物理ではなく、精神的に。こうして、先程まで精神体であった自分がこの身体を操れている事から推測できた。
しかし、彼女諸共死ななかったのは偏に、自分には彼女にはなかった能力を持っていたからだろう。神様転生というやつだ。特典として貰ったが、一人の少女の中に入ってからは使い道のなかったこの能力。
不老不死の精神を手に入れる“目を覚ます”能力。
本来、メデューサとかいう奴がこの世にいなければ生まれない能力だが、流石神様、無理な事はないらしい。そして、この能力だからと言って、カゲロウデイズとかいうのはこの世にはない。
まぁ、自分は能力者として生まれてきたわけだが……こんな時に役に立つとは思ってもいなかった。
九年間付き添ってきた彼女を失って、寂しくないわけではないが、所詮干渉できない身。取り憑いていたというのに、此方に全く気が付かず話すこともできなかった彼女には未練はない。
けれど、このままむざむざと死ぬわけにもいかない。
「ま、良くやったよ、元ご主人。仕えた記憶はないけれど、君の身体は死なせはしない」
落ちていたデュエルディスクを腕につけ、VR空間へと繋がるゴーグルを目にかける。
さて、足掻こうではないか。己が死なないためにも。
××××××××××
懐かしい夢を見た。
約十年前の事だ。自分がこの世に生まれ、彼女がこの世から去った日の夢。
そもそも夢なんて久しぶりなのだが、やはり精神が不眠だとしても、身体は眠たいらしい。適度に眠たくなるけれど、寝れる事は少ない。だが、一週間に一度は限界は来るらしく、突然気を失うように眠ってしまう。病気ではなく、あの能力のせいで不眠症になった弊害だ。全く、嫌なデメリットである。お陰で目の下には一生隈が付いて回るだろう。
「今何時……って五時か。もうご主人が帰ってきた所か」
今日はどっちだろう。自宅か、それともあのホットドッグ屋か。まぁ、先にホットドッグ屋に行けば自ずと場所がわかるだろうし、考えるまでもないか。
起き上がり、近くにノートパソコンを持ってきて操る。この時代、ノートパソコンなんて古いとは思うが、見た目に反してスペックは現代のものだ。何も問題はない。
パチパチと素早く操作し、フリーのWiFiへと接続する。接続した事を他には伝えられないように遮断するプログラムも起動して、準備はオーケーだ。ノートパソコンを近くのテーブルに置き、もう一度寝転がる。
入っている間は精神体だけ抜けている状態なので、無防備になる。この部屋の鍵はかけてあるし、窓も閉めてある。もし誰かが侵入しても知らせるようにプログラムは組んである。大丈夫、いつも通りだ。
そっと目を閉じて、そして覚ます。
気がつけば電脳空間。ノートパソコンの画面から外を見ると、己の身体が横たわっていた。うん、成功だ。
もう一度ノートパソコン内から、この部屋の電子プログラムを見直し、施錠確認。完璧。
『さてさて、今行きますからね。ご主人』
すいっと青い髪を揺らしながら、WiFiから外へ、そして外から中へ。ありとあらゆる場所を経由し、とある巨大な機器の中へと入っていく。吸い込まれるような感覚を味わった後、パチリと目を開ければ、そこには見慣れた二人の顔が。
『やほやほ、ご主人と草薙さん。今日も犯罪、頑張ってます?』
「流れるように罵倒するなよ……」
「エネ」
袖の長いジャージをフリフリと振って笑うと、呆れたような表情と少し驚いたような真顔が帰ってきた。うん、いつも通りの反応である。
エネと呼ばれた自分は、はい!と元気よく返事をして中を見て回る。原作の様に彼に悪戯はしないが、こうして彼らの犯罪に手を貸す事はざらだ。まぁ、気まぐれでやっているのだが。
『それで、何か収穫ありました?調べてる事は以前と変わらない様ですが……』
「あぁ、あった。此奴だ」
ご主人が何かを指差した。その先にはいつも使っているデッキを読み込むタイプのデュエルディスク。その丸みを帯びたフォルムは、自分も気に入っているものだが、何故か中央の画面には目玉が写っていた。
そんな機能はない。という事は、それが収穫なのだろう。ギョロッと紫色の目玉が動く。
