艦ムスと深海棲艦と時々BETA   作:fire-cat

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第5話:建造と・・・

「さて、これから何処へ向かうべきだろうか?」

 柱島泊地を抜錨し豊後水道まで出てきたが、提督はその先の航路を決めかねていた。

 このまま九州沿岸から奄美・沖縄・台湾の南西諸島に向かうか、土佐沖から太平洋岸沖を進み駿河湾から伊豆・小笠原・マリアナへ向かうか、さらに北上し千島・新洲嘉へ向かうか。

 少将の話――恐らくは大本営の意向――では、資源を獲得しつつ通商路回復・南方諸島奪還・新洲嘉航路の安定化との事だったが、何処を優先するか。

 ゲームであれば。と提督は思う。ゲームであれば鎮守府正面沖から南西諸島沖へとルートは固定されている。だが、現実のものとなると執れる航路が多い、故に結構迷う。と。

 況してやこの世界ではアラスカとアリューシャン列島が新洲嘉と北方列島として日本領になっている上にチューク諸島やマリアナ諸島、台湾が戦前の様に日本領になっている。

 明らかに提督の世界とは辿った歴史が異なる。そしてふと考える。

 太平洋戦争どうした? もし太平洋戦争が起きてないのであれば、艦これの艦娘と此処の艦娘では性格や装備にかなり違いがあるのではないか? 航路決めたらマジで情報整理しないと。

 物思いに耽る提督に対し、

「提督、豊後水道を抜けた後の航路はどうされますか?」

 戦闘指揮所にいる妖精達が指示を求めてくる。

 航路を決める前に情報を整理しよう。そう思った提督が艦橋詰めの航海長に指示を出す。

「航海長、現在地は?」

『――』

 位置を確認し、宿毛湾と日向灘の中間辺りである事が判る。

「航海長、スタンバイエンジン」

『スタンバイエンジン』

 5ノット以下に速度を落とす高天原。人目に付きにくい夜間とはいえ航路からは遠ざかった位置である。

『スタンバイエンジン・サー』

 提督は速度が5ノット以下に落ちたことを確認すると、

「大淀。暫く離席する。何かあったら……執務室へ連絡を」

 離席を臨時の秘書艦である大淀に告げる。

 提督は長官私室に戻ろうとしたがさすがに拙いかと思い直し、執務室にいることにした。

 宿毛湾の艦娘に敵と間違われないことを祈りつつも執務室で情報を整理する提督。

 海図のほかに何故か執務室にあった地図と歴史書、艦娘型録の中から地図を広げ、歴史書を開く。

 

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 地図と歴史書を閉じ、瞼を押さえる。

 どうしてこうなった。としか言いようがないな。そう独り言ちる提督。

 

 アメリカが独立戦争が大幅に遅れて米帝になっていないし、カナダの一部を占領している。

 そのカナダにはケベック共和国が存在している。

 北米西海岸に知らない国がある。

 合衆国がカナダの一部を占領している。その事で大英帝国が文句を言いそうだが、帝国はブリテン島を失陥している為か影響力が落ちている。そのブリテン島は現在ドイツ領になり、BETAに追われたドイツはここに逃げ込んでいる。

 他の欧州各国は地中海のアフリカ側に、BETAに追われた西葡仏伊土希が地中海連合を結成して対抗している。

 アフリカ諸国は独立せずに植民地のままである。

 英国政府はオーストラリアに移り、オーストラリア連邦は存在していない。

 ソ連が成立せずロシア帝国が健在だが、レナ川以東までBETAに追い詰められている。そのロシアと日英は同盟国である。

 歴史を見れば、アメリカの独立が遅れたせいでペリーが浦賀に来ていない。開国はプチャーチンと長崎で締結した。その時の条約はかなり平等であったと言える。

 日魯友好通商条約ーー後に日露友好通商条約に変わったらしいーーと同時にアラスカを購入している。どうやら当初は持て余し気味だったらしいが、のちに金鉱を見つけ大開発が行われている。そのアラスカ開発のせいで朝鮮進出が起こっていない。

 吉田松陰がロシアに密航成功し、ロシア皇帝に拝謁して学校を開いて校長に収まって居る。そのせいで高杉や久坂が表に出ていない。長州は長井雅楽が権力を握って居た。高杉達が活躍していないせいか、明治維新も起きていない。ロシアと最初に条約を締結した影響か一橋派の徳川慶喜が14代将軍に就いている。その後を成人した家茂が継ぎ、孝明天皇へ大政奉還。公武合体政府が成立した穏やかな政権交代になっている。

