ご主人!ご主人!Playmakerって安直過ぎません?   作:エネミー

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2日 ホットドッグ

 

 

よく晴れた平日の昼過ぎの事。

 

「ホットドッグセットください」

 

黒髪のツインテールの子がそう言ってきた。

見た目から遊作と同い年であろうその子は、目の下の隈を携えながら、ふわりと欠伸を漏らす。眠たいのだろうか。それにしては、瞳はしっかりと陽の光を反射していた。

 

「あいよ。いつも通りマスタード多めかい?」

 

一週間に一回は来る彼女は、常連さんなので顔を覚えてしまった。いつもなら、あいよとしか返事はしないのだが、何となく会話を広げてしまう。

しくったな。目の前の彼女は常連さんとはいえ、あまり話すタイプでもないだろう。受け答えはしてくれるはずだが、遊作のように一言で終わる可能性が高い。素っ気ない態度をされたら傷つく可能性がある。俺の心が。

ホットドッグに挟むためのウインナーを転がし、パンとキャベツを取り出すために顔を上げる。俺の予想通りに彼女は顔を歪めていた。

 

え、歪めて?

 

「一週間に一回は来るとはいえ、女子の顔を覚えてるとか気持ち悪い奴。警察に電話して良いか?」

「何でだ!?」

 

流れるように罵倒された。

何か悔しそうに顔を歪めたまま、彼女は思案するように顎に手を持って行き目を逸らす。

 

「やっぱ、このガスマスクを付けるべきだったか…………」

「やめとけ。不審者として捕まるぞ」

 

いつも通りに首につけているガスマスクを掲げながら付けようとする彼女を咄嗟に止める。店と外の距離があるから腕を掴むことはできないが、言葉で言うと彼女は止まってくれた。

渋々といった様に目を逸らしながら、ガスマスクから手を離した。

ほっと一息吐き、パリッと焼かれたコッペパンの中に炒めたキャベツを入れて、その上からパリパリのウインナーを置く。ぎゅむっと押し込めば、見た目に反してボリュームのあるホットドッグが出来上がった。

ケチャップをかけて、マスタードをケチャップより二倍程多くかける。うん、美味そうだ。

 

「そこで食べていくかい?」

「そうする」

「なら、ホットドッグを先に渡すから、ドリンクは少し待ってくれ」

 

営業スマイルを浮かべながら、手渡すと物凄く嫌そうな顔をされながら受け取ってもらえた。この数分で俺は嫌われたらしい。泣いて良いだろうか。

辛辣なのは遊作で慣れていたかと思っていたが、そうではなかったらしい。とは言っても彼は俺には少し優しいので、それより棘のある彼女の言葉は非常に突き刺さる。痛い。

ドリンクサーバーから言われた飲み物を入れて、プラスチックカバーを付けストローを指す。

 

「ドリンクできたぞ」

「ん」

 

立ち上がった彼女はホットドッグを頬張りながらドリンクを受け取った。そしてそれを一回テーブルに置き、ダボダボの黒いジャージのポケットに手を突っ込む。

ずっと思っていたが、その袖の広がったジャージはどこで売っているのだろうか。黒を主に黄色がアクセントになっているそれは、正直服としての設計を間違っていると思う。胴体より袖が長いってどうなのだろう。

突き出した腕に答えるように片手を出して、手の平を見せる。チャリンと音がなると、小銭が手に乗っていた。

彼女はいつもこうして金を払う。いつも同じものを頼むからか料金は一緒、そして払われた金の数もぴったり。用意周到だ。

もぐもぐゴクリ。ホットドッグを飲み込んだ彼女は、紙をぐしゃりと丸め車の横に置いてあるゴミ箱へ投げた。表情を見るからには、入ったのだろう。満足そうだ。

 

「そう言えば、名前は?」

 

ちゅー。今度はドリンクを飲みながらそう尋ねてきた。そう聞いてくると言うことは、嫌われたわけではないのだろうか?