『随分と気持ちの悪い収穫物ですね。何の目玉です?タイ?サメ?そんな訳ないか、マンボウとか?』
『おーおー、聞いておけば随分な言い草だな。確かに目玉だけだが、お前よりは役に立つぜ。何たって救世主だからな!』
「人質と言う名の」
『人質……というか、AIさんです?目玉のAIなんて聞いた事ないですよ?』
『オレだってお前みたいなAI、見た事ねぇよ!』
『私は特別製ですから!当たり前です!』
『オレも特別製だ!記憶ねぇけど!』
むむっ、ムカつくAIだな。特に目玉だけってところが。
「そこまでにしとけ、二人共。ったくAIなのに喧嘩かよ」
「草薙さん、気になるところを見つけたんだが」
「……これをスルーできる遊作は凄いな」
失礼な。自分はただ、優秀なAIである。この頭悪そうなAIに負けたくないだけだ。負けず嫌い?上等だよ。
しかし、何故このAIが人質なのだろうか。確かに他のと比べれば知能が高そうに見える。先程頭が悪そうと言ったのは人間からの感性であり、AIからすれば優秀な方。何せ、感情を持っているかのように話している。レアなのはわかるが、人質、救世主だとは思えない。
というより、誰の人質なのだろう。
『そもそもこのAIさん、どういう人質なんです?ご主人の事ですから、ハノイ以外には興味なさそうですが』
何かを調べている画面、ご主人の目の前に現れ、こてりと首を傾げる。邪魔をできる様に巨大化する事も忘れない。電脳体であるからこそ、自身の容量の大きさは自由自在に変えられる。つまり、見た目の大きさも変わる。
欠点は、一時的に容量を食う事だが、そこまで大きくないため、別に欠点という程でもない。この大きなコンピュータなら、尚更。
「邪魔だ」
『邪魔してるんですよ!ご主人!私も仲間でしょう?なら、このちんちくりんのAIさんの事教えて頂けても、不思議はないと思いますけど』
誰がちんちくりんだ!という目玉AIの言葉はスルーして、じーっとご主人の顔を瞳を見る。にしても、いつ見ても可笑しな髪型してんな。
暫く見つめていると、観念したのかご主人は溜息を吐き、口を開いた。話してくれるらしい、やったね。
「わかった、話す」
『わーーい!ありがとうございます!ご主人!話してくれなかったら、秘密ファイルをLINK VRAINSに流すところでした!』
「お前が言うと洒落にならないな……」
「因みに、どんなファイルなんだ?」
『どんなって、そりゃぁ大一番の秘密、ご主人がPlaymakerって事ですよ!』
LINK VRAINSの人気者こと、Playmakerは目の前のご主人、藤木遊作のアバターの姿だ。
身長や髪型、髪色や顔付きなどが様々変わっているそれは、今やLINK VRAINSに関わる者なら誰もが知っている存在。カリスマデュエリストですら、霞む程の人気振りだ。
そんなPlaymakerの正体が一介の高校生と知ったなら、マスコミが黙っていないし、ハノイも襲ってくるだろう。
ま、自分が言ったことは、脅しに近い。そういうことである。現に、目の前のご主人は眉を顰めてこちらを睨んでいるが。
『ま、嘘ですけど。そんな事するわけないじゃないですかー!ご主人の正体がバレれば、必然的に私もヤバイんですし!』
「常にここにいるわけではないだろう。それに、お前はここをハッキングしているハッカーだ。仲間でもない」
『えーーっ!意地悪ですね!ご主人!!』
呆れた様にものを言う彼は、首を振って話し出した。仲間ではないと言っておきながら、話してくれるらしい。その優しさは嫌いではないし、信頼してくれている証だ。嬉しいものだな。
「このAI、Aiはハノイの騎士と、SOLテクノロジー社が求めていたAIだ。SOLテクノロジー社はともかく、ハノイの騎士が追い求めるAIとなっては黙ってはおけないだろう。それに、これを手に入れたら相手より有利になれる。貴重な情報を持っていたかも知れないしな……記憶はないみたいだが」