 日清戦役はあったものの時期も開戦理由も異なる。

 江戸幕府と最初に条約を締結した国がロシアであり、史実と比較するとかなり平等な条約になっていた為か日露戦役が起こらず、日本海海戦も生じていない。日本海海戦に匹敵しそうな出来事は第一次大戦のマリアナ海戦になる。Uボートとドイツ巡洋艦戦隊を相手に太平洋で大戦果を挙げているが、ドイツが本気を出した通商破壊戦術を喰らい通商路に大被害を生じている。

 西部戦線と東部戦線からの挟撃を行う為、緒戦で被害を出したロシア軍を援護する目的で日本軍がシベリア鉄道で移動。ボリシェビキによる反乱が発生するも、偶々近くにいた日本軍と共に早期鎮圧に成功。両国の絆が深まりロシア皇女と皇族の婚姻を契機とした貴族と華族の婚姻交流の活発化が生じている。

 第二次大戦は日英露対米独の戦いで有耶無耶のうちに自然休戦になっている。

 そして深海棲艦出現とBETA侵略。

 日本領のポリネシアやミクロネシア、小笠原、奄美、沖縄、アリューシャン列島がこの時深海棲艦に占領され、民間人に多大な被害をもたらし、撤退戦を戦った連合艦隊は大多数が戦没している。

 1990年代末期になり第二次大戦時までに計画・設計・保有していた艦に応じた艦娘・妖精と呼ばれる存在が国家毎に顕現する。

 この艦娘と呼ばれる彼女達と共に人類の海上での反撃が始まった。

 

 歩んできた歴史がまるで異なる。前世の知識はまるで役に立たなくなったと、判断する提督。

 次に艦娘型録を開き、現在までに確認されている艦娘と今後の顕現が予想される艦娘と艦時代の武装を確認する。

 

 明石とその同型艦が三原・桃取・須磨の3隻、香取とその同型艦が鹿島・香椎・橿原・春日の4隻いたり、八八艦隊が曲がりなりにも成立してしまっているなど、提督の知識以外の艦艇が増えている事が確認された。

 レシピは覚えているが、これも当てには成らないだろうな。と呟く提督。

 他にも人間で言うと4歳位の幼児と艤装が分かれて出てくる事や、ある程度身体が成長するまで艤装を纏えない事、ゲームで言う【改】の練度になると身体の成長が止まる事等がゲームと異なる点であった。

 少将の話を思い出し、教育というより子育てだよな。と思い、自身の前世では子育ての経験はなく、最悪同じ艦娘である大淀か明石に頼む事も念頭に置く提督の姿があった。

 

 頭痛の種が増え、気が重くなる提督。

 建造することで気を紛らわそうと工廠へと向かう。

 工廠までの長い道のりに懲りて早期の改造を決意する提督。

 改造の件から、自身の能力の事も思い出し対処を検討する提督。

 調子に乗って獲得した能力と知識が拙い。このまま行くと何処から漏れる分からないと、この能力が発覚した後の事を考える。

 少なくとも大淀と明石と妖精には確実に使用することを決意する。

 先に使用しておくか。と行き先を工廠から大会議室へ変更し、大淀と明石を呼び出す。

 

「提督。大淀、明石参りました。ご用件は何でしょうか」

 呼び出された二人に提督が話し始める

「そこに座れ。2人に話がある」

 そう言うと提督は

「――――」

 二人にとっては意味が分からない言葉の連なりを紡ぎだす。

「あの? 提督?」

 訝しげに問いかける2人の言葉に耳も貸さず。

「――。合歓綢繆」

 提督の能力が発動する。

 大淀と明石に情念が注ぎ込まれる。

 身体が火照り、理性が飛びかける。

「こ、これは! 提督、これは一体――」

 

 暫く後――。

「明石、大淀。私を見なさい」

 その言葉に提督を見つめるも、目が合うと理由のない気恥ずかしさから素早くそれを逸らす2人。

 だが、大会議室の広い空間では逸らした先には視線のやり場がない。

 そのことに気付いた二人が落ち着きない様子で焦点をさまよわせる。

 すでにその瞳は艶っぼく潤み、その白い肌がほんのりと上気して桜色をしてた。

「成功したか。では引き続き――」

 先程とは異なる言葉の連なり。

「――。翼覆嫗煦」

 肢体をびくっと震わせ、崩れるように倒れこむ二人。

 先程から上気している桜色の肌から強烈かつ蠱惑的な匂いが漂っている。

「効きすぎたかな」

 そう呟くと提督は予め用意しておいたタオルで2人の汗を拭い去った。

 

「大淀、明石。起きなさい」

 二人の耳に心地よい声が沁み込んで来る。

 暖かくも懐かしい様な、愛おしさを感じる声。建造間もない頃に抱いた自らが慈しまれ愛されていることを実感した思い。同時に肉親に抱く愛情とは別の、深く愛しあい睦みあいたい人への思い。

