デート・ア・ライブ 万由里リジェネレーション 作:ベルリオーズ
白夜が眠りに落ちた頃、士道は琴里から精霊とラタトスクについての説明を受けていた。曰く、精霊とは本来この世界には存在しないものであり、この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なく、あたり一帯を吹き飛ばしてしまうこと。そして、その現象が空間震であるということ。また、ラタトスクとは精霊と対話するために作られた組織であるということ。一気に新しい情報を与えられた士道は思わずうめきそうになる。
「そもそも、なんで警報発令中に外に出てたの?馬鹿なの?死ぬの?」
「いや……だっておまえ、これに映ってただろ」
士道がポケットから携帯電話を取り出すと、そこには琴里の位置情報が表示されていた。それは、やはりファミレスの前で停止している。
「ああ……そういうことね」
琴里はそう言うと懐から携帯電話を取り出して見せた。
「え……?なんでそれ、今お前が持ってるんだよ?」
士道は自分の携帯画面と目の前に掲げられた琴里の携帯電話を交互にみた。こんなところに琴里がいるので、てっきりファミレスの前に落としてきたのだと士道は思っていた。
「なんで警報中なんかに外にいたのかと思ったら、それが原因だったのね。電源切っておけばよかったわ。ここそういえばファミレスの前だったわね」
「は?どういうことだよ?」
「ちょうどいいわ。見せた方が早いでしょ。一回フィルター切って」
琴里が言うと、今まで薄暗かった艦橋が突然明るくなる。しかし、照明がつけられたというわけではない。どちらかというと天井に着けてあった暗幕が取られた感じだ。事実、――あたりにはあたりには蒼空が広がっていた。
「な、なんだこりゃ……ッ」
「騒がないで。外の景色をそのまま見せているだけよ」
「外の景色って、これ……」
「ええ。ここは天宮市上空一万五千メートル。――位置的にはちょうど、待ち合わせしてたファミレスの直上よ」
「つまり、ここって……」
「考えてる通りよ。この<フラクシナス>は、空中艦よ。この船についてもおいおい説明するから、今は黙って話を聞いてなさい」
「ああ……分かった」
「素直でよろしい。じゃあ、スクリーンを見なさい」
するとスクリーンに大きな画像が表示される。
「精霊はさっき説明した通りで、こっちがAST。精霊専門の部隊よ」
「精霊専門の部隊って--具体的には何してんだよ」
士道がそう問うと、琴里は当然というように眉をあげる。
「簡単なことよ。精霊が出現したら、その場に飛んで行って処理するの。つまり、ぶっ殺すということね。」
「なッ……!」
士道も琴里の言葉を全く予想していなかったわけではなかったが、それを聞いた途端思わず心臓が引き裂かれるような感覚に襲われた。言っていることはたしかに理解できる。精霊。なるほど確かに危険な存在だ。でも――いくらなんでも、殺す、だなんて。その時、士道の脳裏に、あの少女の顔が浮かんできた。
(――だっておまえも、私を殺しに来たのだろう?)
少女がどうしてあんなことを言ったのかが、やっとわかった。そして、なぜ今にも泣きそうな顔をしていたのかも。
「まあ、普通に考えれば死んでくれるのが一番でしょうね。この世に現れるだけで世界を壊す最強最悪の猛毒。存在しない方が良いに決まっているわ」
「けど……だからと言ってどうして殺すんだよ。本人の意思じゃないはずだろ!」
「意思があるかないかなんて関係ないのよ。どっちにしろ彼女たちは存在するだけで核弾頭レベルの被害を巻き起こすかもしれないのよ」
「だからって、殺すなんて……」
士道がしつこく追いすがると、琴里はやれやれと肩をすくめた。
「数分程度の接点なのに随分肩を持つのね。もしかして、惚れた?」
「っ、違ぇよ。ただ、もっと方法があるはずと思っただけだ。」
「方法ね……じゃあ、どんな方法があると思うの?」
そう聞かれ、士道はすぐに答えを出すことは出来なかった。しかし、士道の脳裏には、たった一度だけ見た少女の悲しそうな顔が浮かび上がってきた。――ああ、これは、なんか違うと思ってしまった。
「とにかく……一度……ちゃんと話してみないと分からないだろ」
あの時直面した死は、今でも体の奥底に刻まれている。正直なところ、逃げ出したいくらい怖い。だが、あの少女を放っておくのは、それよりも恐ろしいと思えた。その様子を見た琴里の唇の端がが、ニヤリと上がる。
「そう。じゃあ、手伝ってあげる。ラタトスク機関の総力をもってね」
「は……?」
「なに呆けちゃってるの?精霊に一人で立ち向かえるわけないでしょ。ラタトスクは精霊と対話するための組織。当然対話の方法も知ってるわ。あなたにしか出来ないことだけれどもね」
「その対話って……具体的にどうするんだよ?」
「それはね……精霊に――恋をさせるの」
「は……?」
「納得できないのも分かるわ。腹の底から賛成してくれなくても良い。でも、貴方が精霊を救うにはこれしかない。」
実際、その通りだった。何の後ろ盾もない士道がもう一度あの精霊の少女と対話したいと願っても、出来るはずがない。
「……わかったよ」
士道が苦々しくうなづくと、琴里は満面の笑みを作った。
「よろしい。これまでのデータから一週間以内に精霊が現界したことはないわ。早速明日から特訓よ」
「は……?特訓……?」
士道は、唖然とつぶやいた。
地を舞う剣との輪舞が幕を開ける。
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