AIさん、Aiに目を向けるとその目玉は気まずそうに目を逸らす。どうやら、少しだけ罪悪感はある様だ。けど、記憶を失ったのは此奴の所為ではないだろう。自分には関係のない事だけど。
納得がいった様にジャージの袖に隠れた手をポンと叩いた。
『成る程。超激レアAIさんなんですね!意外です。しかし、記憶はない。うーん、とんだ役立たずを手に入れましたね。ただ喋る目玉ですよ、彼』
『うるせー!』
「そうでもない」
『遊作……』
「こいつがいるだけでハノイが寄ってくる最高の餌というわけだ。その点に関しては、役立たずではないだろう」
『オレが期待したのが馬鹿だった!』
クスクスと笑う。とんだ馬鹿なAIだ。この数時間で、ご主人の性格を把握していないとは。
ご主人は基本的に他人には辛辣であり、無関心だ。端から見れば、冷たい様にも見えるだろう。それが、ご主人なのだが。あ、草薙さんは別だ。
しかし、草薙さんの次には長く接しているであろう自分にですら辛辣な態度は変わらないのだから、ついさっき来たAIを庇うということはしない。ただ、事実だけを述べる。ご主人の良いところであり、悪いところでもある。
『馬鹿ですねー。ご主人が貴方を庇うわけないじゃないですか。AIのくせに、馬鹿ですか』
『自分で馬鹿と言うのは良いけど、他人に言われると腹立つな!』
『ふっふー!ま!経験の差って事で!記憶がないと言うことは、経験もすっぽり抜けているでしょうし!良いでしょう!ここは一つ、私の事を先輩と呼んでくれても良いんですよ!後輩くん?』
『うっざー!!此奴すっげぇうぜぇぞ!遊作!』
「煩い、黙れ」
『辛辣ゥ!!』
涙目になって、喚き散らすAi。遊作が酷いー!とか何とか言っているが、十中八九嘘泣きだろうな。簡単に泣き出すタイプには見えない。
そんなAiは放っておいて、この巨大なスクリーンの中を縦横無尽に泳ぎまくり、自身がいなかった間に何が起きていたのかファイルを漁りまくり確認する。まぁ、どこに動画ファイルがあるかなんて、前々から既に知っているのだけど。
ハッキングではなく正規の手順で開けていく。ここにはハッキングという名目できているが、だいぶ前にこのエネというデータは異物ではないという事をこの機械に教えているので、こうして普通に開けても異常事態とは感知されないのだ。
それで?内容はっと。あー、流石ご主人だな。颯爽とブルーエンジェルを助けている。これでときめかないブルーエンジェルもそうだが、何事もなかったかのようにハノイの騎士へとターゲット移動しているご主人もご主人だ。この人達、ドライ過ぎる。
にしても、このAiがあのハノイの騎士と、SOLテクノロジー社からここまで好かれているとは、見た目と反して凄いAIなのだろうか。己の印象としては、ただの馬鹿でしかないのだけど。
『ん?何々?何か用?』
此方の視線に気づいたのか、目だけのAIは笑いながらそう言ってきた。
いや、用という用はないんだけども。馬鹿そうだなぁって思っていただけで。
それにしても、このAI。
『AIさんって、何だか胡散臭い声してますよねー。キャラも相まって、中々信用できませんよ、コレ』
『え』
「あー、一理あるな。エネちゃんも大概だけど」
『えー!草薙さん、この幼気な少女をそんな風に思ってたんですか!私、今!途轍もなく悲しいです……よよよ』
「草薙さん、これ」
「ん?どこだ?」
『無視された!?』
『ははっ!ざまぁ味噌汁!』
『古っ!?ネタが古い!!どこでそんなの覚えたんです!この目玉!!』
『これでもAIなんです!学習能力はピカイチ!!』
『センスの無さもピカイチですね!!』
『なんだと!?この野郎!』
『やります!?この馬鹿!』
ギャーギャーワーワー。
ご主人が、煩いと言うまでAI同士の言い合いは続いたのだった。
意外とこのAIとは、相性が悪いのかもしれない。
本体の特徴
名前 榎本貴音
見た目 アクター子。私服もアクター子。高校生
テンション 寝不足なので低め
年齢 大学一回生
原作知識 なし メカアクはエネに関してだけ
AI側としてオリ主を絡ませたかったけど、何故エネになったのか不明。作者もわからない。