 

「草薙だよ。よろしく」

「そうか、草薙か。私は榎本、よろしく草薙」

 

成る程、榎本ちゃんか。贔屓してくれている常連さんだ、しっかりと覚えておこう。

 

「おいおい、呼び捨てか?」

「変態には呼び捨てで充分だと思うけど」

「おい」

 

冗談だよ。

そう言って榎本ちゃんは赤い目を細める。その表情は笑っているようにも見えて、少し不満そうにも見える。そう見えるだけで、違うかもしれないが。

 

「それにしても、最近は話題のプレイメーカー様ばかりだな。テレビがつまらない」

 

そう言ってふいっと顔を逸らし、野外にあるこのDen Cityの中で一番大きいモニターを見上げる。

ここはデュエリストなら誰でも集まる場所と言っていい。

広場の上空、ビルの前に設置されている大画面は何台もあり、大画面でLINK VRAINSの生中継やデュエル関係のニュースを見れるようになっている。俺もよく利用させて貰っている場所だ。情報収集の一環と、稼ぎとな。

そんな大画面に映っているのは先日にあった、ハノイの騎士とPlaymaker……遊作とのデュエルの場面。決闘評論家なんていう胡散臭い人物がPlaymakerについて考察していた。

俺は苦笑した。

 

「ま、LINK VRAINSのヒーローだからな。仕方ないだろ」

「それもそうか。でも、ヒーローよりダークヒーローの方が様になりそうだ」

「あの無表情じゃぁなぁ」

「見てる限り彼は元々そういうものなんだろうけど、一度は会ってみたいね。演技ではないだろうし。デュエルしてみたい」

 

彼奴と?デュエルしてみたい?

正気だろうか。あの動画を見ただけでも、遊作のデュエルタクティクスは相当だ。確かに、最初は押し負けている為弱そうには見えるが、未知の相手、慣れないルール下で戦い勝った。それだけで、カリスマデュエリスト程の実力はあるとわかる。

そんな遊作と戦ってみたい?

 

「(余程の馬鹿か……それとも)」

 

ズコッと音が鳴り、思考の渦から舞い戻る。

ドリンクが無くなった音だろう。ドリンクの蓋を開け中身を見た彼女は、もう無いことがわかったのか紙屑と同じようにゴミ箱へ投げ捨てた。

 

「ちょ!おい、せめて氷は分けといてくれよ」

「嫌だよ、面倒だ」

 

氷を分けてくれないお客さんは結構いる。その一人が彼女だっただけの話だが、あぁも目の前で潔くされると怒る気さえも失せた。

 

「ご馳走さま。草薙」

 

広がっている袖を少し上げて振りながら、榎本ちゃんは立ち去っていく。その振っているのはさようならの意味なのだろう。此方を振り返りもせず去って言った。

妙な客だ。無関係者なので此方側へと引き込む事はないが、少しは知り合いとして付き合っていきたいと思う。

こうして、たまには話す程度で。

 

「っていうか、呼び捨てのままかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

××××××××××

 

 

 

 

 

 

 

 

腕を下ろし、フードを被る。

いやはや、草薙さんは良い人だ。

エネという電脳体ではなく、生身の自分として草薙さんと繋がりを持ちたかったから、こうしてホットドッグ屋を通い詰めたのだが、今日その努力が報われた。

と言っても、あのホットドッグ屋は普通に美味しいし値段も良心的な為、週に一回はどうしても食べたくなるだけなんだが。

携帯端末を取り出し、後ろを振り返る。数十メートル先には先程立ち去ったホットドッグ屋が見えた。景色を撮ると見せかけて、ホットドッグ屋自体を撮る。

未来の端末は解像度も抜群で、こうして何十メートル先の物でもくっきりと写し出せる。ただ、盗撮にとても向いているということで一番の端末には搭載されなくなったが、これは違う。改造を施した違法端末なので、関係ないのだ。

どうやって手に入れたか?それは秘密だ。

犯罪者が自分から手の内を晒すだろうか?……そういうことである。

因みにこの端末でネットサーフィンしても足はつきません。何というハイスペック。

 

「ホットドッグ屋わず、っと」

 

草薙さんの顔にモザイクをかけて、投稿。

許可は取らなくても、あの車にSNSで是非宣伝してください的な事を書いていたのでノープロブレム。大丈夫だ。

すぐに反応が来る。肝心のホットドックの写真はないのかというリプライばかりだ。仕方ないだろうと言いたい。今日話しかけて来るとは思っていなかったのだから。

一方的なフォロワーであり、此方は返していない相手のため返信はなし。しかし、それでも誰も気を悪くしない。有名人はそれが当たり前である。

……まぁ、ホットドッグの写真を忘れたからという事だけは言っておこう。

因みに言っておくが、この身体は天涯孤独の身である。施設育ちというわけでもなく、ただ拐われた際に親がショック死したからだ。

親にとても愛されていたこの身。恐らくだが警察からは生存は絶望的だと言わせたからだろう。まぁ、半年も行方不明なら普通は死んでいると思う。実際、本人は死んだからな。

強く生きれなかった彼らに会ったのは、家にある仏壇の写真でだけだが、対面すると涙は出たので悲しくないわけではない。どこか寂しく思うのだ。それだけの話なんだけど。

ま、そんな自分の主な収入源は生活保障と、両親が残した遺産、そしてデュエルである。

デュエルモンスターズというカードゲームが大流行しているこの世界ならではの稼ぎ方だが、本来ゲーム好きである自分にはうってつけだった。カードゲームには手を出したことはなかったが。

