艦ムスと深海棲艦と時々BETA   作:fire-cat

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第6話:五月雨

「明石。どういう事だ、これは。聞いている話では、艦娘は幼児の姿で艤装と別々に建造との事であったが?」

「ええ。その筈ですが……。明らかに成長しきっていますね。艤装も見当たりませんし、どう言う事なんでしょう?」

 工廠造船部所属の妖精達も顔を見合わせている。

「あの。……私、ここの世界の艦娘じゃないんです。艦娘なんですけど、違うんです」

 五月雨が事情を説明しようとしているが、要領を得ない。

「混乱しているのね。無理もないわよね。私も聞いた限り、今までになかったことだし。大丈夫よ、五月雨ちゃん」

 明石が労わる様な視線を五月雨に向ける。

「そうじゃなくて……。あっ、あの、提督っ。これ、これを見てください」

 そう左手を振って見せる五月雨。

 提督が改めて左手を確認する。

 銀色に輝く環。

「……指輪?」

「はい。そうです。結婚(仮)で、提督から頂いたものです」

 その言葉を聞き、

「提督。こんな子に手を出すなんて……。このケダモノ」

 汚らわしいものを見る視線でこちらを一瞥する明石。

 周囲の妖精も距離を置き始めている。

「待て、身に覚えがない。そもそも艦娘とは君らを除けばこれが初の出会いになる。明らかな濡れ衣だ」

 周囲に大声で説明する提督。

 それもそうかという雰囲気が生じるも、

「そ、そんなぁ。酷いです、提督。あんなにも、愛してくれたの…に…」

 そう言って涙ぐむ五月雨の声に霧散する。

「女の敵ですね」やら「見損ないました」「妊娠させられそうですから近くに来ないでください」「憲兵はどこだ」などといった声も上がり、五月雨に同情の視線が集まる。その反応に、戸惑う提督。

 ――『翼覆嫗煦』も『合歓綢繆』も効いていない?

 一瞬その考えに至り動揺するも、それはないと打ち消す。しかし――。

 思考がループに陥る。それを救ったのが五月雨が言った一言であった。

「提督、本当に覚えていらっしゃらないのですか? 画(・)面(・)越(・)し(・)とは言え、飛龍さんと交互に秘書艦を務めていたのに」

 画面越しという言葉に気が付く提督。

「もしかして……」

 その言葉に涙で潤んだ目をこすりながら、

「……はい。提督が1年以上いらっしゃらなくなって、みんな不安で、どうなっちゃうんだろうって……。そんな時、気が付いたら白衣の人がいて。その人に言われて……飛龍さん達には申し訳ないんですけど、提督の初期艦ということで私だけ此処に来られました。ご迷惑でしたか?」

 提督を上目遣いに見上げる五月雨。

「五月雨。その話が本当だとして、君の練度は幾つだ?」

「はい。最後にお会いした時の練度は126でした」

 記憶にある五月雨の練度は確かにその位であったと思い出す提督。

「間違いなく、私の嫁艦の五月雨だな。なぜこ(・)の(・)世(・)界(・)に来られたのかは君の説明ではまだ良く判らないが、五月雨の言う白衣の人にも心当たりは有り過ぎるほどに有る」

 そう言うとため息を一つ付き、

「五月雨、よく来てくれた。ありがとう」

 その言葉とともに五月雨を抱きしめる。

 呆気に取られる一同だが、代表して明石が声をかける。

「如何やら深い事情がありそうですね。先ほどの件と言い今の言葉と言い失礼ですが提督、貴方何者ですか? ただの特務中佐ではありませんよね」

 そう疑念を抱きかけている声に、説明を行う必要を感じる提督。

 疑念が深まると特殊能力とはいえ『孝悌忠信』や『翼覆嫗煦』、『合歓綢繆』の効果は切れる事もあるという注意事項を覚えていた。

 

 ********************************************************************** 

 

 大淀と明石、五月雨の他に妖精からは工廠長を初めとした工廠の各部門長や副長、航海長ら艦の幹部士官が大会議室に集合する。

「まずは諸君らに不信感を与えたことを詫びる」

 その言葉と共に『ご都合主義』と『孝悌忠信』を発動させながら詳細な説明を行う提督。

「私には二つの記憶がある。一つは特務中佐神泉守孝としての記憶。もう一つは――」

 

 一通り説明はしたが、果たして納得してもらえたであろうか? と表情を確認する提督。

「……なるほど。正直なところ、信じられないことだらけです。この艦を取り巻くユニット? でしたか。あれを見ている我々でも半信半疑です。この事は、事実であっても口外されない方が宜しいでしょう」

 幹部士官を代表して副長が口火を切った。

「お話によれば、この鎮守府は司令が設計されたとの事。そして」

 言葉を切り、建造された五月雨を一瞥する。

「別世界で、この世界と同じように深海棲艦が襲来しそれを撃退する遊戯ーーゲームと言われると西洋のカードのようなものを連想しますgーーがあり、そこの五月雨嬢は初期艦だったと。五月雨嬢、君にはその記憶があるとの事だったが、間違いないか?」

「はい。そして、私は提督のお嫁さんの一人でした」

「あぁ、まぁ、それは良い。そのことは公言しないようにな」

 五月雨のその無邪気さに毒気を抜かれたように苦笑する副長。

「事務方の記憶があるのであれば、五月雨は予定通り秘書艦にするのが宜しいでしょう。ただ、秘書艦とするにあたって問題なのは艤装がないことです。その件はどうされますか?」

 その言葉に、造船部と造兵部の長が此方に目を遣る。

「開発は司令官でも出来る筈だな?」

「はい。……ということは、司令が艤装の作成を行うのでしょうか? 小官は聊か無謀だと思いますが」

「造兵部長の言われるとおり、小官も無謀だと思います」

 造兵部長と造船部長が相次いで懸念を表明する。

「2人の言う事はもっともだと思う。だが、一度試してみても良かろう?」

 その言葉にお互いを見つめ、肩をすくめる2人。

「幸い資源はまだありますからね。司令のお話が事実であれば、ひょっとしたら面白いものが見られるかも知れません」

 その言葉で、一旦散会し、工廠長等工廠関係者と共に工廠に向かう。その途中、

「外洋に出たら、ここも手を加えるので承知して置いて欲しい」

 予め改装の予定がある事を伝える。

 

「さて、始めるか」

 兵装開発設備の前に立ち資源を投入する。

 暫くすると、兵装が目の前に現れた。

「これは!」

 造兵部長と妖精さんたちが騒めく。

 やれやれ、こいつは――。と提督が呟く。

 面倒なことになりそうだと。

 

 




建造される艦娘の中で前世(?)の記憶持ち+成長後の身体を持つ艦娘は五月雨だけです。
今後、ゲーム内で嫁艦だった艦娘がドロップ艦として登場する予定です。ドロップ艦という事で、当初は戦力になりません。

艦娘候補生の明石・大淀や妖精さん達だけで育児と教育はさすがに行えませんので。秘書艦だけは成長させた状態で登場させました。
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