 二つの思いを同時に感じさせる声が。

「て、い、とく?」

「気が付いたか? 突然倒れるとは、どうした?」

 そう顔を覗き込まれるのが恥ずかしくもあり、安心感もあり――。

 目を閉じかけるが、我に返る二人。

「も、申し訳ありません」

「大丈夫か? 少し休むか?」

 自らが仕掛けた事等、億尾にも出さずに心配な表情を見せる。

「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「なら良いが。2人には此処に当直以外の妖精を集合させて貰いたい」

「はい。当直を除く全妖精ですか? それでしたら、ここよりも――」

 

 ********************************************************************** 

 

 大淀と明石の助けを借りて、妖精を集合させる事に成功した提督。

 訝しげな様子の妖精に対し。

「――。合歓綢繆」

 提督の能力が発動する。

「――。翼覆嫗煦」

 慣れてきたのか、先程と異なり妖精たちに可笑しな様子は見られない。

 常時発動している『ご都合主義』と『孝悌忠信』の影響も合わさり、最大限の効果を発揮できていると、提督には感じられた。

 提督は影響下に置いた妖精に対して当直妖精と一時的な交代を命じこの場にいない妖精を集合させた。

 先程と同じ手順を繰り返すと、再度の交代を命じ当直の予定表通りに戻した。

 自身の能力の秘匿を終えると、再度交渉へ向かう提督。

 工廠に着き、レシピを思い起こしながら今回は最低値で行うことにした。

 

「投入資源はどうしますか?」

 工廠造船妖精の問いに、最小限の資源投入を指示する提督。

「全て30で」

 資源の投入と同時に建造が始まる。

「さてさて、誰が来るかな。初期艦の5人の誰かだろうけどな」

 そう呟くと、建造を待っている間に要塞の拡張を行う予定の提督は執務室に筆記具を取りに戻った。

 あの光で満ちた部屋での出来事を疑ってはいないが、肝心の設定した機材が不明のままであることに聊か疑念を生じていた。

 

 提督が執務室の扉を開け机の上を見ると、いつの間にか目の前の机にPCが鎮座していた。

「このPCはあの部屋のモノか? となると、もしかするとこの艦の改装にはこれを使用する必要があるのか?」

 半信半疑ながら電源を入れOSを立ち上げ、ホーム画面を確認する。見覚えのあるアイコンを見つけクリックするとあの部屋で立ち上げた設定画面が目に飛び込んでくる。そこにはすでに艦体が表示されていた。

「……設計した移動鎮守府だな。ということは、この実行を押せば……」

 そう呟き実行を選択する。その瞬間【高天原】に振動が走った。

 警報が鳴り響く。

「やはりか」

 すぐに作戦指揮所に移動する。

 

「何があった! 敵襲か事故か」

「判りません。目下応急班が調査に向かっています」

 提督が作戦指揮所に上がると鎮守府と艦の副長を兼ねる妖精副長が怒鳴り声をあげ、状況の確認の最中だった。

 中は戦場そのものである。

 どのように声をかけようかと迷っているうちに、周囲を警戒していた歩哨から至急報が飛び込む。

「見慣れない艦に周囲を囲まれました!」

「なんだと。どこに目をつけていた! ……間に合うか? 総員、戦闘用意!」

 提督の姿に気付き目礼を行う副長。その表情はすぐに悲愴なものになる。

「提督、機材搬出の準備と退艦準備をお願いします」

 申し訳なさを抱きながら、警報解除を命ずる提督。

「警報解除。あれは……味方艦だ」

 拡張のためのユニットを艦として捉えるべきか悩むも、取り敢えず艦として紹介する提督。

「提督、あれが何かご存じなんですか? 我々には覚えがありませんが」

「あれは鎮守府拡張の為に私が開発したユニットだ。あれの接続をもって【高天原】は完全なものとなる」

 内部がすでに改装準備されている事を知る提督。

 無言で説明を求める妖精達にどう説明するか。が目下の問題である。

 

 説明する前に工廠から初期艦建造終了の連絡が入ったので、これ幸いと逃げ出す提督。

 説明求められるのは確実ではあったが――。

「明石、様子はどうだ? 誰が来た?」

「あ、提督。これから開ける所です。人間で言うと4歳児位ですからね、心も体も」

 いろいろ気を付けないと。と言いながら、明石が重い扉を開けると――。

「五月雨っていいます! よろしくお願いします。護衛任務はお任せください!」

 完全に成長しきった艦娘が現れた。

 幼児ではなかったのか? そう訝しむだけの提督とは裏腹に、

「「「「えっ? えっ? えぇぇーー!」」」」

 明石と妖精の声が工廠に響いた。

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