そんなこんなで、LINK VRAINSで中堅のカリスマデュエリストなるものをしている。No.1カリスマデュエリストのGo鬼塚と、その容姿から絶大な人気を誇るブルーエンジェルには敵わないが、それなりにはファンがいる為、中々の稼ぎになっている。人一人暮らす分には困らない程だ。

大学に通うには金銭面が頼りなかったので通っていないが、何とかなるだろうという思考が常に頭の中にある。昔からの悪い癖だ。

 

「(ん?あれは……ご主人?)」

 

携帯端末を仕舞って前を見ると、ちょうどご主人こと藤木遊作が向こうから歩いて来るのがわかった。まだ昼過ぎで、夕方には程遠いがどうしたのだろうか。まさか、バックれた?

 

「(いや、ハノイやデュエル以外でバックれる事は早々無いから、ただ単に昼までだったんだろうな)」

 

そう結論付けて、他人のフリをする。

彼とはエネという電脳体でしか繋がりがない。この姿でジロジロ見ても不審がられるだけだろう。なので他人のフリをする。

前から高校生が歩いてきている。昼上がりとか珍しいな、なんて考えながら。

他人のフリという事だけを考えていたら、逆にギクシャクしてしまうということがある為、こうして考えるのだが、これが結構効果抜群だ。一度オススメしたい。

人は思っているよりも、他人に興味はない。

 

「(ご主人なら尚更。大丈夫)」

 

少しだけドキドキしながら、横を通り過ぎた。気配が遠ざかることにホッと小さく息を吐き、前を向いて歩き出す。

プライベートで知人に会うという避けたいことを終わらせて、帰宅するために足を動かす。

もう当分はこんなドキドキは味わなくて良いかもしれない。恐怖のドキドキだ。

……自分で言っててよくわからないな……よし、無視しよう。

それにしても、左手に常にデュエルディスクをつけているのか。生粋のデュエリストは大変だな。苦とは思っていないんだろうけど、ある一定以上の重さを片方にだけ、ずっと付けているとなると少しだけ可笑しくなりそうだ。

 

「さて、帰ろうか」

 

たった十年しか住んでいない我が家へ帰宅する。だが、もう慣れ親しんだと言って良いだろう。この身体も少しは家の事を覚えていたのだし。

愛しい我が家が待っている。特に布団だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

××××××××××

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の……」

『ん?あいつが気になるのか?検索してあげても良いぜ?』

「別に良い。知っている」

『え?知ってんの』

「あぁ。中堅カリスマデュエリスト、アーテフィシルEnemy。デュエル数は少ないが、そのタクティクスはトップに勝るとも劣らない。今のところ無敗だ」

『へー。天下の遊作様がそこまで覚えるって事は、凄いデュエリストなのか?』

「さぁな。だが、毎回デッキを変えるという噂だからな。知らないテーマがあると、見てみたくはなるだろう」

『デュエリストとしてか?』

「そうだ」

『なんだお前、案外人間っぽいんだな。もっとAIみたいだと思ってた』

「煩い、黙れ」

『……へーい』

 

 

 

 

「草薙さん、ホットドッグセット一つ」

「あいよ。遊作もマスタード多めだったな」

「も?」

「あぁ、さっきのお客さんもマスタードが多めだったんだよ」

「そうなのか」

「遊作と気が合いそうで、合わなさそうな客だった」

「?どういう意味だ?」

「くくく……そのままの意味だよ」

『何々。オレ気になるなー、その話』

「お、聞きたいか?Ai」

『聞きたーい!』

「草薙さん、ホットドッグ」

「すまんすまん。ちょっと待ってくれ、遊作。今ウインナー焼いているところだから。あ、勿論Aiも待っててくれ」

「あぁ」

『おう』

 

 




カリスマデュエリストとしての姿はそのままだから一般人()にバレるという。え?草薙さん??そりゃ、ほら、あの人、こういうの疎そうじゃない?(偏見)


※アーテフィシル
artificial(アーティフィシャル)を弄った造語。意味:人工的な
※Enemy
enemy(エネミー)の最初の文字を大文字に変えただけ。意味:敵

盛大なブーメラン。
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